そこそこのITベンダーで働くそこそこのシステムエンジニア「シュウヘイ」は、今日も転職バーの「ハルカさん」に、悩み相談(というのは口実で、単に甘えたいだけ)にやってきた(ここまでは2018年1月と一緒)。しかし、そこで彼を待っていたのは……!
都内某所にある「転職バー ハルカ」には、バーテンダー「ハルカさん」の相談に乗ってもらいたい迷い子たちが、夜な夜な訪れるという。
今晩最初のお客さんは、@IT読者の皆さんご存じのあの男――万年転職活動中のシステムエンジニア「シュウヘイ」だ。
またお祈りされた……。ボクの技術力を見抜けないなんて、見る目がなさ過ぎるだろあの会社……。ひどいと思いませんか? ハルカさん!!
……って、アレ? ハルカさんがいない。カウンターの中にいるアノ人は……。
きみは確か……シュウヘイくんだったかな? まだ転職していなかったのかい?
シュウヘイ あ、あなたはWeb企業のエンジニアにして採用担当、@ITの人気連載「また昭和な転職で失敗してるの? きのこる先生の『かろやかな転職』」の筆者としても有名な、自称菌類のきのこる先生!
何でこんなところに? それよりハルカさんはどこですか? ボク、このやり切れない気持ちを、ハルカさんに笑顔で癒やしてもらおうと思って……。
きのこる先生 2018年同様の丁寧な説明ありがとう。ちょっと店番を頼まれたのだよ。彼女はすぐ戻ってくるはずだから、カクテルでも飲みながら待っていなさい。
シュウヘイ きのこる先生、カクテル作るの上手になりましたね。
きのこる先生 ありがとう。ところでその様子だと、また採用面接で落ちたようだね?
シュウヘイ そうなんですよ……。見る目のない採用担当者だったみたいで。ボクってほんと運が悪い。
きのこる先生 見る目がないだって? キミには認めてもらえる実績や成果があるのかい?
きのこる先生 村田さんはオープンソースソフトウェア(OSS)の活動で名が知られた、「ロックスター」とも呼べる一流のエンジニアだ。幼少のころからプログラミングに親しみ、情報科学を学び、Rubyのコミッターを務めている。高い技術力を持ち、それを在籍している企業でもOSSの世界でも存分に発揮し、素晴らしい成果を出している。さらにその成果を「RubyKaigi」などのカンファレンスで発表するなど、可視化にもぬかりがない。
高いスキルに裏打ちされた自信があるから、仕事の楽しさも給与も徹底的に追求できるし、Rubyコミッターという「看板」の重さも楽しめる。そして、そんな村田さんだからこそ、村田さんにしかできない仕事が向こうからやってくるんだよ。
「ロックスター」村田さんを見逃すような採用担当者だったら、「見る目がない」と言われても仕方ないだろう。でも、シュウヘイには今まで何をやってきて、これからどんな成果を出していくか、それを認めてもらう材料があるのかい?
シュウヘイ ぼくだってチャンスさえあれば、バーンとコード書いて、ドーンと成果をだして、ズガーンとロックスターになってやるのに!
きのこる先生 シュウヘイ、「チャンスの神様には前髪しかない」って言葉、知ってるかい?
きのこる先生 セキュリティエンジニアとして活躍する愛甲さんは、シュウヘイの目から見たら「チャンスをつかんでズガーンとロックスター」なエンジニアに見えるかもしれないね。
でも、チャンスをつかんだ瞬間の「その前」に目を向けてごらん。チャンスをつかむためにしっかり準備していることが分かるね。セキュリティ分野に興味を持ち、独学で勉強を続け、Webサイトで情報発信をする。だから「本を書いてみませんか?」という最初のチャンスがやってきたし、それをつかめたんだ。
その後も、声を掛けられたりヘッドハントされたりといった「チャンスをつかんだ」系の転職が続いているが、それだって、これまでの蓄積とコミュニティー活動を通じたアウトプットが呼び込んだチャンスだと思わないかい?
学生時代にチャレンジしていた「Hacker's Lab」の元管理人が面接に同席していた、というちょっとでき過ぎなぐらいカッコいいエピソードが生まれるのも、日ごろからチャンスをつかむために訓練し、いざというときにしっかりつかんだからこそではないだろうか。
愛甲さん自身は「自然体でいただけ」なんて笑っているけど、チャンスをつかめたのは準備ができていたからだよね。じゃあシュウヘイは、いったいどんな準備をしているんだい?
