ハイパフォーマンスとコスト効率で2019年の発表以来、多くの企業で採用されてきたAMDのサーバCPU「第2世代EPYC(エピック)」。2021年3月、「第3世代EPYC」が発表され、さらなる進化に注目が集まっている。では、具体的にどのような成果が期待できるのか。日本AMDの中村正澄氏とデル・テクノロジーズの岡野家和氏に話を聞いた。
2021年3月16日、AMDの高性能サーバCPU「第3世代EPYC」(開発コード名:Millan)が発表された。2019年に登場した「第2世代EPYC」(開発コード名:Rome)は、従来比2倍の性能向上や25%のTCO(総保有コスト)削減、1ソケットで最大64コア構成など、圧倒的なハイパフォーマンスを実現。EPYC搭載サーバ市場も急速に拡大し、クラウドプロバイダーからデータセンター事業者、製造、流通、サービス、医療、研究機関など、あらゆる企業や組織で採用が進んだ。
第3世代EPYCは、新たな「Zen3」アーキテクチャを採用し、従来比でさらなる性能向上を実現した。では、第3世代EPYCとEPYC搭載サーバは、企業にどのようなメリットをもたらすのだろうか。日本AMDの中村正澄氏とデル・テクノロジーズ(以下、デル)の岡野家和氏に、アイティメディア統括編集長の内野宏信が話を聞いた。
――第2世代EPYCの登場は、AMDのプロセッサや搭載サーバのイメージを大きく変えたと思います。企業の声はどう変化したのでしょうか。
日本AMD 中村正澄氏(以下、中村氏) 以前の「安かろう悪かろう」というイメージは払拭(ふっしょく)され、最近は「(AMDが人気のようだが)現行サーバのプロセッサをAMDに変えても大丈夫か」とよく聞かれるようになりました。AMDのプロセッサを検討しているが少し心配、という声ですね。この質問に対しては、笑いを取る意味も込めてこう答えています。「実は、64bit命令セットはAMDが開発して他社にライセンスしているものです。だから、現行サーバのプロセッサは実はAMD互換ですよ」と。
――冗談ではなく、x86アーキテクチャを64bitに拡張したx64アーキテクチャは、AMD64互換命令セットという位置付けですものね。
中村氏 はい。もちろんIntelプロセッサとも完全なバイナリ互換性を備えているので、プロセッサをAMDに変えたからといってソフトウェアを作り直す必要はありません。Windows Serverアプリケーションも100%互換性があります。EPYCはたくさんのコアを持てますから、コアを必要とするソフトウェアやワークロードは多くの恩恵を受けることができます。
――EPYC搭載サーバという観点から見るとどうでしょうか。
デル・テクノロジーズ 岡野家和氏(以下、岡野氏) 当初からEPYCのパフォーマンスの高さやコア数に注目する企業は多かったですね。「Dell EMC PowerEdge」(以下、PowerEdge)サーバの場合、最初はHPC(High Performance Computing)コミュニティーで火が付き、その後、仮想化ニーズに応えるサーバとして多くの企業に浸透しました。
VMwareが「CPU単位ライセンス」なので、コアの多いEPYCは仮想マシン数の最大化に活用できます。2020年4月にCPU単位ライセンスが1CPU/32コアまで(64コアなら2CPU分)に制限された後も、32の倍数、つまり32コアか64コアのCPUがVMwareライセンス的に最もコスト効率が良いので、EPYCのメリットは依然大きいです。
――仮想化はVDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)やHCI(ハイパーコンバージドインフラ)など、多くの分野で活用されているので適用範囲は広いですね。
岡野氏 おっしゃる通り、「Windows 7」から「Windows 10」への移行に伴いVDI基盤を刷新する、テレワーク環境を構築するためにHCIやVDI基盤を採用する、といったケースでEPYC搭載PowerEdgeサーバが採用されるケースがかなり増えました。
――あらためて、第3世代EPYCのポイントを教えていただけますか。
中村氏 第3世代EPYCのポイントは「新しいアーキテクチャによる性能向上」「プロセッサの載せ換え(第2世代EPYCへのドロップイン)でのアップグレード」「セキュリティ機能の拡張」「メモリ性能の向上」などです。
