元AWSエバンジェリスト渥美氏に聞く「これからのクラウド活用、マネージドサービスプロバイダーとの付き合い方」コロナ禍で顕在化した「クラウド利用」の現実

クラウド活用が企業にとって「当たり前」だと感じるビジネスパーソンは少なくないだろう。だが、コロナ禍を受けて社会やビジネスのデジタル化が進む中、浮かび上がってきたのは「決して当たり前ではなかった」という現実だ。企業はクラウド活用をどう捉え直すべきなのか。

» 2021年03月24日 10時00分 公開
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元AWSエバンジェリストの渥美氏に聞く「コロナ禍とクラウド」

スカイアーチネットワークスの渥美俊英氏

 コロナ禍を受けた強制的なデジタル化の波がデジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドをさらに加速させている。ビジネスとITは直結し、クラウド利用もビジネス目的に応じた「使いこなし」が求められる状況に変わった。だが、クラウドそのものは企業に浸透したものの、「オンプレミスを移行」しただけであったり、さらにはクラウドを前提にした組織にステップアップしていないなど、「使いこなし」には至っていない例が少なくない。

 これに対して「企業のクラウド活用は不十分であり、中には非常に残念なケースもある。クラウド活用の在り方をあらためて考えるべきです」と指摘するのは、元AWS(Amazon Web Services)Japan エンタープライズエバンジェリストで、2017年からスカイアーチネットワークスで顧問を務める渥美俊英氏だ。

アイティメディアの内野宏信

 同氏はAWSの国内黎明(れいめい)期から普及に貢献し、AWSユーザー会(JAWS-UG:AWS Users Group-Japan)のキーパーソンとして、多数のITリーダーやエンジニアに慕われ続けているのはご存じの通りだ。

 では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い、社会やビジネスに新たな様式が求められている中、企業はクラウド活用の在り方をどう捉え直すべきなのか――アイティメディア統括編集長の内野宏信が、国内でクラウド利用が活発化して10年たった今あらためて、渥美氏に活用のポイントを聞いた。

ほとんどのクラウドは「オンプレミスの代替」にとどまっている

 渥美氏はまず「クラウド活用の実態」として、「コロナ禍の中でITやクラウドが浸透していない分野がまだまだ多いと分かりました」と概観する。

 「保健所の情報収集がファクシミリや手書きベースだったり、自治体の特別給付金処理が手作業だったりといった例が顕在化しました。形の上ではITを利用していても、事務処理などビジネスプロセスは従来のままで、ITの力を十分に生かせていないことが露呈したのです。マスクなどを販売するWebサイトも突発的なアクセス増に耐えられず、サービスが停止したり、機能不全に陥ったりしたケースが目立ちました。クラウドが普及したように見えて、実は“極めて根の深い問題”を抱えたまま利用されていたにすぎないのです」(渥美氏)

 “極めて根の深い問題”とは、一言で言えば「ビジネスとITの分断」を指している。ITは「社外に丸投げするもの」「コスト削減の手段」にすぎず、「主体的に使いこなしたり、コントロールしたりするものではない」という誤った認識だ。

 クラウドはスピーディーかつ柔軟なビジネス展開の武器として「主体的に選び、使うもの」だ。だがコロナ禍において、「ITに対する従来の認識」のまま、紙と手作業中心という従来のビジネスプロセスのまま、「単なるインフラ」として利用されている実態が明らかになってしまった。

 「クラウド利用といっても多くの場合、『単なるオンプレミスの代替』であり、『安く、早く、便利なインフラ』といった理解がほとんどです。利用上の課題も、依然としてセキュリティ、コスト、人材の3つに集約されてしまっています。これではクラウドのメリットを引き出すことはできません。まずはクラウドへの理解を改める必要があります」(渥美氏)

