AMDが“夢のある技術”を載せたサーバCPUを提供開始、企業はこれをどう使いこなせるか3D実装技術でサーバのパフォーマンスが飛躍的に向上

AMDがサーバCPU「EPYC(エピック)」シリーズで、開発コードネーム「Milan-X」と呼んでいた新たな製品の出荷を開始した。これまで先駆的な取り組みを続けてきたAMDは、今回も最先端の「夢のある技術」をEPYCシリーズで投入したという。Milan-XはどのようなCPUなのか。

» 2022年04月15日 10時00分 公開
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 AMDは2022年3月23日、「第3世代EPYC(開発コード名:Milan)」の進化版となる新たなCPU「Milan-X」を正式発表し、同日から出荷を開始した。新アーキテクチャ採用による飛躍的な性能向上でサーバ業界に旋風を巻き起こしてきたEPYCシリーズだが、Milan-Xの投入でどのようなインパクトを業界にもたらそうとしているのだろうか。@IT編集部の三木泉が、新CPUを投入する狙いや意義、企業に与える価値について、日本AMDの中村正澄氏とデル・テクノロジーズの岡野家和氏に聞いた。

3D実装技術をメモリ領域に先行導入した「Milan-X」

ALT 日本AMD
コマーシャル営業本部 ソリューション・アーキテクト
中村 正澄 氏

――AMDがMilan-Xという新CPUを正式発表し、デル・テクノロジーズなどが搭載サーバの出荷を開始しましたね。Milan-XはどういうサーバCPUなのでしょうか。

日本AMD 中村正澄氏 まずは、EPYCシリーズのロードマップから紹介させてください。第2世代EPYCと第3世代EPYCは製造プロセス7nm(ナノメートル)のCPUでした。ロードマップとしては今後、製造プロセス5nmの新しい「Zen 4」アーキテクチャを採用した「Genoa(開発コード名)」が投入されます。Millan-Xは、その1つ前に当たるCPUとなります。

――Genoaの発表は2022年中の予定です。なぜこのタイミングで新CPUを提供するのですか。

中村氏 1つ目のポイントは、Milan-Xが第3世代EPYCであることです。第3世代EPYCは、第2世代EPYCからCPUを載せ変えてアップグレード(ドロップイン)できることが特徴の一つでした。Milan-Xも第3世代EPYCですから、同様のアップグレードが可能で、既存の資産をそのまま生かすことができます。

 その上で、Genoa以降で採用される新しいアーキテクチャを一部先取りしていることが、2つ目のポイントになります。つまり、既存のハードウェアとの互換性を保ちながら、新CPUで投入する「夢のある技術」を先行して導入できるということです。

――夢のある技術というのは、2021年に公表されていた「CPUの3D化」のことでしょうか。

中村氏 そうです。Milan-Xでは、第3世代EPYCのL3キャッシュメモリを3次元化しました。これは「3D V-Cache」と呼ばれるL3キャッシュメモリを1パッケージに統合した新技術です。3D V-Cacheにより、L3キャッシュメモリは従来の256MBから768MBへと3倍に増量しました。結果、2ソケットのシステムでは、L3キャッシュの容量が1.5MBに跳ね上がります。

 AMDは進化するCPU実装技術をリードし、いち早く製品化を進めてきた歴史があります。これまでCPUの進化は2次元にとどまっていましたが、Milan-Xで初めてCPUを3次元化しました。今後も3次元化した製品を開発していく計画です。3Dパッケージ技術はAMDだけが取り組んでいる技術ではなく、他の半導体メーカーも取り組んでいる技術です。アイデアは以前からありましたが実現が難しくやっと量産することができました。Milan-Xは、そうした夢のある技術を先行してL3キャッシュに対して導入したCPUなのです。

ALT 第3世代EPYCの進化版となるAMD Milan-Xの特徴(提供:日本AMD)《クリックで拡大》

最速で対応サーバを出すことがユーザーにとっての価値につながる

ALT デル・テクノロジーズ
データセンターソリューションズ事業統括
製品本部 シニアプロダクトマネージャー
岡野 家和 氏

――つまりAMDは、現行世代のCPUアーキテクチャをベースとすることで、新技術の恩恵が必要なユーザーに先行的に提供できる。サーバベンダーも、現行EPYCへの対応技術を生かしながら、最新技術の魅力をいち早く伝えることができる、ということですね。

デル・テクノロジーズ 岡野家和氏 その通りです。デル・テクノロジーズとしても、3D V-Cacheでこれまでの3倍のL3キャッシュが載ってくることによって、ユーザーにもたらされる価値は大きいと考えています。もちろん、サーバベンダーとしては、最速でMilan-X対応サーバを出すことが価値につながると信じています。

