セールスフォースに聞く「DX時代に必要とされるエンジニア」とは?デジタル時代にSIerが生き残る要件

AI、IoTなど新たな技術の活用に乗り出す企業は着実に増えつつある。だが同時に、技術という手段がいつしか目的化し、ビジネス価値を生み出せずにいる例も枚挙にいとまがない。ではDX(デジタルトランスフォーメーション)とは本来、何を目指し、何をすることなのか? 顧客体験価値の向上には何が必要なのか? その実現を支援するSIerとエンジニアに求められるものとは?――顧客接点や顧客理解の在り方に深い知見を持つ、セールスフォース・ドットコム アライアンス本部 本部長 井上靖英氏に「DXの本質」を聞いた。

» 2019年10月23日 10時00分 公開
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 デジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドが進展する中、セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)は2019年4月、パートナー拡充に向けた新プログラム「DXアクセラレーション」プログラムを提供すると発表した。ユニークなのは、他のベンダーが展開しているような一般的なパートナー支援策とは異なる点だ。Salesforceを扱うエンジニアの育成支援、システムインテグレーター(以下、SIer)のビジネス機会創出も含めて、セールスフォースとのエコシステムを醸成する中で、DXに向けて共にビジネス、技術力をトランスフォームしていくことを狙った包括的なプログラムとなっている。

 では、なぜセールスフォースはこのようなプログラムを用意しているのか?――提供開始に至った背景を聞くと、各社において今の経営環境に即した“トランスフォーメーション”が強く求められている中で、一般企業のみならず、DXの取り組みを支援するSIer、そこで働くエンジニアなど「DXに立ち向かう企業をいかに支援していくか」という同社の大きな狙いが見えてきた。常務執行役員 アライアンス本部 本部長 井上靖英氏に「DXの本質」と、セールスフォースとしての考えについて聞いた。

「顧客との関係を再定義すること」こそが第4次産業革命の本質

 ここ数年、DXの潮流が高まる中で、企業に求められるものは「モノ」から「コト」――顧客一人一人の体験価値を高める「サービス」に変わった。

セールスフォース・ドットコム アライアンス本部 本部長 井上靖英氏 セールスフォース・ドットコム 常務執行役員 井上靖英氏

 こうした変化を表すキーワードとして「第4次産業革命」が挙げられる。第4次産業革命には、IoT、ビッグデータ、AIといったコアとなるテクノロジーがあるが、ともすると「IoTやビッグデータ、AIをいかに活用するか」といった具合に考えてしまいがちだ。しかし「そうした考え方は、本質を突いていません」と主張するのが、セールスフォースの常務執行役員 アライアンス本部 本部長 井上靖英氏だ。

「新たなテクノロジーの活用自体ではなく、それによって顧客との関係を再定義していく必要性が出てきています。従来のビジネスモデルの転換が求められる、大きなパラダイムシフトを迎えているのです。これこそが、第4次産業革命の本質なのです」(井上氏)

DX投資の本丸は、間違いなくCRM周辺で起こる

 では「顧客との関係の再定義」とは、具体的にはどういうことなのか。井上氏はこう続ける。

 「われわれは今、AIやIoTなどテクノロジーの急速な発展によって第4次産業革命の真っただ中にいます。そうした中、あらゆる産業が『情報を活用したサービス産業』へのシフトを求められているのはご存じの通りです。ただ、商品をサービスとして提供する形になると、『必要なときに、必要なだけ』というサブスクリプションモデルから、さらに要求が高まっていくはずです。つまり、顧客はサービスによって成果を得た分だけ料金を支払う『成果報酬型』に変わっていく。そうなったときに、いよいよ全産業の全企業がビジネスモデルの転換を迫られることになるでしょう。従量課金から成果報酬になると、単に商品を開発・提供するのではなく、『顧客は何にバリューを感じているのか』を正確に把握し、適切に提供する必要が生じてくるからです。すなわち、一方通行だった顧客との関係を再定義していく必要があるのです

