企業ITのモダナイゼーションで忘れられがちな部分がある。ERPやVDI、仮想化基盤やHPCといったインフラだ。クラウドの活用が鍵となるが、落とし穴はないのだろうか。VDIモダナイゼーションを例に、クラウド移行、リフト&シフトの注意点をまとめた。
日本企業を取り巻く環境は、決して楽観できるような状況ではない。少子高齢化による市場の縮小でグローバル化は必須。従業員の生産性向上を助ける新技術の導入が求められる。一方で激しく移り変わる環境に追随するための柔軟性も獲得しなければならない。
こうした状況では、最新の技術をビジネスに採り入れ、柔軟性、迅速性、継続性を兼ね備えたITインフラを手に入れる“インフラモダナイゼーション”が急務である。
既に多くの企業が、ITシステムのクラウド化に乗り出していることだろう。ファイルサーバはクラウドストレージへ、メールのようなコミュニケーションツールはSaaS(Software as a Service)を活用する例が増え、汎用(はんよう)的なワークロードを動かすためのIaaS(Infrastructure as a Service)も一定の市民権を得てきている。また新技術の活用という点で、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、データレイク、ブロックチェーンなどに注目している経営者も少なくない。
では、“今”こそモダナイゼーションが必要とされているものに気付いているだろうか。ERP(Enterprise Resource Planning)やVDI(仮想デスクトップインフラ)、仮想化基盤、HPC(High Performance Computing)など、ビジネスの中核を担っているにもかかわらずレガシーに取り残されているシステムもまた変革が必要なのではないだろうか。
しかし、これらのシステムはビジネスの中核にあるからこそ移行が難しい。そこで本稿では、どのようなポイントに注意すべきか、どのような解決策が望ましいのかを解説しよう。
2008年、「Windows Server 2008」の登場を境に、多くの企業がファイルサーバやメール/Webサーバ、アプリケーションサーバを構築した。今やその多くを、クラウドへ移行している。システムの柔軟性や迅速性、継続性を求める企業にとって、クラウドは非常に有効な選択肢だ。
一方、組織の5年後、10年後を見据えた経営者が、AIやIoT、データレイク、ブロックチェーンなどの最新ITに注目するのも当然である。将来のビジネスを支えるのは、こうした技術であることは間違いないからだ。しかし、現時点であまり前のめりになり過ぎるのも疑問である。“PoC(概念実証)疲れ”などとやゆされ、テストで終わってしまっている例も少なくない。現在のビジネスのためにITを改革したいのであれば、まず足元を見るべきだ。
「2012年ごろからIT活用が加速して、ERPや仮想化基盤、VDI、HPCなどを企業がこぞって導入しました。これらの多くは、いまだにレガシーなまま稼働しており、老朽化が進んでいます。来年、再来年のビジネスを考えるのであれば、こうしたオンプレミスシステムの現状に最適な形での更新も視野に入れるべきではないでしょうか」と、日本マイクロソフト マーケティング&オペレーションズ部門 Azureビジネス本部 製品マーケティング&テクノロジ部 プロダクトマネージャーの佐藤壮一氏は指摘する。
こうしたインフラのモダナイゼーションでは、クラウドの活用が鍵になる。オンプレミスシステムの管理運用に費やす手間やコストといった問題を解消し、拡張性や柔軟性を獲得できるからだ。まず、クラウドを活用した「VDIモダナイゼーション」について考えてみよう。
既に経験している読者も多いことだろう。オンプレミス型のVDIは、膨大なキャパシティーを確保するため初期投資もランニングコストも肥大化しやすく、運用管理の負荷が非常に高いことで知られる。経年によってパフォーマンスが低下しやすく、増強計画も難しい。ハードウェアとして導入するため柔軟性に乏しく、更新の負荷も大きい。
このようなVDI環境のクラウド移行が実現すれば、ハードウェアのキャパシティーを初期導入段階で余剰に確保する必要はなくなり、インフラの運用管理をクラウドベンダーにかなりの部分まで任せることができる。利用時にその時点での最新のインスタンスを選択すれば、最適なパフォーマンスを常に提供でき、組織の変化に合わせて柔軟にスケールすることも可能だ。
VDIのクラウド移行では、最も重要な要素の一つであるストレージについて、注意が必要という。これまでのクラウドネイティブなストレージサービスは、オブジェクトストレージに代表されるようなモダンアプリケーションからのアクセスに最適化されているものも多く、VDIのような従来のソリューションからのアクセスに関しては必ずしも親和性が高いとは言えない。VDI環境で利用する際にI/O性能面を考慮すると利用用途に最適化されたストレージソリューションが必要になる。
