大阪でコールセンター業務を担うロココは事業の成長に伴って不足するシステムリソースの対応に頭を悩ませていた。コールセンターという事業の特性上、メンテナンスのためにサービス停止はできない。同社が新しいシステム基盤にデルのHCIを選んだ理由とは。
ビジネスにおけるITインフラの重要性が高まる中、増加し続けるリソース要求に対応しつつ、システム構成の複雑化を回避できるソリューションとして注目を集めている「ハイパーコンバージドインフラ」(HCI)。HCIは、ストレージやサーバ、ネットワーク、仮想化管理ソフトウェアといった構成要素をひとまとめにし、事前検証済みの状態で提供される。導入や拡張の容易さ、構成のシンプルさといったメリットから、将来を見据えた効率的なITインフラの切り札になることを期待されている。
デルは、VMwareのストレージ仮想化製品である「VMware vSAN」(以下、vSAN)をベースとしたHCI「Dell EMC vSAN Ready Nodes」と関連サービスの提供を通じ、さまざまな業種、業界の企業に対して、ITインフラのTCO(総所有コスト)削減に向けたサポートを行っている。同社は2019年9月26日、大阪で「中堅企業向け Dell Technologies ソリューション事例セミナー」を開催した。同セミナーでは、Dell EMC vSAN Ready Nodesを採用した複数の企業が、導入前に感じていた課題や導入後の感想を語った。本稿ではロココのITインフラソリューション事業部に所属する石見茂氏の講演内容を紹介する。
1994年6月に設立され、2019年で創業25周年を迎えたロココは、大阪と東京の2拠点に本社を置くシステムインテグレーター(SIer)だ。事業の柱は4つある。コールセンターの運営受託を中心とした「BPO」事業、「ITアウトソーシング」「HRソリューション」の開発提供、そしてチケッティングなどの「エンタテインメント業界向けシステム」の開発運用だ。
石見氏の所属するITインフラソリューション事業部は、これらの事業を展開する上で必要なITインフラの構築と安定稼働のための運用管理を行う。さらに、社内インフラの構築運用ノウハウの外販も手掛けている。石見氏自身は、ITインフラを支える業務に20年以上携わってきたエキスパートでもある。
今回、同社がHCIによる刷新を行ったのは、BPO事業に属するコールセンターのシステム運用基盤だ。
石見氏は「コールセンター業務で最も重要なのは、顧客情報のセキュリティだ」と話す。同社は、コールセンター事業を展開するに当たって、主にこのセキュリティ強化を目的として、今から5年前にデルのシンクライアント「Dell Wyseシンクライアント」を導入していた。構成としては、仮想PCと仮想サーバのクラスタ用に「Dell PowerEdge R620」ラックサーバを各2台、iSCSI用スイッチとして「Dell Networking 560」2台による冗長化構成を組み、ストレージには「Dell EqualLogic P56100X」を採用した。シンクライアントである「Dell Wyse P25」は50台導入し、「VMware vSphere」によるVDI(仮想デスクトップインフラ)環境を構築していた。
「企業とコールセンター業務の受託契約を結ぶ際に、『ローカルに一切の顧客情報を保存しない』ことが必須条件となっていた。また、日によって各オペレーターの座席が変わることも考慮すると、Dell Wyseシンクライアントを利用したVDIの構築がベストだと判断した」(石見氏)
この「ローカルに情報を残さない」という条件は、コールセンターに電話をかけてくる一般消費者と、オペレーターとの通話内容に対しても適用される。ネットワークインフラに常時、通話の音声データを流しつつ、その内容を保存する環境を作るに当たっては、帯域のチューニングに最も手間が掛かったと、石見氏は当時を振り返る。通話内容が違和感なく聞き取れる音質と、データ転送スピードとの最も良いバランスを見つけ出すまでに、約1年の試行錯誤を繰り返したという。
また、構築当初から懸念されていた課題として「システムリプレースのタイミング」に関するものがあった。コールセンター業務は「24時間365日」の稼働が求められ、基本的にシステムを停止させない前提での運用が必須だ。リソースの拡張や障害対応、ソフトウェアのEOL(End of Life)対応などに伴う機器のリプレースを行うに当たっては、そのタイミングとプロセスについて、慎重な計画が必要になると感じていたという。
今回の基盤刷新を検討した最大の要因は、VDIの導入から5年が経過し、コールセンター事業の成長に伴って、ストレージを中心にシステムリソースが切迫していたことだったという。同時に、2020年の「Windows 7」延長サポートの終了を控え、デスクトップ環境の「Windows 10」移行も必要になっていた。
「VDIの刷新に当たっては、5年前に導入したDell Wyse P25が引き続き利用できるのかも大きな課題だった。導入当時の担当者によれば、基盤側が新しくなっても引き続き利用できるとのことだったが、万一、入れ替えが必要になると、当初の予定の約3倍もの予算が必要になることが予想された」(石見氏)
これらに加え、同社は「今後のさらなる事業拡大」も視野に入れた。リソースが再度切迫した場合でも、サービスを停止させることなくより合理的なコストでリソースを拡張できる環境を検討したという。