クラウドは「アプリケーション実行のためのインフラ」

 では、クラウドをどう理解するのが望ましいのか。渥美氏は「オンプレミスを代替する『ITインフラ』とだけ、クラウドを捉えるのはやめるべきです」と強調する。

 「実際、仮想サーバサービスはクラウドを支える基本的なサービスですが、それは全体のごく一部にすぎません。例えばAWSは現在約175以上のサービスを提供していますが、『Amazon Elastic Compute Cloud』(EC2)はサービスの数の上からは全体の2〜3%に過ぎません。つまり、これらを使っているだけでは『クラウドを活用している』とまでは言えないのです」(渥美氏)

 残りの97〜98%はどんなサービスかといえば、情報システムをスピーディーに実験、開発、運用する上で求められるPaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)領域のものだ。

 「現在のクラウドサービスは多くがマネージドサービスとして提供されています。ミドルウェアやプラットフォームの運用管理、保守メンテナンスをクラウドプロバイダー側が担うことで、ユーザーはアプリケーション開発やデータマネジメントなどに集中できます。つまり、クラウドは『オンプレミスの代替』ではなく『アプリケーションを速やかに開発、実行するためのインフラ』なのです。ビジネスにとって本質的ではない業務はマネージドサービスに任せ、アプリケーションすなわち自社ビジネスに集中する。クラウドはその手段という理解が大切です」(渥美氏)

企業にとって最も大切なのは、サービスの「目利き力」

 もっとも「マネージドサービス」といっても、「丸投げできるアウトソーシングサービス」のように捉えるのは大きな間違いだ。クラウドはセルフサービスを軸とする標準化されたサービスであり、個別に作り込んでもらうようなものではない。そうである以上、ユーザー側が「やりたいこと」を基に主体的に選び、組み合わせる必要がある。

 「企業にとって重要なのは自社ビジネスに有効な機能やサービスを選ぶ『目利き力』です。既存システムをクラウド移行しただけでは運用負担はさほど変わりません。そこで運用自動化やログ監視、セキュリティなどのマネージドサービスが利用できないか検討してみる。既存アプリケーションをクラウドネイティブアプリケーションに作り替える際も同様です。目的のためにはどのサービスをどう組み合わせればよいのかを考える。そうした目利き力こそが、今後、最も重要なスキルになっていくと考えます」(渥美氏)

 企業が目利き力を養うことは、クラウドプロバイダーの意向に沿うものでもあるという。AWSは2012年の第1回目のイベント「AWS re:Invent」において、機能やサービスを積み木のように組み合わせてITシステムを作り上げる「Building Block」という考え方を世界に示した。その後、毎年おびただしい数の新しいサービスと機能追加が続いている。

 「当時いまだクラウド黎明(れいめい)期の2012年にAWSが発した『ソフトウェアサービスを組み合わせてビジネスシステムを構築する』という思想は私にとって衝撃的でした。事実、その後の数年で、DBやセキュリティ、IoT、BI、AIなど、さまざまな分野で新しいサービスが提供され、その数はさらに加速がついています。以前からAWSは開発者を『Developer』と呼んでいましたが、2018年からは『Builder』と呼ぶようになりました。いよいよマネージドサービスをいかに組み合わせるかがクラウドの現実解になっています。ただし、ビジネスへの集中がクラウドの価値である以上、ユーザーが目利きを外部に委ねることはビジネスを委ねることになってしまいます。マネージドサービスはインフラのアウトソーシングではありません。『ビジネス起点でアプリケーションを内製化する取り組みの一つ』と捉え、利用することが大切です」(渥美氏)

「自分で試す」主体性を持ち、認定MSPパートナーを伴走者として生かす

 とはいえ、サービスの目利き力をどう養うかという課題が残る。渥美氏がアドバイスするのは「自ら手を動かす」ことだ。

 「クラウドのメリットの一つは自分で触れることです。情報もWebサイトから容易に手に入ります。最初に試すことができるよう無料枠が設けられているケースも多い。意欲を持って、まずは自分で試すことがクラウド活用の第一歩です」(渥美氏)

