セブン銀行に聞く、「運用管理ツール全面刷新プロジェクト」の舞台裏勘定系システムの運用コスト削減、効率向上をどう両立したのか?

24時間365日、止まらないATMを軸に、さまざまな金融サービスを提供しているセブン銀行。同行は2018年7月、決済口座事業を支える勘定系システムの刷新に合わせ、運用管理ツールを野村総合研究所「Senju Family」に刷新・統一。運用管理ツールの統一化と管理プロセスの標準化により、さらなる運用の高度化とビジネススピードへの追随を図る構えだ。ではSenju Familyはセブン銀行にどのような効果をもたらしたのか。また、今後同社の取り組みをどのように支えていくのか。運用管理ツール刷新プロジェクトの舞台裏を聞いた。

» 2018年11月12日 10時00分 公開
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邦銀初となる勘定系システムの「東阪交互運用方式」

 流通最大手のイトーヨーカ堂とセブン-イレブンを主体として2001年に設立されたセブン銀行(当時はアイワイバンク銀行)。「ATMによる決済専用銀行」というユニークなビジネスモデルで異業種から初の銀行業参入を果たして以降、着実にビジネスを拡大。2018年10月現在、約600社の金融機関と提携し、全国2万4000台以上のATMを稼働させている。

 事業はATMを通じたさまざまなサービスを提供するATMプラットフォーム事業、決済口座事業、海外事業の3つ。中でも決済口座事業は、個人向けの普通預金、定期預金に加え、ローンサービス、デビットサービスなどを取り扱う他、法人向けサービスも提供する。もはや一金融機関というより、ATMが設置されたセブン&アイグループ店舗への来店客、1日当たり約2200万人の生活を支える“社会インフラ”の一つと言えるだろう。

 そうした決済口座事業を支える勘定系システムの運用方式について、同社は2015年4月、日本の金融機関として初めて「東阪交互運用方式」に移行するプロジェクトを開始した。同行の勘定系システムは、日本ユニシスのオープン勘定系システム「BANKSTAR」で構築しており、本番機とバックアップ機を東京と大阪の両センターに分けて運用していた。「東阪交互運用方式」とは、一方をバックアップ専用機とするのではなく、東阪両センターで交互に本番機として運用するもの。定期的に本番機を入れ替えることで、24時間365日の無停止連続運転とBCPのさらなる高度化を狙った。

ALT セブン銀行 システム部 ITプラットフォーム室室長 石原健二氏

 このプロジェクトは3年半のスケジュールで進め、2017年8月に導入決定を公表、2018年7月までに予定通り稼働を開始した。併せてセブン銀行が取り組んだのが、システム運用管理基盤の刷新だ。システム部 ITプラットフォーム室長の石原健二氏は次のように話す。

 「勘定系システムは決して止めることのできないシステムです。口座数は2018年6月末で約187万口座に及びます。これらを確実に保護し、安定運用を担保しながら、今後10年を見据えて新しい施策を実施していく必要もあります。このためには運用管理の一層の効率化・確実化が不可欠です。そこで運用管理基盤を全面刷新し、運用管理プロセスの標準化を進めたのです。今後のビジネスを支える重要なプロジェクトの1つでした」(石原氏)

ビジネスへの寄与とリスク低減を狙い、運用管理ツールを一本化

 では刷新前はどのような状態だったのか? 石原氏は「運用管理ツールと運用プロセスが2つ並存する環境でした」と振り返る。勘定系システムを構築したBANKSTARのパッケージ標準の運用管理ツールと、野村総合研究所(以下、NRI)の「Senju Family」(以下、Senju)だ。

ALT セブン銀行 システム部 ITプラットフォーム室 システム運用センター 主任調査役 下志英幸氏

 それまで勘定系システムのシステム更改におけるコンサルティングとシステムインテグレーションはNRIに依頼していたものの、システム導入当初からの経緯もあり、運用管理ツールについては並存する状態になっていたのだという。システム部の下志英幸氏は次のように話す。

 「2つのツールが並存することで、オペレーターの習熟度の違いが効率化の妨げになるリスクがありました。操作ミスや設定ミスが起こることも懸念されました。東阪が異なるスタイルで運用している場合はいいのですが、東阪交互運用方式になると運用管理も一元化・標準化した方が合理的です。ツールの併存がビジネスリスクになることを防ぐのはもちろん、運用効率化や安全性向上の面からも重要なプロジェクトだったのです」(下志氏)

ALT セブン銀行 システム部 ITプラットフォーム室 主任調査役 高岡尚史氏

 なお、東阪交互運用方式を実現した現在の勘定系システムは、開発機を除いてサーバ約100台という規模だが、ATM中継システムの運用も含め東京に21名、大阪に15名の運用委託スタッフを当てている。システム部の高岡尚史氏は、Senjuを選択した背景をこう説明する。

 「2つのツールは機能的にはほぼ同等でした。ただ、NRIには勘定系システムのシステム更改などを依頼してきた経緯もある他、Senjuに習熟しているスタッフも多かったため、Senjuへの統一は自然な流れだったと思います。また現在、運用の委託先であるNRIが、運用管理ツールの開発元でもあることは安心感にもつながっています。事実、問題原因の切り分けが速い他、サポート窓口も一本化されたことは大きなメリットです。これはシステムを拡張したり、新機能を追加したりする上でも有利と考えます」(高岡氏)

