コミュニケーションアプリで国内7900万の月間アクティブユーザーを抱えるLINEが、金融サービス事業へ本格参入し、話題を呼んでいる。同事業をリードしているのは、LINEのグループ会社として2018年1月に設立されたLINE Financialだ。LINEはなぜここにきて金融サービス事業に力を入れ始めたのか。今回から3回に分けて、LINE Financialの役割と狙い、そこで働くエンジニアの声を紹介する。第1回は、LINE Financialで開発室 室長を務める池田英和氏に、同社のビジネスビジョンと求めるエンジニア像について話を伺った。
LINEが金融サービス事業への参入を本格化させている。2014年にモバイル送金・決済サービス「LINE Pay」を立ち上げ、2017年までに登録ユーザー数を3000万人に拡大させた。LINEの月間アクティブユーザー数は国内7900万人。これだけでも驚きの数字だが、既にその半数近くが送金や決済サービスとしてLINE Payを選択していることになる。
2017年にはユーザー数は全世界で4000万人を超え、2018年5月時点での月間取引高は1250億円という規模にまで成長。今やLINE Payは、消費者に密着した金融インフラの一部になり始めている。
そんなLINE Payの普及を受けて、2018年からさらに取り組みを加速させているのが、保険、投資、証券、家計簿、銀行、ローンといったいわゆる「伝統的な金融業」の領域だ。2018年1月に新会社「LINE Financial」を設立し、金融各社とパートナーシップを結びながら、新しい金融サービス事業を次々と展開し始めている。
金融とテクノロジーを掛け合わせて新たな価値創出を目指す「FinTech」は、今、大きな注目を集めている分野だ。ベンチャーから大企業までが取り組みを活発化させているが、どちらかといえば、伝統的な金融業がデジタル技術を使って自己変革を遂げる手段と見なされるというケースが目立つ。そんな中、LINEは何を目指して金融事業に参入しようとしているのか。
LINEの執行役員 フィナンシャルサービス開発担当で、LINE Financialの開発室室長も務める池田英和氏は、金融サービス事業へ参入する狙いを次のように話す。
「現金を一切持たずに日常生活を送る時代がすぐそこまで来ています。私もそうですが、LINE Payを使って決済したり、LINE家計簿をつけたりしていて、ほとんど現金を使いません。LINEのミッションは“CLOSING THE DISTANCE”――つまり、インターネットを使ってユーザーとの距離を縮めることです。これは金融も同じで、スマートフォンで全てのサービスが完結できるようにし、金融をより消費者に身近なものにしていこうとしています。LINEにとって金融への参入はごく自然な流れの中にあるのです」(池田氏)
現在の金融サービスの多くは、PCを前提にしたユーザーインタフェース/ユーザー体験が採用されている。誰かに送金しようとする場合、PCでインターネット取引口座を開設し、利用する際にはPCを立ち上げて相手の銀行口座番号を確認し、振込手続きをしなければならない。
最近はスマートフォンアプリで振込処理ができるようになってきたものの、目の前にいる相手にお金を送ろうとすると、自分のスマートフォンから相手の口座に振り込んで、さらに相手がスマートフォンアプリを使って口座への入金を確認する必要がある。もちろん、銀行口座に入金があっても、そのまま店頭で支払いができるわけではない。
こうした複雑なやりとりを劇的に変えたのがLINE Payだ。池田氏は、娘との間であったエピソードを明かす。
「重要な会議に参加しようと急いでいたら、突然、娘からLINEに着信があったんです。『どうしたの?』と聞くと『今から洋服買うの。だから、5000円、LINE Payで送ってくれない? あと1分でレジだからすぐ送って』と言うんです」
池田氏は会議に急ぎつつ、LINE Payを起動。娘のLINEアカウントを選択して5000円を入力し、送金ボタンを押して指紋認証を行って送金を完了させる。その間、数十秒。娘にはLINE Payから通知がいくので入金されたかどうかもすぐ分かる。娘からは「てんくす」という気軽なスタンプが送られてきた──。
こうしたシーンは、LINE Payユーザーの間ではごく自然に行われているという。距離感の近いコミュニケーションの中で、送金や決済という金融サービスが日常に浸透してきているのだ。このようなユーザー体験を、送金や決済に限らず、さまざまな金融サービスに展開していく役割を担うのがLINE Financialというわけだ。
