クラウドの運用モデルをオンプレミスへ、どちらも上手に使う方法とは?クラウドだけに絞る必要はない

「パブリッククラウドだけが正解」という偏った考え方は影を潜め、ハイブリッドクラウドを基本に据える企業が増えてきた。次に実行すべきなのは「クラウドとは場所の問題」という考え方を捨て、ハイブリッドクラウドを戦略的に活用することだ。これを具体的に支援してくれる取り組みとは。

» 2020年10月30日 10時00分 公開
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 2000年代にクラウドコンピューティングが登場したとき、ほぼ全てのクラウドベンダーが主張したのは、あらゆる企業活動はクラウドで実行されるべきだというものだった。クラウドファーストが叫ばれ、オンプレミスで稼働しているシステムをいかにクラウドに移行するのかが議論になった。

 現在ではこうしたベンダーの多くが、オンプレミスでも自社のクラウド環境を利用できるサービスを投入している。ハイブリッドクラウド戦略は企業のスタンダードな戦略として広く受け入れられている。

 一方、当時から一貫してハイブリッドクラウドを推進してきたのがMicrosoftだ。同社は2020年9月22〜25日に開催した年次カンファレンス「Microsoft Ignite 2020」で関連製品群をもう一段階進化させた。オンプレミス向けクラウド「Azure Stack」の大幅アップデートを発表した他、「Microsoft Azure」の一部として提供するハイパーコンバージドインフラ(HCI)環境「Azure Stack HCI」や管理ツール「Windows Admin Center」「Azure Arc」の機能強化を軸に、新しいハイブリッドクラウド戦略の姿を披露したのだ。

 この新しいハイブリッドクラウド環境によって、企業はどのようなメリットを得られるのか。日本マイクロソフト パートナー技術統括本部 シニアクラウドソリューションアーキテクト(Hybrid)の高添修氏とデル・テクノロジーズ データセンターコンピュート&ソリューションズ事業統括 製品本部 シニアプロダクトマネージャーの岡野家和氏、同インフラストラクチャ・ソリューションズ事業統括ソリューション本部 ビジネス開発マネージャの津村賢哉氏に、アイティメディアの三木泉が話を聞いた。

クラウドは適材適所でうまく活用することが必然になった

――クラウドについてパブリックかオンプレミスかという議論は落ち着き、ハイブリッドクラウドとして利用する形が一般的になりました。まず、現在の状況をどのように見ていますか。

日本マイクロソフト パートナー技術統括本部 シニアクラウドソリューションアーキテクト(Hybrid) 高添修氏

高添氏 Microsoftは元々ハイブリッドクラウド志向でした。その背景には「お客さまやシステムの都合に応じて適材適所でシステムやデータを運用すべきだ」という基本スタンスがありました。パブリッククラウドの機能は日々進化していますが、オンプレミスで動かした方がメリットを得やすいケースも確実にあります。何をオンプレミスに置くべきか、何をパブリックに移行すべきか、あらためて議論するタイミングが来ていると見ています。

津村氏 クラウドは少し前まで「場所」を意味していたと思います。しかしHCIのような製品が登場したことで、パブリッククラウドでもオンプレミスでもあまり変わらずにサービスを利用できるようになりました。運用者の目線で見ても、場所による違いはほとんどありません。では違いは何かというと、機器の調達方法やサービスの操作方法といった「利用の仕方」にあります。今後、利用の仕方がどう変わっていくのか、日本企業の多くの運用担当者も高い関心を持っています。

Azure Stack HCIとWindows Admin Centerが重要なカギに

――ハイブリッドクラウドの利用が一巡し、新しい動きも出てきています。Microsoftはこれから何をしようとしているのですか。

高添氏 一つはクラウドへの取り組みを十分に進めていないお客さまに対する提案です。新しいAzure Stack HCIがまさに当てはまります。ハイブリッドクラウドが当たり前になる中で、オンプレミスでの仮想化にとどまっているお客さまに対してクラウド連携の価値を提案します。

