あらゆる企業がテクノロジードリブンになる時代、ITエンジニアはどう生きるべきか。及川卓也氏×澤円氏が熱く語った夜

エンジニアはこれから、どのような能力を磨けばいいのだろうか。

» 2019年03月29日 18時20分 公開
[PR/@IT]

 2019年1月16日、エンジニアのキャリアを考えるイベント「Engineer Career Talk」を、@IT主催「Sky」協賛で開催した。

 新しい技術が次々に登場する昨今、エンジニアに必要なものは何か。IT業界トップランナーの及川卓也氏と澤円氏が、自らの経験を基にエンジニアにアドバイスを贈った。

米国はコンサルタントよりエンジニアの方が高収入

及川卓也氏

 最初のセッションは、及川卓也氏の講演「プロフェッショナルへのゲートウェイ」。常に成長を求め、新しい技術に挑戦し続けることでスキルや経験の幅を広げてきた及川氏が考える、技術によってビジネスが成り立つ世界で、エンジニアに必要な役割とスキルセットについてお話しいただいた。

 かつてのITは電卓の延長線上にあり、人間の作業を肩代わりし、省力化、コスト削減、効率化を実現するためにあった。しかし世界のIT業界の潮流は今、ITドリブンで新しいビジネスやサービスを生み出す「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の時代に入っている。

 ITを活用したサービスを提供する企業の多くは社内にエンジニアを抱え、開発者(Development)と運用者(Operation)が密接に連携するDevOpsでビジネスとITをスピーディーに運営している。

 一方の日本は、依然としてユーザーとベンダーの分業体制や、ベンダーの多重下請け構造が強く残り、DXの足かせとなっている。

DXが進んでいる企業は、企画から運用までの全てを自社内で賄う(上段)。対して日本の多くのシステム開発プロジェクトは、ユーザー企業は企画のみ。その他は、工程ごとに専門の会社に分業する(下段)。

 分業体制が全て悪いわけではないが、仕事や企業に「上流」「下流」でランク付けがなされる弊害がある。エンジニアの職種なら、プログラマー、システムエンジニア、コンサルタントといった「職種」で格付けされ、報酬もそれに準じた内容になることが多い。

 及川氏はこの序列を「本当に正しいでしょうか?」と問い掛ける。実際、米国ではコンサルタントよりプログラマーの方が高い報酬を得ているそうだ。なぜなら、新しいサービスを形にしているのはプログラマーであり、それだけプログラマーは企業に価値を提供しているからだ。

マネジメントは管理にあらず

 しかし、いずれ日本にもDX時代がやってくる。そのときに重要な存在として及川氏が挙げるのが「プロダクトマネジャー」(同じく略称が「PM」となるがプロジェクトマネジャーではない)だ。製品やサービスといったプロダクトを定義付け、方向性を定めていく。企業規模次第ではCEOに近い存在でもある。

 プロダクトマネジャーに必要な行動は、前述の「定義する」および「主体性を持って取り組む」「仮説検証を進める」の3つだ。「管理」ではなく、IT目線で経営を動かしていく。そんなプロダクトマネジャーは「楽しい」仕事だと及川氏はほほ笑む。

 なお、プロダクトマネジャーがプロダクトの「What」から「Why」や「When」までを決定する存在であるとすれば、エンジニアは「How」に責任を持つ存在だ。どうやって新しいサービスを形にするかについて考え、実装していく。そのプロフェッショナルになるのもまた、エンジニアの今後のキャリアとして「アリ」だろう。

ユーザーにはお茶が見えないのかもしれない

澤円氏

 2つ目のセッションは、澤円氏による「これからのエンジニアに必要な『マネジメント』の考え方」。同じマネジメントだが主に「ピープルマネジメント」の仕事についてお話しいただいた。

 エンジニアなら、こんな言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。「何かこれ、あまり動かないから、なる早でチャチャっと、いい感じに仕上げてくれる?」。

 澤氏は、事業部門にこう言わせる組織はマネジメントが欠けていると断じる。「あまり動かないから」はリスクマネジメントの欠如、「なる早で」はスケジュールマネジメントの欠如、「いい感じに」はクオリティーマネジメントの欠如だというわけだ。

 マネジメントが欠けているとこういう言葉も出てくる――「運用でカバー」。澤氏によるとこれは「地獄への片道切符」であり、「どこかでエンジニアが無理をする」ための呪文だ。

 及川氏も話したように、これからはあらゆる企業が事業にテクノロジーを採り入れていくようになり、テクノロジーに関するマネジメントが重要になる。そこで重要な要素となるのが、「コミュニケーション」だ。