「LINE Financialは、LINE Payの並びに位置する会社です。LINE Payにある皆さんのお金をLINE Financialが作るさまざまなサービスで出金したり、入金したりして、資産形成に役立てていただきたい。スマートフォン1つで店舗やECサイト、各種サービスでのお金のやりとりができるようになる。将来のキャッシュレス社会、ウォレットレス社会を見据えて、人とお金とサービスの距離を近づけていくことがLINE Financialの目指す世界です」(池田氏)
LINE PayとLINE Financialは、具体的にどのようなサービスを展開しているのか。
まずは、LINE Payでのサービス強化がある。ユーザーにはLINE PayというとQRコード決済がなじみ深いかもしれないが、2018年中には、ユーザー向けにQUICPayと提携した非接触型決済サービスもAndroid版で提供開始し、現在国内133万箇所でスマホ決済を利用可能だ。加盟店向けには、QRコード決済を行うための「LINE Pay 店舗用アプリ」、自社決済端末「LINE Pay 据置端末」などを提供し、これらを活用することで、店舗は、容易にキャッシュレス化に対応できるようになる。コンビニやタクシー、税金など、対応シーンは続々と拡大中だ。
保険分野では、損害保険ジャパン日本興亜と提携し、2018年10月に「LINEほけん」の提供を開始した。LINEほけんは、LINEアプリ上から必要なときに、自分の好きなタイミングで損害保険に加入できるサービス。旅行、スポーツ、イベント、ゴルフ、賃貸といった生活シーンに合わせて、さまざまな損害保険に最短1日単位で加入できる。
例えば、「お花見や夏祭りなどのケガに備えた保険」「ボランティア活動時のケガに備えた保険」「野外フェスでの事故に備えた保険」「自転車保険」「弁護士相談費用保険」など、多彩な商品プランがあり、保険料も100円からだ。
投資分野では、FOLIOと提携し、投資未経験者や初心者が身近なテーマへの投資を通じた資産形成をLINE上から行える「LINEスマート投資」を2018年10月からスタート。時代のトレンドや個人の趣味・嗜好に合わせ、約80のテーマが設定されており、例えば「ドローン」「ガールズトレンド」「VR」「コスプレ」といったテーマを選択し、10万円前後から投資できる。
個人向け金融サービスとして、急速にユーザー数を増やしているのが「LINE家計簿」だ。銀行やクレジットカードなどの金融関連サービスと連携でき、それらの情報を一括して管理し、家計簿を自動作成することができる。2018年11月にサービス開始したところ、約2カ月で登録ユーザー数が200万人を突破、現在、10代から50代以上の幅広い層が利用しているという。
この他にも日米を除くグローバルで取引が可能な仮想通貨交換所や、ブロックチェーンネットワークの展開も行っている。2018年1月以降、こうしたサービスを矢継ぎ早にリリースし、キャッシュレス社会、ウォレットレス社会の実現に向けて取り組みを加速させている状況だ。その他にも、個人向けスコアリングサービス「LINEスコア」や、個人向け無担保ローンサービス「LINEポケットマネー」の提供に向けた準備も進めている。
LINE Financialが展開する新サービスの中でも、金融業界から熱い視線を浴びているものがある。それが証券業と銀行業への参入だ。証券については野村ホールディングスと、銀行についてはみずほフィナンシャルグループとそれぞれジョイントベンチャーの設立を発表。将来的に証券業については「LINE証券」が開業する予定、そして銀行業については新銀行の設立準備を進めている。
証券業については既に準備会社が設立され、野村ホールディングスと協業しながら具体的なプロジェクトを進めている段階にある。LINEプラットフォームを生かしながら、非対面でのブローカレッジ(株式売買の仲介)サービスの提供を予定しているという。
「野村ホールディングスと資本関係がある野村総合研究所のエンジニアとLINEのエンジニアでチームを作り、システム開発を進めています。LINEは基本的にアジャイル開発でサービスを作ってきているため、伝統的な金融会社のようにウオーターフォール型開発のノウハウはほとんどありません。一方、野村総合研究所では証券システムの知識と実績を豊富に持ち合わせていますが、LINEほどアジャイル開発に慣れているわけではありません。お互いのエンジニアがお互い良さを引き出し合いながらプロジェクトを進めるというユニークな環境になっています」(池田氏)
