既存システムをそのままクラウドに移行する「リフト&シフト」。有識者は「移行の段階によって変化する課題それぞれに対策が必要だ」とリフト&シフトの課題を指摘する。
クラウドへの移行は、オンプレミスの既存システムをそのままクラウドに移す「リフト&シフト」が有名だ。既存のシステムにほとんど手を加えないため「システム改修の手間と時間がかかる」「移行したら動かなくなる」という懸念を減らせる。
しかし、リフト&シフトにも注意すべき点があるとネットアップのガブリエル・ボルダ・ロペス氏(ソリューション技術本部 ソリューションアーキテクト部 ソリューション アーキテクト)は語る。
「クラウド移行をリフト&シフトで実施する場合、段階が進むにつれて課題が変化する。それらの課題を解決できなければ、移行が頓挫したり、クラウドを活用できなかったりする。移行を始める前に課題への対策を検討する必要がある」
では、変化する課題とは何か。詳しく話を聞いた。
「クラウド移行を進める場合、まず移行の目的や移行で実現したいことを整理し、その後『最低限の規模に絞って部分的に移行する』『一度に全て移行する』など移行するシステムの範囲を決めるといった流れになる。だが、その後のステップは移行対象のシステムが担う役割によって変化する」
例えば、基幹システムなど企業の成長に合わせて利用者が増加するシステムであれば「コストを抑えつつ、クラウドの利用規模を拡大するにはどうすればいいか」という課題がある。この課題を解決するためには、システムへのリソースの割り当てを適正化した上で、クラウドの利用範囲を伸縮させる必要がある。オンプレミスと同様のリソースをクラウドでも使おうとすると、システムが必要とするより多くのリソースを割り当てることもあるからだ。
ボルダ氏は「移行において重要なのは『システムの役割や規模に依存しない柔軟性』を持つ技術を選ぶことだ」と語る。同氏は続けて、移行後の注意点も指摘する。
「移行がうまく進んだとしても、次にガバナンスの問題が発生する。ガバナンスをうまくコントロールできないとシステムごとで部分最適が進み『クラウドアーキテクチャを標準化できない』『サイロ化されたシステムが乱立する』といった事態になり得る」
そのため、ボルダ氏は「多様性を受け入れられる、マネジメントに優れたインフラ」がクラウド活用には必要だと指摘する。
ネットアップは、この課題の解決策としてクラウドストレージサービス「Cloud Volumes」を提案する。ボルダ氏は「クラウドに適したストレージを導入することで、データの移動しやすさ(データモビリティ)を向上させられる。そうすれば変化に強く拡張性もあるインフラを構築できる」と言う。
Cloud Volumesは、PaaS(Platform as a Service)の「Cloud Volumes Service」(以下、CVS)と、IaaS(Infrastructure as a Service)の「Cloud Volumes ONTAP」(以下、CVO)で構成されている。
「ネットアップは『Data Fabric』というコンセプトを掲げている。これは『適切なデータを適切なタイミングで適切な場所から利用できる』という考え方だ。Cloud VolumesもData Fabricを基に開発しており、ガバナンスの強化に役立つ」
CVSはフルマネージドサービスのため、運用やメンテナンスはネットアップが請け負う。企業は「どれくらいの容量を、どの程度の性能で、どこで使うか」を決めるだけですぐ利用できる。CVOは、オンプレミスのONTAPとほぼ同等の管理機能を使えるため、既存のネットアップストレージと連携しやすく、オンプレミスとクラウドが混在するハイブリッド環境の構築に適している。
CVSとCVOはうまく使い分けることが重要だ。ハイブリッド環境でのデータモビリティを向上させたい場合や、オンプレミスのネットアップストレージの運用を継続したい場合はCVOが適している。フルマネージドサービスを利用して運用負荷を軽減したい場合は、CVSが有効だ。「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」「Google Cloud」のマーケットプレースで購入するだけで、クラウドでネットアップストレージをすぐ利用できる。
「『VDI(仮想デスクトップインフラ)は利用ユーザーが増えた場合、より高い性能が必要になるので、CVSを利用する』といった具合に将来性も考慮すべきだ。ただ、『SAP S/4HANA』のように片方(SAPの場合はCVS)しか使えないものもあるので事前に確認が必要だ」
