社会、ビジネスのデジタル化が加速する中、多くの企業がDXの実現に取り組んでいる。だが、成果を獲得している企業は限定的だ。DXとは何をすることで、そのためには何が必要なのか。本稿では「DXでなすべきこと」を明確化する。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されて久しい。2018年に経済産業省が公表した『DXレポート』などを通じて、近年は取り組みを進める企業が着実に増え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)がその流れを加速している。テレワークをはじめ、社内外のあらゆるビジネスコミュニケーションがデジタル前提となり、デジタル技術が業務やビジネスを直接支えていることを人々が再認識したためだ。
ただ、DXの取り組みをどう進めればよいかについては、依然として戸惑っている企業が多い。特に目立つのは「新しいビジネス価値を生み出そう」と考えたものの、具体的な取り組みを計画できずに全く進展しないか、PoC(概念検証)で終わってしまうパターンだ。
「DXというと、Amazon.comやUberのような、既存の市場を破壊して新たな市場を作り出すようなディスラプター(創造的破壊者)を想像するケースが多いのではないでしょうか。そうしたモデルをいきなりまねしようとしても、理想と現実のギャップが大きく、取り組みを実践できないケースも多いと感じています」
このように語るのは、企業のDX推進に多くの支援実績を持つServiceNow Japanの加藤確氏(プロダクトソリューション統括本部 プラットフォーム事業部 事業部長)だ。加藤氏は「企業活動として具体的にどうアプローチすればよいか、一つ一つのアクションアイテムにまで落とし込めている例はまだ少ないと感じます」と指摘する。
「DXは“デジタル化の段階”を理解した上で、適切なアプローチを採ることが重要です。これには大きく分けて3つの段階があります。第1段階は、ITツールを取り入れて書類を電子ファイルなどに単純に置き換える『デジタイゼーション』。第2段階は、デジタイゼーションを礎に業務プロセスを見直して人と機械の役割を分け、一部を自動化するとともに組織全体で情報をリアルタイムに更新/参照可能にする『デジタライゼーション』。そして第3段階が、デジタライゼーションを礎に、よりイノベーティブなビジネスプロセス/ビジネスモデルを創造する『DX』というステップです。多くの場合、第1段階のデジタイゼーションにとどまっているように思います」(加藤氏)
事実、「紙の文書をスプレッドシートなどに置き換えただけ」の入力作業/申請承認といった業務フローや、各種フローを束ねた大きな流れである業務プロセス自体は従来のまま、といった例は多い。ITツールを導入しても業務フロー/業務プロセスが変わっていないため、「個々の作業の効率化」はできても、組織全体としての効率化や生産性向上にはつながらない。ましてや「新しい価値創出」までには至らない。
「DXの実践には、デジタル化に向けた企業戦略を持った上で、従業員から経営者まで、一人一人が既存の業務フロー/業務プロセスをチェックし、解決すべき課題をそれぞれの立場で考えて、改善することが求められるのです」(加藤氏)
加藤氏は、「こうした取り組みは『市民開発(シチズンデベロップメント)』の必要性という言葉に置き換えると分かりやすいかもしれません」と話す。
周知の通り、市民開発は「市民に政策の知識・権利が行き渡り、市民が直接の行使者になる」ことになぞらえ、「アプリケーション開発を開発者だけに頼らず、誰もが自分でも開発できる状態」を意味する。
なぜ今後、市民開発が必要かつ重要なアプローチとなってくるかというと、現状におけるIT技術者やアプリケーション開発者の数が圧倒的に足りていないことや、ビジネスプロセスのオーナーである事業部門とIT関連部門との距離感が挙げられる。その解決策の一つとして内製化があるが、まだまだ十分な成果を上げられていないのが現状ではないだろうか。
リソースの慢性的な不足、事業部門との距離感、ひいてはビジネス実行におけるスピード感を早めるアプローチとして、「市民開発を取り入れた内製化」というアプローチが今後大きいトレンドになると考えられる。
つまり、市民開発者が「業務フロー/業務プロセス改善の行使者になる」という新たなアプローチが重要ということだ。
「DXが、第1段階のデジタイゼーションにとどまりがちな理由の一つは、現場担当者には業務プロセス全体が見えにくく、自分でアプリケーションを作ることも難しいため、業務フロー/業務プロセス改善が難しい点にあります。現場担当者が市民開発者として業務フロー/業務プロセスの改善に直接参画することで、業務アプリケーションの改善を加速するのが狙いです」(加藤氏)
そう聞くと、かつて注目された「エンドユーザーコンピューティング(EUC)」が想起される。だが、市民開発は全く違うものだ。加藤氏はEUCの課題を3つに整理する。
1つ目の課題は「取り組み規模の小ささ」だ。現場担当者による効率化の例として、「Microsoft Excel」でのマクロ活用や簡単なスクリプト言語による自動化などがある。だが、これらは個々人の作業を省力化/自動化するだけで部門やチームの効率化に効果が限定され、全社展開できるほどのスケーラビリティは確保しにくかった。特にマクロは属人化を招き、業務がブラックボックス化してしまうという弊害もあった。
2つ目の課題は「業務の個別最適」だ。EUCには「店舗の販売担当者がBI(ビジネスインテリジェンス)ツールでデータ分析する」「業務の担当者がレガシーなグループウェアを使って、ワークフローやデータベースを設計する」といった取り組みもあった。ただ、特定業務に特化していたり、部署での取り組みに限られたりと、やはり部門最適、個別最適に陥りやすかった。
3つ目の課題は「連携性の乏しさ」だ。属人化の問題にも通じるが、誰かがマクロを作成しても、それを他の人が作ったものと組み合わせて新しいアプリケーションを構築するといった連携が難しかった。現場担当者が開発者とコラボレーションしながらアプリケーションを開発する仕組みもほとんどなかった。
