最小構成である2ノードでvSANを構成する「2ノードvSAN」は小規模企業からの関心が高い。約100人の従業員が利用するシステムを2ノードvSANで刷新した電業はその実力をどう評価しているのか。
ストレージ仮想化製品「VMware vSAN」(以下、vSAN)は、3ノード以上での運用が標準とされている。だが近年、より小規模な仮想化インフラを低コストで構成できる2ノードのvSAN(以下、2ノードvSAN)も実現可能となっている。2ノードvSANは、小規模企業からの関心も高いが、実際の導入事例はまだ少なく、具体的なケースに基づく情報を求めている担当者も少なくないだろう。
デルが開催した「中堅企業向け Dell Technologies ソリューション事例セミナー」では、電業による2ノードvSANの導入事例が紹介された。東大阪市に本社を置く電業は、1919年の創業以来、「鉄道用車線金具」(鉄道の架線を支持、吊架する金具)の製造、販売メーカーとして100年以上の歴史を持つ老舗。同社が製造販売を行う車線金具は、JR各社をはじめとして、国内の公営鉄道、民営鉄道、さらには海外の鉄道にも広く採用されている。
竹本伸明氏は、100人強の従業員が利用する電業社内のITシステムの構築運用を1人で手掛ける担当者だ。今回の「2ノードvSAN」導入に当たっては、自ら積極的な情報収集を行い、綿密に比較検討を行った上で採用を決定したという。
電業における、システム刷新前のサーバは、以下のような状態だった(図1と2、表1)。
これらに加えてバックアップサーバを通じて、曜日ごとに違う外付けHDD5台(計15GB)にバックアップデータの保存を行っていた。これは、一時猛威を振るったランサムウェア対策を意識した構成だ。
電業がシステム刷新を検討した背景は幾つかある。例えばバックアップ。システムの性能が不足しており、日々のバックアップ作業に5時間以上かかっていた。いざ復旧と思っても丸1日以上かかる。その他、サーバOSのアップデートできない不具合を抱えながら、予備機がなく検討もできない、特定のサーバに負荷が偏る問題なども起こっており、システム刷新を機にこれらの課題を一挙に解消したいという思いもあった。
そのため刷新後のシステムには以下が求められた。
柔軟に拡張できることから仮想化基盤の導入をまず視野に入れた。一方で仮想化による新たなコストがかかるため、上記に「全体コストをできる限り圧縮できる構成」という条件が加わった。
当初、クラウドサービスの採用も検討していたが、運用方法も含めたコストを試算し、オンプレミスでの刷新を決断したそうだ。
「クラウドの標準サービスでは足りない機能が多く、追加の機能契約が必要だった。だが、それではコストをあまり抑えられない。クラウドでハードウェアの運用管理をなくせるとしても、複合機やプリンタの管理、ユーザーサポートにクライアントPCの保守など管理作業は残る。初期導入コストと導入後5〜6年のランニングコストを総合的に比較した結果、オンプレミスに決めた」(竹本氏)
オンプレミスでシステムを構成するのであれば専用ハードウェア導入が必要になる。まず「SAN」(Storage Area Network)は早い段階で選定候補から排除した。設定料金を含めるとコストがかさむためだ。そこで仮想化基盤として有用なハイパーコンバージドインフラ(HCI)の導入を検討した。複数のベンダーからHCIに関する情報を集めたものの、3ノードの標準的な構成を取ろうとするとハードウェアが数千万円、ノード間の接続に必要なスイッチも設定費を含めて数十万円と、求めている規模に対して高価で、導入をためらわせるものだったという。
「より自社のニーズに合ったソリューションはないかと調査を続ける中で『2ノードvSAN』の情報を見つけた。2つのvSANノード間を10ギガビットイーサネット(GbE)で直結するため、高価な10ギガビットスイッチが不要になり、小規模インフラに向いたvSANということだったが、パフォーマンスデータなどの詳細な情報は見つからない。そこで物理サーバ6台による構成と2ノードvSANの概算コストを比較していった」(竹本氏)
コストを比較した結果は物理サーバ構成の方が数百万ほど安かった。しかし、当初からの構想にあった運用の効率化や将来的な拡張性なども合わせて考え、このコスト差は吸収できると判断した。
2ノードvSANでのインフラ構築を進める中で、導入検討時には想定していなかったことが分かったと竹本氏は振り返る。これは主に、2ノードvSAN独自の仕様に由来するものだ。