ネットアップはGoogle Cloudとの連携を進めており、Google CloudとCloud Volumesを組み合わせたサービス「Cloud Volumes Service for Google Cloud」(以下、CVS for Google Cloud)と「Cloud Volumes ONTAP for Google Cloud」(以下、CVO for Google Cloud)を提供している。
「Google Cloudでファイルサーバを構築する場合にCVS for Google Cloudは有効だ。Google CloudでSMB(Server Message Block)を利用したい場合、通常はWindowsサーバを立てた上でファイルサービスを構築する必要がある。CVS for Google Cloudを使えば、サーバを立てなくても、PaaSの機能としてSMBを利用できる。CVO for Google Cloudを使えばSMBの詳細な設定も可能だ」
CVO for Google Cloudが適したサービスについては、ボルダ氏は「Google Cloud VMware Engine」(以下、GCVE)を挙げる。GCVEは、Google Cloudで「VMware vSphere」環境を利用できるマネージドサービスだ。専用のベアメタルサーバ(物理サーバ)を使えるため他の利用者の影響を受けないメリットがある。
「物理サーバを用意するマネージドサービスは幾つもあるが、ストレージだけを増やしたい場合は物理サーバ自体を増設しなければならないデメリットを持つものがある。その点GCVEはデータストアの設定をすることでストレージだけ増設できる。CVO for Google Cloudは、GCVEのストレージ増設に最適な製品だと自負している」
GCVEでDR(Disaster Recovery)を実現する場合にCVO for Google Cloudは有効だという。
「GCVEは物理サーバを使うため、環境を用意すると稼働させていなくても維持コストがかかる。だが、データをCVO for Google Cloudで保持するようにすれば、DR用に物理サーバを用意する必要はない。災害時はGCVEに本番環境を構築し、データを保持しているCVO for Google Cloudにデータストアを切り替えれば数時間程度で復旧できる」
ボルダ氏は「RTO(Recovery Time Objective)が1時間以内」など復旧時間が短い場合を除けば、こうした「オンデマンドDR」の活用も可能だと語る。
「ただし、この仕組みは『災害があったときに必要十分なリソースを確保できること』が前提となっている。導入する前に必ずGoogleに相談し、万が一の際にどのように連携するかなど運用を整理しておく必要がある」
Cloud VolumesとGoogle Cloudの組み合わせたサービスを活用している企業は幾つかある。3DCG(Three-Dimensional Computer Graphics)のアニメーション制作を手掛けるポリゴン・ピクチュアズもその中の一つだ。
ポリゴン・ピクチュアズは、世界中のクリエイターをつなぐグローバルな体制の必要性を感じていた。体制構築のためにクラウドの調査を進めていたが、3DCGはデータが重く、レンダリング(表示用のデータを整形する処理)には一定以上の性能が必要だった。これまで蓄積されていたデータの扱いも重要だった。膨大なデータの中には古い素材が含まれている。作業のために頻繁にデータをコピーするため、重複データも多い。こういったデータを最適化するためには、重複排除機能や細かいデータ管理ができなければならない。
こうした性能要件をクリアしたのがCVO for Google Cloudだった。導入後、データ量を3割削減するなどの成果があったという。
「今後はクラウドでのHA(High Availability)構成を検討しており、レンダリングの並列処理やKubernetes連携なども視野に入れていると聞いている。CVO for Google Cloudはこうした新しい取り組みにも対応できる、素晴らしい製品だと高く評価されている」
Cloud VolumesはGoogle Cloud以外にAWSやMicrosoft Azureなどとも連携できるため、クラウド間の移行も柔軟にできる。今後のクラウド戦略を検討する企業にとって、オンプレミスからクラウドまでを広くカバーするネットアップのサービスは魅力的な選択肢といえるだろう。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2021年6月30日