クラウド活用を視野に入れながらも、これまでのシステムと同じように動作するか、運用はどうすればいいのかといった悩みを抱える企業は多い。そんな既存の環境とクラウドとをシームレスにつなぐ「VMware Cloud on AWS」を、NECはこれまでの経験やさまざまなノウハウとともに提供していく。
NECは2019年3月25日、東京のアマゾン目黒オフィスで「VMware資産を活かす、最新ハイブリッドクラウドセミナー」を開催した。既存インフラとシームレスに利用でき、クラウド活用シーンを広げる「VMware Cloud on AWS」の東京リージョンからのサービス提供が2018年11月に開始された。アマゾン ウェブ サービス(AWS)とVMwareそれぞれの豊富な構築実績があり、自社の商用クラウドサービスの運営も行っているNECは、いち早くVMware Cloud on AWSのマネージドサービスプロバイダーとなったこともあり、クラウド活用に迷うユーザー企業に向けてハイブリッドクラウド活用の勘所を紹介した。
本稿では、同セミナーにおけるヴイエムウェア、アマゾン ウェブサービス ジャパンの講演内容とともに、VMware Cloud on AWSの概要、移行後のAWSサービスとの連携、ハイブリッドクラウドのメリット、ユースケース、活用ポイントを紹介する。
「ハイパーバイザーのベンダー」というイメージの強かったヴイエムウェアだが、現在は「Any Cloud, Any Application, Any Device」というビジョンを掲げ、あらゆるデバイス上で、あらゆるアプリケーションを、あらゆる環境で実行できることを目指して製品開発を進めている。
中でも注力しているのが、パブリッククラウドとオンプレミスをつなぐ「ブリッジ」としての役割を全うすることだ。ヴイエムウェア パートナー第一営業本部 副本部長の綾部進之介氏は「ユースケースで分かるリアルな実態、『VMware Cloud on AWS』の価値とは」と題するセッションにおいて、VMware Cloud on AWSの概要を説明した。
VMware Cloud on AWSが注目される背景には、世の中で開発されるアプリケーションやソリューションの急増がある。ビジネスのスピード感に追い付くためには、よりアジャイルな開発スタイルを採用し、次々にアプリケーションをリリースしていかなければならない。そうなると、自ずとデプロイ先もオンプレミスだけではなく多様化する。「どこにでもデプロイできるアーキテクチャが重要になり、ハイブリッドクラウドの重要性がますます増していく」(綾部氏)
もちろん、そこには課題もある。エンジニア1人でカバーできる範囲を超えて環境が複雑化し、管理ツールやセキュリティ制御の方法も異なる。「多くの企業が持つ『今まで投資してきたVMwareの運用スキルを無駄にしない形でクラウドも運用したい』『オンプレミスの仮想マシンをそのままクラウドに移行したい』などの要望に対し、VMwareとAWSが手を組むことで、これらの課題を解決できることから、VMware Cloud on AWSの開発に至った」と綾部氏は述べた。
VMware Cloud on AWSでは、これまでオンプレミスで多くの企業が利用してきたVMware vCenter Serverからオンプレミスとクラウド、両方の環境を管理でき、運用の一貫性を保障する。また、オンプレミスからクラウドへ、逆にクラウドからオンプレミスへといった移行もシームレスに行える上、AWSが提供するさまざまなネイティブサービスとも連携でき、現場が求める新たなサービスの開発を支えることも特徴だという。
VMware Cloud on AWSはすでに東京を含む13リージョン、37のアベイラビリティーゾーンで提供されており、大阪でも提供される予定だ(2019年4月時点)。VMwareが提供する仮想ストレージVMware vSANのストレッチクラスタ機能によって自動的に可用性を担保し、VMware HCXによりサービス無停止を含む安全、確実な仮想マシンの移行方法を提供するなど、VMwareがこれまで蓄積してきた技術も生かされている。
綾部氏は、「VMware Cloud on AWSは『オンプレミスとクラウドにまたがる一貫性のある運用』『行ったら行きっぱなしではなく、帰ってこられるという選択肢も含めたワークロードのポータビリティー』『ネイティブAWSサービスとのシームレスな連携』『小規模から大規模までカバーする柔軟な構成』という4つの価値を実現し、データセンターの拡張や災害対策(DR)、クラウド移行、次世代アプリケーションの開発といったさまざまなユースケースに対応する」とした。
