大成建設に聞く、ローコード開発を全社メリットにつなげる方法内製化で成果を出すためのツール要件とは

開発の生産性とスピードの向上に効くとして、企業の注目を集めている「ローコード開発」。では現場だけでなく、全社のビジネスに寄与できるツールの選定・適用基準とは何か。大成建設に話を聞いた。

» 2020年08月12日 10時00分 公開
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「一品生産」の弱点をローコード開発で補う

 経営環境変化が激しい近年、顧客ニーズに応えるスピードがビジネス最大の差別化要素となって久しい。これに伴い、システム開発にも一層のスピードと柔軟性が求められ、SIerに外注するスタイルだけでは、納期、要件ともにニーズを満たせないケースが増えている。

 これを受けて、注目を集めているのが「内製化」だ。だが、人的リソースが限定的なことが課題となり、実現できずにいる企業が多い。加えて、多くの企業でリモート/シフト勤務が前提となるなど、今回のパンデミック(世界的大流行)もその実現に影を落としている。こうした中、内製化に向けたヒントをもたらしてくれるのが大成建設だ。

 1873年創業の同社は「人がいきいきとする環境を創造する」を理念に、青函トンネルや横浜ベイブリッジをはじめ、日本を代表する数々のランドマークを手掛けてきた。国内に15カ所の支店、45カ所の営業所を持ち、台湾、シンガポール、インドなどの海外拠点を通してグローバルにビジネスを展開している。

 同社全体の事業を支えるITシステムは、情報企画部コンサルティング室が企画し、情報子会社の大成情報システムが開発・運用を担当。プロジェクト規模に応じて外部パートナーと連携し、基幹系から情報系まで、バックオフィス全般の企画、開発、運用を担っている。コンサルティング室長の井上良悟氏はこう話す。

ALT 大成建設 社長室 情報企画部 コンサルティング室長
井上良悟氏

 「建築・土木の世界では、案件ごとに内容、要件が大きく異なります。これを受けて、弊社にはITシステムも『一品生産』という文化があります。業務要件が特殊でパッケージの適用が難しいため、基幹系から情報系まで、業務現場からの声を基に、スクラッチで組み上げることをシステム開発の基本としているのです」(井上氏)

 ただ特殊な要件が前提でありながら、同社でも「スピード」が年々強く求められるようになってきた。これをどう両立させるかが課題になっていたという。

 「近年は事業スピードが速くなり、ITシステムへの要求も多様化、高度化しています。従来のようなJavaを使ったウォーターフォール型のシステム開発だけでは、要件、納期ともにニーズを満たせないケースが増えてきました。そこで2016年に、開発効率を高め、ニーズに素早く対応することを目的にローコード開発を採用したのです。現在は各種アプリケーションをアジャイル開発で内製しています」(井上氏)

“エンジニアにとって”最も使いやすいツールは何か

 一般にローコード開発ツールは、Webインタフェースなどを使って業務要件のみを記述することでコードを自動生成する。このため、開発者の生産性向上とリリースの高速化が期待できる。大成建設がローコード開発に注目したのは、そうした生産性、スピードとともに、開発現場の課題を解消する狙いもあった。コンサルティング室 次長の森永章氏はこう話す。

ALT 大成建設 社長室 情報企画部 コンサルティング室 次長
森永章氏

 「限られたリソースでニーズに応えようとする中、エンジニアの業務が逼迫(ひっぱく)するようになったのです。特定のスキルを持つエンジニアに業務が集中することもありました。また、外部パートナー企業との連携も増え、スキルやノウハウを外部に依存することで、技術の空洞化も起こりつつありました」(森永氏)

 一方、要件の高度化に伴い、新しい技術にも柔軟に対応していきたいという考えもあった。大成情報システム 第一開発保守部 チームリーダー松田豊道氏はこう話す。

 「業務現場の効率化のために、スマートフォンやタブレットへの対応が求められていました。しかし、各デバイスに合わせて画面を設計すると工数が増えるため、レスポンシブWebデザインやワンソースでマルチデバイス/マルチプラットフォームに対応できる開発ツールが必要でした」(松田氏)

 開発のスピードと生産性向上をはじめ、属人性の解消、マルチデバイス対応、ソースコードの再利用なども実現できる手段は何か――。この条件に適合したのがジェネクサス・ジャパンのローコード開発ツール「GeneXus」だった。井上氏はGeneXusを評価したポイントを次のように説明する。

ALT 「GeneXus」の特徴(出典:ジェネクサス・ジャパン)《クリックで画像を拡大》

 「GeneXusは、データオリエンテッドアプローチ(DOA)の思想を持ったツールで、特定の作法で業務要件を記述するだけでアプリケーションのコードを自動生成できます。どんなコードが生成されたのか分からないといったこともなく、共通化できるものを部品化して再利用することもでき、アプリケーションのリリースも容易です。周辺で使うミドルウェアのバージョンもツールが吸収してくれるため、運用負担を減らすこともできます。何よりGeneXus言語は分かりやすく“開発経験によらずにエンジニアにとって使いやすいこと”が一番の魅力でした」(井上氏)

 つまり、エンジニアのスキルにばらつきがあったり、設計やプログラムの組み立て方が一部属人化していたりする開発組織でも、GeneXusを通じて標準化できるため、組織とエンジニアの生産性が向上するわけだ。

