「移行は不安」「クラウドは高い」は本当? 盛岡市に聞く、ガバメントクラウド移行「本当のこと」耐障害性を確保、遠隔地バックアップを実現

社会全体でデジタル化が進む中、利用者にとって利便性の高いサービスを提供、改善することを目指しデジタル庁主導で推進している政府共通のクラウドサービス利用環境であるガバメントクラウド。自治体においても開発、運用の効率化などクラウドのメリットは認知されているが、止められないシステムを持つ組織ほど、移行に懸念や不安を抱く傾向が強い。では実際のところ、どうなのか。ガバメントクラウド先行事業に採択され、移行を果たした盛岡市に聞いた。

» 2023年03月09日 10時00分 公開
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 既に多くの組織が実践している既存システムのクラウド移行。インフラ整備のスピードや柔軟性、運用コスト効率など、その基本メリットは広く認知されている。しかし半面、「コストや負荷が増大した」といったケースもあるようだ。クラウド移行自体に懸念を抱く向きもある。だが、社会全体でデジタル化が進む今、その中核手段となるクラウドを避けて通ることはできない。

 では、本当に「クラウドは不安」なのか、「高くつく」のか。2025年度完了を目指した地方自治体情報システムのガバメントクラウド移行を鑑み、課題を検証する先行事業に採択され、移行を果たした盛岡市の本舘真隆氏(デジタル推進事務局)に実体験を聞いた。

人口約30万人を擁する盛岡市 先行事業参加の背景

 岩手県中部に位置し、人口約30万人を擁する盛岡市。米The New York Times誌が「2023年に行くべき52カ所」としてロンドンに次いで2番目に選定するなど、城下町を中心とした風情ある町並みも注目を集めている。その市民生活を支える行政システムについて、他の自治体に先んじてガバメントクラウド移行に取り組んだ背景を、本舘氏は次のように話す。

盛岡市 デジタル推進事務局 本舘真隆氏 盛岡市 デジタル推進事務局 本舘真隆氏

 「デジタル庁が発表したガバメントクラウド移行まで約3年と迫っていた2020年、盛岡市としてどう移行すべきか当初は悩んでいました。そんな折に、ガバメントクラウド先行事業への参加団体をデジタル庁が募集し、移行に向けた検討を重ねる中で大きく分けて2つのメリットを想定したのです。1つは経験の獲得。ガバメントクラウドが全自治体に提供されるより2年早く、2021年から取り組みを推進できるため、環境構築期間を確保できる他、本稼働に向けて経験、ノウハウを蓄積できます。もう1つは作業負担の軽減。最終的には20システムの移行が必要ですが、計画を前倒しすることで後から移行するシステムの作業負担を減らせると考えました。以前より行政システムを提供いただいているアイシーエスさんとも相談し、先行事業への参加を決めたのです」(本舘氏)

 盛岡市では住民記録や税、年金関連業務などを行う行政システムとして、アイシーエスのパッケージシステム「INSIDE6」を活用している。オンプレミスで稼働させていたが、そのサーバのリース契約期間が切れるタイミングと合っていたことも参加の追い風となった。また既存システムには運用保守コストと災害対策の課題も残されていた。

 「行政システムは絶対に止めることはできません。そこでアイシーエスさんのハウジング環境に管理を委託することで安定性と運用効率化を両立してきましたが、当然、保守料はかかります。これを今後どう最適化していくかが、1つの課題になっていました。一方、災害対策については東日本大震災の教訓があります。東北の自治体ではサーバが物理的に破損してデータ復旧できなかったところもあり、盛岡市としても遠隔地バックアップの必要性を感じていたのです。以前、関西以南の施設を使った遠隔地バックアップを検討したのですが、費用面と技術面がハードルでした。今回はこれらの解決も見込んでいました」(本舘氏)

 なお、システム管理は約10人で行っているが、INSIDE6はメイン担当とサブ担当の2人が担当してきた。無論、盛岡市ではINSIDE6だけではなく、マルチベンダーのさまざまなシステムを活用しているため、オンプレミスの管理負担は少なくなかったという。ガバメントクラウド移行はこれらの課題を解決する良いタイミングでもあったわけだ。