複数ノードのvSANにした場合、各ノードを構成するサーバに加えて「Witness」と呼ばれる監視サーバが必要になる。3ノード以上のvSANを構成した場合、このWintnessはvSANを構成するハイパーバイザー「VMware ESXi」(以下、ESXi)のホスト内に自動配置される。しかし2ノードvSANの場合は、専用の仮想アプライアンスとして単独で立てなければならない。つまり2ノードvSANには3つのサーバが必要となる。
また、ノード間は10GbEで直結されるものの、Witnessやサーバ管理ソフトウェア「VMware vCenter Server」を含むESXiサーバとの通信は必須で、かつ10ギガビットでの接続のみが「動作保証」されている。当初「高額なスイッチが不要」という理由で2ノードvSANに注目したが「結果的に、10ギガビットスイッチを導入せざるを得なかった」(竹本氏)という。
コスト面でいえば「2ノードvSANであっても、リソースにかかるコストは3ノードvSANの『3分の2』にはならない点に注意すべきだ」と竹本氏は念を押す。障害時の切り替え(フェイルオーバー)用に通常から1ノード当たり2ノード分の余剰リソースを確保しておく必要があるためだ。その他にも、仮想化に伴うUPS(無停電電源装置)の増強、パフォーマンスと可用性を考慮したキャッシュ用SSDの複数導入など、投資が必要になる要素は多いため、見積もりでは十分に考慮すべきという。
竹本氏は全体コストを下げるために、各機器の構成に関して気を配った。Witnessを動かすサーバは、バックアップサーバの機能も兼ねるようにし、ストレージにはコスト面で有利なNL-SASのディスク(廉価版のSAS接続HDD)を採用した。各ESXiサーバのCPUについては、できるかぎりコア数の多いものを検討し、16コアの「Dell EMC PowerEdge」ラックサーバを採用した。ちなみに、16コアCPUを採用した理由としては、17コア以上のCPUに対するWindowsのライセンスコスト増を避けるためだという。
結果的に、刷新後のインフラは以下のような構成となった(図3)。
電業は2019年7月から、2ノードvSANによる社内インフラの本稼働を開始。2019年10月現在までに大きなトラブルは起こっていないという。竹本氏が移行のメリットとして、最も大きいと感じるのはパフォーマンスだ。
「Windows Serverの起動が1分未満に短縮されたのは感動的だった。ディスクI/Oのパフォーマンスも物理サーバと遜色なく、SSDによるキャッシュの効果か、むしろ若干速くなったと感じている。2ノードvSANであっても、そのパフォーマンスは十分に発揮できていると感じている」(竹本氏)
旧環境で、1日当たり5時間以上がかかっていたというバックアップは、日次の差分バックアップ(約15GB)に約10分足らず、さらに週次でのフルバックアップも可能になった。
リソースについても、当初の想定よりメモリ消費量が少なくなっていると指摘する。これについては「VMのOSがWindowsに統一しているため、恐らくvSphereのリソース管理機能が有効に働いているのではないか」と竹本氏は推測する。
刷新前に目指していた「柔軟な拡張性」についても満足できるものになった。インフラ刷新後、電業はファイルサーバとして利用しているVMのボリューム拡張を実施した。以前とは違い「サービス無停止での拡張が可能で、極めて効率的だった」と竹本氏は満足げに語る。新たなシステムを追加する際も、テンプレートを利用することで5分以内に完了できることを確認しており、今後の機能拡張がスムーズに行えることを期待しているという。
同社は、今後もノード単位の負荷を平準化するための調整を続けていくという。さらに「Windows 10」の大型アップデートを企業側でコントロールできるよう「Windows Server Update Services」(WSUS)の導入なども視野に入れている。現在別環境で稼働している就業管理や給与管理といった業務系アプリケーションについても、新たに構築したインフラへと統合していきたい考えだ。
竹本氏は「インフラの刷新に当たっては、検討時に、まず自社で情報を収集し、移行プロセスやコスト感についての明確な構想を持っておくことが重要。今回、電業は2ノードvSANを選択したが、実際に構築を行う中で、幾つかの制約があることも分かった。もし予算が許すようであれば、標準的な3ノード以上のvSANを選択するのがベストだろう。ただし、2ノードvSANであっても、パフォーマンスは十分実用に耐えるもので、安定した運用が可能であることは申し添えておく」と述べ、講演を締めくくった。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2020年1月8日