銀行の与信管理をAIが支援――金融機関のDXを支えるクラウドサービスに必要な要件とはAIが企業の業況を予測

銀行は融資先の業況変化を素早く把握したい。しかし、決算書を頼りにしていてはどうしても判断が遅れてしまう。何らかの方法で融資先の状態をリアルタイムに把握できないだろうか。クラウドを利用した業況変化の予測サービスを提供する企業に聞いた。

» 2022年02月17日 10時00分 公開
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銀行の入出金データから企業の業況変化を予測する

 システムインテグレーター、ITサービスベンダーであるJSOLは、2006年に日本総合研究所から独立した日本総研ソリューションズを前身とする。2009年にNTTデータの資本が50%入り、JSOLに社名を変更した。

 JSOLは金融、製造、流通など幅広い企業向けにITサービスを提供している。例えば金融機関に対しては、データ活用によるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための「FinCast 業況変化予測」(FinCast)を開発、提供している。取引先(融資先)企業の業況変化の予兆をいち早く知りたいという、銀行のニーズに応えたサービスだ。

 銀行は取引先企業の業況が変化した場合、それをいち早く察知し、業績の立て直しをアドバイスしたり、融資計画を見直したりする必要がある。だが、これまでは企業の業況変化の予兆に気付くのが遅れるケースもあったと、JSOLの松井孝洋氏(ソーシャルトランスフォーメーション事業本部 ソリューション営業部 シニアコンセプトプランナー)は次のように語る。

JSOLの松井孝洋氏

 「通常、企業の業績の評価は決算書が出てからになります。これでは年に1回、決算が締まってから1カ月以上のタイムラグがあります」

 また、決算書に頼らない企業業績の評価方法もあるが、この方法にも課題があった。「これまでも、取引状況のデータから一定のルールによって変化を予測し、対策に動くという仕組みは存在していましたが、このようなルールベースの作業では、精度を上げることが難しく、十分な予測ができませんでした」(松井氏)

 その上、地方銀行(地銀)の取引企業は数万社に及ぶ。その中から決算の結果を基に予兆を見つけ、適切に対処することは至難の業だ。

 何とか日々の取引データから予兆を見つけ、リアルタイムに通知してくれるシステムができないか。こうしたニーズに応えるべく、JSOLは三井住友銀行(SMBC)と共同で業況変化検知システムの開発に着手した。

 そこで目を付けたのは、銀行が持つ取引先企業の入出金データだ。FinCastの人工知能(AI)の分析モデルは、SMBCの保有する膨大なデータを学習しており、過去のデータ推移パターンから未来の企業の業況を予測することができる。

 2017年に出来上がった機能モデルを評価した結果、AIを使った業況変化の予測は、ルールベースの予測と比べて優れており、AIの実効性を確認できた。

FinCastの概要(提供:JSOL)

JSOLがクラウド基盤として選んだOpenCanvas

 このシステムを他の金融機関にも使ってもらえるよう、サービスに進化させる開発が2018年9月にスタートした。サービス名称をFinCastと定め、主な利用者を地銀に設定。クラウドサービスとして提供することに決めた。

 だが、クラウドサービスにしたことで、開発は思わぬ壁に当たる。当初は外資系パブリッククラウドサービスの利用を検討していたが、金融機関向けのサービスとして採用するには障壁があった。JSOLの木村尚登氏(ソーシャルトランスフォーメーション事業本部)は次のように語る。

JSOLの木村尚登氏

 「当時、金融機関がクラウドサービスを利用するケースはまれでした。特に、銀行の入出金データをパブリッククラウドへアップロードすることに抵抗感がありました。どうしようかと考えていたときに、NTTデータが『OpenCanvas』というクラウドサービスを開始する話を聞き、早速検討することにしました」(木村氏)

 NTTデータとJSOLはグループ企業同士でもあり、以前から関係があった。OpenCanvasはちょうどサービスを開始したころで実績もほとんどない状態だったが、JSOLはNTTデータのサービスに対して高い信頼感があった。

 「もちろん、OpenCanvasはFinCastが求めるセキュリティや信頼性を確保していたということが前提にあります。国内のほとんどの銀行が利用している『ANSER』を活用したクラウド基盤であることが、FinCastの利用者となる地銀にとって安心感につながると思いました。地銀が日頃から利用しているシステム上で動く新たなサービスとして提案できることが、最大のメリットなのです」(木村氏)

 国産クラウドとしてデータ保存場所の透明性や、国内特有の事情に合わせたセキュリティ監査への対応など、海外発のクラウドでは手間がかかる問題がクリアできる点も魅力だった。

FinCastのシステム構成(提供:JSOL)

 JSOLへOpenCanvasの利用を働き掛けた、NTTデータの北川 淳氏(第四金融事業本部 e-ビジネス事業部 第四開発統括部 OpenCanvas開発担当 課長)は次のように語る。

