村田製作所に聞く、「既存システムのクラウド移行」成功までの軌跡現在はマルチクラウドプレーヤー

デジタルトランスフォーメーションの加速を背景に、ビジネスとそれを支えるシステム運用には一層のスピードとコスト効率が求められている。これを受けて昨今「既存システムのクラウド移行」が関心を集めているが、クラウドという言葉が今ほど国内に浸透していなかった7年前にプロジェクトを成功させた企業がある。グローバルでビジネスを展開する電子部品・精密機器メーカー、村田製作所だ。現在もクラウド移行に臆する企業が一般的な中、多数のミッションクリティカルシステムを持つ同社は一体どのようにしてクラウド移行を果たしたのか。現在のマルチクラウド活用に至るまでの経緯を聞いた。

» 2018年11月13日 10時00分 公開
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「エレクトロニクスの改革者」としてマルチクラウド戦略を加速

 優れた特性を持つ電子材料を使った最先端の電子部品や、多機能で高密度なモジュールを設計・製造する村田製作所。携帯電話、家電、自動車関連のアプリケーション、エネルギー管理システム、ヘルスケア機器など、製品はOEMも含めて非常に多岐にわたり、グローバル120拠点で社員は7万5000人。海外売上高比率は実に約92%と、まさしくグローバル規模で社会や人々の生活を支えている。

 国内外のグループ全社員が共有するスローガンは「Innovator in Electronics(エレクトロニクスの改革者)」。社員一人一人が「改革者」(Innovator)として、自らの仕事を変革 (Innovate) していくことを目指し、独創的な製品や技術を通じて社会に貢献することを理念としている。

 そうした理念の通り、近年のデジタルトランスフォーメーションのトレンドを受けて、同社はSoE(System of Engagement)とSoR(System of Record)、両領域の取り組みを加速させている。SoE領域では専門部隊を中心に新規事業の開発・展開を目指す一方、SoR領域では既存システムを中心に安定稼働と運用管理の効率化・迅速化に務めている。

ALT 村田製作所 情報システム統括部 情報技術企画部 部長 名和政邦氏

 それら両システムのインフラ運用を一手に担っているのが、「情報システム統括部」だ。情報システム統括部 情報技術企画部 部長 名和政邦氏は、こうした取り組みについて次のように話す。

 「弊社には、『絶対に止めることができない』ミッションクリティカルシステムが数多くあります。幅広い領域に製品を提供している中で、需要にしっかりと応えていくためには、ITシステムの安定運用とサービス継続性が高いレベルで求められます。一方で、経営環境が刻々と変わる中、弊社の市場を維持・拡大するためには新たなビジネス価値を作ることも重要です。そこで新しいテクノロジーを活用した、ドラスティックな生産性向上や付加価値向上を図る取り組みも同時に推進しているのです」

 後者の新規領域では、さまざまな製品領域でAIや機械学習を用いたサービスを開発し、PoCを進めている。一方で、社内の業務改善チームと連携してRPAの活用にも取り組むなど、まさしく社内外に向けてテクノロジーの力を使った“イノベーション”を推進している。そうした取り組みを根底で支えるクラウドについても、目的に応じて使い分ける「マルチクラウド戦略」を加速させているという。

 「システムは、マーケティング関連のシステム、サプライチェーンマネジメント(SCM)システム、製造系システムなどさまざまありますが、それぞれ特性やインフラに求められる要件が異なります。求めるサービスレベルによっては一般的なIaaSでよい場合もあれば、ベアメタルを利用した方がよい場合もある。そこで用途や要件に応じてクラウドを使い分け、既存事業の安定運用と新領域における変革を効率的に推進しているのです」(名和氏)

工場の製造系システムをオンプレからクラウドに移行

 とはいえ、同社が現在のマルチクラウド活用に至るまでには,システム運用の効率化を求め続けた長年の経緯がある。同社が初めてクラウドを使い始めたのは、国内でもクラウドという言葉が使われ始めた10年ほど前。当時、滋賀県野洲事業所に村田製作所オンプレミスのサーバ室を設置していた情報システム統括部において、ホストも含めてさまざまな機器が混在する中で、ITシステムそのものの在り方を変革しようと考えたことが発端だったという。情報技術企画部 情報技術活用推進課 シニアマネージャーの坂森孝洋氏は次のように話す。