VDI以外の例としてオンプレミスの仮想基盤をどうモダナイズするかという観点もある。マイクロソフトの「Azure VMware Solutions(AVS)」は、VMwareプライベートクラウド環境を「Microsoft Azure」のサービスとして提供するものだ。IaaS環境への移行は運用の変化が大きく、すぐには実現できないという場合や、レガシーなシステムがIaaS上で正常動作しないといった場合に、AVSはユーザーにとっての有力な選択肢となる。AVSを利用することで、L2延伸(レイヤー2、データリンク層)を含めて既存のオンプレミス環境からほとんど変更することなく、Azure上へ移行したり、拡張したりできる。AVSはMicrosoftのファーストパーティーソリューションであり、数多くのAzureネイティブサービスと統合、連携されており、移行したVMware仮想マシンについてクラウドネイティブな周辺サービスと全体最適を図ることも可能である。
「Azure VMware Solutionsは、『VMware vSphere』や『VMware vSAN』をベースにしており、いわゆるハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)環境となります。HCI環境であっても、時折生じるストレージのみを増強したいという要望に対してはAzureのネイティブサービスとの統合の一つとして、ネットアップから技術提供を受けている『Azure NetApp Files』を利用してNFS(Network File System)プロトコルによるデータストアが追加できるようになる予定です。AVSの利用においてもクラウドネイティブなストレージソリューションではなく、従来同様のプロトコルによって接続可能なストレージソリューションが必要とされる場合があるのです」(佐藤氏)
クラウドへのリフト&シフトを推進するに当たって、ストレージは大きな課題の一つであった。多くの企業は、高性能、高機能なストレージを前提としてシステムを開発、導入してきたからだ。アプリケーションのリフト&シフトはともかく、ストレージ環境の移行は難しい。仮想マシンをストレージ化して対応することは可能だが、デザインも運用も負荷が高い。
さらにNFSやSMB(Server Message Block)、CIFS(Common Internet File System)といったファイルシステムを利用するものが多く、これらに対応し、同時にフルマネージドでもあるアプリケーション用のデータストレージサービスが求められていた。
「エンタープライズのワークロードの半数近くは、ファイルベースのアプリケーションだといわれています。Azure NetApp Filesは、設計を根本から見直すことなく、パフォーマンスや信頼性、機能性を犠牲にすることなく、それらのワークロードをクラウド化できるAzureネイティブなフルマネージドストレージサービスです。Azure VMware Solutionsはもちろん、ERPやデータベース、HPC、Linuxアプリケーションなどのクラウド移行に最適です」と、ネットアップ Azureビジネスグループ Azureスペシャリストの工藤政彦氏は述べる。
AzureでVDIを利用する場合、ユーザープロファイルを格納するストレージが特に重要だ。例えば、1万人の従業員が月曜日の朝、一斉にWindowsへログオンすることを想像してほしい。そして定時には、一斉にシャットダウンする。いわゆるサインインやサインアウトの“I/Oストーム”が発生し、VDI環境のI/Oパフォーマンスが急激に悪化し、ユーザーエクスペリエンスを悪くする。これを解消するには、高いIOPS(Input/Output Per Second)と低遅延を実現する必要がある。
Azure NetApp Filesは、フルマネージド対応のストレージサービスであることに加えて、Azureデータセンター内においてネットアップのハイエンドモデルのベアメタルストレージアプライアンスが実装されているために、オンプレミスシステムに近いI/O性能を発揮する。加えてストレージ資源を消費せずにデータボリュームのスナップショットを瞬時に作成できるなど、ネットアップのデータストレージ管理技術をそのまま享受できるというメリットも大きい。
「Azureにはさまざまなストレージサービスが用意されており、GiB単価が安価なものを選びたくなるのも当然です。しかし、I/Oストームの問題が発生してやむなく仮想マシンに管理ディスク(ストレージ)を大量に追加し、結果的に高額になってしまうという例もあります。そもそもオンプレミス型のVDIやERPを構築したときには、要件に合わせて適切かつ高性能なストレージ製品を選んできたはずです。柔軟性のあるAzureであるにせよ、後でアーキテクチャやデザインを変更するにはコストもかかるため、初めからVDIやERPなどが求める性能を発揮できるAzure NetApp Filesを選ぶことを勧めます」(工藤氏)
