多くのシステムでクラウドへの移行が加速している。基幹業務システムも例外ではないが、自社のIT戦略やセキュリティなどの観点からオンプレミスのままのケースもある。そうした中、「オンプレミスも含めて、クラウドのように使いたい」といった新たな要望も出てきた。オンプレミス環境を生かしながら、クラウドのメリットを享受するにはどうすればよいのか。それを実現できる選択肢とは。
企業システムのクラウドシフトが大きな潮流となっているが、ERP(Enterprise Resources Planning)をはじめとする基幹システムも例外ではない。特にオンプレミスで運用するシステムでは、その運用コストが大きな課題となり、クラウド化の流れを後押ししている。
「IT関連のコスト構造としては、『攻めのIT』『守りのIT』があるといわれます。オンプレミスでカスタマイズしたシステムを運用していると、保守/運用関連の“守り”にばかりコストがかかり、“攻め”に移行できないケースはよく見られます。クラウドを活用することでコスト構造を変革し、攻めのITを強化したいというニーズは強くあります」と話すのは、SAPジャパンの増田剛氏(SAP S/4HANA Cloud 事業部 事業部長)だ。
SAPもクラウドシフトを進めており、中核となるERP製品「SAP S/4HANA」は2015年にリリースされ、現在はクラウド型の「SAP S/4HANA Cloud」の提供が主軸になっている。大手/中堅企業を対象に個別カスタマイズに対応する「Private Edition」と、中堅から小規模企業向けにSaaS形式で提供する「Public Edition」を展開し、2018年以降はクラウドの売り上げが従来型ソフトウェア販売を上回っている。
「グローバルでは約1万4500社がSAP S/4HANAを稼働させています。さらに直近の数年間は、半数以上がクラウドを選択しており、日本国内でも同様のトレンドです」(増田氏)
クラウド化と併せて重要な要素となるのが「デジタルトランスフォーメーション(DX)」、そして昨今注目される「サステナビリティー(持続可能性)」だ。SAPはグローバルで「インテリジェントサステナブルエンタープライズ」をコンセプトに掲げ、DXの推進とサステナブルな企業への変革を支援している。
「インテリジェントサステナブルエンタープライズは従業員が日々の運用に時間を費やすのではなく、経営企画やIT活用の戦略立案など、インテリジェントな業務にシフトするという考え方で、これを実現するのが『RISE with SAP』です」(増田氏)
RISE with SAPは、コアとなるSAP S/4HANA Cloudと併せて、拡張開発、アナリティクスなどのデータ基盤、ビジネステクノロジープラットフォーム(BTP)、調達/購買サービス「SAP Ariba」などを用いた外部サービスとの連携までを一気通貫で提供。ERP単体では実現できないことをソリューション全体で提供するモデルになる。
RISE with SAPはクラウドサービスだが、「RISE with SAP S/4HANA, Private Edition, Customer Data Center Option」(以下、RISE with SAP PECDC)として、自社データセンターなど、企業が希望する環境に構築できるオプションも提供している。
これは、Hewlett Packard Enterprise(以下、HPE)とのアライアンスによって、ソフトウェアライセンスからハードウェア環境までを包括的にサブスクリプション型で利用できるプランになる。ハードウェア運用も含めてマネージドで提供されるが、ハードウェアの設置場所は自由に指定できる。
「運用負荷、コスト圧縮など、クラウドのメリットは大きいとはいえ、どうしても自社データセンターを使いたいという要望は根強くあります。RISE with SAP PECDCならば、この要望に応えながら、サブスクリプション型で利用するクラウドのメリットを生かせます」(増田氏)
「自社データセンターがあるので有効活用したい」「機密性やセキュリティなどのポリシー上、社外にデータを出せない」など、事情は企業によってさまざまだが、RISE with SAP PECDCであればオンプレミス環境の活用とクラウドのメリット享受を両立させられる。
サブスクリプション型による運用コスト削減に加え、最近では激しい変化に対応するために、長期的な利用を前提とする永続ライセンスの購入ではなく、ライセンスを全てサブスクリプションで利用したいという要望もある。経営条件に合わせてその都度柔軟に見直しできるサブスクリプションへの評価が高まっているのだ。
オンプレミスのハードウェアから、SAPの一連のソリューションまでを全てサブスクリプション型で提供するRISE with SAP PECDCをインフラ面で支えているのが「HPE GreenLake」だ。
