組織やプロジェクトをマネジメントする力だけでなく、マネジメント特化か専門性特化かの二者択一でもない。マネジメント軸と専門性の軸で構成する2次元フィールドの中で自由にキャリアを選択できる、NTTデータ先端技術の新人事給与制度。制度に込めた思いと願いをキーパーソンに伺った。
NTTデータグループの一員として1999年に設立された「NTTデータ先端技術」。プラットフォーム、ソフトウェア、セキュリティの大きく3つの事業領域を中心に、金融系や公共系におけるミッションクリティカルなシステムをはじめ、幅広い企業のシステム構築、運用およびDX(デジタルトランスフォーメーション)導入を支援している。
社会のさまざまな領域へ広くベストプラクティスや付加価値を生み出し、提供する力こそが同社の成長エンジンとなっている。現在は社員数938人(単独/2021年4月1日現在)で、2022年度には1000人を超える見通しだ。
「千載一遇」にちなんだ「千財一遇」というキャッチフレーズを掲げ、既存の社員のより一層の活躍と、技術力や高い専門性を持つ新しい仲間の参画に向けて同社が取り組んでいるのが人事給与制度改革だ。NTTデータ先端技術 人事総務部 部長の鈴木聡氏は、「多様なキャリアやバックグラウンドを持つ多くの人財が当社に集い、思う存分に力を発揮して活躍できる、そんな会社となることを目指しています」とそこに込めた思いを語る。
逆にいえば、これまでの同社の人事給与制度にはどのような課題があったのだろうか。
もともと同社には卓越した技術力や専門性を有する社員が数多く在籍している。さまざまな企業や団体からアワードを受賞するチームや社員もいる。ところがこれまで同社には、「組織やプロジェクトをマネジメントする力の発揮度合いに応じて処遇を変えていく枠組みしかありませんでした」と鈴木氏は語る。
多くの日本企業は、組織をマネジメントする力の発揮を通じて成果を上げた社員に対して主任から課長、部長、事業部長へと“昇進”させることで応えてきた。同社も例外ではなくこの制度を現在まで維持してきたわけだ。これでは技術者が持つ技術力や専門性の発揮に対して見合った処遇を行えず、仕事に対するモチベーションを低下させたり、優れた技術者を他社に流出させたりしてしまう恐れがある。
この旧態依然とした処遇の在り方を抜本的に見直すべく、約1年前から準備を進めてきたのが今回の人事給与制度改革というわけだ。
「マネジメント力だけで処遇を決めるのではなく、一人一人の社員が持つ技術力や専門性の高さと、それに基づく貢献の度合いも処遇に反映していくという新たな方針を打ち出しました」
上述のようないきさつからNTTデータ先端技術が2021年7月に導入した新たな人事給与制度の枠組みを見てみよう。そこには「マネジメント力の発揮度合い(MB:Management Band)」と「技術力、専門性の発揮度合い(SB:Specialty Band)」という2つの軸からなる直交座標が示されている。
「この2つの互いに独立した軸で形成される2次元空間の中で、一人一人の社員が多様なキャリアプランを描き実現していくことが可能となりました」
M軸には5段階、S軸には4段階のレベルが設けられており、この2つの等級に基づいて評価と処遇が行われる。仮にM軸の等級が変わらなかった、つまり役職が上がらなかったとしても、S軸の等級を大きく高めた社員には、課長や部長、またはそれ以上の役職者と同等の処遇を行うことができる。
もちろん逆のパターンとしてM軸を高めたり、M軸とS軸のバランスを取りながら等級を高めたりしていくことも可能で、キャリアの選択肢を大きく広げていける。このように同社の新しい人事給与制度は、世にいうところの複線型人事制度とは一線を画したものとなっている。
複線型人事制度とは、企業が用意した複数のキャリアコースから社員が選択できる制度だが、選択したコースのレールに乗らなければならず、「どちらも」という選択肢が存在しない。これに対して同社の新しい人事給与制度は、M軸とS軸からなる2次元空間の中で、社員がその時々の意思に基づき自由にキャリアを作れるのが大きな特徴だ。
「M軸でかなり高い役職に就いた社員が50代を迎えたのを機に、あらためて技術を究めたいとS軸に重点を置いたキャリアに変更することも可能です。ベテランの社員が組織をマネジメントする役割を後進に譲ったとしても、技術力や高い専門性を保有していれば、ふさわしい処遇を受けられ、技術力や専門性をさらに高めていくこともできます」と、鈴木氏はこの制度の持つさまざまな可能性を示唆する。
この新人事給与制度は新卒入社したプロパー社員の活躍の場を広げてモチベーションを高めるだけでなく、経験者採用の戦略にも生かされていくことになる。
「これまで専門性の高い技術者を迎える際は、その専門性の高さに見合った報酬にするために役職に就いていただく必要がありました。しかし、高い成果につながる行動が、組織やプロジェクトをマネジメントすることではなく、技術力や専門性の発揮であるにもかかわらず、役職に就けることは会社にとっても本人にとっても幸せにつながらないというジレンマがありました。それが現在では、技術力や高い専門性をお持ちであれば、役職に就くことなく管理職と同等またはそれ以上の給与でオファーできるようになりました」