コスト低減などにとどまらない“現場実態に即した”Senjuの導入効果

 こうした運用管理基盤の刷新は、東阪交互運用方式の構築と並行して進められた。もう一方のツールで管理していたのは、ジョブ定義が約5万本、監視定義が100ノード、スクリプトは1500本という規模だったが、これらを全てSenjuに移行した。なお、セブン銀行では勘定系システムに対し、金融機関の基幹系システムとしての厳格な運用基準を設けていたが、NRIはそれを基に、NRIの運用受け入れ基準に沿った監視/ジョブ移行ガイドラインを作成。またジョブ移行ツールも開発することで、迅速・確実なツール移行を成功させた格好だ。

ALT 東京、大阪のDCの一方をバックアップ専用機とするのではなく、東阪両センターで交互に本番機として運用する「東阪交互運用方式」。この運用管理基盤をSenjuに統一することでコスト削減をはじめ複数のメリットが得られた《クリックで拡大》

 導入効果は大きく3つ。1つは運用の柔軟性の向上。Senjuは特長の一つとして、ジョブ実行を定義体と実行体という2つの概念に分けている。これにより、ジョブを一時的に変更する場合も定義体そのものを変える必要がなく、実行体のみの修正で対応できる。このため従来のツールと比べて変更が容易で、柔軟な運用が可能になったという。

 2つ目は効率的な運用が可能になったこと。Senjuも他の運用管理ツールと同様、各種監視ツールからのログを監視し、条件に該当するとメッセージを発信する。だがメッセージが多すぎると、真に重要なメッセージを見落とすリスクがある。その点、Senjuは各種監視ツールからのメッセージを集約し、定めた条件に基づいて重要度の高いメッセージのみにフィルタリングできる。Senjuはこのフィルタリングをきめ細かく設定しやすいことから、現場実態に基づいたより効率的な運用が可能になったという。

 3つ目は運用コスト削減。ツールの1本化による効果もさることながら、ライセンスコストを低く抑えられたことで従来比2〜3割のコスト削減を実現した。これは「サーバをリプレースした場合も買い直す必要がない」Senjuのライセンス形態によるものだ。

 「総括すると、従来のツールは『自由度が高いが設定が煩雑になりやすい』印象でした。Senjuは『統制を効かせるため、ジョブ実装に制約を設けているが、必要なことを効率よく実現できる』『長年使っても保守性を損なわない』ところがよい点だと思います」(下志氏)

ハイブリッドクラウドを見据え、NRIと共にさらなる運用高度化を図る

 こうして運用効率化とコスト削減を両立したセブン銀行だが、石原氏は今後の取り組みとして「2つの方向性があります」と話す。1つは新しい業務に向けて運用をさらに高度化することだ。

 「人手中心の運用では、属人性やミスを排除できない他、昨今の人手不足への対応の不安もあります。そこで必要になるのが自動化ですが、当社の規模では自社だけで自動化に取り組むには、投資負担が大きいのが課題です。そこでNRIへの運用委託を通じて、コストとのバランスを取りつつ自動化を推進することを目指しています。NRIはシステム面だけではなく金融業務の知見と運用実績を持っている点で心強く感じています」(石原氏)

 事実、NRIは勘定系システムの豊富な運用ノウハウを持つ他、運用上の要件をSenjuの機能に落とし込むことで、さまざまなプロセスを自動化できる。例えばランブックオートメーションによる手順自動化の他、AIによる障害予兆検知なども可能だ。こうしたSenjuの機能は、NRIの知見をもって、金融に限らずあらゆる業種に適用できることは言うまでもない。石原氏は「必要性を鑑みながらSenjuの先進機能も採用していきたい」と話す。

 2つ目はクラウド対応の強化だ。今回の勘定系システムはオンプレミスで運用しているが、セブン銀行の基幹系システムの中にはクラウド移行するものも増えつつあるという。石原氏は「既に一部の基幹システムはパブリッククラウドへの移行準備を進めています。中でもPaaSに注目しており、WebサービスやAPIマネジメントなども部分的に使い始めています。ハイブリッド環境をどう管理していくかは今後の大きなテーマです」と話す。

 無論、NRIもSenjuのクラウド対応を進めている。例えばオンプレミスとクラウドをシームレスに一元管理する機能など、適材適所のインフラ運用を支援する機能を強化している。石原氏は、NRIの強みと「セブン銀行 システム部」としてのミッションを見据え、次のようにまとめる。

ALT 「今後もNRIに伴走いただきつつ、運用の観点からセブン銀行のビジネスの発展を支えるべく、クラウドをはじめ新たな取り組みに進んでチャレンジしていきたい」と異口同音に語る石原氏、高岡氏、下志氏

 「基幹システムは安定運用が最重要。今後も安定稼働を確実に担保していきます。一方で、オンプレからクラウドに向かう流れの中で、運用管理スタイルは激変していくと思います。そうした中、われわれも運用の観点からビジネスの発展を支えるべく、スピード感を持って新たな取り組みにチャレンジしていくつもりです。NRIにはそうした活動のパートナーとして大いに期待しています」(石原氏)

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提供:株式会社野村総合研究所
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2018年12月11日

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