 「クラウドを検討した背景は、コストの変動費化をはじめ、ビジネス展開の速さに応じたシステム構築のスピードアップ、可用性の確保、災害対策、セキュリティの確保などを狙ったことでした。ITシステムの全てを自社で保有・運用するのではなく、目的に応じて社外サービスを利用する形にすることで、コスト構造とシステムの在り方を変えようと考えたのです。ただ、当時はクラウドという言葉の定義も社会一般ではっきりしていなかった時代。そこで『データセンター化』をキーワードに、データセンターサービスを提供している会社の中から、適切なサービスを選択するアプローチを採りました」(坂森氏)

ALT 村田製作所 情報システム統括部 情報技術企画部 情報技術活用推進課 シニアマネージャー 坂森孝洋氏

 2008年頃はサーバ仮想化が浸透しはじめ、一部企業で大規模導入が加速していた頃だ。村田製作所では、数百台規模の物理サーバを運用していたが、仮想化していたのは約30台、その上で約160台の仮想サーバを稼働させていた。

 そうした中、最初に“データセンター化”の対象としたシステムは、業務系のシステム。それに引き続き、製造現場の支援システムにも取り組んだ。製造系サーバは全国各地の工場に配置されていることがほとんどだったが、それらも“データセンター化”――すなわちクラウド化して集約・一元化するとともに、コストの変動費化、ビジネスのスピードアップなどを目指した。

 適切なデータセンター事業者を選択するに当たり、ポイントになったのが「いかに村田製作所の運用業務を熟知しているか、どこまでニーズに応えてくれるか」だった。同社にはSCMシステムやファイルサーバなど多様なシステムが存在するが、それらの運用の多くをSCSKに依頼していたことが1つのきっかけとなったという。

 「クラウド化を進めるに当たり、それまでの付き合いの有無にかかわらず複数社から提案を募りましたが、SCSKはサービス化の内容や従量課金のメニューなど、コストの変動費化や運用・構築のスピードアップなどを求める当社のニーズに最も合致していたのです。特に魅力を感じたのが、運用をセットで提供していることでした。また、データセンターの稼働状況の定例レポートサービスなど、マネジメント層と課題を共有しながら運用できることも決め手の一つとなりました」(坂森氏)

「止められないシステム」をいかに迅速に移行し、安定運用するか

 村田製作所が採用したのは、SCSKが提供するクラウドサービス「USiZE(ユーサイズ)」だった。USiZEの基本コンセプトは、「電気・ガス・水道などの公共サービスと同様に、ITリソースも使用量に応じて支払いするモデルを提供すること」。日本におけるユーティリティコンピューティングサービスの草分けとも言える。

 なお、2018年現在のUSiZEのサービスモデルとしては、ユーザー企業の占有ITリソースをSCSKのデータセンター上に構築し、運用とセットで従量課金で提供する「プライベートモデル」、SCSKのデータセンター上で複数のユーザー企業が標準装備したITリソースを共有する「シェアードモデル」を用意。さらに、2012年からはグローバルクラウド上でのシステム構築・運用・監視、請求書対応まで行う「パブリッククラウドモデル」もスタート。こちらはAWSとMicrosoft Azureに対応している。

 このうち、従量課金のプライベートモデルが最初に提供されたのは、まだクラウドという言葉も存在しない2004年のこと。2009年にシェアードモデルが開始されたが、実はこれらには村田製作所のニーズも強く反映されている。

 「当時のクラウドは黎明期に近い状況でした。パートナーとして長い付き合いがあったこともあり、わがままを言いながら意見を出し合って、一緒にサービスメニューを作っていただいたような形です。『将来的にこういうことを目指したい』というビジョンを共有していただいたことで、今ではお互いのビジネスになくてはならないパートナーになっていると考えます」と、名和氏は当時を振り返る。

3日でサーバ100台を移行。クラウドと業務の特性を熟知した準備がカギに

 以上のような経緯から、クラウド移行プロジェクトにSCSKのUSiZEを選んだ村田製作所は、前述のように、工場の製造系システムも対象として、順次移行していくこととした。だが同社は、グローバル規模で多様な領域に製品を提供するメーカーだ。システムを止めることは絶対に許されない。

 そこで、2011年12月30日〜2012年1月1日の3日間で100台をUSiZE環境に移行するという強行スケジュールを組んだ。移行作業に携わったシニアスペシャリスト ISアドミニストレーター 福間弘隆氏は、当時を次のように振り返る。