「つまり個々の作業の効率化、デジタイゼーションで終わってしまう。これらは内製化やRPA(Robotic Process Automation)などの取り組みでも直面する課題です。市民開発で重要なことは、スケーラビリティを持ち、全体最適の視点で、従業員の誰もがコラボレーションしながら“改善を行使できる仕組み”なのです」(加藤氏)
ServiceNowは、IT部門におけるサービスマネジメント、IT運用管理、ソフトウェア資産管理から、ビジネス全体のリスク管理、また従業員向けのサービス、さらには顧客向けのサービスまで、企業活動を支えるさまざまな機能をクラウドサービス(SaaS)として提供する一方で、市民開発を実践するための機能も提供している。
ServiceNowが提供する機能の特徴は大きく分けて2つある。一つは一元的なデータベースを用いることで、各種機能とデータを「Now Platform」と呼ばれる1つのプラットフォームで一元管理できること。上記のSaaSが担うような各種企業活動は全てつながっている。つまり、各種機能を1つのプラットフォームで管理することで、企業活動全体を一元管理できるというわけだ。
そしてもう一つが、SaaSだけではなく、業務に必要な機能やアプリケーションを独自開発できるPaaS環境を用意していることだ。
同社はアプリケーション開発を「プロコード開発」「ローコード開発」「ノーコード開発」の3つに分類している。プロコード開発は、標準機能以外で開発するようなニーズ向けのアプローチで、パートナー企業などで特殊なアプリを作りたい場合に検討される。ローコード開発は、現在のServiceNowにおける開発の主流のアプローチで、いわゆるIT技術者やアプリケーション開発者が、コードをほぼ記述せずに開発できる。これらに対し、「業務担当者といわれる市民開発者がコードを一切書かずにアプリケーションを開発する際に採用するアプローチ」と位置付けているのがノーコード開発である。その機能の一つとして、今回新たに市民開発向けのノーコード開発を可能とする「Process Automation Designer」がリリースされた。
「Process Automation Designerでは、プログラミング経験のない担当者でも業務フローを視覚的に定義しながらビジネスプロセスを構築できます」(加藤氏)
Process Automation Designerは、操作画面上でタイル状のボードをドラッグ&ドロップで組み合わせることで業務プロセスを設計できる。ボード1枚1枚は「業務のまとまり(短いワークフロー)」となっており、「Flow Designer」というアプリケーションを使って各ボードに実行する「条件」や「処理」などを定義し、「業務をどう遂行するか」を視覚的に設定する。
さらに、Flow Designerを使えば、ワークフローの「条件」や「処理」を組み替えることも可能だ。その際に「条件」や「処理」を定義する上で必要となる項目や要素はアプリケーションが自動的に表示してくれるため、ユーザーは表示された中から必要なものを選ぶだけでよい。いわば、必要な“機能部品”を選んでつなげるイメージでワークフローを改善し、ボードを並べ直すことで業務プロセス全体の改善につなげられるというわけだ。
エンドユーザーから見ると、Process Automation Designerで定義された業務プロセスは「プレイブック」という機能によって可視化され、どのように業務が進捗(しんちょく)しているか、各業務プロセスで何を考慮し、どのように業務を遂行すべきなのかを一目で把握できる。
「Process Automation Designerによって、業務フロー/業務プロセスを全社規模で設計、管理できるようになります。作成方法が一律の他、業務特有のデータなどもNow Platformで一元管理されるため、属人化や個別最適に陥る心配もありません。600を超える他社サービスとも連携できるので、拡張性にも優れています。属人化や個別最適に陥ることなく、業務の現場担当者が自分自身で、あるいは開発者と共同でアプリケーションを作り、業務フロー/業務プロセスを継続的に改善していく――すなわち、市民開発によりデジタライゼーション、ひいてはDXを実現できるのです」(加藤氏)
冒頭で述べたように、いきなり「新しい価値」の創出を狙うのは難しい。ITツールを導入しただけでは、第1段階のデジタイゼーションで終わってしまうことがほとんどだ。
加藤氏は「デジタイゼーションから、デジタライゼーション、さらにDXに向かうためには、業務フロー/業務プロセスの可視化と自動化、そのための仕組みの整備がポイントになります」とあらためて強調する。「その上で、DXの現実的な進め方として、これまで紹介した、『ビジネスプロセスの自動化と可視化』『DXを推進するためのプラットフォームがあること』に加え、人材の育成が重要になってきます。私からの提案としては、DXを推進する『センターオブエクセレンス(CoE:人材や技術などを集約し、組織を横断して活動する集団)』のような組織を設け、ここにIT部門だけでなく事業部門からも幅広く参加を募ることで、プロセス改善に対する理解を全社に広めていくことが重要だと思います」と付け加える。
「デジタイゼーションに終わらないためには、取り組みを全社にスケールさせることが不可欠です。その点、現状を可視化し、改善できるProcess Automation Designerは、周囲の理解を得ながらプロセス変革を進める最良の手段となり得ます。まずはデジタライゼーションに取り組み、その成果を改革のエンジンにしながら市民開発を全社に拡大し、ぜひDXを実現していってほしいと思います」(加藤氏)
なお、実際にNow Platformで開発した事例が既に幾つかあるので、ぜひ参考にしてほしい。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2021年3月12日