日本ヒューレット・パッカードの山本剛史氏(プリセールスエンジニアリング統括本部 カスタマーイノベーション本部 SAPコンピテンスセンター センター長)によると、HPEはSAP S/4HANAの前身である「SAP R/3」のころから30年以上にわたってSAPと協業体制にあり、20年以上前にSAPコンピテンスセンターを設立するなど緊密に連携してきたという。さらに、SAP HANAには開発から関わり、リリース前から自社業務用データウェアハウスの一部として活用。30TB以上のデータを格納して検証しているとのことだ。
HPE自身も基幹システムをSAP S/4HANAに移行し、グローバルで稼働していた10インスタンスを1インスタンスに統合。自社の基幹システムをSAP S/4HANAで運用することで、そのノウハウも含めてインフラを提供できるというわけだ。何よりも、SAPのインフラとしてサーバからネットワーク、ストレージ、構築サービスまで全て提供できることがHPEの大きな強みだ。
このようにインフラベンダーとしてのイメージが強いHPEだが、2019年に開催された「HPE Discover 2019」で「as a Serviceカンパニー」への変革を宣言し、全ての製品ラインアップをサービスとして提供可能にすることを打ち出した。2022年に開催された「HPE Discover 2022」では、全製品をサービスとして提供できるようになったと変革の完了を宣言。これを支えたのがHPE GreenLakeだ。
「HPE GreenLakeはハードウェアからハイパーバイザーまでのレイヤーをサブスクリプションサービスとして提供し、クラウド感覚でオンプレミス環境を利用できるので、RISE with SAP PECDCのコンセプトにもうまくマッチしました」(山本氏)
RISE with SAPのインフラとしてHPE GreenLakeを利用することで、「SAP S/4HANAをオンプレミスで利用したい」「サブスクリプションで利用したい」といった一見相反するニーズにも応えることができる。
「クラウド化が進んでも、フルクラウドはハードルが高く、オンプレミスに残る領域は実際にあります。HPE GreenLakeでうまく補完できるのではと考えています」(山本氏)
「オンプレミスのインフラも含めて、クラウドのように使う」というRISE with SAP PECDCが提供する新しいスタイルは、さまざまな企業が課題を解消するものとして期待しているという。HPE GreenLakeによってハードウェアの安定供給を保証できるメリットは大きい。例えば、あるコングロマリットでRISE with SAP PECDCが採用されている。
「自社データセンターで運用したいという要望が強かったこともありますが、とにかくデータ量が大きく、パブリッククラウドで対応し切れないという事情もありました。HPEの協力によって、大容量データを処理できるインフラを整えることができました」(増田氏)
この事例はアジア・パシフィックの企業だが、地域によってもどのようなデータの持ち方がベストかは大きく異なる。例えば、EU(欧州連合)なら、GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)の影響によってデータを外に出せないという事情から、自社データセンターのニーズが高くなる。
「クラウドのメリットが大きいからといって、全てパブリッククラウドに移行できるわけではありません。RISE with SAP PECDCなら、自社データセンターを活用するという要件でも、最大限のメリットを提供できます」(増田氏)
クラウドシフトが進んでも、オンプレミスのニーズは依然ある。「SAP S/4HANAやRISE with SAPのメリットを十分に生かすには、外部連携やセキュリティの問題をクリアする必要があります」と山本氏。より高度に活用するには、見えないコストもかかってくる。効果を最大化するためにRISE with SAP PECDCは有効な選択肢の一つとなる。
「RISE with SAPはインテリジェントサステナブルエンタープライズを実現する手段ですが、環境が激しく変化し、複雑化する中で、PECDCのオプションはさまざまなニーズにフィットするでしょう。これからもHPEとともに成長させていきたい領域です。自社データセンターを生かしながら、運用までまとめて任せることができるRISE with SAP PECDCの活用は、TCO(総保有コスト)を最適化し、攻めの投資にシフトさせることも可能にします。企業がDXを推進する上で効果的な取り組みとなるはずです」(増田氏)
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