性能向上については、Zen3アーキテクチャへの刷新によって、人気の高いミドル性能プロセッサ(32コアの「AMD EPYC 7543」など)で最大25%の性能向上を実現しています。これは、L3キャッシュの最適化の恩恵を多く受けているためです。最高性能の64コアを搭載するプロセッサ(「AMD EPYC 7713」など)で、コストパフォーマンスが第2世代と比較して、最大15%向上しています。
――Zen3アーキテクチャは従来と何が違うのでしょうか。
中村氏 EPYCは、1つのプロセッサソケットの中に8個のプロセッサ・ダイ(CCD)が搭載されており、各CCDの中に最大8個のコアを配置するマイクロアーキテクチャです。第2世代のZen2はCCDの中で16MBのL3キャッシュを4つのコアで共有するアーキテクチャでしたが、第3世代のZen3では32MBのL3キャッシュを8つのコアで共有するアーキテクチャに変わり、直接アクセスできるL3キャッシュサイズが2倍になりました。コアが少ない場合、より多くのキャッシュを使えることで性能向上に貢献します。
――プロセッサの載せ換えで第3世代EPYCにアップグレードできる点も大きいですね。
中村氏 第3世代EPYCをドロップインしてそのまま利用できるので、サーバベンダーは、新しいプロセッサ向けのハードウェアを開発し直す必要がありません。また、メモリは、インターリービングでサポートしていた8チャネルに加え、新たに6チャネルをサポートします。従来は256GB、512GB、1024GBといった8の倍数で搭載メモリを選択するしかありませんでしたが、さらに6の倍数である192GB、384GB、768GBなどもサポートします。お客さまは選択肢が増えるため、メモリ搭載量を最適化することでコストを削減できます。
――一方、セキュリティ機能については、メモリ全体を暗号化するSME(Secure Memory Encryption)や、仮想マシンごとに暗号鍵を変えるSEV(Secure Encryption Virtualization)がありました。
中村氏 第3世代EPYCでは、SEVにおいて、仮想マシン上でさらに仮想マシンを稼働させるようなネステッド(入れ子)環境での暗号化に対応しました。SEVはLinux Kernel 4.15以降でサポートされていて、「VMware ESXi 7.0 Update 1」ではSEV-ESというレジスタファイルまで暗号化する機能をサポートしています。さらに、「Google Kubernetes Engine(GKE)」や「OpenStack」でもSEVがサポートされています。
――性能向上やメモリ選択肢の拡大に加え、セキュリティ機能に対するOSやディストリビューション対応など、EPYCはエコシステムも成熟していますね。サーバ市場への影響も大きそうです。
岡野氏 PowerEdgeサーバの国内の金額シェアは、ここ5年で2倍になっています。この堅調な伸びにEPYC搭載モデルが貢献しています。EPYCの第2世代と第3世代共通で、最新のPowerEdgeサーバではさまざまな独自機能をご提供しています。RAIDコントローラーの新世代「PERC 11(PowerEdge RAIDコントローラー11)」は、NVMe(Non-Volatile Memory Express)でのハードウェアRAIDを可能にしました。
一方、もともとハードウェアRAIDできるブートデバイスとしてご好評いただいてきたブート専用SSDデバイス「BOSS(Boot Optimized Storage Solution)」は、新たにホットプラグ対応の背面アクセスデバイスとなった「BOSS-S2」として、メンテナンス性が大きく向上しています。同時に、2ソケットサーバのシステムボードレイアウト変更により、内部エアフローと冷却効率、PCIeデジタル信号の品質が向上されています。
――第2世代EPYCでは、業種やワークロードごとに製品ラインアップをそろえていました。先にHPCや仮想化のニーズが大きいというお話がありましたが、あらためてPowerEdgeサーバのラインアップを教えていただけますか。
岡野氏 デルは、HPCやデータアナリティクス、機械学習/深層学習、高密度VDI、NFV(Network Functions Virtualization)などに適したPowerEdgeサーバ製品をそろえています。例えば、1ソケット1Uサイズで仮想化やHCIに向く「R6515」、1ソケット2Uサイズで、仮想化やデータアナリティクス、SDS(Software-Defined Storage)などに向く「R7515」、2ソケット1Uサイズで高密度VDIやHPCに向く「R6525」、2ソケット2UサイズでオールフラッシュSDSやVDI、データアナリティクスに向く「R7525」、HPC向けの「C6525」などがあります。