ALT 村田製作所 情報システム統括部 情報技術企画部 情報技術活用推進課 シニアスペシャリスト ISアドミニストレーター 福間弘隆氏

 「サーバ設置場所がLANからWANに変わることによるアプリケーションのレスポンスへの影響や、物理サーバから仮想サーバに変わることによる影響、仮想基盤にはどの程度のサーバを集約・稼働させればよいか、実際の現場と本社・データセンターでの運用(役割分担)はうまくできるのかなど、移行前にはさまざまな懸念がありました。工場は24時間365日体制で稼働していますから長時間止めることはできません。さまざまな面からSCSKにサポートしてもらい、事前に課題を解決していったのです」

 まずクラウド移行の準備として、SCSKのアセスメントサービスを利用した。テストと検証を半年間実施し、性能や安定性、可用性などを評価。コスト効率とのバランスを考慮しつつ、問題が出ないスペックや構成を作り上げていった。そうして約半年間の入念な準備の末、最初の移行プロジェクトは成功を収めた。

ALT 図1 2011年にクラウド移行する以前のシステム概要図と、2018年9月時点のシステム概要図。2011年12月30日〜2012年1月1日に100台をUSiZE環境に移行した後も迅速にプロジェクトを展開し、全サーバ706台のうち375台まで移行。「After」で各製作所における削減台数を「▲」で示しているが、ハードウェアコスト削減だけでも相当な効果だ。システムの用途に応じて、USiZEの「プライベートモデル」と「シェアードモデル」を使い分けている点もポイントだ《クリックで拡大》

 「今のようなWebシステムと違って当時はクライアント・サーバシステムでしたから、LANからWANに変わる影響を考えたり、アプリケーションを改修したりと、移行にはそれなりの知見と工数が必要でした。そうした中で、どう安全かつスピーディーに移行するか、クラウド移行に不可欠なネットワーク設計からアプリ改修のアドバイスまで、SCSKには丁寧にサポートいただきました」(福間氏)

運用とのセット提供で、企業の運用管理負荷を大幅に低減

 移行はその後も進められ、その後のサーバ構築はクラウドを中心とした結果、2018年10月現在はサーバ760台にまで達しているという。現在では業務系サーバのみならず、製造系のサーバもほぼデータセンター内に集約され、工場にはごく一部のみが残るという状況にまで進んだ。名和氏は、クラウドを採用したことによるメリットとして「スピード」を挙げる。

 「コストの変動費化は当初からの大きな目的の1つですが、実際に活用してみて実感した大きなメリットは『スピード』です。大小700台以上のサーバがクラウド上に立ち上がっていますが、これをかつてのように物理サーバの手配から始めて、自分たちでサイジングしたり、構築したりするアプローチでは膨大な手間と時間がかかってしまいます。そうなれば業務を遅滞させてしまうことは言うまでもありません。また、事業が日々拡大している中、テスト環境や開発環境をすぐに立ち上げられることも大きなメリットです」(名和氏)

 スピードは、AIを使ったサービスなど新規領域におけるトライ&エラーのしやすさにもつながっている。失敗してもすぐに新しいものを作ることができるため、トライ&エラーで進めるような新規のサービス構築などの生産性やスピードが向上したという。今後はそうした新規領域のサービス開発に役立つ新たなクラウドサービスの追加にも期待しているという。

 インフラの運用をSCSKに任せられることも大きなメリットとなっている。工場は24時間365日稼働しており、人員も2勤体制、3勤体制で回している。これを支えるシステムを、内部の人材だけで運用監視しようとすれば、運用担当者も日中夜間を交代制で担う必要が生じてしまう。

 これについて坂森氏は、「運用を全て任せているので、情報システム統括部の負担が大きく減っています。環境構築から運用までをサポートしていただけることは、定型的な作業を削減し、情報システム統括部本来の業務効率を上げる上で大きなポイントです」と評価。福間氏も、「(クラウドはブラックボックスになりがちなものだが、)万一、機器の障害が起こっても、迅速に対処できる豊富な知見と実績を持つことがSCSKの強みだと思います」と高く評価する。

 一方で、前述の「わがままを言いながら意見を出し合って、一緒にサービスメニューを作っていただいた」という名和氏のコメントのように、ユーザーニーズに対するきめ細かな対応もSCSKの魅力の一つだ。システムの中には、アプライアンスや統合システムなどのように、ハードウェアとソフトウェアをセットで運用するものもあるが、SCSKはそれらもコロケーションで運用するなど、さまざまな運用ニーズに柔軟に応えている。