先端領域における高度な専門知識やスキルを持ったデジタル人材は、業界の垣根を越えて引く手あまたとなっている。その激烈な争奪戦を制する上でも、新人事給与制度は強力な武器となるのだ。
しかし、技術力や専門性は評価が非常に困難なのも事実だ。例えばアプリケーションソフト開発者と基盤エンジニア、サポートエンジニアといった職種ごとに求められる技量は大きく違ってくる。また技術の専門性が高まれば高まるほどその領域を深く探求し究めていくため、技術的に属人的かつ閉鎖的な環境、いわゆる「たこつぼ」に陥りがちだ。結果として、せっかく身に付けた技術力や高い専門性を発揮する機会を失ってしまっている。
この問題にNTTデータ先端技術はどうアプローチしているのだろうか。興味深いのは、そこに「期待行動」という考え方を持ち込んでいる点である。
「期待行動は大きく『顧客および対外認知度向上活動』と『職種別技量』から構成しており、この両方を充足することでふさわしい等級への格付け(昇格)が行われます」
このうち特に上述したような、属人・閉鎖環境からの脱却を促すのが「顧客および対外認知度向上活動」であり、「技術力や高い専門性を持った社員がその価値を自分の外へ、そして社外に向けて能動的に発信することで、それを知ったお客さまから『NTTデータ先端技術はそんなこともできるのか。ならばぜひ頼んでみたい』とご発注をいただく可能性が高まり、その結果として受注したプロジェクトがその社員自身の新たなチャレンジや活躍の場となり、新たな技術力や専門性の獲得へつながります」と鈴木氏は説明する。
そして「この『価値創造のスパイラル』を回していくことは、『技術で社会に貢献する』という当社の企業理念とまさに一致するものです。新しい人事給与制度ではこの『顧客および対外認知度向上活動』を一定程度の技術力や専門性を有するSBの等級に格付けられた全ての社員に推奨しています」と強調する。
対外認知度向上といっても、「大きなイベントで講演せよ」「書籍を出版せよ」「特許を取得せよ」といった日常業務から縁遠いことを設定しているわけではない。
「もちろんそういった活動にチャレンジしてもらうのは大歓迎ですが、マス向けの派手な活動だけが全てとは考えていません。Qiitaのようなエンジニアのコミュニティーサイトや当社のオウンドメディアに記事を投稿するといった、日常の延長線上の活動も評価の対象となります」
「そもそも技術者であれば、お客さまに対し、導入するサービスやソリューションが、お客さまの期待に応えたアウトプットを出せる仕組みを技術的に説明することができるはずです。お客さまや当社の他の社員が直面する問題や課題に技術的な解決案を提示し理解いただくことができます。お客さまとの打ち合わせなどで、自分の持つ技術力や高い専門性を基に、お客さまにその社員の、そして当社の素晴らしさを理解いただける『行動』を非常に意義あるものとして評価します」と鈴木氏。等級を高めていくためのチャンスを、社員は自らの手でいくらでも切り開いていけるわけだ。
もう1つ特筆しておきたいのが、上記のような顧客および対外認知度向上活動を背後から支える取り組みとして、技術そのものをリスペクトする文化を醸成していることである。技術は専門化すればするほど、市場環境や時代のトレンドによって「メインストリームの技術」と「今は主流ではない技術」に分かれていく。もちろん現時点では目立たない技術であったとしても、将来的に大きく開花する可能性を秘めているものもある。
では、そうした技術をどうやって見極めていくのか。
「多様な技術に対する高い“目利き力”を持った有識者を集めて『専門家委員会』を組成しています。これを全社の人事委員会の諮問機関と位置付け、そこでの知見や見解を人事給与制度に反映させています。たとえ今はあまり注目されていなくても、決してまだ枯れていない、これから芽が出る、大きな将来性を持っている技術に対する取り組みをしっかり評価すべく、SpecialtyBandの評価基準を継続的に見直していきます。専門家委員会の活動を通じて高い目利き力を持った社員を採用し、育て、活躍してもらえるはずです」
同社の人事給与制度改革はまだ緒に就いたばかりだ。「制度導入から1年を迎える2022年7月には、この1年間の社員の実績を、処遇に大きく反映できると考えています」と鈴木氏は述べる。
上述の専門家委員会のアドバイスも生かしながら、社員一人一人の教育機会や活動機会を拡大し、「千財一遇」のさらなる進化や深化を促していくとする。
また、2022年度から始める新しい中期経営計画の実現に向けて、「当社の社員にはプロアクティブな活動が求められ、お客さまや社会に対して新たな価値を発信・提供できる人財に成長していかなければなりません」と鈴木氏は語る。
今回は主に社員に対する人事給与フレームの変革を行ったが、今後は、社員との「委託契約」の締結や、「委嘱契約」によるさらに高度な業務の実現も視野に入れながら、会社に集う多様な人材「千財」の活躍のスキームをさらにブラッシュアップしていく考えだ。
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提供:エヌ・ティ・ティ・データ先端技術株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2022年3月28日