 井上氏は、「DXも『顧客との関係性の再定義』に本質があります」と力説する。DXの取り組みでも、IoT、ビッグデータ、AIなどをいかに活用するかといった議論になりがちだ。しかし技術はあくまで手段でしかない。

 サブスクリプションモデルも価値を届けるための手段であり、目的ではありません。アナログに勝るデジタルの最大のメリットは『顧客に近づけること』です。すなわちDXの本質を一言でいえば、『いかに顧客に近づくか』。デジタルで顧客一人一人、一社一社を知り抜くことで、求められている価値を適切なタイミングで届けていくのです。今後、DXに対する投資の本丸は間違いなくCRM周辺で起こると考えます」

第4次産業革命において、大きなポテンシャルを秘めるSIer

 事実、「顧客を知り抜き、適切にバリューを届ける」企業はDXトレンドの中で着実に増えつつある。

 そして重要なのは、企業のDXを支援するSIerにも「顧客を知り抜き、適切にバリューを届ける」スタンスが求められていることだ。事実、要求通りにシステム/サービスを作って提供するだけでは、ビジネスとして立ち行かなくなりつつある。“顧客に近づき、顧客を知り抜く”提案型のビジネスが求められつつあるのだ。

「情報技術の深い知見を持つSIerは、第4次産業革命において大きなポテンシャルを秘めていると考えます」 「情報技術の深い知見を持つSIerは、第4次産業革命において大きなポテンシャルを秘めていると考えます」

 「企業がDXを実践する上で、情報技術は絶対に欠かせません。特に現在は、ニーズの変化に応えるために、全てのシステム/サービスをイチから作るのではなく、すでにある技術を組み合わせていかにスピーディーに開発・提供するかが求められています。そしてシステム/サービスを内製できる企業は限定的である以上、情報技術の知見を持つSIerは貴重な存在であり、第4次産業革命における重要な役割と大きなポテンシャルを秘めていると考えます。特に中小規模のSIerはフットワークの軽さもあり、すでにビジネスモデルのシフトが進んでいます」

「DXアクセラレーションプログラム」提供の意図とは

 だがそうは言うものの一般には、保守・改修を軸とした既存業務で収益を確保できていても、どう自社のビジネスモデルを変革すればよいのか、具体的なロードマップが見えず悩んでいるSIerの経営者は多い。井上氏自身も多数の経営者と話をする中で、相当の危機感があることを実感しているという。

 悩みの背景にあるのは、SIerに限らずIT業界全体で懸念されている次の3つの課題だ。1つ目はエンジニア人材を採用しにくいこと。2つ目は、コストの問題などでエンジニアに新しい技術を学ばせるのが難しいこと。3つ目は従業員に技術力を付けさせても新たな商談機会を獲得するのが難しいことだ。本稿冒頭で紹介した「DXアクセラレーションプログラム」は、こうした“SIerとエンジニアのトランスフォーメーション”を阻む課題を解消することを狙ったものだという。

 「DXアクセラレーションプログラムは、IT業界全体の課題でもある『人材の採用』『教育コスト』『継続的な案件創出』の3点を軸とした支援をしています。2019年で80社の新規パートナーを募集し、現在マーケットに約3700人いるSalesforce認定技術者を今後3年間で1万人規模にする計画です」

DXアクセラレーションプログラムが解決する課題 DXアクセラレーションプログラムが解決する課題

 「人材の新規獲得」としては、パートナー企業の採用イベントの支援や、オンライン体験学習プログラム「Trailhead」の個人・法人への提供を通じたSalesforceの全般的な学習支援、AIやモバイルアプリケーション開発など第4次産業革命に対応した人材育成支援を実施する。「教育コストの支援」としては、具体的には「認定アドミニストレーターポイントスタディ」の有償で提供していたトレーニングコースを、いつでも気軽に受講できるオンライン形式で無償提供したり、新たにセールスフォースのパートナーに参画した企業に、資格受験費用の一部を無償提供したりしている。