Azure NetApp Filesは既に国内企業でも採用が進んでいる。例えば、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は社員およびグループ会社を含めた1万人規模の従業員のVDIに、Windows Virtual Desktop(WVD)を導入。このWVDのプロファイル領域に、Azure NetApp Filesを採用したのだ。
CTCは、約1万ユーザーのうち、まずは5000ユーザー分のVDIをWVDに移行し、2020年1月20日から利用を開始した。当初はまだ日本でAzure NetApp Filesのサービスが始まっていなかったため、プロファイル領域に仮想マシンで構成するSOFS(Scale-Out File Server)を採用する方向で検証し、5000ユーザーに展開したが、性能や運用に課題があった。
サービスが日本で開始となった後に、Azure NetApp Filesを検証したところ、性能面、価格面でSOFSよりもメリットが大きいと判明。その他、Azure NetApp Filesが「Azureのマネージドサービスであるため、運用の手間が小さい」「Azureの他のストレージサービスと比較して、性能比コストが低く、低遅延を実現している」ことが確認できたため、採用に至ったという。
クラウドを活用したインフラモダナイゼーションは、運用管理の手法を改善し、管理者の意識や役割を改革するチャンスでもある。佐藤氏は「運用のマインドを変えなければ、インフラモダナイゼーションの価値が出ない」と強調する。
例えば、Azure NetApp Filesのパフォーマンスは、「サービスレベル(スループット)」と「ボリュームクオータ(サイズ)」との積で求められる。特にサイズをリアルタイムに近いペースで変更できるため、パフォーマンスも相応に変えられるという。例えば、Windowsログオン時に起こるサインインストーム問題を解消するため、始業時間のみサイズを上げて、平時は通常に戻すという手法が考えられる。こうすればコストを抑えつつ、必要なパフォーマンスを得られる。
「2020年中には、Azure NetApp Filesはボリューム単位でサービスレベル(ウルトラ、プレミアム、スタンダード)も自在に変更できるように計画しています。イベントなどに合わせて、より柔軟にストレージパフォーマンスとコストを最適化できるようになります」(工藤氏)
製造業では当たり前となっている、必要なモノを必要なときに必要なだけ供給するというジャストインタイムの考え方が、ITの運用管理者にも求められるというわけだ。“システムを2〜3年ごとに見直す”旧来の運用は向かない。リアルタイムのシビアな運用管理を行うことで、はじめてコストを最適化できる。インフラモダナイゼーションは、運用もモダナイズされなければ完成とはいえない。
「クラウド活用とは、AIやIoTのようなキラキラとしたものだけではありません。インフラからしっかりとリフト&シフトして、運用を含めたモダナイゼーションを実現したいものです。さまざまなシステムをクラウド中心で考えるとき、ストレージは非常に重要な位置を占めます。Azure NetApp Filesは、従来存在する企業システムのクラウド化、モダン化を支える重要なフルマネージドストレージサービスなのです」(佐藤氏)
アプリも再構築なく移行可能、フルマネージドなPaaS型高性能ストレージの実力
低遅延を求める業務アプリケーションの多くは、オンプレミスのストレージで運用されてきた。この常識を覆したのが、クラウドベンダーのデータセンター内に設置した高性能ストレージをPaaSライクに利用できるフルマネージドサービスだ。
クラウド活用の悩みを解決、Azureネイティブなマネージドストレージの実力とは
Azureネイティブなマネージドストレージとして注目される「Azure NetApp Files」。その導入により得られる価値とはどのようなものか。“こだわり派SE”のユウキと、“悩み多き営業”のユミによるカジュアルなトークを交えつつ解説する。
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提供:日本マイクロソフト株式会社、ネットアップ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2020年4月27日
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