顧客接点のデジタル化が加速し、各種ニーズへのより迅速で柔軟な対応を行う「モード2」と呼ばれるシステム様式への需要が年々高まっている。だが、日本企業の多くはモード2推進が遅れているといわれており、その真因は何か、どうすれば進められるのか、鼎談で探った。
DX(デジタルトランスフォーメーション)において、デジタル技術を駆使した「モード2」推進とそれによる利益拡大は重要な要素だ。周知の通り、モード2はガートナーが2015年に提唱した「バイモーダルIT」に基づく概念だ。バイモーダルとはスピードや柔軟性が求められるSystem of Engagement(SoE)と、安定性や効率性が求められるSystem of Record(SoR)を目的に応じて使い分ける考え方で、モード2はSoEを指している。
事実、あらゆる顧客接点がデジタル化している今、システムによっては、いかに迅速、柔軟に開発、提供するかが競合差別化の一大要件となっている。このためには、定型業務の自動化をはじめ、クラウドやコンテナ、DevOpsツールなどを使ったクラウドネイティブな開発運用スタイルが求められる。一部企業はその実践に乗り出しているものの、従来企業の多くはいまだ基幹システムをはじめ「モード1」となる既存システムの保守と維持に多大な工数とコストを割いており、モード2推進までは回らない。
では、モード2がビジネスの主戦場となりつつあるにもかかわらず、なぜ日本では多くの企業がつまずいているのか。どう取り組みを進めればよいのか。システムインテグレーター(SIer)として豊富な支援実績を持つNECと、クラウドネイティブ実践を支援するツール群を提供しているHashiCorp Japan、レッドハットの意見から、現実的なモード2推進の要点を探る。
――ビジネスのデジタル化が加速し、スマートフォンアプリケーションなどのモード2が、ビジネスの主戦場になりつつあると思います。しかし、日本におけるモード2の取り組みはWeb系やスタートアップが中心で、従来企業は遅れているようです。皆さんはどうご覧になっていますか。
NEC 吉田功一氏 コロナ禍もあり、企業においてデジタル化が加速したのは確かです。ただ、モード2の取り組みも増えたかといわれると疑問です。というのも、当社のお客さまへのヒアリング結果を3年ほどさかのぼってみても、モード2に対する課題感や進行状況にさほど変化がないからです。既存システムの維持と管理に多大なコストをかけており、新規アプリケーション開発などは活発化していません。
HashiCorp Japan 伊藤忠司氏 とはいえ、デジタルの力で顧客とのタッチポイントを増やし、改善することによるビジネス効果は大きいですし、そうした認識は従来企業の間でも拡大しているのではないでしょうか。特に若い世代の方は移り変わりが激しいトレンドに敏感ですし、モバイルアプリケーションなどから最新の情報を集めたり、サービスを利用したりすることが生活の当たり前になっている。だからこそ、企業はモード2への投資を増やそうとしているし、取り組みを活発化させようとしているのではと感じます。
レッドハット 安楽慎吾氏 多様化する価値やニーズをいかに早く取り込むかがモード2では肝になるという認識が既に浸透してきていると感じています。JEITA(電子情報技術産業協会)の調査によると、国内では業務効率化やコスト削減、働き方改革に予算割り当ての軸が置かれる傾向が強いようです。顧客やビジネス視点で予算が割り当てられる米国と比べると少しギャップがあり、日本企業のDXやデジタルシフトの弱さをそこに感じています。
・参考:JEITA(電子情報技術産業協会)「日米企業のDXに関する調査結果」
伊藤氏 ただ、そうした中でも積極的にモード2に取り組むお客さまが着実に増えつつあるのも事実ですよね。DevOpsを推進するモデルの一つに「CAMS」(Culture, Automation, Measurement, Sharing)があります。CAMSとは「共通の目標を作り、カルチャーを醸成する」「サービスインまでの時間を短縮するために自動化を取り入れる」「インフラストラクチャのコード化により、標準化する」など、取り組みの要件を整理したものです。こうしたことを見据えながら当社の「HashiCorp Terraform」やレッドハット「Red Hat Ansible Automation Platform」(以下、Ansible)などを使って環境構築を自動化した例が豊富にあります。近年はエンタープライズのお客さまも増えてきたと思います。
――ただ、自動化の目的をはき違えてしまう例も多いですよね。サービスインの速さではなく、モード1と同じ効率化やコスト削減を目指してしまう。
安楽氏 業務効率化や自動化は、取り組みとしても、関心事としても重要な位置付けにありますが、大切なのは業務を効率化、自動化した「先」をどのように見据えているかです。コスト削減でとどまるのか、コスト削減の先にモード2やDX推進を見据えて投資をシフトしていく意図があるのか、われわれはその点にとても関心があります。ビジネスはデジタル化していますし、経営環境の変化が速い中で生き延びなければならない。ではどうするか。そうした意識を持てるか否かが、DXの成否を分かつ岐路だと思います。
――モード2が伸びない理由として「正しい目的意識の欠如」は大きいですね。「経営層の認識の欠如」とも言い換えられそうですが、その他の要因として何が考えられますか。
吉田氏 まずは人材不足です。ベンダーやSIerもDX人材不足に直面しています。
伊藤氏 人材については、日本はユーザー企業に極端にエンジニアが少ないという事情もありますね。企業内でノウハウの蓄積やスキルの醸成がされにくい。結果、米国と比べて歩みが遅くなりやすい。
安楽氏 内製化においてもそうですが、IT予算をモード1、モード2にどう配分するかという点も含め、経営者側のデジタルビジネスへの理解とリードが不可欠だと感じます。新技術へのキャッチアップと、それらを進んで活用する文化の醸成も大きな課題で、これらの支援はわれわれベンダーやSIerの役割、責任でもあると思います。
