老舗とベンチャーのいいとこ取り――弥生が取り組む、綱渡りから橋梁への「意識改革」組織をアップデートせよ

ドキュメントもなく、スパゲティ状態のソースコード。属人化された業務や知識――職人による綱渡り状態だったパッケージ屋は、いかにして風通しの良い組織に変貌したのか。

» 2018年09月25日 10時00分 公開
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“弥生”という会社

 「弥生」といって多くの方が思うのは、中小企業向けのパッケージソフト「弥生会計」だろう。かつてはライブドアやインテュイット傘下にあり、中小企業向けの会計処理をはじめとするバックオフィス関連ソフトウェアを作り続けるパッケージソフトの老舗――もちろん、それは間違っていない。

 しかし今の弥生は、もっと新しい企業だ。個人事業主の確定申告用の「クラウドサービス」も手掛けており、ベンチャー企業が盛り上げつつあったクラウド会計ソフトの分野においても、他にはない存在感を示している。「インストールが必要なデスクトップアプリ」だけではなく、Webサービスを提供し、Amazon Web Services(AWS)もMicrosoft Azureもフル活用している。

 それだけではない。オリックスグループの一員となり、創立40年を迎えた弥生が今取り組むのは「意識改革」だ。秋葉原駅前のオフィスの広々としたエントランスはまさに「ベンチャー」。それどころか、現状に危機感すら覚えている。その意識改革はどのように行われているのだろうか。社内のキーパーソンに現状を聞いてみた。

会計パッケージの宿命が生んだ衰退と復興

 まずは、日本における会計パッケージの状況を整理しよう。

 個人の確定申告は「12月末締め、2〜3月に確定申告を行う」というルーティンがある。企業では決算期こそ異なるが、会計年度は1年単位で動く。そのため、パッケージとしてのアップデートも「1年に一度」行われることが多い。

安河内崇氏

 取締役 開発本部 本部長の安河内崇氏は、「1年に一度のリリースで、その数カ月前にぎゅっと詰め込んで作業をすれば、その他の時間はわりと自由だった」とかつての弥生を述べる。

 製品ごとにプロダクトマネジャーがおり、その指示によってプログラムが作られる。1年に一度という長くムラのあるリリース期間、そして株主変更による社内のさまざまな動きにより、「一時期の弥生は、ものを作る能力が失われていた」とさえ述べる。会社の保守的な傾向、納期が重要視された結果、品質向上が後手に回るだけでなく、その枠組みや企業成長の手段も見えなくなっていく。

 このままではいけない――そう考えた安河内氏たちは、ソースコードを「自分たちのモノ」にするため、リファクタリング作業を試みた。

 2008年ごろの弥生のものづくりは、良くも悪くも「職人技そのもの」であった。そこで、まずは綱渡りの綱を「木の板」にすべくドキュメント化を進め、プロセスを整備する。バイナリしかなかったものを再設計し、単なるエディタではなくモダンな開発環境を整え、正しくビルドできる状況にする。

 2010年ごろにはそれを「橋」にすべく手戻りを徹底的になくし、設計書をしっかり書く、テストを前段階できっちり作るなど、開発の基礎を固めていった。その中で、これまでの弥生になかったクラウドサービスも生み出すなど、“新しいことをする”という新たな風土が、弥生の中に生まれたという。

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レビュー、レビュー、レビュー……魅力ある品質を作り出す開発体制

 同時に行われたのは、効率的なオペレーションを行うための品質向上への取り組み、そして「エンジニアのモチベーション維持」のための体制作りだ。

 弥生には、大きく3つの組織「ビジネスプラットフォーム開発」「製品サービス」「バックエンドシステム」がある。企画、開発から、出荷、そしてサポートまで全てを自社内で行い、従業員はこの広範囲のエリア全てに携わる。これが、弥生の「特徴」であり、エンジニアにとっての「魅力」といえる点だ。

 弥生の魅力とは、お客さまから直接フィードバックを受け、その要望を企画に反映、最終目標は継続利用をしてもらうべく「魅力ある品質」を作り出すことにある。

 弥生におけるものづくりは、徹底して「手戻りを減らす」ことを意識している。そのプロセスは上流フェーズからテストを意識し、レビューを繰り返す。要求フェーズにお金と手間をかけることが、新しいものを生み出すための重要なポイントだと全員が認識しているのだ。

 「アジャイル」に注目が集まっている昨今、ドキュメントを書くよりもモノを作ることを優先することもできる。しかし安河内氏は「アジャイルは人による『ばらつき』が出やすいプラクティスであり、本当に優秀なメンバーが集まらないと期待する成果にたどり着けないと結論付けた」と述べる。そのため、アジャイル的な考え方は取り入れつつも、要求、要件定義ではメンバー全員がマインドマップを持ち寄り、それを合わせつつレビューを繰り返す。この時点で既にテストを意識し、テスト戦略を検討。そこから要求と要件をさらにレビューしていく。

山田達也氏

 この点に関して、開発本部 ビジネスプラットフォーム開発チーム 統括リーダーの山田達也氏は「要求を承るところからテストを意識し、レビューしつつテストを考える。本質的なレビューをその段階でしっかり行い、COPQ(Cost Of Poor Quality:低品質、欠陥のために発生する無駄なコスト)はなるべく発生させないようにしている」と述べる。