 もう一つはハイブリッド/マルチクラウド利用企業の運用の最適化です。パブリッククラウドはIoT、人工知能(AI)など業務に適したサービスをすぐに使うことができますが、これは個別最適の集合体のようなものです。個別最適なので適材適所を考えて利用しようとすると、複数のクラウドやエッジにまたがってしまう。それに対し、管理サービスのAzure Arcを上からかぶせることで統合管理を実現します。

――Microsoft Ignite 2020ではAzure Stack製品群のラインアップ刷新に関する発表がありました。一方、管理ツールはWindows Admin Center、Azureポータル、さらにAzure Arcがあります。選択肢が多様で、進化も速いため、ユーザーにとっては分かりにくいことがあるかもしれません。

高添氏 パブリッククラウドが多様な選択肢を用意しているのと同様、オンプレミスにも複数の選択肢が必要です。そこでAzure Stackは「Azure Stack Edge」(Edge)、「Azure Stack Hub」(Hub)、Azure Stack HCIの「3兄弟」で構成されます。Edgeは個別の業務に最適な形で提供するクラウドサービスであり、ハードウェアをMicrosoftが提供します。

 HubはAzure基盤のサブセットをアプライアンス化したものなので、基本的にはパブリッククラウド(Azure)の代わりに使うものです。「Kubernetes」を稼働させたり、IoTサービスのハブとして利用したりできます。EdgeとHubは場所がオンプレミスでも利用方法はクラウドそのものです。

 Azure Stack HCIはさまざまな用途に利用できる汎用(はんよう)的な基盤であることが大きな特徴です。今回、Azure Stack HCIのライセンス形態などが刷新されて、よりクラウド連携を推奨することになります。ただ、管理ツールはWindows Admin Centerを標準として、オンプレミスとパブリッククラウドで同じユーザーインタフェース(UI)、操作体系で管理できるようになります。

──オンプレミスでさまざまなワークロードを管理したいユーザーにとって、まずはAzure Stack HCIとWindows Admin Centerの組み合わせが選択肢になるということですか。

高添氏 そうですね。Azure Stack HCIという仮想化基盤の導入をきっかけにすることで、パブリッククラウドで提供されるさまざまなサービスを利用しやすくなります。既存の仮想化基盤を発展させ、ハイブリッドクラウドとして活用していくための重要なステップになります。

新しいAzure Stack HCIがユーザーにもたらす価値とは

――Azure Stack HCIは以前と比べてどのように進化し、便利になったのでしょうか。

高添氏 まず、ライセンスモデルの変更です。これまではWindows Serverのライセンスモデルが適用されていましたが、契約している間だけ支払うクラウドのライセンスモデルに置き換えます。Azureポータルによるセルフサービス機能も開発中です。

 もう一つのポイントは、運用管理ツールのクラウド対応です。従来オンプレミスでは運用管理製品の可用性検討など、ユーザーにとって余計な負担が少なくありませんでした。そこでWindows Admin Centerという共通のUIを通してAzureともつなぎ、オンプレミスの管理をシンプルかつ高機能化します。

――ライセンスモデルは具体的にどう変わるのですか。

高添氏 パブリッククラウドのような完全な従量課金は既存ユーザーにとって使いにくいことがあります。片や、オンプレミス仮想化基盤のコスト負担は今も少なくありません。そこで現実解として、物理コア1個当たり月額10ドルをAzure課金に含めることで最新の仮想化基盤ソフトウェアを使えるというモデルを採用しました。

デル・テクノロジーズ インフラストラクチャ・ソリューションズ事業統括ソリューション本部 ビジネス開発マネージャ 津村賢哉氏

津村氏 クラウドに慣れた方、仮想基盤からクラウドに移行しようという方、両方にとって分かりやすい料金体系だと感じています。料金体系の選択肢が増えることや、より分かりやすい料金体験に変わっていくことがユーザーにとって大きなメリットになります。

