企業から「WAN回線やインターネット回線にモバイル通信を活用したい」という声が高まっているものの、コンシューマー用のモバイル接続サービスを企業が使うにはパフォーマンスやサポートの面でさまざまな課題がある。だが、こうした課題に応える法人向けモバイル接続サービスが登場したという。どんなサービスなのか。
クラウドサービスの導入やデジタルトランスフォーメーション(DX)促進を背景として、企業のさまざまな「現場」においてモバイル通信を使うケースが増えている。光ファイバーを敷設できない場所でも使えるし、短納期だからだ。とりわけ、工場や店舗での活用に大きなメリットがある。今まで光ファイバーを敷設できなかった場所でもクラウドサービスを導入したり、DXを促進したりすることが可能となる。
しかし、企業で使うには安定した通信帯域の確保や可用性など、クリアしなければならないハードルが幾つもある。また、モバイルキャリアの障害で通信断が発生し、さまざまなビジネスが影響を受けたというニュースも記憶に新しい。
これらのギャップを埋めるサービスとして、Coltテクノロジーサービス(以下、Colt)が「Colt IP Access 4G/5G Wireless Access」の提供を2022年10月に開始した。モバイルキャリア2社の回線を使える可用性や帯域保証など、法人利用に適したスペックを提供する。
Coltは、自社光ファイバーを持つ法人向け通信事業者だ。英国に本社を置き、欧州、アジア、北米を中心にグローバルでサービスを展開している。企業のWAN回線として、専用線や広域イーサネットサービス、クラウド接続サービス、インターネット接続サービスなどを提供する他、電話やサイバーセキュリティのサービスもラインアップする。
新サービス「4G/5G Wireless Access」は、インターネット接続サービス「Colt IP Access」のオプションという位置付け。日本法人代表取締役社長 兼 アジア代表の星野真人氏は次のように意気込みを語る。
「Coltはグローバルで、多くの法人企業に通信サービスを通じてその付加価値を提供してきた。日本では、われわれのサービス提供範囲は東名阪などの大都市圏に制限されていたが、アクセスのオプションとしてモバイル回線を提供できるようになることでより広範囲でのサービス提供が可能となり、より多くの企業の多様な通信ニーズに応えられるようになると確信している」(星野氏)
モバイル通信のユースケースは広いが、特に次の2つは最適な利用用途と考えられる。
1つ目は、光ファイバーの敷設が難しい場所にモバイル回線を単独で入れるケースだ。
日本国内では光ファイバーが普及していない地域は少ないが、デパートなどの店舗や工場など構内配線が難しい場所はある。DXの一環で、製造ラインの制御装置やセンサー、カメラの画像などのデータをクラウドに収集、分析してプロセスの最適化や品質管理を行うといったことも始まっている。従って、このような重要なデータをやりとりするDXの現場にはそれなりに安定したアクセス回線が必要になってくる。
物理的に有線接続が難しいという場合だけでない。例えば、スポーツなどのイベント会場や、ポップアップストアなど一定期間だけ出店する店舗、工事現場の事務所などは工事が終われば取り壊すため、物理的な配線はむしろ手間であり、コスト面においてもデメリットが多いと考えられる。
モバイル通信の2つ目の利用用途はWAN回線のバックアップとしての用途だ。
昨今、企業では SD-WAN(Software Defined-WAN) を導入するケースが増えている。背景の一つには、業務で日常的に使うアプリケーションのSaaS(クラウド)化や、社内の業務システムをクラウド上に移行する動きが広がったことによる。
従来、企業におけるWAN回線は、各拠点とデータセンターなどのセンター拠点をIP-VPNや広域イーサネットなどで接続し、センター拠点がインターネットとの接続やセキュリティ機能を担うというセンター集約型WANが主流だった。しかし、このクラウド化の進行で、インターネットやクラウド向けの通信トラフィックやセッション数が増大し、センター拠点がボトルネックとなって通信パフォーマンスの低下を招くようになったため、企業は旧来のWAN方式の見直しを迫られていた。また、コロナ禍は、これに拍車を掛ける結果となった。
現在多くの企業が進めているのはインターネット接続回線の活用だ。各事業拠点からクラウドへの接続は、センター拠点を経由せずに直接行うのが理にかなっている。また、その際に利用できるクラウド型のセキュリティサービスも増えてきた。事業拠点と本社との秘匿性の高い通信は、同じインターネット回線上でSD-WANを使用して実施する。
SD-WANでは、通信回線の選択肢が幅広く、選択の自由度も高い。帯域保証型インターネット、ベストエフォート型インターネット、有線、無線という組み合わせはもちろん、異なるキャリアの通信回線を組み合わせることも容易だ。配線工事が不要で短納期、低コストといった特徴を持つモバイル通信は、こうした新たな考え方に基づくアクセス回線の選択肢として魅力的だ。有線通信回線のバックアップ用途で使えば、低コストで可用性や信頼性を高められる。
「コロナ禍が始まった当初は先行きが不透明というのもあり、企業の通信インフラは帯域増速などで暫定的に対処する、という企業が多かった。しかし、2020年後半から、データセンター経由のレガシーな接続ではなく、事業拠点からインターネットやクラウドへ直接アクセスする必要性への認識が広がり、SD-WAN/SASE(Secure Access Service Edge)など抜本的なネットワーク更改の検討を開始する企業が増えてきた」(星野氏)