吉田氏 NECグループにも多数のSEが在籍していますが、モード1の案件に張り付かざるを得ず、モード2の案件に人材をシフトしにくい状況が続いていました。シフトできればグループ内で十分に人材がそろうのです。
――まさに一般企業と同様の課題ですね。
吉田氏 はい。また、モード1とモード2ではSEとして求められる技術、ケイパビリティが異なります。モード1はどちらかといえばインフラ領域で、モード2はアプリケーション領域です。モード1のエンジニアがシームレスにモード2に移行するためには、どんな技術やスキルが必要なのか。そこでNECはこうした人材配置と技術やスキルの課題を認識し、今はこれを解決する技術を基に人材のシフトを進めているところです。
――経営層の理解、人材、技術など、モード2を伸ばすためには組織全体の変革が求められると思います。しかし、これができなければ競争力が低下するのは明らかです。変革に向けて何から始めるべきだと思いますか。
伊藤氏 どんな企業にも新しいことに取り組むチャレンジプロジェクトがあると思います。そこで小さな成功体験を積み重ねることが第一歩です。成功は失敗の繰り返しから生まれますから、経営層は失敗を受け入れる文化を作る。そのためにご自身のマインドチェンジを図ることも重要です。エンジニアが外部に多い日本では、トライアル&エラーを支援するSIerの力もカギになります。
吉田氏 その意味で、NECは従来の「工数提供型」のビジネス形態から「顧客への価値提供型」のビジネスへとシフトしつつあるのです。前述のように、技術力でモード1における構築や運用、保守サービスを効率化し、モード2の支援へとSEのシフトを進めています。具体的な手段の一つとして、システムライフサイクル全体を自動化、省力化するオープンソースソフトウェア「Exastro IT Automation」(以下、Exastro)を駆使して、お客さまのモード1を省力化し、モード2の推進を支援しています。
例えば、「監視ツールからのアラート内容が既知のものなのか未知なのかを切り分けた上で、既知の場合、自動化ソフトウェアと連携して自動対処する」といった運用自動化機能を持つ「Exastro OASE」や、コンテナベースでの高速なアプリケーション開発やデプロイを行うためのノウハウと環境をセットで提供する「Exastro EPOCH」などを使います。つまりExastroを使ってNEC社内の工数、技術、スキルの課題を解消してモード2にSEをシフトすると同時に、お客さまにおけるモード1の省力化、モード2推進に伴走しているのです。
――技術力でSIerとしてのビジネス変革に取り組んでいるのですね。レッドハットとHashiCorpは提供価値をどうお考えですか。
安楽氏 レッドハットはオープンソースソフトウェア(OSS)の価値をエンタープライズのお客さまに届けます。高度な機能で非常に多くの技術者がいるAnsibleに対して、将来も安心して使っていただけるサポートを提供します。また、自動化処理をサービスとして組織全体で共有して企業全体の効率化を劇的に向上させる「自動化2.0」の取り組みも推進しています。このように製品技術と運用方式の両面で企業のDXが加速するようサポートしてまいります。
伊藤氏 HashiCorpはマルチクラウド環境で使える多様な自動化ソリューションを提供しています。単なるツール提供によるワークフローの効率化だけではなく、DevOpsやDX推進に向けた経営層や開発現場の文化の変革もお手伝いできればと考えています。ただ、そのためにはパートナーの存在が重要です。ツールやソリューションのベンダー、SIerが一緒になってお客さまに並走することで、大きなゴールを見据えた小さな成功体験を重ねていくことができると考えています。
吉田氏 そこでNECでも今まで培ってきたSIノウハウをExastroというツールに閉じこめ、HashiCorpとレッドハットの各種ツールと連携させることで、モード1の自動化や省力化と、モード2推進を支援しているのです。システムが複雑化している中、HashiCorpのHashiCorp Terraformや「HashiCorp Vault」、レッドハットの「Red Hat OpenShift Platform」やAnsibleのようなツールでシステム全体を効率化、一元管理する仕組みは、モード2を推進する上で前提条件になると思います。
――モード1を省力化する手段も、モード2を推進する手段も既にある。取り組みに伴走し、伊藤さんがおっしゃるようにスモールスタートして無理なく拡大していける支援体制もある。後は企業の意思次第といえるのかもしれませんね。
伊藤氏 そうですね。特にNECのようなパートナーの存在は、日本企業が変革を成す上で大きな要素になると思います。HashiCorpとしては、共に必要な要素を考案、提供しながらDX推進を支援していきたいと考えています。
安楽氏 お客さまへのアプローチの仕方も変える必要があるでしょうね。要素技術を提供してきた経験値や課題をパートナーと共有し、いわゆる「御用聞き」からの脱却と、お客さまのビジネスに直結させるソフトウェア提供だけではない提案を実現していきたいと思います。
吉田氏 NECとしても売り手、買い手、世間の「三方良し」を目指していきたいですね。NECはSIerとして多くの企業を支援してきた実績があり、運用現場の課題を知り抜いていることが強みです。われわれはその知見を基に技術を提供し、お客さまの変革に伴走します。そうした取り組みの中で、「エンジニアってかっこいい」といわれる世界をあらためて実現していければと思っています。
※Red Hat、Ansible、およびOpenShiftは、米国およびその他の国におけるRed Hat, Inc.およびその子会社の商標または登録商標です。
※HashiCorp、Terraform、Vaultは、米国およびその他の国におけるHashiCorp, Inc.の商標または登録商標です。
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