「クラウド」を冷静に考えられる時代がやってきた。企業にとっては自社のITインフラを見直し、最適化を図れるチャンスが訪れたともいえる。このチャンスをどう生かすか。戦略的かつきめ細かく考えることが、何よりも重要だ。
10年くらい前からだろうか。「クラウドファースト」という掛け声の下に「全てのITシステムを特定のパブリッククラウドに移行する」と宣言し、実行してきた企業は多い。その背景には、柔軟性のないITインフラ、旧態依然とした運用のしがらみから脱却したいという思いもあっただろう。
こうした取り組みで一定の効果は得られたものの、クラウド移行そのものが目的化し、「クラウド化のためのクラウド」とネガティブに捉えられることも増えてきた。例えば、各システムの特性や運用要件を考えずに無理やりクラウド化し、結果として移行に手間がかかり、運用にも苦労しているケースが見られる。
一方、近年ではプライベートクラウド、マルチクラウドの技術が発展してきた。このため、「特定クラウドありき」ではなく、システムの特性や利用目的などに応じ、クラウドを組み合わせて利用できるようになった。「パブリッククラウドブーム」を冷静、慎重に眺めていたITインフラ責任者にとっては、最適なクラウド環境を構築するチャンスが訪れたともいえる。
とはいえ、自社の中長期的なDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略に最適なクラウド環境を構築するのはそう容易ではない。ハイブリッド/マルチクラウド時代の到来を生かし、自社に最適なクラウド環境をどう選択し、運用をいかに効率化すればよいのか。そのために、現状でITインフラ責任者はどのような点に考慮すべきなのだろうか。
パブリッククラウドへの移行が進んだ企業は、移行が一段落したところで現状を評価し直している。その結果、「今よりもっと良いクラウドの運用方法があるのでは、といった声を聞くことが増えています」と話すのは、日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)の小林直也氏(DX Platform Hybrid Cloud Lead)だ。
「本来はシステムごとに特性を見極め、移行後の運用も見越して最適なクラウドを選べればよいのですが、仕方がなくハイブリッドクラウド環境となっているケースは多いです」(小林氏)
会社の方針でパブリッククラウド移行を進めたが、運用ルールの制約などでどうしても移行できないシステムもある。そのため、一部だけを自社データセンターに残し、結果的にハイブリッドクラウド環境となることはよくある。一方、全システムクラウド化の方針を立てたため、早々に自社データセンターを廃止した企業もある。この場合、移行できないシステムは、データセンター事業者のコロケーション環境に移さざるを得なくなったりする。
企業は「仕方がなく」のハイブリッドクラウドから、戦略的なハイブリッドクラウドへの移行を図らなければならない。そうでないと、ビジネスを駆動できる“真のクラウド最適化”を目指せないからだ。
この取り組みを中立的な立場で支援するため、HPEはコンサルティング/インテグレーション/プロフェッショナルサービスを提供している。
HPEといえば、ハードウェアベンダーのイメージが強い。中立的な立場ではなく、オンプレミス/プライベートクラウドに偏った提案をするのではないかという疑念が湧いてしまう。だが、そうでないことはHPE自身のIT環境が証明していると、小林氏は強調する。
「プライベートクラウドは2〜3割程度しかなく、その他はパブリッククラウドやSaaSを使っています」(小林氏)
しかも、この3つの割合を決めてかかっているわけでもない。HPEでは、どういったシステムについてパブリッククラウド、SaaS、プライベートクラウドのどれを選ぶかについて、社内でガイドラインを作っているという。これに基づいて、システムごとに何を使うかを決定しているのだ。
大まかには、業務上重要性が極めて高く、高いトランザクション性能や可用性が求められるシステムはプライベートクラウドで運用する。扱うデータの機密性が高いために、プライベートクラウドに置いて自分たちでコントロールした方がよいと判断するケースもあるそうだ。
可用性では、問題が発生しビジネスに影響が出た際に説明責任が果たせるかどうかをHPEは判断の基準の一つとしている。顧客にも、この点についてアドバイスすることが多いという。
「パブリッククラウドの障害でビジネスに影響が出た際、クラウドベンダーの見解だけでは株主などに説明しきれないとの声はよく聞きます」と、HPEの木村 塁氏(DX Platform Hybrid Cloud Sales Lead)は話す。
「システム単位で、最適な環境を戦略的に選ぶことが重要です」(木村氏)
自社の取り組みはもちろん、国内のクラウド化を支援した数々の事例などを基に、HPEではベストオブブリードの提案をしている。
例えば、HPEで手掛けた日本たばこ産業の事例では、コーポレートサイトの刷新で関連システムをプライベートクラウドから「Microsoft Azure」(以下、Azure)へ移行し、パーソナライズされたコミュニケーションを強化した。
既存のWebポータル環境をAzureへ移行可能かどうかの検討から、実際に移行が完了するまでのプロセスをHPEは並走型で支援。Azureへの移行で変わる運用方法や体制も含め、エンド・ツー・エンドでサポートしている。この事例はパブリッククラウドへの移行を、迅速に手間をかけずに実現することに重きが置かれたものだという。