――ハイパースケーラーと呼ばれるクラウド事業者などは、既に現行EPYCを積極的に採用していますね。

中村氏 Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud、IBM Cloud、Oracle Cloudの他、Meta(旧Facebook)、Twitter、Alibaba Cloud、Baidu、Tencent CloudなどがEPYCを採用してサービスを展開しています。近年では、Web会議ツールの「Zoom」や「Microsoft Teams」などのサービス基盤にもEPYCが採用されています。利用者の急増に対応できるプロセッサとしてEPYCが選択されている状況です。

岡野氏 各種ベンチマークでも好成績を収めています。データマネジメント、HCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)/SDI(ソフトウェアディファインドインフラストラクチャ)、ビジネスアプリケーション、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)/エンジニアリングなどの領域におけるサーバのベンチマークで、250以上の世界記録を樹立しています(※1)。
(※1)AMD EPYC Processor World Records

CPUの上にSRAMを1枚載せてメモリ容量を3倍に

――Milan-Xの仕組みはどうなっているのでしょうか。

中村氏 3D V-Cacheは、先端的なパッケージング技術です。AMDはCPUだけでなくGPUも作っていて、2015年の時点でHBMメモリを搭載するといった、複数のチップを組み合わせる実装技術を持っていました。技術をさらに進歩させ2017年にマルチチップモジュールの第1世代EPYCを作り、2019年には第2世代EPYCで複数のチップを組み合わせる「チップレットテクノロジー」を開発しました。

 その流れを受けて、2021年に発表したのが「3Dチップレット」と呼ばれるCPUの3次元化技術です。この技術をメモリに適用したMilan-Xは、CPUで3次元実装が使われた半導体製品となります。

岡野氏 トランジスタの数を2次元方向に広げるのではなく、上に積み上げることで増やしていくというアイデアですよね。

中村氏 はい。3D V-Cacheは、CPUの上にSRAM(L3キャッシュ)を重ねています。従来のマルチモジュールは横に並べていましたが、3D V-Cacheは縦方向なので、インターコネクトのデンシティー(接続密度)が従来の2次元と比較して200倍以上、インターコネクトのエネルギー効率は3倍以上(消費電力が3分の1)になります。

――L3キャッシュモジュールをどういう風に積み重ねているのですか。

中村氏 プロセッサダイごとに1枚、SRAMを載せるという実装です。EPYCは単一のプロセッサの中に、それぞれ8つのコアを内包するプロセッサダイを8つ持っています。

ALT AMD Milan-Xの概要(提供:日本AMD)《クリックで拡大》

 第3世代EPYCでは、各プロセッサダイが32MBのL3キャッシュを持っていますが、Milan-Xではそれを残したまま64MBを追加して96MBにします。こうすることでL3キャッシュ容量は3倍になります。「メモリの得盛サービス」のようなイメージですね(笑)。96MB×8プロセッサダイで、プロセッサ全体としてのL3キャッシュメモリの合計は768MBになります。

3D V-Cacheに対応した第3世代EPYCの4モデルを提供

――CPUの上にSRAMを載せると熱対策的には不利になりますよね。

中村氏 そうしたデメリットは確かにあります。それでも、合計768MBというメモリがキャッシュとして利用できるメリットは大きいと考えます。768MBというと、少し前のシステムのメインメモリのサイズです。それをキャッシュとして利用できる。このため、キャッシュヒット率は大幅に向上します。

岡野氏 CPU内での処理のローカリティが高まり、利用するアプリケーションがより高いパフォーマンスを発揮できるようになるということですよね。第3世代EPYCのアーキテクチャなので、OSやアプリケーションに変更を加えずに対応することができます。これはユーザーにとっては大きな価値です。

――全てのMilan CPUモデルがMilan-Xに対応しているわけではないのですよね。

中村氏 第3世代EPYCは15種類のモデルありますが、3D V-Cacheは、全てのモデルにオプションとして提供されるのではなく、そのうちの4モデルに対応しています。具体的には、コア数が16個の「7373X」、24個の「7473X」、32個の「7573X」、64個の「7773X」の4つのモデルが新たに投入されました。この4種類を選んだ理由は、ベンチマークテストでアプリケーションへの効果が高いと分かったからです。