すでに、既存のデータセンターがいっぱいになってしまい移行先としてVMware Cloud on AWSを採用した、オンラインゲーム事業者のPlaytikaをはじめ、海外では、多くの企業がVMware Cloud on AWSを採用し始めている。国内でも、インフラ刷新やコスト削減といった側面だけではなく、「守りのITから攻めのITに変革したい」と考え、人材育成と組織風土の活性化を狙った企業など、さまざまな企業がVMware Cloud on AWSを活用し、新たなチャレンジに取り組んでいるという。
アマゾン ウェブサービス ジャパン 技術統括本部 パートナー技術本部 パートナーソリューションアーキテクトの諸岡賢司氏は「『VMware Cloud on AWS』を強固にするAWSネイティブサービスとその先にあるもの」と題してセッションを行った。
次々に機能を追加し、アップデートしてきたAWSは、長年にわたるパートナーとしてNECと手を組み、ソリューションを開発してきた。VMwareとも密接なパートナーシップがある。そして「AWSとVMware、双方のエンジニアが数百人単位で参加し、ネットワーク周りを中心にソースコードに手を加えて共同開発した」(諸岡氏)のがVMware Cloud on AWSだという。
諸岡氏は、「企業のクラウド移行には幾つかのステージがある」と説明した。米国ではよりクラウドらしい使い方をにらみ、サーバレスやコンテナといったステージに到達しつつあるが、その前段にはハイブリッドクラウドがあり、その前の一歩目のステップとしてオンプレミスから「持たないIT」への移行を進めるステージがある。「多くの企業が『5年ごとのシステム更改などもうやっていられない』と考えている。このように既存システムをリホストする際には、VMware Cloud on AWSはとても有効な方法だ」(諸岡氏)
さらに、このVMware Cloud on AWSにAWSのさまざまなネイティブサービスを組み合わせることでさまざまな価値を提供できるという。
こうした価値は、Gartnerの言う「モード2」や「SoE」的なクラウドネイティブなアプリケーションだけではなく、これまでオンプレミスで運用されてきた「モード1」「SoR」的なアプリケーションにも適用できるという。
例えばモード1/SoR的なアプリケーションに対しては、既存システムの「機能補完」をより容易に、新たな運用を低コストで実現できる。一例として、あらかじめ設計やサイジングをあれこれ行わなくてもレイヤー7での負荷分散を行う「Application Load Balancer(ALB)」を組み合わせることで、予期せぬアクセス集中にもオートスケールで対応できる。また、安定的なシステム運用にはDRサイトやバックアップは不可欠だが、その構築には多額のコストがかかっていた。「Amazon S3」をはじめとするAWSのストレージサービス群を組み合わせれば、「高価なストレージを用意しなくても、DRサイトやバックアップを用意できる」(諸岡氏)
もう一つ、大きな悩みが運用管理の負荷だ。インフラやOSといったレイヤーから全て用意し、運用していくのはコストも手間もかかる作業だが、こうした負荷も、VMware Cloud on AWSと「Amazon RDS」をはじめとするフルマネージドサービスの組み合わせによって軽減できる。さらに、「Amazon CloudWatch」などのツールからのデータを既存の運用管理ツールに渡すことで、これまでの運用プロセスを変えずに連携させることも可能だとした。
一方で、クラウドに寄せられる大きな期待がデータを生かした新しいアプリケーションの開発だ。既存のデータをさまざまに生かしていく構想を抱く企業は多いが、そもそも自社のどこにどんなデータがあるか把握できていないケースも少なくない。これに対し、VMware Cloud on AWSと「Amazon Redshift」「Amazon QuickSight」といったフルマネージドサービスを組み合わせることで、「企業は、新たにシステムを開発しなくても、短期間でかつ低コストで大規模データ分析基盤の構築が可能になる」と諸岡氏は述べた。
諸岡氏によると、SAPやOracleといったオンプレミスで運用してきたシステムをクラウドに移行したいニーズはやはり多いという。「VMware Cloud on AWSなら移行コストを抑えた形で、手っ取り早くクラウドのメリットを享受できる。クラウドならではのアジリティーがあるサービスを展開する際にも、AWSが提供するさまざまなサービスと連携することでクラウドの価値を生かしていくことができる」
NEC サービスプラットフォーム事業部 部長の熊井睦美氏は「DXを支えるクラウドの現状とハイブリッドクラウドを加速する『VMware Cloud on AWS』」と題するセッションにおいて、NECでは、顧客との共創を通じて社会価値の創出に取り組んできたことをあらためて説明した。
「共創の実現には、テクノロジーの力、特に、実世界の情報を集約して新しい価値に変え、再び実世界にフィードバックしていくクラウドテクノロジーの力が欠かせない。それを生かしてデジタルトランスフォーメーションを実現していくことが、この先の新たな価値につながる」(熊井氏)