NTTデータの北川 淳氏

 「ANSERは1981年からサービスを開始しており、全国の銀行で利用いただいています。長年にわたり、金融機関のセキュリティを維持できている運用実績をベースにしたクラウドのOpenCanvasは、高い信頼性を確保しています。また、サポートにも力を入れています。海外発のクラウドはセキュリティ監査に対してホワイトペーパーを出す形で対応していますが、OpenCanvasならば、個別の監査ニーズに対応したレポートを提出できます。従来、銀行に対して提供していた監査へのきめ細かな対応を生かしたサービスを、クラウドでも提供できることがOpenCanvasの強みです」(北川氏)

 加えて、OpenCanvasは金融機関システムとセキュアに接続できる仕組みを持っていることも、銀行業務に関するサービスを稼働させるクラウド基盤として優位性がある。

 最終的に、JSOLはFinCastのクラウド基盤にOpenCanvasの採用を決定。サービス化に向けて開発を進めた。

地銀が最新テクノロジーをすぐに利用できるクラウド基盤

 OpenCanvasをクラウド基盤に決定してから、FinCastの開発は順調に進んだ。AIをはじめとしたFinCastのシステムをOpenCanvasに実装する作業も問題なく完了し、翌2019年の2月にサービスを開始した。

 前述の通り、利用者である地銀は既にANSERでセキュアな専用回線とつながっているため、すぐにFinCastを利用できる環境が整っていた。これも開発期間の短縮につながった。「既設のANSER接続の回線を経由してFinCastにログインできるため、セキュアな接続のための追加費用がかかりません」(木村氏)

 実際のFinCastの利用方法は、次のようになる。

 本サービスの顧客である地銀などの金融機関は、自行が持っている取引先企業の入出金データをFinCastにアップロードする。そのデータをAIが分析し、結果をスコア化、レポートとして表示する。企業ごとの時系列の分析結果などの詳細データも、別途ダウンロードできる。トライアル導入時は、標準の学習済みモデルを利用できるため、分析のイメージをすぐに確認できる。

 「分析結果は、入出金データを読み込ませてから短時間で出力可能になります。この結果はリスト化できるので、フォローすべき企業から順に対処ができ、銀行にとっては大きな業務効率化につながります」(木村氏)

コロナ禍で企業の業況判断に効果を発揮

 利用者からの評価も高い。例えば七十七銀行は、本店の審査部でFinCastを利用している。入出金データから業況に変化が見られた企業に対して、その企業を担当する支店の営業部門に連絡。決算のタイミングを待たずに企業を訪問し、経営状態を確認している。実際に、訪問先の企業で資金ニーズを確認できたケースもあるという。

FinCastの運用例と導入メリット(提供:JSOL)

 FinCastのサービス開始からほぼ1年で、社会はコロナ禍に見舞われた。現在も、銀行の営業担当者が企業を訪問しにくい環境にある。同時に、社会活動の制限で事業そのものに前例のない影響を受けている企業も多い。決算を待たずに高い精度で企業の業況変化の予兆を検知できるツールとして、FinCastへの期待が高まる。

 「企業を回ることが銀行にとって重要な業務であることは、昔も今も変わりありません。しかし、コロナ禍にかかわらず他の業務も増えており、十分に足を運ぶことができていないというお話も伺います。FinCastの分析結果から、アプローチ先を選別できることで、『行くべき企業に行く機会を与えてくれる』というご評価をいただくことが多いですね」(木村氏)

 今後は、さらに学習の精度を高めるとともに、入出金以外の外部データも組み合わせて、分析の対象を拡大していく計画だという。「それによって業況の変化を検知するだけでなく、企業の成長のための前向きな提案をする気付きを与えられるようにしていきたい」と松井氏は語る。

 「FinCastの当初の目的は業況の変化を検知することでしたが、データをきっかけにして企業と金融機関のコミュニケーションを促し、企業の成長を支えるツールとしても使っていただけると考えています」(松井氏)

 北川氏は「OpenCanvasは、サービス開始から4年ほどになります。おかげさまで金融や公共の皆さまから支持されるセキュアなクラウドとして成長してきました。今後もセキュリティや監査などについて柔軟に対応するといった基本を確実に守りながら、さらに機能の追加や、他のクラウドサービスとの接続などの拡張性を強化していきたいと考えています」と語った。

 先行き不透明な時代、企業が臨機応変に対応するためには、金融機関からのスピーディーな支援が欠かせない。そのためには、金融機関のサービスにも最先端のテクノロジーが必要だ。OpenCanvasというセキュアなクラウド基盤の上で、JSOLが提供するFinCastのようなサービスが、今後も登場することを期待したい。

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提供:株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2022年3月5日

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