 だが社内にそうした人材もスキルもないケースは少なくない。その場合、クラウドの「マネージドサービスプロバイダー(MSP)パートナーの力を借りて目利き力を養う」ことが近道となる。ただし、MSPといっても「運用の外注先」といった一般的な意味合いで捉えてしまっては、やはり「ビジネスの丸投げ」になりかねない。クラウド活用の主導権は企業側が持ちながら、共に目的達成に向けてプロジェクトを伴走してくれるパートナーが求められる。

 AWSの場合はAWSパートナーネットワーク(APN)と呼ばれる仕組みがあり、日本国内に600社を超えるAPNパートナーが存在する。中でもシステムの設計や構築、運用、最適化のノウハウについて、非常に厳しい要件をクリアした企業にのみ与えられるのが「AWSマネージドサービスプロバイダーパートナー」(AWS MSP)認定だ。単なる外部委託ではなく、顧客企業と共に目的に最適なシステムを設計、構築、運用、改善し、「顧客企業のビジネスをサポートする」ことが役割として明確に定義されている。

 「『AWS MSPパートナー』はスカイアーチネットワークスを含めて、国内に15社しか存在しません。第三者監査機関による厳格な監査によって認定される他、毎年『AWS MSPプログラム』の要求事項が高度化し、取得後も毎年更新審査が必要となります。『AWS MSPパートナー』はAWSのコンサルティング、実装、運用などの点で、最も信頼できる企業と言うことができます」(渥美氏)

 渥美氏は「Microsoft AzureやGoogle Cloudも同様の認定制度を強化しており、MSPを選定する上で重要な目安の一つになっています」と付け加える。つまり、企業にとっては“プロジェクトを伴走”してくれるパートナーを確実に見つけやすくなっているわけだ。

 渥美氏が顧問を務めるスカイアーチネットワークスは、2020年7月、「AWS MSPプログラム」の最新版「バージョン4.1」を対象とする日本で初めて認定されたパートナーとなった(発表資料)。これは既存パートナーの中でも特に優れたスキルと実績を持つ企業だけが選定されるものだ。

 一般名称としてのMSPは主に運用、保守サービスを指すが、AWSのMSP認定制度では90余りの要求事項があり、運用、保守だけではなく、開発や構築、移行、セキュリティ、自動化、社員教育など幅広い能力と実績の証拠を監査する。

 特に同社の場合、「システム障害時に迅速な復旧を実現するノウハウを持つ」「サーバインフラの導入設計や構築から24時間365日の監視保守サービスまでを一貫して提供できる」「各プロジェクトや業務システムにおける品質管理基準や企業品質を維持するための、優れた専門知識を保有する」など、一般企業が特に懸念するポイントを押さえていることが高く評価されたという。

 スカイアーチネットワークスのスローガンは「あなたの側で、あなた以上に考える」というもの。だが前述のように、同社は“パートナー”である以上、企業側の「主体性」が不可欠であることは言うまでもない。単なる「コスト削減」目的で「丸投げ」するようなスタンスでは、その力を十分に享受することは難しい。だが、明確な目的意識と、目利き力というパートナーとの共通言語を醸成、強化するスタンスさえあれば、「バージョン4.1」認定も取得しているだけに、伴走者として実に心強い存在になることは間違いない。

 「日本では約30年間、IT投資の総額がほとんど増えていませんが、米国など海外では同じ30年で2〜3倍に増えています。今こそITの活用、クラウドのより高度な活用が求められています。企業にとって大切なのはITを運用することではなくITを生かすことです。クラウドもビジネスを伸ばすための手段です。信頼できるパートナーに並走してもらいながら、目利き力を養い、クラウドの真の力を引き出してほしいと強く願っています」

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提供:株式会社スカイアーチネットワークス
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2021年3月30日

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