新EPYCプロセッサが登場する度にいち早くサーバを出荷してきたデル・テクノロジーズ

――では、Milan-Xは、どのような用途に適しているのでしょうか。

中村氏 大容量キャッシュが効果を発揮するアプリケーションとして、構造分析や流体解析、RTL(論理)シミュレーションなどが挙げられます。実際にCAE(コンピュータ支援エンジニアリング)/EDA(電子設計自動化)分野でのベンチマーク結果があるのですが、構造分析ソフト「Altair Radioss」を使った解析では競合と比較してパフォーマンスが最大75%向上し、衝突解析ソフト「Ansys LS-DYNA」では最大119%向上、「Ansys CFX」による熱流体解析では最大2.18倍に向上となっています。Ansysだけでなく、Cadence、Siemens、SynopsysといったISV(独立系ソフトウェアベンダー)とエコシステムを構築し、ユーザーに価値を提供していきます。

ALT AMD Milan-Xが適する用途(提供:日本AMD)《クリックで拡大》

岡野氏 デル・テクノロジーズでも、こうしたベンチマーク結果にはとても関心を持っています。「キャッシュを増やす」というある意味でシンプルな方法であり、中村さんが挙げられたようなキャッシュ容量の効く用途も明確なうえ、OSやアプリケーションの変更も必要ないため、提案もしやすいと感じます。

 また、デル・テクノロジーズはEPYC 7773Xを搭載したPowerEdge R7525で、SAP SDベンチで世界記録を更新しました。この記録は以前と比較して14%向上した数値です(※2)。
(※2)Cache in with PowerEdge and AMD EPYC

――デル・テクノロジーズのサーバではどのような対応をするのですか。

岡野氏 最新テクノロジーのユーザーメリットをいち早くお客さまに提供することが当社のミッションです。これまで、新しいEPYCプロセッサが出るたびに最速で搭載サーバを出荷してきましたが、今回も同様に、いち早く2022年3月22日にPowerEdge R7525、R6525、R7515、R6515、C6525にて工場出荷を開始しました。高い価格性能比に加え、こういったタイムリーな製品の市場投入が功を奏し、「Dell PowerEdge」サーバは、日経コンピュータによる顧客満足度調査(※3)、パートナー満足度調査(※4)でPCサーバ/サーバ部門1位を獲得するなど、お客さまから高く評価されています。国内のx86サーバ市場では、出荷金額・出荷台数ともに2021年の年間シェア1位になりました。
(※3)デル・テクノロジーズ、「日経コンピュータ 顧客満足度調査 2021-2022」において3部門で顧客満足度1位を獲得
(※4)デル・テクノロジーズ、「日経コンピュータ パートナー満足度調査 2022」の法人向けPC、サーバー2部門において初のパートナー満足度1位を獲得

コア課金アプリのライセンスコスト低減に直結

ALT アイティメディア @IT編集部
三木 泉

――デル・テクノロジーズは第1世代EPYCから積極的に対応し、EPYC搭載PowerEdgeサーバは多くのユーザーに採用されていますね。

岡野氏 研究機関でのHPC領域を中心に、製造業や金融業、サービス業、インターネット事業者、クラウド事業者などでの採用実績が増えています。用途としては、HPCの他、VDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)、半導体製造装置への組み込み、開発基盤、医療画像解析、ITインフラ基盤、大規模Hadoopデータ分析基盤などです。

 Milan-Xを搭載したPowerEdgeサーバについては、製造業のお客さまを中心に提案していく予定です。

――ユーザー企業がMilan-Xを搭載したPowerEdgeサーバで得られるメリットをあらためて教えてください。

岡野氏 大容量キャッシュによるパフォーマンス向上は、直接的なコスト削減につながります。サーバのコストよりはるかに大きいのは、アプリケーションのライセンスコストです。CAE/EDA/CFD(数値流体力学)アプリケーションはCPUコア課金が中心です。Milan-X搭載サーバによりコア当たりのパフォーマンスが向上することで、利用ライセンスを最適化しやすくなります。その意味からも、Milan-X搭載PowerEdgeサーバをどんどん導入してほしいと思っています。

――では、最後にお二人から読者にメッセージをいただけますか。

中村氏 3Dチップレットテクノロジーは、AMDが時間をかけて取り組んできてようやく実現した夢の技術です。Milan-Xを出すことができたということが画期的だと考えています。3Dチップレットを搭載した最初の製品であり、これからどんどん発展していきます。ぜひ、今後も注目してください。

岡野氏 大容量キャッシュが効くアプリケーションで30〜60%のパフォーマンス向上という、分かりやすいユーザーメリットが提案できる製品です。PowerEdgeサーバの豊富な採用実績とお客さまにご評価いただいている品質の強みを生かしながら、先進テクノロジーをいち早くお客さまに届けていきます。

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提供:デル・テクノロジーズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2022年4月28日

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