さて、クラウドという技術が生まれてからしばらく経ち、その形態にもさまざまなバリエーションが生まれている。中でも注目すべき潮流が「ハイブリッドクラウド」だ。NECはこの流れに応えるべく、さまざまな取り組みを進めている。その一つが、2018年4月に立ち上げた「MC(マルチクラウド)ソリューションセンター」だ。ここに専門のエンジニアを集約し、さまざまな業種、企業規模などセグメントに対する横断的な技術支援体制を整えてきた。並行して、AWSやVMwareといったパートナーと密接なアライアンスを組み、そこで得た知見を生かしてソリューションを展開している。
これまで多様な顧客を支援し、生の要望を聞いてきた熊井氏によると、クラウド化に際しては、顧客が共通して抱く不安が3つあるという。1つ目は、クラウドに載せ替えてそのまま動くのか、これまで通りのパフォーマンスが出るのかということ。2つ目は、クラウドならではの新しいスキルの獲得や運用体制が必要になり負担が増えるのではということ。そして3つ目は、単純な移行(リフト)するだけでは、クラウドならではのメリットを享受できないのではということだ。
一方で、既存の仮想化環境をクラウドに移行するには、一般的に3つの選択肢がある。プライベートクラウドの構築、ハイブリッドクラウドの活用、そしてクラウドへの全面移行だ。熊井氏は「それぞれの方式にメリットがあり、『顧客が何を重視しているのか』を踏まえてクラウドシフト(単純移行のリフトだけではなく、クラウドの機能をフルに活用して、そのメリットを享受すること)の際のデザインをどのように設計するかがポイントになる」と述べた。
ただ、これまで市場で主に提供されてきた選択肢は、プライベートクラウドか、それともパブリッククラウドへの全面移行かの「二択」のみ。NECとしてもいろいろな選択肢を用意してきたが、この両者をスムーズに行き来でき、管理を一元化できるようなハイブリッドクラウドは個々の要件に合わせて個別に提案してきたという。
「VMwareユーザーにとって、この穴を埋めるものがVMware Cloud on AWSだ。オンプレミスともつながるし、ピュアなクラウドサービスとも連携できる。これにより、VMware上の資産をクラウドに移行するハードルが非常に低くなる。前述の顧客が抱える3つの不安に対する解答が用意されており、ハイブリッドクラウドに正に適したソリューションだ」(熊井氏)
NECではこのVMware Cloud on AWSを顧客がスムーズに活用できるよう、当初はオレゴンリージョン、現在は東京リージョンでのサービスについて「クラウドサービスを提供する事業者」と「システムインテグレーター」という2つの視点から検証を行い、さまざまな準備を進めてきた。
具体的には、クラウド事業者として「顧客視点での想定通りに機能が動作するか」「オンプレミス環境との連携はどうか」、そしてシステムインテグレーションの観点から「AWSのさまざまなサービスは制限なく使えるか」「VMware vSphere vMotionによる移行性はどうか」「顧客がオンプレミスで採用しているサードパーティー製品との組み合わせは可能か」といったポイントを検証。操作性や手順書なども含め、試してみなければ分からないところまで含めて確認したとして、検証結果の一端を紹介した。このノウハウを踏まえて顧客へのサービスを展開していくという。NECはクラウドサービスを事業者として提供してきた10年以上の運営経験、運用や保守の実績、年間1万件を超えるインシデントに対応しているサポート体制を基に、VMwareのVMware Cloud on AWSのマネージドサービスプロバイダープログラム(MSP)ベンダーとしてサービスを提供開始している。
またシステムインテグレーターとしては、VMwareとAWS、双方の実績を基に、計画から設計、導入、移行、運用まで各プロセスを支援する「プロフェッショナルサービス」を通じて顧客が抱える課題や不安に応えていくという。例えば「PoC(事前検証)支援サービス」では、設計に入る前の検討、計画を短期間で効率良く進められるよう、検証を経験したエンジニアがNECで実施した検証ノウハウをテンプレート化して支援する。顧客にとっては用意されたさまざまなテンプレートやマネージドサービスを必要に応じて選択することでNECならではの知見とノウハウを利用できることになる。
熊井氏は「実績と経験、パートナーシップ、そして検証での知見と技術の蓄積、導入から運用までを支援するサービスという具合に求められる要素をNECは全て兼ね備えている」と述べ、顧客とともにハイブリッドクラウドを生かし、新しい価値作りに取り組んでいく姿勢を強調した。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2019年5月14日