写真フィルム事業で培った独自技術や企業文化、ブランドなどを活用し、事業の多角化を進める富士フイルムホールディングス。多くのレガシーシステムを抱えている同社は「DXを支える、柔軟で強靱なITインフラ構築」をどう進めているのか。
富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)は、写真フィルム製造の国産工業化を図る目的で1934年に設立され、写真フィルムや印画紙など写真感光材料の製造を開始した。1962年には、英国Rank Xerox(現Xerox)と合弁で富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)を設立し、複合機や業務ソフトウェアなどのオフィスソリューションでも広く知られるようになった。海外展開も積極的に推進している。
デジタル写真技術の発展と普及に伴い、写真フィルムの需要が2000年ごろにピークを迎えると、写真フィルム事業で培って進化させてきた独自技術や企業文化、ブランド、財務力などのアセットを活用しつつ事業の多角化を進めた。現在は、写真領域の“イメージング”だけでなく、医療機器、「バイオCDMO」(Contract Development and Manufacturing Organization)、創薬支援、化粧品などの“ヘルスケア”、半導体のプロセス材料などを扱う“マテリアルズ”、働き方革新や「デジタルトランスフォーメーション」(DX)を支援する商品やサービスを提供する“ビジネスイノベーション”の4つの領域で成長を続けている。
そうした富士フイルムグループの好調を支える要因の1つがDXだ。富士フイルムホールディングスは2014年に「ICT戦略推進プロジェクト」を発足し、本格的な取り組みに乗り出した。2021年には、富士フイルムグループがDXで目指す姿を明文化した「DXビジョン」を策定。また、グループ全体のDX推進に関わる最高意思決定機関として、CEO(最高経営責任者)を議長とする「DX戦略会議」を設置し、グループ横断的に「All-Fujifilm DX推進プログラム」を進めている。
All-Fujifilm DX推進プログラムは、製品開発や業務改善など各部門の個別最適に陥りやすいDX活動の中から、より大きな効果が見込める「サプライチェーンの変革」や「グループ全体の業務効率化」といった取り組みを選定し、全社規模でのDX活動へと引き上げて展開している。こうした取り組みの成果は、経済産業省の「DX銘柄2020」「DX銘柄2022」に選定されるといった形でも表れている。
「現代社会において、厳しい企業競争に勝ち抜くにはDXは欠かせない取り組みの1つです。富士フイルムグループのDX推進を支える基盤は、『製品・サービスDX』『業務DX』『人材DX』という3つの柱で構成されており、イノベーティブな顧客体験の創出や社会問題の解決、新たなビジネスモデルの創出、飛躍的な生産性向上を目標としています。製品・サービスDXは、各事業部に設置されているDX推進チームとわれわれICT戦略部が連携しながら進めています。業務DXはITシステムと密接に絡むものなので、グループ全体の業務システムの刷新やイノベーションをICT戦略部が中心となってリードしています。その中で、ITインフラとセキュリティを担う『インフラ・セキュリティグループ』は、製品・サービスDX、業務DX、人材DXの全てを下支えするインフラをグローバル統合基盤として整備しています」と、富士フイルムホールディングスの渡邉 健太郎氏(ICT戦略部 統括マネージャー)は述べている。
富士フイルムグループは富士フイルムホールディングスを中心とするグループ経営を展開しており、事業会社とその関係会社を傘下に持つ。歴史ある組織も多く、ITインフラは各社の組織体制や事業に合わせて構築、運用されてきた。そのため、ITインフラはオンプレミスを中心としたレガシーなものとなっており、セキュリティレベルもそれぞれ異なっていた。しかし、グループ全体でDXを推進するためには、ビジネスの変化にスピーディーかつ柔軟に対応できるようにクラウドを活用する必要がある。クラウドを活用するためのセキュリティ確保も重要で、柔軟で強靱なITインフラをグローバルレベルで準備しなければならない。