――一方、Windows Admin Centerはユーザーにどのような価値をもたらすのでしょうか。

津村氏 運用者の視点では管理の一元化はとてもメリットが大きい。これまでAzure Stack HCIを利用していたユーザーは、オンプレミスのSystem Center、Windows Admin Center、クラウドのAzureポータルなどを使い分ける必要がありました。

 それが今回のアップデートで、Windows Admin Center一つで両方の環境を同じUIで管理できるようになります。さらにWindows Admin Centerは、サービスの管理だけでなく、ハードウェア情報の管理も可能です。例えばPowerEdgeサーバを一元的に管理できます。

オンプレミスのハードウェアからクラウド上のリソースまでを一元管理

――ハードウェアはどのように管理するのですか。

デル・テクノロジーズ データセンターコンピュート&ソリューションズ事業統括 製品本部 シニアプロダクトマネージャー 岡野家和氏

岡野氏 Windows Admin Centerに「Dell EMC OpenManage Integration with Microsoft Windows Admin Center(OMIMSWAC)」というプラグインを適用すると、デル・テクノロジーズの統合管理ツール「OpenManage Enterprise」を使うことなく、Windows Admin Centerから直接、同等の情報の取得や管理ができます。

津村氏 ハードウェアのインベントリ情報や正常性などのステータス情報、ファームウェアの状態などを見ることができます。ファームウェアのアップデートも、Windows Admin Centerの項目をクリックするだけでできます。ハードウェア上で稼働しているOSや仮想マシンの情報についても、直接確認できます。

 つまり、同じ管理画面上でファームウェアのアップデートから、仮想マシンのアップデートまでを一貫して実施できるようになります。運用管理者の目線ではこれは非常に大きなメリットです。加えてPowerEdgeサーバの持つ堅牢(けんろう)性や信頼性の高さ、セキュリティ対応などは、ユーザーに大きなメリットを提供します。

岡野氏 管理モジュールの「iDRAC」で取得できる情報をWindows Admin Centerの情報に組み合わせることになるので、ある仮想マシンがクラウド環境に適したものなのか、オンプレミスで動かすことでこそ効果を発揮できるのか把握できます。Windows Admin Centerで、Azure上のリソースの状態を調べることもできます。一貫したUIを使うことで、ハイブリッドクラウド環境での適材適所の活用がしやすくなります。

――既存の資産を活用し、ハイブリッドクラウドに展開するためのきっかけを与えてくれるということですね。

高添氏 実際、Windows Admin CenterはAzureにも対応した管理ツールとして機能を拡張し続けています。今後はAzureポータルの管理メニューの一部としても利用できるようになる予定です。オンプレミスでWindows Serverを管理している担当者にとって、Windows Admin Centerの方が使いやすいと感じるはずです。Azure独自の仕組みでリモートデスクトップをつなぐのではなく、Windows Admin Centerの画面からAzureのリモートデスクトップを起動したり、「PowerShell」を起動したりするようになるでしょう。

津村氏 この点は面白いですよね。Windows Admin Centerがクッションになることで、運用担当者がクラウドへ入りやすくなる。Windows Admin Centerに慣れておけば、パブリッククラウドをすぐに使えるようになります。スキル習得や人手不足の課題にも対応できそうです。

 クラウドのいいところをオンプレミスに落とすというだけでなく、オンプレミスのいいところをクラウドに持っていく。それができることもMicrosoftの強みの一つと言えそうです。クラウドの場合、頻繁にアップデートされて、管理画面が変わってしまうことがあります。Microsoftの場合、オンプレミス側ではUIを固定的に運用するといったことができます。

高添氏 Azure Stack HCIの性能は、ハードウェアに依存するところがとても大きい。そこでデル・テクノロジーズと密接に協力させていただいています。今後も2社の連携を基に、ユーザーに幅広い選択肢を提供していきたいと考えています。

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提供:デル・テクノロジーズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2020年11月29日

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