NVIDIAの開発者向けカンファレンス「GTC 2022」がオンラインで開催された。NTTPCコミュニケーションズのセッションでは3D開発プラットフォーム「Omniverse Enterprise」を建設業界で適用した事例が紹介された。本稿はそのセッションレポートだ。
デジタル技術の進化に伴い、モノづくりの現場では3Dモデルを使って仮想的に設計やシミュレーション、検証などを実施する事例が増えている。製造業でいえば、構造解析や流体解析、熱流体解析などでの活用はもちろん、「デジタルツイン」の活用も進んでいる。建設業では「BIM」(Building Information Modeling)を活用した設計や建築物の維持管理の取り組みが進んでいるという。
「NVIDIA Omniverse Enterprise」(以下、Omniverse Enterprise)は、そういった「3Dモデルを使った仮想シミュレーション」とリアルタイムコラボレーションのためのプラットフォームだ。Omniverse Enterpriseを利用するとクリエイターとデザイナー、エンジニアが仮想空間を共有でき、共同で作業することが可能だ。
NVIDIAから情報共有や技術サポートを受け、企業のOmniverse Enterprise導入を支援しているのがエヌ・ティ・ティピー・シーコミュニケーションズ(以下、NTTPC)だ。NTTPCはNTTドコモグループの一員として、企業のニーズに合わせた先進的なサービスを提供している。事業はネットワーク、データセンター、クラウドホスティング、モバイル、IoT、セキュリティ、AI/エッジと多岐にわたる。
NTTPCの高島綜太氏(ビジネスデベロップメント担当 高は正しくは“はしごだか”)は同社の位置付けについて「NTTグループでネットワーク事業を担い、ISP(Internet Service Provider)といった事業のパイオニアとしての礎を築いてきた」と説明する。
「NVIDIAとのパートナーシップについても、NTTグループで唯一『Compute DGXコンピテンシー』のEliteパートナーに認定されており、GPUサーバ提供台数は1600台以上、GPUサーバ販売者数は120社以上に達している。GPUサーバのノウハウを蓄積したテクノロジーベンダーでもある」(高島氏)
NTTPCは、データセンターに構築したOmniverse Enterpriseのインフラを企業に提供している。同社でOmniverse Enterpriseエンジニアを務める力石誠也氏によると、データセンターで構築するOmniverse Enterpriseのインフラ構成としては「個人ユーザー向け」「小規模ワークグループ向け」「大企業向け」の3種類があるという。
「個人ユーザー向け構成は1人の利用者が1台の端末を専有する構成になっており、小規模ワークグループ向け構成は複数名での利用を想定している。ただ、これは1人に1台、Omniverse Enterpriseの端末が必要になるため、ワークグループの拡大を見込んでいる企業にはあまりお薦めできない構成になっている。大人数で効率的に利用できないかという問い合わせも増えたことから、NTTPCは、仮想GPU(vGPU)を活用した大規模向けトポロジーの検証を実施した」
大規模向け検証環境は「Innovation Lab」で構築した。Innovation LabはNTTPCが展開している「AIコラボレーションプログラム」の一つで、研究開発やPoC(概念実証)の基盤としてGPUプラットフォームが利用できる。
「vGPUを利用するメリットはユーザーの増減やリソースコントロールを柔軟に実施できることだ。複数名でコラボレーションが可能で、拡張性も高まるので将来的な利用拡大を見込んでいる企業に最適だ」(力石氏)
検証で利用したOmniverse Enterpriseのコンポーネントは、Omniverse Enterpriseのサーバ「Omniverse Nucleus」とアプリケーション「Omniverse Create」「Omniverse View」だ。
「Omniverse Nucleusは、Linuxベースで動く『コラボレーションエンジン』になる。利用者が他の利用者と共同で利用するファイルサーバやデータベース、作業スペースのようなイメージだ。今回は『VMware ESXi』のインストール、『VMware vCenter』の構築、vGPU関連の設定、『Enterprise Nucleus Server』のセットアップ、3Dアプリケーション用仮想マシンの作成、vGPUの割り当て、Omniverseアプリケーションと3Dアプリケーションのインストールについて検証した」(力石氏)
力石氏は構築作業におけるTIPsとして「Windows 10にGPUドライバをインストールする前に、RDP(Remote Desktop Protocol)などリモート接続で設定をする必要があること」「『Omniverseランチャー』がインストールできないことが原因で、Omniverse Create、Omniverse Viewのセットアップが進まない場合は仮想GPUプロファイルを変更すること」を挙げた。