企業のアクセス回線としてのニーズが高まっている一方で、モバイルサービス自体はもともとコンシューマー向けサービスとして設計されているため、多くの場合、以下のような制約がある。
「コンシューマー向けのサービスは、企業におけるSD-WANやSASE、DXのユースケースにおいて、企業が必要とする要件を十分に満たしていない」と、同社のストラテジー&トランスフォーメーション部 IPサービス担当 プロダクトマネージャーの田中雄作氏は言う。
これに対して、Coltの4G/5G Wireless Accessでは、以下のようなスペックを提供する。
4G/5G Wireless Accessでは、「データ無制限」と「データ制限あり」の2種類のプランを提供する。
「データ制限あり」プランでは、契約帯域によってデフォルトでバンドルされているデータ量が異なるが、バンドル分では足りないようならデータ量を追加して契約することも可能だ。また、制限がある場合でも、「契約したパフォーマンスを保証するのがそのデータ量まで」というだけで、オーバーしたからといって通信できなくなるわけではなく、帯域制限後も、1Mbpsで通信できるため、POSデータくらいなら問題なく使えるだろう。
お勧めの使い分けは「ワイヤレス単独で使う場合は無制限プラン、有線サービスと併用して使う場合は制限ありプラン」(田中氏)とのことで、1Mbpsに落ちてもそれほど困らない利用用途なら、単独でも制限ありプランでよさそうだ。
また、契約帯域の50%以上を保証する「帯域保証型」のサービスというのも特徴だ。
契約の際には、導入地域でのモバイルキャリアのカバレッジ状況をツールを使ってリモートチェックし、モバイルルーターを設置した後に実際にトラフィックを流してテストする。田中氏によれば、「建物や周囲の状況により想定したパフォーマンスが出ない場合は、許容できる範囲かどうか検討していただき、場合によっては契約帯域のダウングレードをお勧めすることもある」という。どうしても帯域を妥協できない場合、有償の追加オプションによってアンテナを増設するという選択肢もある。
運用開始後に通信速度が契約帯域の50%を切った場合は「障害」と判定し、契約に基づいて対応をする。
設置工事の際に、国内のモバイルキャリア3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)から契約帯域を達成できる通信キャリアを選んで、モバイルルーターに2枚のSIMを挿す。プライマリーのキャリアで障害や計画メンテナンスによるサービス断があれば、自動で2番目のキャリアに切り替わる仕組みが備わっている。
また、一般的なモバイルサービスの問い合わせ窓口は、平日日中時間帯(9:00〜17:00など)しか対応しないケースも多いが、4G/5G Wireless Accessでは24時間365日の運用監視および窓口対応を実施する。さらに、ルーターが故障した際の現地交換も、有線の場合と同様にSLAに沿ったサービスを提供するなど手厚いサポートが魅力だ。
料金体系は、「データ無制限」と「データ制限あり」のどちらも契約帯域に応じた固定課金。通信量が増えてその月の請求額が予想外に跳ね上がる、といったことは起こらない。
キャリア冗長のサービスを提供している事業者が全くないわけではないが、帯域保証や24時間365日の監視、現地での故障対応などはオプションの場合が多く、標準提供しているところはColtの他にないという。
4G/5G Wireless Accessは数万円の価格帯というが、2枚のSIMと現地に出向いてのオンサイトサポートなどを考えれば、その価値はあるだろう。やや高額でも確実なアクセス回線が必要な場所に使えるモバイルの選択肢が、ようやく登場したといえそうだ。
また、4G/5G Wireless Accessは約90カ国(欧州、アジア、北米、南米、中東とアフリカの一部)で、ほぼ同様のサービスを提供している(ただし国や地域によって提供する帯域などに差はある)。海外に工場や販売店を持つグローバル企業の場合、契約や請求を日本でまとめて支払うことができる上、ルーターの故障や障害が発生した際も、Coltの窓口が一括して日英対応をするという。
「品質面においても、東南アジアの国々の場合、光ケーブルを使って有線でつなぐより、無線の方が安定するというケースもある」(星野氏)
その他、先述した帯域拡張のために追加のアンテナを立てるオプションや、LAN側でWi-Fiを使うオプションなども、有償で提供している。
ネットワークトランスフォーメーション(データセンターを経由するレガシーのWANからSD-WAN/SASEへのシフト)や、DXとそれに伴うクラウドシフトにより、インターネット接続のニーズが増加している。それと同時に、モバイル通信の技術革新により、広帯域で低遅延のアクセスが実現できるようになった。物理的な配線工事が不要なモバイル通信は、ネットワーク構成を柔軟かつ迅速に変更できるため、企業のアクセス回線に使うメリットが生かせる場面は、さらに増えるだろう。
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提供:Coltテクノロジーサービス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2022年12月9日