アンビエントコンピューティングが作る世界で「もっと楽しい」へ人と機械が協調する未来へ

コンピュータと人をつなぐウェアラブルやxR、コンピュータが人を理解するためのAIやロボット、人とコンピュータの自然な対話を支えるHCIやAugmented Human――コンピュータと人の良いところが融合すれば、世界はもっと楽しくなる。

» 2021年09月15日 10時00分 公開
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 スマートフォンからウェアラブルデバイスを経て、人と機械がよりつながり協調するコネクティッドな時代が到来しようとしている。その世界においてウェアラブルデバイスはさらに小型化し、ビジネスや生活に溶け込んでいくことになるだろう。コンピュータが身の回りに遍在して人の行動を支援するアンビエントコンピューティングの未来を見据えて研究開発を進めている日鉄ソリューションズ(以下、NSSOL)の取り組みを、インテリジェンス研究部の主席研究員 笹尾和宏氏にお話しいただいた。

実用化の段階を迎えたアンビエントコンピューティング

 独立系(ユーザー系)SIerのR&D部門として1985年に発足したNSSOLのシステム研究開発センターは、2000年から横浜市のみなとみらいに拠点を設置。3年後の事業への貢献を目標とした研究開発、研究開発成果の効果的展開および顧客・事業ニーズへの感度向上を目標とした事業支援、プロフェッショナルへのレベルアップを図る人材育成をミッションとし、「技術のNSSOL」を支えている。

NSSOL概要

 システム研究開発センターの組織は、ITのエンジニアリング、それを推進するプロセス、その両面における設計を担うサービス&システムデザイン研究部、知能研究を担うインテリジェンス研究部、研究企画・推進および研究部横断機能を担う研究戦略・ソリューション化推進部の大きく3つの部門から構成されている。このうちのインテリジェンス研究部において、ここ数年の中心テーマの一つとして研究開発を進めているのがアンビエントコンピューティングである。

 アンビエントコンピューティングとはいかなるものか。Googleのブログには、「私たちは、コンピューティングが必要な場所にあり、いつでも利用可能であれば、テクノロジーはさらに便利になると考えています。デバイスはバックグラウンドに溶け込み、AIやソフトウェアと連携して一日中あなたをサポートします。これをアンビエントコンピューティングと呼んでいます」といった解説がなされている。

 NSSOL 技術本部 システム研究開発センター インテリジェンス研究部 アンビエントテクノロジーGr.主席研究員の笹尾和宏氏は、「各社のスマートスピーカーやスマートグラス(メガネ型デバイス)などによる人のアシストも、アンビエントコンピューティングの一種とみることができます」と話す。

NSSOL 技術本部 システム研究開発センター インテリジェンス研究部 アンビエントテクノロジーGr.主席研究員 笹尾和宏氏

 ではなぜ今、NSSOLはこのテーマに注力しているのか。背景にあるのはテクノロジーの著しい進化である。「ICTの発展は倍々ゲームの勢いで進んでおり、なかでもプロセッサやストレージ、無線通信などのテクノロジーは10年ごとに10〜1000倍の性能向上を遂げています」と笹尾氏は語る。

 劇的な進化を続けているのはハードウェアだけではなくソフトウェアも同様だ。例えば2013年に登場した「R-CNN」というアルゴリズム(深層学習モデル)は、画像の中に写っている物体(オブジェクト)を検出するものだが、1枚の画像を認識するのに数十秒の時間を要した。これに対して2018年に登場した「YOLOv3」というアルゴリズムは、従来の1000分の1のわずか数十ミリ秒で1枚の画像を認識するという。

 しかもこのアルゴリズムは、スマートフォンや小型カメラなどのエッジデバイスで動作させることもできる。例えば「M5Stack M5StickV」という小型AIカメラは、5000円程度の低価格でありながら1秒間に約8000億回の演算が可能で、YOLOモデルにより物体検出を行う。

 このようにかつては想像もできなかったような高度な処理を身近なところで簡単に実行可能となっており、そうした中でアンビエントコンピューティングがいよいよ実用化の段階を迎えているわけだ。

環境に溶け込んだデバイスが人を支援する

 笹尾氏はさらに、技術の方向性からアンビエントコンピューティングの意義を解説する。

 従来は、コンピュータを使うといえばデスクトップ上での作業を意味していた。しかし十数年前にモバイル端末が登場したことで、コンピュータは外出先でも利用可能となった。そして現在のコンピュータはさらに小型化してウェアラブルとなり、身に着けて利用することが可能となった。

 これに続くステップとしてアンビエントコンピューティング、すなわちコンピュータが身の回りに遍在する時代を迎えるわけだが、ここまでくるとコンピュータの操作そのものに大きな変化が表れてくる。「ウェアラブルまではユーザーが意識してデバイスを利用していましたが、アンビエントコンピューティングではデバイスが環境に溶け込み、自然な形で人を支援する形になります」と笹尾氏は説く。

アンビエントコンピューティングへ

 実はこの兆候はウェアラブルの時代から見られた。デバイスがどんどん小型化していくに従い、そこで行える操作にはおのずと制約がでてくる。例えばスマートウォッチの小さな画面で、表計算シートを編集しようとする人はいないだろう。コンピュータ上で行う操作に対しては、それぞれの用途に適した物理サイズがある。

 「そこでアンビエントの世界では、コンピュータ自体が周りで何が起こっているのかを理解し、ユーザーに対して的確なアプローチを行うことが前提となります。すなわち人の行動理解といった機能が非常に重要な必須条件となります」と笹尾氏は強調する。