これらの課題を解決できる基盤として導入を決定したのがvSANベースで動作するデルのHCIソリューションだった。リソース不足の解消に当たっては、サーバ仮想化基盤とデスクトップ仮想化基盤の双方に「Dell Power Edge R640」を4台ずつ採用。CPUパワーとメモリ容量についても旧基盤の数倍に増やし、ストレージに関してはオールフラッシュ化を行った。
HCIの導入に当たって、経営陣の説得に最も威力を発揮したのが「サーバの追加だけでリソース全体を増強でき、その際、既存のサーバを停止する必要がない」点だったという。
「リソースの追加に当たって、新たに購入しなければならないのがサーバ本体とライセンスのみであるというHCIのメリットは魅力的だった。iSCSI用スイッチなどを購入する必要がなく、加えて、外部ストレージの増設方法などにも気を使わなくてよい点は、迅速なリソース追加と運用管理負荷の低減に寄与すると感じた」(石見氏)
同社のVDIには、以前より、VMwareのネットワーク仮想化製品「VMware NSX」が使われていた。それとvSANベースのHCIを組み合わせることによる相乗効果、例えば、サーバ追加で容易にスケールアウトできることを期待していたという。
また、最大の懸念だったDell Wyse P25の継続利用についても、端末側のファームウェアアップデートで無事実現できたという。
「Dell Wyse P25の継続利用ができなかった場合に備えて、端末総入れ替えを想定した予算立案も行うなど、将来的なビジネス拡大を視野に入れた運用管理の環境作りに投資を行った」(石見氏)
コールセンター事業の拡大は、端末を使うオペレーターの増加と、請負先ごとのシステム(VM:仮想マシン)が基盤に増加することを意味する。個々のVMは、請負先との契約に応じた個別のポリシー設定が必要になるため、契約先が増えるほど、運用管理にかかる管理者の負担も増していくことになる。もちろん、基盤全体の安定稼働は必須条件だ。
同社はまず、VDI全体の運用監視ツールとして「VMware Horizon Enterprise(vRealize Operations for Horizon/vSAN)」の導入を決めた。vRealize Operations for Horizon(以下、V4H)は、ネットワークを含む基盤のリソース全体の状況を可視化し、安定稼働に影響を与えるシステムの変化を常に監視できる。これによって、将来的にリソースとVMがさらに増えた場合でも、システム全体の管理を効率化できるというわけだ。
「例えば、システムのエンドユーザーであるオペレーターから『PCが遅い』という指摘があった場合、その原因の大半は『リソース不足』だった。しかし、今回の基盤刷新で、リソースの量は十分に確保され、ストレージもオールフラッシュ化によって大幅に高速化している。つまり今後、そうした指摘があった場合には本当の原因を見極めて対応する必要がある。だからこそ、仮想化基盤のリソース状況や、ネットワークの監視をこれまで以上にしっかりと実施し、その結果に基づいて問題解決を図っていく必要がある。V4Hは、問題解決につながる有用なツールだと考えている」(石見氏)
V4HとVMware NSXとの組み合わせで、セキュリティポリシー設定の簡素化と、一部のVMにだけ問題が発生した場合でも他のVMに影響を及ぼさない仕組みの構築を行っているという。
また、同社は今回の基盤刷新を機に「VMware PSO」と呼ばれる、コンサルティングや教育を含むサポートサービスの契約も行った。
「VDIの構成は、主に自分たちで設計や変更を行っていた。しかし、結果的にセキュリティリスクをシステムに内在させてしまったり、複雑な構成にさせてしまったりしてひずみにつながった。VMware PSOは決して安価なサービスではないが、自分たちが設計するより安定性が高く、セキュリティリスクが低い、正しい構成を行うための指標を得られるようになった。今後の拡張を視野に入れ、ベストプラクティスに基づいた基盤設計が可能になったことは、非常に価値があると感じている」(石見氏)
石見氏は、HCIによる新基盤の導入後、VDI環境全体の構成が大幅に単純化できたことも評価している。
「HCIを採用したことで、サーバとスイッチのみの構成になり、ストレージ分のラックスペースが不要になった。これにより、システムの物理的な障害ポイントも、以前より少なくなっている。ただ、vSANの利用に当たっては、vSAN専用のNICとネットワークを確保することが推奨されているため、貴重な空きNICがとられてしまうという副作用もある。これについては仕方がないので、必要な対応をしようと考えている」(石見氏)
同社は、5年前のシステム刷新に続き、今回のHCIによるリプレースについても、パートナーとしてデルを選択した。その理由として、石見氏は「5年前の刷新から、今までの実績を評価した。大きな障害も発生せず、われわれの要望に対しても、十二分な体制で応えてくれた。デルが作った環境への信頼感は大きかった」と話す。
「今回の刷新では結果的にかなりの予算を投じることになったが、HCIによって、将来の拡張を見据えた最適な基盤を構築できたと自負している。システムを刷新したことで、セキュリティ面や安定稼働に対する既存顧客の信頼感向上と、新規顧客の獲得にも良い影響を与えている」(石見氏)
ロココは、このHCIによるVDIベースのシステム基盤を、同社が持つ他のコールセンター拠点に展開する計画がある。また、コールセンターだけでなく、それ以外の業務環境にもVDIを段階的に導入することも視野に入れているという。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2020年1月10日