「昨今はサイバー脅威が急激に増加しており、われわれもセキュリティインシデントを経験しました。また2020年以降の新型コロナウイルス感染症のまん延によって、レガシーなオンプレミスシステムでは従業員の活動を支援し続けるのは難しいことが分かりました。セキュリティ対策強化とDX推進のため、最新のITインフラへの刷新が急務であると考えました。そこで新しいITインフラの要件として『柔軟さや強靱さを重視した“クラウドセントリック”であること』『“グローバルで統一”されたインフラであること』『多様な環境での安全性を確保するため“ゼロトラスト”を意識したものであること』を定めました」と、渡邉 健太郎氏と富士フイルムホールディングスの渡辺和博氏(ICT戦略部 マネージャー インフラ・セキュリティグループ 基盤チーム長)は振り返る。
しかし、レガシーなオンプレミスシステムから、一足飛びにクラウドへ移行することは極めて困難だ。そこで富士フイルムグループは「レガシー/オンプミスからクラウドへの移行」「従来のセキュリティシステムをそのままクラウドで使用できないところの保護」という2つの取り組みを進める上で必要となる柔軟でベンダーロックインを回避できるソリューションを模索していた。
「特にコロナ禍で働き方が変わり、出社しないのが当たり前な環境になったことが、大きくインフラを変える必要に迫られたきっかけでもありました。オンプレミスでは問題がなかったサーバも、クラウドではセキュリティの問題が生じてしまったものも多くありました。このような悩みを解決してくれると考えたのがVMwareのソリューションだったのです」(渡辺和博氏)
「われわれICT戦略部の思想として、ベンダーフリー/プラットフォームフリーのインフラづくりを掲げています。『ベンダー間の差異の吸収』『異なる事業特性に最適化』『その時代で最もパフォーマンスとコストに優れたテクノロジーの採用』をかなえる仕組みを整備したいという思いと、VMwareのビジョンがマッチしたといえるのではないでしょうか」(渡邉 健太郎氏)
多くの組織と同様に富士フイルムグループでも、セキュリティが全ての事業のベースになっている。そのセキュリティ対策を強化する上で「VMware NSX Security」は重要な役割を担っている。
従来、同グループでは「境界型防御」でシステムを保護していたが、1000台以上あるサーバの全てにセキュリティ施策を実施し、管理することは非常に困難で、多大なリソースが必要だった。また、各事業部が構築したセキュリティのレベルもまちまちで、多様な環境からのアクセスが期待される「モダンなITインフラ」としては不十分な状態だった。「VMware NSX」のマイクロセグメンテーション機能を使えばサーバ1台1台を統一されたポリシーで保護でき、VMware NSX Securityを活用することで仮想パッチの適応などのさらに高度なサイバーセキュリティ対策も可能になる。
「セキュリティは、全てのITインフラ、ビジネスの基礎であると考えています。単に強固なだけではなく、グループ全体で統合されており、将来にわたって継続的に保護できることが重要です。オンプレミスでもクラウドサービスでも統合的にセキュリティを強化できるVMware NSX Securityの技術は理想でした。既存のシステムをクラウドへリフトした後、クラウドネイティブなサーバレス環境へとモダナイズして、さらにマルチクラウドへと拡大していくに当たり異なるベンダーやプラットフォームの中間層の役割を担うVMwareの技術には大きな期待を寄せています」(渡邉 健太郎氏)
グループ全体でITインフラを統合するには、さまざまな組織間の調整が欠かせない。富士フイルムホールディングスのICT戦略部は、各組織のリーダーと安全性や利便性についてきめ細かなコミュニケーションを重ね、クラウド技術やVMwareのテクノロジーで実現されるメリットについて丁寧な説明を繰り返し、共通認識の形成に取り組んでいる。
渡辺和博氏は、「富士フイルムグループのDXを支えるITインフラのマルチクラウド/ハイブリッドクラウドに対するビジョンは、VMwareのビジョンと非常に似通っていると感じます。VMwareはグローバルサポートも手厚いため、ITインフラの革新を世界の各拠点へと広げていくに当たって、各地とのコミュニケーションも含めた、“総合的に距離の近いサポート”を願っています」と、富士フイルムグループのDX計画を支える戦略的なパートナーとしてVMwareの活躍に期待していることを強調した。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2022年12月20日