 ガントチャートを作成しつつ、途中で機能が品質に見合わない場合、ごっそりと機能を削除したり、リリースを取りやめたりすることもあるという。「そこが、弥生ブランドの根幹となる。弥生がいうβ版は、『これで世に出せる』と思ったものしか出せない。帳票一つとっても、きっちり仕上げたモノだけを出す」とサラリと言ってのける。

「コミュニケーションが重要」をもっと分かりやすくすれば、みんなが楽になる

 魅力的な品質を実現するためのプロセスを作り、今では「未来への架け橋」を作り出しているステップに来た。ベンチャーであれば試行錯誤の末、「50%品質で世に問う」こともできるだろうが、弥生では許されない。最新のUXを導入したくても、お客さまの求めるものとは異なるかもしれない。弥生はアマチュアであってはならない。

 10年ほど前から綱渡りを木の板に、そして橋を架けるに当たり、企業規模も大きくなった。開発本部全体としては200名規模のスタッフがおり、現在、正社員は130名程、リーダー役を担うメンバーも増えた。

 常にアドレナリンが出続けるタイプのリーダーもいるが「人間は感情の生き物なので、付いていく人はこのままでは大変」と安河内氏は指摘する。付いていく人のフォローは、企業の持続性に大きく寄与する。

 そこで安河内氏は、昨今SNSにおける診断でも脚光を浴びているエムグラムのツールを活用しているという。これは自分を構成する「8つの性格」を書き出し、それをブレークダウンすることで性格を客観的に診断できるというものだ。安河内氏はこのツールを社員に使ってもらい、性格をある程度数値化したものを基にし、1on1の面談を行っているという。

エムグラムを使った価値観擦り合わせのサンプル

 エムグラムを使う目的は、「今、話している相手は“こういう人”なんだ」と理解してもらうことにあると安河内氏は述べる。

 「例えば『新しもの好き』や『慎重性』を数値化する。この偏差値が自分と20以上離れていると、特性が違うと認識できる。それを意識して接すると、レベル感の違いを把握しながら会話ができるので、例えば『それ大丈夫?』と度々聞かれたとしても、気難しい、うるさいと思わず『そういう人なんだな』と理解できる」(安河内氏)

 現在ではメンバー間の相互理解のために、リーダーを中心にエムグラムベースの情報を公開し、それぞれのプロフィールの一部として参照できる。これは「要するに、コミュニケーションをとってほしいという表れ」だという。エンジニアに重要視されがちなコミュニケーション能力を、ロジカル、シンプルに正規化した結果だ。

 ここには、プロジェクトが停滞したときに原因を追究したら、理由のほとんどが「人」に起因していたという安河内氏の経験則もある。

 「プロジェクトの阻害要因のほとんどは人。解決できないときにはコミュニケーションをとり、課題から目を背けないこと」(安河内氏)

 山田氏も「エンジニアの中には個性的な人もいて、そういう人もリーダーをやるときが来る。チームメンバーの気持ちを把握するのが正直得意ではないという人も、こういうツールを使えば同じ方向に向ける。『エンジニアだからそういうのはいいです』はもう通用しない時代になったのでは」と述べる。

全員が、何となく同じ方向を向いてくれればいい

 日本の中小企業、個人事業主、そして起業家の発展を支えるサービスを提供する弥生。新たな開発体制、そしてエンジニアへのサポートを含めた環境作りの結果、現在右肩上がりの成長を達成している。しかし、会社全体の目標数値は、経営者層に近いメンバーならまだしも、現場の若い社員にとっては冷笑されがちだ。

 若い世代はむしろ、目の前にある社会的問題を解決し、やりたいこと、やるべきことをやるということにモチベーションを感じているだろう。弥生はその面でも「可能性」のある企業だ。

 山田氏は弥生を「ものを作りたい人が、手を挙げればやらせてもらえる場所」だと述べる。ゼロから自分のマインドを投影し、確信を持って具現化できる仕組みを持っており、その上で走れる環境がある。

 安河内氏も弥生の特性を「デスクトップ製品ではキャズムを超えた安心感、継続性を持っている。クラウド関連サービスもやっとキャズムを超えたところ。製品としても転換期にあるといえる。さらには社内の基幹システムも自分たちで作っているので、1つの会社の中で複数のマーケットの形を体験できるのが魅力かもしれない」と述べる。

 さらに新しいことに関しても「やりたいと手を挙げ、きちっと計画を立て、私をはじめとするメンバーを“論破”してくれれば承認する。AWSやMicrosoft Azureの活用もそんなところからスタートした。社長もエンジニア出身なので、エンジニアのこだわりが大好きだ。うれしそうに計画を見せてくると、こちらもニコニコしながら、社長ともどもツッコミを入れる」(安河内氏)。そういった社風が、弥生にはあるのだ。

 新生「弥生」のストーリーは始まったばかりだ。完全なるトップダウンのような、社員一人一人が完全に同じ方向に向く必要はなく、それぞれが自立しているからこそ、社員がそれぞれに信念を持ちつつ、「何となく右上を向くでいいのでは?」と安河内氏は述べる。

 その“おおむねこっち”が指し示す方向は、弥生のコーポレートロゴにも表れている。今も弥生は右上に向かい、おおむね一丸となって理想のゴールを目指しているのだ。

写真:赤司聡

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