 そして、これらに増して珍しい施策が「継続的な案件創出の支援」だ。パートナーマッチング制度により、Salesforceの導入経験豊富なパートナーと新規パートナーが一緒に組んでプロジェクトを遂行する仕組みを推進する。これにより、既存パートナーは人的リソースを確保しやすくなり、新規パートナーにとっては人的リソース・スキル面でのハードルが大幅に下がる。加えてSalesforceを使ったプロジェクトのノウハウ蓄積も図れる。パートナーマッチング制度の狙いについて、井上氏はこう話す。

 「当然ですが、パートナーごとに特長が異なる他、技術的な強み、弱みがあります。また、SalesforceのサービスもCRMと一口にいっても、DMP、メールマーケティング、コールセンターなど多岐にわたります。こうしたサービス群を単に提供するのではなく、“顧客が求めるバリュー”として届けるためには、サービス群を最適な形で組み合わせる必要があります。このためにはパートナーも1社単独で取り組むより、それぞれの特長や強みを持ち寄りチームで提供する方が有効かつ効率的です。そこで弊社の方でパートナー各社の強み、弱みを補完する形でチームを組成し、顧客企業に紹介します」(井上氏)

 こうした支援プログラムを活用することで、すでにSalesforceビジネスが50%増でグロースした事例や、株式公開/上場まで視野に入ってきたSIerもあるという。「エンジニアの採用支援までしてくれるパートナープログラムは見たことがない」「ここまで技術者教育のレベルアップを支援してくれたパートナープログラムは初めて」といった声も多く寄せられているという。

「顧客接点」という軸を持ち、バリューを提案できるエンジニアへ

 一方、エンジニアにとっては、Salesforceビジネスに携わることが、自身のスキルやキャリアアップにつながる。例えば、「顧客ニーズに迅速に応える」「機能ではなくバリューを提供する」ためには、動く成果物を見せながら顧客と共に作り上げるアジャイル開発のアプローチがカギになる。その点、Salesforceはアジャイル開発と親和性が高い。

 「開発者からは『アジャイルをしっかり勉強していなくても、アジャイルアプローチがしやすい』という声をよくいただきます。これはSalesforceがSaaSであり、UI(ユーザーインタフェース)も用意されていることが大きいと思います。例えば、午前中に顧客企業を訪問して要件を伺い、その場で画面を直し、午後にはその評価を聞くといったことができる。特に小さなプロジェクトでは要件定義フェーズを持たないこともあります。画面を見ながら打ち合わせをして、その中でモデリングし、まず1次稼働させる。稼働後にサービスの反響を見て機能追加・改善する。こうしたフィードバックループを回して短期間での成果を積み上げることで、広義のアジャイルを実践できるのです」

 「これからの5年、10年を考えたときに『顧客接点』という軸を持てることは大きなメリットになるはずです。繰り返しになりますが、DXの本質はテクノロジーの力で顧客に近づき、知り抜くことにあります。今後、企業や社会で求められ続けるのは、言われたままに作るのではなく、顧客接点を自身の軸としてバリューを提案できるエンジニアだと思います。弊社は今後もDXアクセラレーションプログラムを通じて、SIerとエンジニアの変革を強力に支援していく考えです」

 第4次産業革命が進展する中、企業は顧客との関係を再定義し、ビジネスモデルを変革する必要に迫られている――井上氏の指摘は、有形無形に、多数の企業やSIer、エンジニアが実感として理解していることだろう。だが、その重要性を理解していたとしても、変革に取り組む上ではさまざまなハードルが存在する。その点、DXアクセラレーションプログラムに込められたセールスフォースの思いは、SIerのビジネスモデル、エンジニアとしてのスタンス、その先にいる顧客企業のビジネスモデルを変革し、ひいては社会全体の変革にもつながるものといえるだろう。

 単に商品や機能などを提供するのではなく、真に“今求められている価値”を知り抜き、適切に提案できる「求められるSI」「頼られるエンジニア」に向けて、DXアクセラレーションプログラムを足掛かりに“変革への第一歩”を踏み出してみてはいかがだろう。次回は、セールスフォースのコンサルティングパートナーであり、マルチクラウドやIoTを活用したプロジェクト支援をしているフレクト社のインタビューを紹介する。

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提供:株式会社セールスフォース・ドットコム
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2019年10月29日

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