既存システムをそのまま移行し、コスト最適化も実現 IaCで環境構築もスピードアップ

 ただ、解決を期する課題は複数あったとはいえ、目標は1つに絞っていたという。「既存システムをクラウドにそのままリフトすること」だ。

 「前述のように行政システムは絶対に止めることはできませんし、エンドユーザーの操作性に影響が出ることも許されません。しかし、盛岡市にはクラウドの利用実績がない他、オンプレミス環境はマルチベンダー製品が混在し、複雑にデータ連携しています。そうした中、まずは核となるINSIDE6をそのままクラウドにリフトできれば、複雑化したオンプレミス環境を抜け出すトリガーになると考えたのです。まずは確実にリフトし、次のステップで、コスト最適化や国の標準仕様書への対応、クラウドネイティブの実践を図っていこうと考えました」(本舘氏)

アイシーエス 自治体DX推進プロジェクト 後藤譲氏 アイシーエス 自治体DX推進プロジェクト 後藤譲氏

 では具体的に、何が移行作業のポイントとなったのか。INSIDE6のみのリフトについて、アイシーエスの後藤譲氏(自治体DX推進プロジェクト)はこう説明する。

 「リスクを避けるため、パッケージの一部ではなく、盛岡市向けにカスタマイズした機能も含めてパッケージを丸ごと移行する構成にしました。オンプレミスに残る他システムとのデータ連携については、連携のためのサーバをアマゾン ウェブ サービス(AWS)上に構築し、それを介して他システムとつなげる仕組みとしました」(後藤氏)

 とはいえ、懸念もあったという。アイシーエスのINSIDE6開発責任者の齋藤徹氏(自治体DX推進プロジェクト)と同社の渡邊勝也氏(自治体DX推進プロジェクト)はこう話す。

アイシーエス 自治体DX推進プロジェクト 齋藤徹氏 アイシーエス 自治体DX推進プロジェクト 齋藤徹氏

 「弊社としても初めてのガバメントクラウド利用となるため、知識や経験がないことが何よりの懸念材料でした。当初はパッケージがそのままAWS上で動くかどうかも分からないという状態でした。実際に移行作業を進めてみると、リフトに当たってシステムのオートスケール対応が必要になることも分かりました。INSIDE6はサーバ台数を固定で運用することが前提のシステム。負荷やニーズに応じてサーバ台数が自動的に増えることを想定した設計ではありませんでした」(齋藤氏)

 「ただ、作業過程でオートスケール以外は問題なく稼働することも分かりました。こうした対応を行っただけで、他の部分は改修せずにそのままリフトすることができたのです」(渡邊氏)

 なお、AWSが提供する各サービスのサイジングについては、オンプレミスのようなピーク時に合わせた算出ではなく、利用状況が変化することを前提にスペックを調整した。具体的には、オンプレミスでのサーバ利用状況を基に、適切な費用、必要なI/Oを算出した上で、「Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)」で適切なスペックを検討した。

アイシーエス 自治体DX推進プロジェクト 渡邊勝也氏 アイシーエス 自治体DX推進プロジェクト渡邊勝也氏

 「従来のオンプレミスベースの設計では、“止まらないシステム”を目指すためにオーバースペックにならざるを得ない部分もありました。その点、AWSではリソースを必要なだけ用意し、柔軟に利用できます。利用者の利便性を第一義に『エンドユーザーに違和感なくシステムを使ってもらえること』を大前提に、本舘さんと相談しながら最適なスペックを提案、検討しました。コスト削減自体を目的としないよう考慮しましたが、スペックとコストをてんびんにかけることで結果的にコスト最適化にもつなげることができました」(渡邊氏)

 また、移行作業はデジタル庁、盛岡市、アイシーエスで計画と進捗(しんちょく)を共有しつつ、2021年9月から全体計画の策定を始め、同年12月からガバメントクラウド上に環境構築を開始。2022年の8月から11月に各種検証を行い、移行自体は2022年末から年始にかけての3日間でトラブルなく完了した。こうしたスケジュール通りのプロジェクト推進には、インフラ構築自動化を取り入れたことも奏功したという。

 「AWS上でのインフラ構築は、デジタル庁の標準非機能要件に準拠することが基本です。それを受けて、また今後の運用効率化に向けて、IaC(Infrastructure as Code)を実践したのです。人手ではなくコードで環境を管理、構築できるため、テスト環境、本番環境などインフラ構築のスピードと作業の確実性が格段に向上しました」(渡邊氏)