さらには、機械学習や深層学習向けにGPUを搭載した「XE8545」という第3世代EPYCの新モデルも投入しました。PowerEdge XE8545では、管理ツールの「Integrated Dell Remote Access Controller 9(iDRAC 9)」でGPUリソースの管理にも対応しています。
岡野氏 ただ、今回PowerEdgeサーバで強調したいのは、ラインアップの豊富さだけではなく、さまざまな業種で採用されているという事実です。例えば、EPYCを搭載したPowerEdge R7525は、その豊富なI/Oレーン数を生かした64コアプロセッサ2基とレンダリング用GPU 3枚というアグレッシブな構成で、大手製造業のお客さまに採用されています。
HPCや学術研究分野では、東京大学物性研究所や沖縄科学技術大学院大学(OIST)の事例があります。東京大学物性研究所様では、1680台のPowerEdge C6525を活用して、第6世代のスーパーコンピュータシステム「Ohtaka」を構築し、理論演算性能約6.9ペタフロップスを実現しています。OIST様では、456台のPowerEdge C6525を活用し、増え続ける研究分野、研究者、学生に対して、高性能なHPCクラスタを提供しています。
この他、レンタルサーバ事業を展開するエックスサーバー様にもEPYC搭載PowerEdgeサーバを採用いただきました。パフォーマンスを向上させつつ消費電力とコストを抑え、コスト換算で2倍近くの効果が得られたといいます。また、GMOインターネット様は、クラウドVPS(仮想専用サーバ)サービスを支えるサーバとしてEPYC搭載PowerEdgeサーバを採用され、AMDさんのグローバル事例になっています。ラック数を10分の1に、商用OSのライセンス料を10分の1に削減できたという内容です。
――パフォーマンス、コスト効率はもちろん、実ビジネスを支えている信頼性の高さもポイントですね。ただ、コア数の多さがソフトウェアライセンス面で不利になるケースもあるのではないでしょうか。
岡野氏 確かにそうですね。例えば、Windows Serverのようなコア課金のライセンスでは費用が増えてしまいます。そこでEPYC搭載PowerEdgeサーバは、Microsoft、AMDと共同で「Windows Server 2019 EPYCサーバー用特別ライセンス」を提供しています。これは、64コアのPowerEdgeサーバを選択しても、1ソケット当たり32コア分までしかWindows Serverのライセンス料金をいただかないというものです。64コアというEPYCの強みをコストの観点から支援しています。このプロモーションは2021年6月末までの期間限定ですので、今まさに駆け込み需要が増えています。また、EPYCには少コア・高クロックのCPUモデルもありますので、金融リスク計算や一部データベースにはそちらを提案しています。
――ただ、EPYC搭載サーバのメリットは理解しつつも、5年に一度のシステム更改時期でないと変えられないといった企業も多いのではないでしょうか。
岡野氏 いえ、OSの切り替えやVDI基盤の入れ替えなどの際に、EPYC搭載PowerEdgeサーバを検討いただくことも増えています。特に昨今はテレワークを契機にインフラを見直す機会が増えていますから、ぜひ検討いただければと思います。デルの場合、価格やパフォーマンス、ワークロードなど、さまざまな視点で柔軟にサーバを選択できる点でも導入を後押しできると思います。
――確かに「慣習」に流されず、主体的にインフラを見直すスタンスは重要ですね。経営層の要請をクリアするチャンスが目の前にありながら素通りすることにもなりかねない。
中村氏 サーバは「現行プロセッサと同じモデルをください」という買い方になりがちです。その意味では、プロセッサの大切さに気付いていない人が多いと感じています。「ウチもAMDなら変わる」と思っていただけるようにアピールしていきます。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2021年4月11日