 そしてこれを実現するのが、人とデジタル情報の相互作用を広げることを目的とする「アンビエントインテリジェンス」と呼ばれる概念だ。

 笹尾氏はアンビエントインテリジェンスの主要要素として、コンピュータの所在を意識することなく、いつでもどこでも誰でもコンピュータを使える情報環境を実現する「ユビキタスコンピューティング」「ユビキタスコミュニケーション」「ユーザー適応型のインタフェース」の3つを挙げる。

xRやAI、ロボットなどの技術を複合的に連携

 テクノロジーの指数関数的な発展によりアンビエントコンピューティングは現実的なものとなりつつあり、「xRやAI関連技術、ロボット技術などを複合的に連携させることで、人とコンピュータとの関係が変化していきます」と笹尾氏は語る。

 xRとはVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などのテクノロジーを総称するもので、NSSOLではこれを「人の感覚、状況をさまざまなデバイスを用いてセンシングし、必要な情報をタイムリーに人の五感にデバイスを通じて提供することで、その人にとっての世界の見え方や感じ方を変化させる技術」と位置付けている。

 視覚や聴覚はもとより、触覚、味覚、嗅覚などの入出力をデジタル化するxRの研究開発や製品化も進んでいるとのことだ。

 例として、ニンニク臭を検出する研究が紹介された。「ニンニク専用の機器を用いるわけではなく、水晶振動子に塗られた特殊な膜に付着する分子によって変化する周波数を測定します。こうして複数の感応膜に対する応答を分析することで匂いを識別することができます」と笹尾氏は説明する。

 またスマートグラスやARグラスなどのメガネ型デバイスに関しては、NSSOLでは2008年ごろから研究開発を本格化させてきた。Vuzix社と提携したスマートグラスの共同開発、セイコーエプソンらと共同した聴覚障がい者支援における実証実験、複数の現場での実証実験などに取り組み、現在ではIoXソリューション事業推進部を中心として、主に産業分野でのソリューション展開を図っている。

メガネ型デバイスへの取り組み

 ハンズフリーでの作業効率化、技能伝承、遠隔地との連携、作業手順の教示・誤りチェック、パーソナライズされた情報参照、検品や点検の効率化・記録など、利用者支援の有効なソリューションとなり、「現場作業者専属の助手(秘書、トレーナーなど)としての役割を担うことができます」と笹尾氏は強調する。

 一方でNSSOLが注力しているのが自律ロボットの研究開発である。周囲の状況に合わせて自ら判断して動くロボットで、「ベースとして利用するセンシングや学習、推論、認識などの技術は、xRと非常に近しいものがあります」と笹尾氏は語る。

人とコンピュータの良い点を上手に利用して価値を生み出す

 前述したように、xRや自律ロボットなどのテクノロジーを融合させていく先にアンビエントコンピューティングの世界が開かれていく。

 NSSOLのシステム研究開発センターでは、遠隔を含めた複数人によるAR共同作業やVRを利用した技能伝承などの研究を進めており、例えば熟練者の動きをVRで再現して二人羽織で学ばせるといった実証実験が行われている。半透明になった熟練者にVR上で重なって作業を習得するのである。

VR二人羽織で熟練者の動きを学ぶ

 複数名の議論にロボットを介入させて進行をリードすることで、会議の生産性を高めるという試みもある。

 人同士の対話に、あえて音声認識・合成をはさむというコミュニケーションの研究開発も非常に面白い取り組みだ。「威圧的な口調で話す相手に対してはなかなか意見を言いづらいものですが、音声認識・合成が仲介することで印象が和らぎ、発言しやすくなるという効果が生まれます」と笹尾氏は語る。

 また、裸眼で立体視を実現する「Looking Glass」、空中への映像表示を可能とする「Aska3D Plate」、素手の動きを捉える「Leap Motion」、触覚へのフィードバックを行う「超音波アレイ」などのテクノロジーを融合した「裸眼で触れるVR空間」の研究も進めている。

 NSSOLではこれらの研究成果をさまざまなプロダクトとして展開している。例えば大規模な工場やプラントにおいて設備保全などに従事する現場作業者の安全性を確保する「安全見守りくん」、現場作業者と遠く離れた場所にいる担当者との間での作業指示や作業状況の確認などの緊密な連携を支援する「ARPATIO(アルパティオ)」といったアプリケーションを既に製品化している。

 さらに現場環境をリアルタイムに3Dスキャンして遠隔操作を行うシステム、遠隔地にあるものをあたかも近くにあるかのように感じながらリアルタイムに操作を行える「テレイグジスタンス」、空港ロビーでの案内ロボットの活用など、さまざまな企業との個別案件に基づいたソリューション開発や共同での実証実験も進めている。

テレイグジスタンス

 一方では、人が主役となる新たなものづくりの手法確立と普及を目指し、産業技術総合研究所や三菱電機、沖電気工業と共に「『人』が主役となるものづくり革新推進(HCMI)コンソーシアム」を立ち上げるなど、アンビエントコンピューティングの社会実装に向けた取り組みも活発化している。

 そして今後に向けてNSSOLは、計算や記憶を得意とするコンピュータと、現場の判断や移動などを得意とする人のそれぞれの良い点をうまく融合させることで、現実を拡張した新たなビジネスなどかつてない価値を生み出していくことを目指している。

 「このビジョンを実現するため、多様な形態で利用されるコンピュータと人をつなぐウェアラブルやxR、コンピュータが人間や実世界をより深く理解できるようにするAIやロボット、人とコンピュータの自然な対話を支えるHCI(Human Computer Interaction)やAugmented Humanなどの研究開発をさらに加速させていきます」と笹尾氏は語る。

 NSSOLは今、アンビエントコンピューティングが実現する未来を見据えている。

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提供:日鉄ソリューションズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2021年9月29日

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