シュウヘイ ぼくだって仕事の合間に準備してるよ! 東に新しい言語があれば行って「Hello, World!」を書き、西に新しいコンテナプラットフォームがあれば行って無料枠を試し、南に設計技法の勉強会があれば行って懇親会でビールを飲み、北にパフォーマンスチューニングのコンテストがあれば行って予選落ちし……。
「あーら、こんなところにうってつけの人材がいるじゃない!」
シュウヘイ その声は、まさか……。
ハロー、子猫ちゃん。 あなたのスイートハート「黒井ハルカ」、略して「黒ハル」よ。私のクライアントが、革新的で魔法のような新プラットフォームを開発したの。そのプラットフォーム上で動く、売り上げの雨がザーザー降るような新サービスを開発してくれる、イケててヤヴァいエンジニアを探してるのよ!
あなたのように勉強熱心なエンジニアなら、すーぐ使いこなせるようになるから大丈夫! さあさあ早く応募書類を出してちょうだい。さっきお祈りされた面接で使ったのを持ってるでしょ?
シュウヘイ ぼくのポテンシャルをそこまで見抜いているとは、さすが見る目がありますね! いったいどんなプラットフォームなんですか?
きのこる先生 落ち着くんだ、シュウヘイ。キミがやってきた「準備」からは、一見「勉強熱心」な気配が感じられるかもしれない。でも、それで何が身に付いたんだい? シュウヘイの「さいきょうのエンジニアリング」ってものを考えたことがあるかい?
きのこる先生 高源さんは、「好きこそものの上手なれ」が服を着て歩いてるような人だ。「ログを見るのが好きで好きでたまらない」なんて、なかなか立派なへんた……(げふんげふん)一点突破型のやり方だね。夢中になってログを解析し、攻撃者の手口を推測し、対処法を編み出していく。「ぼくのかんがえたさいきょうのセキュリティ」の実現に向けて、セキュリティの分野に集中的に投資している。東奔西走している誰かさんとは真逆のやり方だね。
そして見逃しちゃならないのが、「セキュリティは陳腐化しにくい分野だ」ということ。エンジニアのキャリアを考えると、はやり廃りのある技術にがっつり一点張りしちゃうのはちょっとリスクを感じるかもしれない。だから、いろんな方向にちょいちょい手を伸ばして満足してしまう、という例も少なくない。でも、セキュリティははやり廃りに関係なく、常に重要な分野だってことは想像できるだろう?
スキルアップのために時間を使うのは、自分への投資だよね。限られた原資なんだから、リターンが最大になるように「深さ」と「需要」を考えてみたらどうかな。懇親会でビールを飲むのも楽しいけどさ。
シュウヘイ でもでも、今回は革新的で魔法のようなプラットフォームですよ? 需要だって爆上がりに違いないですよ! 今度こそチャンスをつかんで、イケてるヤヴァいエンジニアとしてデビューしてやるんだ!
ただいま、きのこる先生。店番ありがとう。あらシュウヘイくんも来てたのね。待ってて、今おいしいカクテル作るわね。
ハルカさん(白) ……って、黒ハルカまで! あなた、またロクでもない話でシュウヘイくんをたぶらかしてるのね?
黒ハルカ 人聞き悪いこと言わないで。またお祈りされちゃった彼にチャンスを運んであげただけよ。
ハルカさん(白) そういうのはチャンスじゃなくてハニートラップって言うのよ!
黒ハルカ ノルマ達成のためならハニーでもシュガーでも大放出よ!
ハルカさん(白) 本音が出たわね……やっぱりたぶらかしてるんじゃない!
黒ハルカ いいからそのエンジニアをよこしなさい! ノルマがヤバいのよ!!
シュウヘイ 確かに黒ハルカさんが言っているのは、聞いたこともないプラットフォームです。でも今の会社じゃ、もう陳腐化した技術しか使ってなくて新しい技術は使わせてくれないし、データベースやセキュリティはベンダー頼りだし……。一発逆転、ここはチャンスに賭けてみるのが男ってもんじゃないでしょうか? ぼく、ロックスターになるんです!
きのこる先生 きさま、まだそんなことを抜かすか。もう勘弁ならん。菌類パワーをぬぉぉぉぉぉっと蓄えてぇ……。
きのこる先生 喝ッ!!!!!
シュウヘイ ハッ!!!!!
きのこる先生 (ぜーはー)。あいかわらず軽率だな。確かに今の会社でイケてるスキルを獲得するのは難しいかもしれない。でも、その他に何か身に付くもの、得られるものはないのかい?