銀行についても、準備会社の設立を合意し、着々と準備を進めている段階だ。LINEとリンクした親しみやすく利用しやすい「スマホ銀行」を提供することで、銀行をより身近な存在へと変化させることが目標だ。
このように、池田氏がフィナンシャル開発室室長としてLINE証券や新銀行の立ち上げを任された背景には、LINEへの入社以前にSIerで金融システム開発の経験があったためだという。同時に、LINEにおいては「LINE NEWS」や「LINEマンガ」「LINE LIVE」などをマネジメントしてきた実績もあった。異なる開発プロセスや異なるアプローチが混在する環境のマネジメントにはうってつけの人材だったわけだ。
とはいえ、新証券会社や新銀行を0から設立した経験まではない。そのため、試行錯誤しながら、プロジェクトを少しずつ形にしていったという。そこで重要だったのが「エンジニアの自主性」だ。
「最初から完成形が見えない中でプロジェクトを進めるために、エンジニア個人が自由にアイデアを出して、それぞれが裁量を持って取り組んでいくという姿勢を重視しました。エンジニア一人一人の取り組みが点となり、それらを線としてつないでいくうちに形になっていったのです」(池田氏)
自主性を重んじる中で、チーム構成もバラエティーに富むものとなった。もともとLINEは多国籍で、ミーティングでは日本語、英語、中国語、韓国語などが飛び交う環境。得意分野や保有スキルもさまざまで、日々意見を交わす中から新しいアイデアが生まれ、それがサービスへ反映されていく。
いま、LINE Financialが取り組んでいるのは、これまで誰も経験したことがない領域の金融サービスといえる。未知のサービスを立ち上げ、拡大させるために、エンジニアには何が求められるのか。池田氏によると、意外なことに、エンジニアとしてのスキルの高さや過去の経験はそれほど重要ではないという。
「むしろ求めているのは“常にユーザーを見ながらサービスを作っていく”という姿勢です。ここでは、先週決めた事柄が来週には変わるということがよく起こります。自主的に意見を出し、チームメンバーの意見にも耳を傾けながら、ユーザーにとってより良いものとなるようにサービスを絶えず変化させていく。そうした変化を楽しむマインドを持っているかどうかが重要と考えています」(池田氏)
LINE Financialのアジャイル開発では、ユーザーの声を聞いてサービスに反映させるスプリントを1週間単位で回している。ユーザーやチームメンバーのためになることであれば、自主的に機能提案や機能追加などを行うことができ、むしろ、そうした姿勢が評価の対象になるという。
エンジニアは、社外の勉強会や海外で数日間に渡って行われる技術イベントへも会社の費用で参加することができる。ユーザーのメリットにつながるのであれば、自分のスキルを磨いたり、新しい情報を得たりすることについて、会社が全面的に支援してくれる環境なのだ。
「エンジニアとして新しい証券会社や新銀行の設立に携われることは、他の何事にも代えがたい経験になると思います。金融エンジニアといえば、金融システム開発のようなB2Bサービスをイメージするかもしれせん。しかし、LINEが展開しようとしているのは、B2Cサービスのようにユーザーとの距離が近い領域です。ダイレクトにユーザーの反応を見ることができ、ユーザーに受け入れられたときの喜びも直接感じることができます」(池田氏)
LINE Financialのミッションは“CLOSING THE DISTANCE”というLINEのミッションを金融サービス事業で追求することにある。それを支えるのは、ユーザーの立場をよく理解し、ユーザーと金融の間にあるギャップを埋めようとチャレンジし続けるエンジニアにほかならない。
ここで気になるのが、実際にLINE Financialで働いているエンジニアの声ではいなだろうか。次回は、LINE証券と新銀行のシステム開発に携わるエンジニアの生の声を紹介しよう。
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提供:LINE Financial株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT自分戦略研究所 編集部/掲載内容有効期限:2019年3月31日