 「弊社向けにサービスメニューを改善してもらう際には、当社の環境に合わせてメニューを改善し、その運用まで一貫して提供していただいてきました。現在は高度なパフォーマンスが求められるシステムはプライベートモデルを、テストサーバなどはシェアードモデルをといったように使い分けていますが、CPUやメモリを選択する粒度も細かくなっている他、ハイパフォーマンスなものも提供されており、その中から最適なものを選択できるなど、使い勝手は格段に良くなっていると思います」(坂森氏)

 まさしく名和氏のコメントのように、村田製作所とともに「意見を出し合って、一緒にサービスメニューを作ってきた」USiZE。名和氏のリードの下、「将来的にこういうことを目指したい」というビジョンを共有し、共に実現してきたことが、村田製作所のクラウドリテラシーとUSiZEの利便性を、共に発展させてきたと言えるだろう。

新しいことをやるなら、ニーズに寄り添えるパートナーを持つことが大切

 以上のように、USiZEを使って運用基盤の一元化を推進してきた同社だが、これにより、さらなる効率化とビジネスの環境変化への対応が可能になるという。

 「ビジネス拠点は、日本からグローバルへとどんどん拡大しています。そうした中、システム運用に必要なリソースは、例えば期末処理など、ビジネスの状況に応じて季節変動がありますが、そうした際も一時的なリソース増強が迅速かつ容易に行える他、SCSKではそうした変動もレポートで確認することができるため、コスト最適化に大いに役立っています。こうした“ビジネスニーズに応じた最適化”ができることはクラウドならではだと考えます。また、それを実現しているSCSKのサービスの柔軟性を日々実感しています」(名和氏)

 クラウドのデータセンターは国内にあるが、海外拠点向けにサービスを提供するシステムも増えてきた。例えば、製造系システムでは中国やマレーシア、シンガポール向けにサービスを提供している。営業系システムでは、米国向けサービスも国内から提供するケースが増えているという。FAシステムなど設備系システムでレイテンシーが許容できないものについては現地に置き、それ以外の工程管理系システムなどは国内からサービス提供する――まさしく効率性・利便性とガバナンスを両立した中央集権型の仕組みを実現している格好だ。

ALT 図2 2018年10月現在、USiZEによるクラウド基盤を使って国内外のシステム基盤を情報システム統括部が一元的に管理。地域によって異なるビジネス展開に対応し、スピーディーかつ柔軟にITリソースを提供することで、エンドユーザーの利便性と、効率性・ガバナンスを両立した中央集権型の仕組みを実現している《クリックで拡大》

 「1つの製品を日本工場と海外工場を連携させて製造するケースも増えています。そうした中、ものづくりを一貫して行うためには、『日本にシステムを置いて、海外に提供しているシステムも統合する』といった“グローバルで一貫したシステム運用”も大きなカギとなります。遅延を考慮しながら、世界中のあらゆるリージョンに一貫したサービスを提供する上では、クラウド側とエッジ側をうまく設計・接続し、使い分けていくことが重要です」(坂森氏)

 無論、そうした仕組みを築く上では、海外でのネットワーク環境、ITガバナンスなどを考慮した一層きめ細かなシステム設計・運用が求められる。これまでも村田製作所とビジョンを共有し、共にクラウドの可能性を考え、実現してきたSCSKのUSiZEと運用サービスは、今後も村田製作所がシステムを発展させていく上で欠かせないものと言えるだろう。

ALT 情報システム統括部と共に、クラウドの可能性を共に考え、実現してきたSCSKの面々。伝統的企業は「止めてはいけないシステム」を多く持つが故にクラウド移行をためらう傾向も強いが、名和氏の語る通り、移行に伴う各種ハードルを技術観点で解決できる「パートナーの存在」が移行の大きな鍵になるのだろう

 「決してロックインに陥らず、新たなものを柔軟に取り込んでいけるクラウドが持つオープン性と、SCSKが持つ業務に対する豊富な知見、長きにわたる信頼関係は、今後一層重要になっていくと考えます。新しいことにどんどんチャレンジしようと思ったら、SCSKのようなあらゆるニーズに寄り添えるパートナーが大切です。今後もミッションクリティカルシステムでのUSiZE活用を軸としながら、SoRとSoE、両領域でのマルチクラウド活用をSCSKと共に追求していきたいと考えています」(名和氏)

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提供:SCSK株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2018年12月5日

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