きのこる先生 平野さんは、SIerからWeb系企業に転職したエンジニアの典型例といえるだろう。文系出身、プログラミング未経験からSIerに就職、Javaの研修を受けてウオーターフォールな金融系プロジェクトに配属――というキャリアは、今まで何人ものエンジニアから聞いてきたよ。
そしてそのうちの何割かが、「ものづくりの楽しさ」に目覚め、「ユーザーやお客さまと近いところでものづくりをしたい」と考え、よりユーザーに近い業態のWeb系企業に行きたいと思い始める――これも珍しくない話だ。
でも、ここからが平野さんの強いところだ。Web系企業は開発スピードが速いところが多いから、ともすると現場が混沌としてしまう。毎日何度も繰り返されるリリース、速いペースでの機能追加、継続的なリファクタリング――何もかもが全力疾走しているような現場では、意外と「きちんとやる」スキルが見落とされがちだ。カウボーイだらけの現場に「きちんとやる」スキルを持った保安官がやってくると、チーム全体のレベルがグッと上がるものなんだ。
平野さんも「スピード感にびっくりした」と言いながら、素早くPHPを自習したり、今までとは違う軸のスキルを身に付けようとしている。SIerから持っていけるものを「おみやげ」に、新しいチャレンジをしているんだ。
シュウヘイはどこに行きたいんだい? そこにおみやげとして持っていけるものを、今の会社から全部拾ったのかい?
シュウヘイ えー、そんなこと言われてもー。だって、ドキュメンテーションも進行管理も調整も全部嫌いだから転職したいのに、それを身に付けろだなんて……。
ハルカさん(白) シュウヘイくん。やっぱり逃げ出したいから転職するの?
黒ハルカ えっ、あなた今の会社にこんなに長くいるのに、まだそんなこともできないの?
シュウヘイ へっ? 何がいけないんすか?(ヘラヘラ)
きのこる先生 やれやれ……このままじゃシュウヘイはゆでガエルだな。
ハルカさん(白)&黒ハルカ もう、怒ったわ! シュウヘイなんか、この場でゆでガエルにしてあげる!
きのこる先生 さすが従姉妹、息が合っているな。シュウヘイに聞こえているかは分からないが、ゆでガエルと覚悟の話をしてあげよう。
きのこる先生 「ゆでガエル現象」とか「ゆでガエルの法則」なんていわれる実験、というか例え話、知ってるよね。熱湯に入れたカエルはすぐ飛び出して生き延びるけど、水からゆっくり加熱されたカエルは温度が上がったことに気付かず、そのまま死んでしまう、というお話だ。
岡野谷さんがいた環境も、あとで振り返ってみると「ぬるま湯」だったんだね。長い間同じプロジェクトに従事し、あまり高くない給与で、環境の変化も乏しく、淡々と働く。何となく先行きに不安はあるけれど、現場でもうまくやってるし、感謝もされてるから居心地がいい。ぬるま湯の中で、気が付いたら5年が過ぎていた。
しかし、40代の先輩が待機している姿にショックを受ける。そりゃそうだよね、その姿はそのまま、将来の自分であってもおかしくないんだから。
ぬるま湯の中でゆでガエルになりかけていることに気が付いた岡野谷さんは、速やかに飛び出すことを決意したんだね。そして情報収集の過程で出会ったのが現職。転職フェアの会場で、ブースに「ただし、ウチは厳しいよ。ぬるま湯から熱湯に飛び込むようなものだから」と言い切る担当者がいる会社だ。
熱湯に飛び込んだ岡野谷さんのその後の活躍は記事の通りだ。仕事の規模も幅も広がり、要求されるものも大きくなる。さまざまなスキルを身に付け、給与も上がる。なかなか大変だと思うけど、エンジニアとしてはどっちの環境がいいんだろうね?
ぬるま湯でゆでガエルになるか、熱湯に飛び込むか。冷静な現状分析と、アツい覚悟が必要だ。さて、シュウヘイはどっちに行くんだい?
……あ、もう手遅れかな?
黒ハルカ いっちょ、あがりね
ハルカさん(白) ゆでガエルの気持ち、分かってきた?
黒ハルカ 2019年こそはシュウヘイを売り飛ばして、ノルマ達成するからね!
ハルカさん(白) そのまえにゆであがらないといいけどね。
きのこる先生 ではシュウヘイの明るい転職に向けて……
カンパイ☆
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提供:株式会社マイナビ
アイティメディア営業企画/制作:@IT自分戦略研究所 編集部/掲載内容有効期限:2019年1月31日
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