 例えば「キーボードをたたんでくれる?」という要望がユーザーからあったとする。

 キーボードの上にはスマートフォンがあり、さらにその上にはお茶の入ったカップがある。キーボードをたたむためには、カップをどけ、スマートフォンをどけて(前処理)から、キーボードをたたみ(処理の実行)、スマートフォンとカップを元に戻す(後処理)という作業が必要だ。

 ところがユーザーにとっては、「何でそんなに工数がかかるの?」となる。

 リクエストしたのはキーボードをたたむだけなのに、なぜそれ以外のことをするのか分からないのだ。ユーザーにはキーボードの上にあるものが見えていないのかもしれない。あるいはキーボードの上にあるものは別の場所にあると見えているのかもしれない。だから丁寧にコミュニケーションできるスキルが必要になるのだ。

 この例なら「構築まで2ステップ、現状復帰も含めてトータルで5ステップ必要です」などと説明し、前提を変えるならどうなるかのオプションも併せ、相手と合意を得る必要がある。相手からどう見えているのかも把握しつつ、コスト、リスク、リソース、スケジュールをうまく回せるように、言語化し交渉を進めていくのがマネジメントの大きな役割なのだ。

タスクのボスになる

 次に澤氏は、アジャイル開発におけるピープルマネジメントの重要性を説明した。

 アジャイル開発で重要な要素は、どういうものを作るのかの「カスタマープロミス」、どのような場面で使われるのかの「シナリオプランニング」、どのように配布できるのかの「デリバラブル定義」、実際のタスクに落とす「タスク設定」の4つだ。これらは入れ子となり、それぞれにKPIを設定していく。

 「ここでエンジニアのマインドセットが問われます」と澤氏は話す。「言われたことをやっただけで、できたと思うな」。つまり、与えられたタスクをこなすだけでは、本物のエンジニアとして認められないということだ。

 タスク管理で重要なのは「オーナーシップ」と「リーダーシップ」だ。タスクの保有者は「タスクオーナー」であり、タスクオーナーはタスクのボス(全権を持ち判断していく)となる。

 エンジニアのピープルマネジメントをする人は、チームメンバーにタスクを委譲し、オーナーシップを持ってもらい、リーダーシップを発揮して働いてもらう。それがエンジニアとしてのマインドセットを醸成し、成長を促すことにもなる。

 その上で澤氏はこうアドバイスする――「人間の仕事はビジネスの因果関係を知り、未来を創造し続けること。エンジニアも同じです。『一緒に未来を創ろうよ』と呼び掛けられるのがエンジニアのマネジャーに求められる能力です。メンバーとは未来について語り合ってください」

やりたいことをやろう! 何をできるか言語化しよう! 変化しよう!

 最後のセッションでは、会場からの質問に及川氏と澤氏が回答した。

質問:得意なこととやりたいこと、どちらを選べばいいですか?

 両者とも「やりたいこと」を選ぶ方を推奨した。理由は、「モチベーションやパワーが勝手に湧いてくるから」(澤氏)、「内発的な動機付けはやる気がでる。やりたいことを得意なことにすればいい」(及川氏)とのことだ。

質問:スペシャリストがマネジャーより給料をもらうには?

 及川氏は「テックリードを目指せ」とアドバイスした。技術的な得意分野を持ち、社内での指導や社外での活動を積み重ねることで、会社に技術力向上や求人応募増加といった、大規模な組織をマネジメントするのに匹敵するようなインパクトのある貢献も可能だ。

 澤氏は「日本で管理職は名誉職であり、給料と役職がひも付いている」と指摘する。海外では給与は成果のラダー(評価)に応じて上がっていく。そういう人事の仕組みが必要だということだ。さらに「他流試合」も勧めた。「所属会社の“外”で活動することで、守備範囲が広がり、キャリアに好影響を得られる」と言う。

 最後に2人は会場のエンジニアに向けてメッセージを贈った。

 「自分は何をできるか言語化するといい。他人と比べる必要はない。他人に伝えられるようにしよう」(澤氏)

 「MicrosoftやIBMなど生き残っている大企業を見ると、事業内容や方針を大きく転換している。もし、変化が必要にも関わらず企業が変わらないなら、時間を浪費することになる。転職してもいいし、グローバルに出るのもいいだろう」(及川氏)

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提供:Sky株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT自分戦略研究所 編集部/掲載内容有効期限:2019年5月25日

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