耐障害性を確保、遠隔地バックアップも実現 「市民に利便性というリターンを」

 こうしてAWSを活用したガバメントクラウド移行は成功した。システム構成図は以下の通りだ。

盛岡市のガバメントクラウド移行、システム構成概要図 盛岡市のガバメントクラウド移行、システム構成概要図

 本舘氏は、「オンプレミスのINSIDE6でもサーバ冗長化やデータバックアップを徹底して行い、行政窓口が止まることがないよう配慮してきました。今回はマルチAZ(アベイラビリティーゾーン)やバックアップサービスなどAWSの各種サービスを活用することで、アイシーエスさんの運用保守負担を減らしながら耐障害性を高めるとともに、懸念だった遠隔地バックアップも実現できました」と話す。

 本舘氏によると、当初はコスト面からシングルAZでの設計を検討していたという。しかし、耐障害性を優先することとして途中で東京リージョン、大阪リージョンのマルチAZに変更した。

 「オンプレミスシステムの場合、途中で設計、構成を変えることは難しいものです。しかし設計段階では先を読めないこともたくさんあります。この辺りの柔軟性もクラウドならではのメリットだと思います」(本舘氏)

 こうして数々の課題を乗り越え、クラウド移行のメリットを獲得した盛岡市。本舘氏は「アイシーエスさんには本当に感謝しています」と総評する。

 「行政システム以外でも、介護保険や生活保護関連のシステム、仮想サーバ基盤の構築など、アイシーエスさんにはさまざまなシステムをお願いしています。INSIDE6だけを請け負うのではなく、システム全体の状況や課題を認識いただいている中でプロジェクトを推進いただけたことが成功のポイントだったと思っています」(本舘氏)

 まさしく「パートナー」という関係性が奏功したということだろう。アイシーエスとしても「本舘さんをはじめ、盛岡市の協力があってできたことです」と振り返る。今後は今回の先行事業で得た知見やノウハウを活用して、オートスケール対応領域を増やすなどコスト削減を追求していきたいという。同時に、SIerとしてクラウド移行支援事業を加速させる方針だ。

 「ガバメントクラウド先行事業への応募はある意味チャレンジでしたが、AWSのサポートを受けながらの試行錯誤の中で、知識やノウハウを習得できたと思います。また、先行事業を経て得られた経験やノウハウを元に、クラウド移行に不安を感じている自治体やSIerの方々の力になれるのではと自負しています。今後は他のSIerやベンダーと情報交換しながら、業界全体としてクラウド活用の機運を高めていければと思っています。AWSはサポートやコミュニティーでそうした場を提供してくれるので心強く感じますね」(後藤氏)

 本舘氏もこう展望する。

 「以前から自治体クラウドを始めとした行政システム統一の話はありましたが、国策として実現はできていませんでした。しかし現在は、デジタル庁のリードや総務省のデジタル基盤改革支援補助金など、社会全体としてデジタル化に向けた機運が高まっています。業務システムのデジタル化に対する課題はあるものの、それは今、乗り越えないといけないものだと感じます。何より市民の方々に利便性というリターンを返していきたい。盛岡市としてはこうしたチャンスをつかみ、進んでデジタル化に取り組んでいきたいと考えています」(本舘氏)

 「クラウドのコストは高くつく」という声もあるが、盛岡市の事例で分かるのは、クラウドの特性を理解して使いこなすことで、コスト削減はもとより、作業負担の軽減や遠隔地バックアップなど付加価値が得られるということだ。盛岡市とアイシーエスが協創関係のもと取り組んだ点も、成功の要因といえそうだ。

 AWSでは本記事で取り上げたガバメントクラウドのコストに関する自治体さま向けのウェビナーを開催いたします。ウェビナーでは令和3年度、4年度の先行事業として取り組まれた埼玉県町村会さまが、美里町、川島町のガバメントクラウド移行にどのように取り組まれたのか、中間報告で公表されているコストについてもご説明いただき、AWSのクラウドエコノミクス担当者から「クラウド活用で享受する経済メリット」、ソリューションアーキテクトから「今後のガバメントクラウド移行に向けて検討すべきポイント」を解説いたします。

【自治体向け】ガバメントクラウドのコストが「高い」は本当か? 〜先行事業自治体が事例を交えてご紹介〜

※本動画は2023年3月23日に実施したウェビナーのセッション動画となります※


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