今、最も面白い職種は「プロダクトマネジャー」だ――及川卓也氏が説く、DX時代のIT業界サヴァイブ術外の世界とのタッチポイントを増やせ!

Microsoft、Googleなどの時代の先端を行く米国テクノロジー企業でプロダクトマネジャーやエンジニアリングマネジャーを歴任し、現在複数の企業の顧問を務める及川卓也氏に、日本のシステム開発界隈が今度どのように変わっていくのか、そこで活躍するエンジニアに必要な資質などを聞いた。

» 2018年12月07日 10時00分 公開
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2025年、IT業界が変わる

 経済産業省は2018年9月、デジタルテクノロジーによる企業価値の創出を目指す「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に関する調査報告「DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜」を発表した。

 「『DXレポート』では、デジタルで新事業を始める場合には情報システムの内製が重要になると指摘しています。この指摘が受け入れられるなら、SI企業も変わっていくはずです」と及川卓也氏は言う。

及川卓也氏
早稲田大学理工学部卒業後、日本DECに就職。営業サポート、ソフトウェア開発、研究開発に従事し、1997年からはMicrosoftでWindows製品の開発に携わる。2006年以降は、GoogleにてWeb検索のプロダクトマネジメントやChromeのエンジニアリングマネジメントなどを行う。2015年11月、技術情報共有サービス『Qiita』などを運営するIncrementsに転職。17年6月から独立し、プロダクト戦略やエンジニアリングマネジメントなどの領域で企業の支援を行う。17年9月、ヘッドハンティング、人材紹介を展開するクライス&カンパニーの顧問に就任

 日本のSI企業は、伝統的には受託開発の立ち位置を貫いてきた。ユーザー企業が要件定義の段階から「丸投げ」する事例も多かったし、SI企業も「言われたものを作る」場合が多かった。

 対する米国企業はこうだ。及川氏が例として挙げるのは「Pivotal Labs」だ。

 「プロダクトマネジャー、デザイナー、エンジニアから成るチームが、Pivotal Labsに一定期間常駐し、Pivotalのメンバーと一緒にプロジェクトを回すのです。プロジェクト終了時には、社内に自走できるチームが出来上がる。このチームが同社の納品物なんです」

これから必要とされる職種「PM」(プロジェクトマネジャーにあらず)

 米国と日本では、エンジニアのキャリアパスもだいぶ異なるようだ。

 日本の伝統的なSI企業では、プログラマー、システムエンジニア(SE)、プロジェクトマネジャー(PM)といった職種を置いているが、これらは専門分野であると同時に、職階でもある場合が多い。つまり、プログラマーからキャリアを出発し、SEになり、PMへとステップアップする、それが「エンジニアのキャリアパス」だと長年考えられてきた。ところが、世界規模で成功しているテクノロジー企業は違うのだ。

 「世界では、最も成功したテクノロジー企業である『GAFA』(Google、Amazon、Facebook、Apple)の開発スタイルが、成功パターンだと考えられています。これらの企業ではPMは一つの職種で、一つの専門分野です。プログラマーも一つの職種ですし、プログラミングが好きならば、一生プログラマーでやっていくこともできます。あるいは、エンジニアリングマネジャーとして組織を見る立場に転身するという考え方もあります。それぞれの職種に専門性があるのです」

 そして、及川氏はこう付け加える。「ここで言うPMとはプロジェクトマネジャーではなく、プロダクトマネジャーであり、これらGAFAには全て存在しています」と。

 パッケージソフトウェア、社内システム、外部向けサービスなどの「プロダクト」に責任を持ち、チームを率いて対応する職種、それがプロダクトマネジャーである。

 及川氏は、Windows NTオペレーティングシステムやChromeブラウザの開発と普及の当事者だった自らの経験を振り返りつつ、従来型日本のソフトウェア開発の問題点をこう指摘する。

 「従来の日本のソフトウェア開発プロジェクトには、プロダクトマネジャーに相当する人がいませんでした。しかし、技術によってビジネスが成り立つ世界で、ビジネスアイデアだけ考えて開発会社にポンと投げ、出てきたものに注文を付けるといったやり方ではうまくいかなくなるでしょう」

 今後は、先のDXレポートでも書かれていたように、事業会社がプロダクトを自分たちで開発するチームを社内に持つようになるだろうと、及川氏は予測する。

 「企画から要件定義、設計、実装し、品質を高めてリリースして、リーンやアジャイル的に改善し、一気通貫で使われるプロダクトに育てていく。ここで大事なのは、良いものを作ろうという責任者、つまりプロダクトマネジャーの存在とチームの団結力です」

 プロダクトマネジャーは、スタートアップ企業の創業者と似た役回りだ。足りないリソースがあれば、自らの責任で探して補充する。

 「技術的なスキルが足りないならば、勉強して、CTO(最高技術責任者)に相当する役割を自分で果たす。デザイナーがいないならば、どういった判断基準でデザインを決めていくかを自分で考える。プロダクトを作り育てる上で、足りない役割があるなら、自分が拾ってつないでいく。もし自分でできないならば、他の人を採用するとか、外部に委託するなども考える――要は、その事業やプロダクトを成功させるために、必要なものを全て理解し、全責任を負う」――及川氏自身も、そのような道をたどってきた。

 こうしたチームによる開発では、小刻みな挑戦を繰り返すやり方が通例だ。小さな失敗を積み重ね、プロダクトとチームを成長させていく。プロダクトマネジャーに求められるのは、多くの挑戦をしていくための「引き出し」だ。小さな挑戦、成功あるいは失敗の経験を積むことで、この引き出しは増えていく。

外とのタッチポイントを増やし、視点を変えよ

 では、プロダクトマネジャーに興味を持つエンジニアは、どのようなことをすればよいのだろうか。

 「まず、外の世界とのタッチポイントを多くすることです。一つの組織にフルコミットするのではなく、勉強会や副業など、接点を増やしていった方がいい」と及川氏はアドバイスする。休日に勉強会に参加するエンジニアに『業務外で仕事に関わるなんて、変人だ』と言う職場も存在するかもしれないが、そんな声は無視していい。「違う環境を見て、自分が所属する組織を客観的に見られるようになった方がいい」と及川氏は強く主張する。

 最近多く開催されているハッカソンも活用を検討すると良いと言う。

 ハッカソンでは、チームを編成し、1〜2日とまとまった時間をかけて、アイデアを練り、開発し、動く成果物を作る。「誰でも参加できるハッカソンは幾つも開催されていますので、一人で出掛けていっても、どれかのチームに参加できます。コードを書けるなら、普段の業務ではできないこと、自分で勉強したい何かに取り組むと面白いでしょう」と及川氏。ハッカソンであれば、勉強したてのプログラミング言語やフレームワークなど新技術も使いやすい。勉強、経験になるし、何よりチームで「もの」を作り、評価される経験を積むことができる。

 「技術者は魔法使いだ、という言葉があります。今はIoT(Internet of Things、モノのインターネット)があり、クラウドがあり、手に入るものを組み合わせると、スゴいシステムをわずかな時間で作ることができる。それで周囲の人を驚かせたり、多くの人の役に立ったりもできる。それを知っている人は、技術で価値を生み出せるようになるでしょう」

及川さんの話を聞きに行こう

 「Engineer Career Talk」では、トップランナーである及川卓也氏と、澤円氏をゲストに迎え、これまでの経験からエンジニアのキャリアについて語っていただきます。

写真:山本華漸

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提供:Sky株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT自分戦略研究所 編集部/掲載内容有効期限:2018年12月31日

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