アプリケーションについては、Omniverse Viewを使った日照時間シミュレーションや、Omniverse Create/Viewで「LiveSync」機能を使った同時接続での編集作業などを検証。その上で力石氏は、インフラエンジニアから見たOmniverse Enterpriseの所感として、次のように評価した。
「インフラの構築においてはハードウェアのキッティング、VMwareのインストール、vGPUのセットアップ、ゲストOS構築、アプリケーションのインストールとやらなければいけない作業工程が多岐にわたる。事前に作業手順を確認しておくことが重要だ。Omniverse Createなどのアプリケーションは、3Dアプリケーション開発の初心者でも視覚的に分かりやすく、マニュアルも充実している。さまざまなシーンに合わせた最先端のアプリケーションが利用可能だ。Omniverse Enterpriseは、デジタルツイン分野におけるデファクトスタンダードとして注目するプラットフォームであり、未開拓の領域での幅広い活用を期待している」
NTTPCは今後、パートナー各社と共同検証を強化し、ユースケースや利用するアプリケーション、Omniverse Enterpriseの連携部分などを深堀りする予定だ。さらに「vGPUとOmniverse Enterpriseを活用したクラウドサービスも検討している」という。
NTTPCとパートナー企業の共同検証の実績は既にあり、その一つがペーパレススタジオジャパンとの取り組みだ。ペーパレススタジオジャパンはBIMの導入コンサルティングを担っている企業だ。「建築ITで工期を2分の1、建設コストを2分の1、施主満足度を2倍にする」をスローガンに、建築業務のIT化と効率化を推進している。同社の勝目高行氏(代表取締役社長)はこう話す。
「少子高齢化の影響を受けて日本の建築技能者人口は減少しており、生産性向上は急務だ。そのためにはBIM活用が鍵となる。国土交通省も2023年から公共工事での原則BIM化を発表している。建設業界に携わる企業はBIMを活用して建設のプロセスを変える必要がある」
建築プロセスを変えるためには、基本計画段階から3Dマスターモデルを作成し、設計、施行、維持管理に必要なシミュレーションをすることが重要だと勝目氏は言う。勝目氏はその理由について「仮想空間で建物を建てる工程を試しておくことで、現実の施工時における手戻りや手直しを大幅にカットできる」と述べる。
「BIMを十分に活用した建設現場は平均で15%のコスト削減が可能になる。1人のベテランのノウハウを複数の若手に共有する体制を構築でき、技術継承の効率化も可能だ。だが、ただツールを導入するだけで何かを変えること難しい。BIM活用において最も重要なのは、ベテランも若手も関係なく全従業員一丸となって次世代の建設プロセスに変革するという強い決意だ」(勝目氏)
そうした決意を支援するためにペーパレススタジオジャパンは、BIMの講習を実施する、BIM実行環境を整備するといったBIM活用につながるさまざまな取り組みを進めている。
「BIMはムダのない建設を目指す『リーンコンストラクション』や効率を最大化するプロセス『インテグレーテッドプロジェクトデリバリー』に関係する概念だ。ポイントは3Dであること。3D設計を標準とし、建築の生産性を向上させる必要がある。あるべきところにあるべき時間に必要な量の技術(人や機械)と物(材料)をそろえることでおのずと生産性は向上する。トヨタ生産方式のように製造業では当たり前のことでも建設業では非常に難しい。だからこそBIMが重要になる」(勝目氏)
勝目氏は最後に、Omniverse Enterpriseのデモ環境の提供や3D制作プラットフォーム「Unreal Engine」、BIMソフト「Revit」とOmniverse Enterpriseを連携させる検証作業を紹介した。
高島氏は講演を締めくくりとして次のように語る。
「Omniverse Enterpriseを複数ユーザーで快適に利用するには複数レイヤーにまたがったインフラの構築が必要だ。建設業界の生産性向上にはBIM導入が必須の状況であり、NTTPCとペーパレススタジオジャパンは今後、異なる環境で構築されたBIMデータ(3Dデータ)を1つの仮想空間(Omniverse Enterprise)に統合し、ビジュアライゼーションとさまざまなシミュレーションを検証する」
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提供:株式会社エヌ・ティ・ティピー・シーコミュニケーションズ
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2022年4月19日