ALT 大成建設が「GeneXus」を導入した理由(出典:大成建設)《クリックで画像を拡大》

開発者目線で現場業務を劇的に効率化――「顧客対応エンジン」

ALT 大成情報システム 第一開発保守部 チームリーダー
松田豊道氏

 大成建設ではかつてのエンドユーザーコンピューティングの流れの中で、現場にさまざまなデータを提供し、ユーザー部門にてアプリケーションを開発してもらう取り組みを進めたこともあったという。だが現場は本来業務に忙しく、要員確保が難しく継続した取り組みには至らなかった。そのため情報企画部が主体となって「ユーザーが使いやすいツールを“部門目線”で考え、提供していくことが適切」(井上氏)との考えに至ったのだという。

 そうした考えに基づき、GeneXusで開発したのが、CS作業所で利用する情報共有アプリケーション「顧客対応エンジン」だ。CS作業所とは、建設した物件専門のメンテナンス担当拠点のこと。メンテナンスのためには顧客や物件の情報を関係者で共有することが不可欠だが、従来はそこに課題があった。

 「従来は全社的な情報共有の手段として8000台近くの『iPad』を導入し、『Microsoft Office 365』(現Microsoft 365)で情報をやりとりしていました。ただ、作業所は物件ごとに独立しているため、情報管理の仕方もばらばらになりがちでした。単に情報共有できるだけではなく、どの作業所でも同じ方法で情報を管理し、顧客サービスに迅速・柔軟に生かせる仕組みが必要だったのです」(森永氏)

 そこで顧客対応エンジンでは、iPad上で「物件の情報」「問い合わせ情報」「進捗(しんちょく)状況」などを整理した状態で一元的に把握できるようにした。

ALT 顧客対応エンジンのUI(対応状況一覧画面)(出典:大成建設)《クリックで画像を拡大》

 さらに、現場の作業担当者が物件に問題箇所を見つけたら、iPadで写真を撮影し、「Microsoft Teams」で写真と情報を共有して、対応策を素早く議論できるようにした。従来は現場から作業所に戻り、PCで写真やコメントを投稿していたが、iPadで現場から即座に対応できるため、業務は大幅に効率化された。

ALT 顧客対応エンジンのUI(顧客対応履歴記入画面)(出典:大成建設)《クリックで画像を拡大》

 また顧客対応エンジンは、新築工事や過去の工事図面を共有する「作業所Net」との連携機能も搭載。現場に居ながら、iPadで今の工事状況をリアルタイムに把握できる上、必要に応じて過去の図面も確認できるため、現場業務のスピード、効率が劇的に向上したという。

 顧客対応エンジンの効果について、森永氏は「以前は『iPadはあるがどう使えばいいのか分からない』というユーザーの声が少なからずありました。顧客対応エンジンは1時間使い方を説明しただけですぐに使ってもらえました。現場におけるシステム活用の道筋を示せたことは大きいと思います」と、“本当に使えるツール”を作ることの重要性を強調する。

アジャイル開発により3カ月でリリース、データドリブンな文化醸成にも寄与

 顧客対応エンジンの中身は至ってシンプルだ。基本的な構成要素は、iPadからの入力用画面と、バックエンドで動作するTeamsや社内建物カルテシステムなどとのAPI連携となっている。アジャイルスクラム開発を採用し、スクラムオーナーは森永氏が務めた。スクラムマスターとなった松田氏はこう話す。

 「開発期間は3カ月です。2週間で1スプリントとし、これを4スプリント行いリリースしました。アジャイルを本格的に取り入れたのは初めてでしたが、“動くプロトタイプ”をユーザーに見せながら、スムーズに形にすることができました」(松田氏)

 組織や文化、エンジニアのモチベーションにもさまざまな波及効果が得られたという。

 「建築・土木の世界でも、システム設計には深い業務知識が不可欠です。外部パートナーに開発を任せきりにすると、業務知識を設計に落とし込むノウハウが空洞化しがちです。システム開発というものづくりに対する認識を新たにできたことも、大きな成果だと思います」(松田氏)

 森永氏は、「スクラッチ開発だけではなく、ローコード開発という選択肢が増えたことは大きなメリットです」と評価する。

 「コストや手間との兼ね合いで、システム化できない業務も多くあります。それらをローコード開発で検討する素地ができました。システム化することで、ユーザー側もデータをきちんと管理・活用しようというデータドリブンな文化に変わってきました。GeneXusを使ったアジャイル開発は、事業部門とコミュニケーションをとる手段として有効に機能していると考えます」(森永氏)

 井上氏も、「ニーズの中身によってはウォーターフォールとアジャイルの中間のような進め方もあります。必要な開発スタイルに柔軟に適用できることもGeneXusのメリットです。顧客や社内のユーザーニーズは変化し続けます。これからもツールやプラクティスを適材適所で取り入れ、主体的に事業を支えていきたいと考えます」と話す。

 一般に、ローコード開発というと生産性向上、コスト削減などに注目しがちだが、ツールの特性と適用方法によっては事業部門、ひいては会社全体にまでメリットをもたらすことが理解できるのではないだろうか。同社においてGeneXusが活躍する場は、今後ますます広がりそうだ。

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提供:ジェネクサス・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2020年9月11日

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