リフトからシフトを進め、既存アプリケーションにも手を入れ、ビジネスに新たな価値をもたらした事例もある。クレジットカード会社のジェーシービー(JCB)では、カードユーザーが利用する「MyJCBサービス基盤」を、「HPE GreenLake edge-to-cloud」プラットフォームの活用でモダナイズし、カスタマーエンゲージメントの強化、新サービスの拡充を図っている。
JCB会員専用Webサービスである「MyJCB」では、アプリケーションをタイムリーに改善して、カスタマーエクスペリエンスの向上を図りたかった。そのための柔軟性と俊敏性のあるWebポータル基盤を、クラウドネイティブ技術で実現。求められていたミッションクリティカル性への対応は、顧客データを扱うデータベースをプライベートクラウドで動かすなどで確保し、ツールやログ管理はPaaSやSaaSを用いコストや運用管理を効率化している。
「機能や用途、重要性などを考慮し、ベストオブブリードの提案をしました。1つのシステムの中でも、ハイブリッド構成を考えることはとても重要です」(木村氏)
クラウド化に伴う課題は、移行やシステム構築だけではない。アプリケーションの違いを考慮し、企業文化やルールなども新たな環境に適合させる。概念検証(PoC)などを通じてシステムをよく理解し、クラウド展開した際の運用について十分に準備する必要があると木村氏は指摘する。
また、企業には「CAPEX(投資)」から「OPEX(経費)」への移行を進めたいとのニーズもある。HPEでは、パブリッククラウドからプライベートクラウド、エッジでのワークロードに至るまでを、単一の“as-a-Service”プラットフォームで提供している。これにより、ハイブリッドクラウド環境でも全体的に柔軟なコストコントロールができるようになる。セルフサービス型の運用ポータル「HPE GreenLake Central」を用いたIT調達と統合的な管理も可能だ。
HPEがやりたいことは、それぞれの顧客が、最適な構成のクラウドを運用し続けられるようにすることだ。そのため、サービス部隊によるクラウド活用の支援に、特に力を入れているという。クラウド化の方針などに関するコンサルティングを提供する「アドバイザリ」、実際のクラウド環境の構築、移行を行う「プロフェッショナル」、そして移行後の運用をサポートする「オペレーション」で構成されるサービス群だ。
「HPEのハードウェアに寄ることなく、フラットな視点でクラウド活用を提案し、パブリッククラウドの構築や運用も含め、トータルにサポートします」と小林氏は説明する。
また、プライベートクラウドにパブリッククラウドのエクスペリエンスをもたらすサービスとして提供しているのが、「HPE GreenLake」だ。これにより「あらゆる場所でクラウドのメリットが得られます」と、HPEの山崎浩之氏(DX Platform Hybrid Cloud Solution Lead)は説明する。
以前のHPE GreenLakeは、実績あるHPEのハードウェアを従量課金で利用するためのソリューションだった。それが現在では、ハードウェアだけでなく他社製も含めたさまざまな製品・サービスを1つにまとめ、運用のサービスも含めることができるため、オンプレミスでありながらPaaSのように利用することも可能になっている。
そして、よりパブリッククラウドライクなPrivate Cloud基盤として進化したのが、「HPE GreenLake for Private Cloud Enterprise」だ。
必要なリソースをあらかじめHPEがセットアップして提供し、利用者は必要なタイミングでセルフサービスによりリソースを切り出して使用し、使用量に応じて課金される。リソースは、仮想サーバやコンテナはもちろん、ベアメタルとしても利用できる。それらのセルフプロビジョニングの仕組み、ブループリントを活用したアプリデプロイ、自動化やIaC(Infrastructure as Code)ツールとの連携などの機能はHPE GreenLake Centralという管理ポータルにあらかじめ組み込まれており、パブリッククラウドのポータルと同様の管理が可能だ。
インフラの運用はHPEが行うので、パッチ適用などをユーザーが気にする必要はない。アプリケーションに影響が出るような更新は、顧客とあらかじめ調整することも可能だ。これらにより、プライベートクラウドであっても、パブリッククラウドと同じエクスペリエンスを実現できるのだ。
また、HPE GreenLake Centralから、パブリッククラウド側にデプロイすることもできる。さらに、パブリッククラウドを含めたコスト管理も、管理画面から一元的に行える。HPE GreenLake for Private Cloud Enterpriseは、顧客の最適なクラウド環境を実現する際の、強力な手段だと山崎氏は自信を見せる。
とはいえ、「あくまでもHPE GreenLakeも手段の一つであり、HPEでは顧客にとって最適なクラウド活用は何かをまずは考え、それをベストな形で実現します」と木村氏。多くの企業が、進めてきたクラウド化を振り返り反省する時期に来ている。次のステップを踏み出す際の幅広い選択肢で、顧客と並走することこそがHPEの強さであることも木村氏は強調する。
“HPE=ハードウェアベンダー”、そのイメージはもう古い。最適なクラウド環境を戦略的に実現することが重要であり、複雑で難易度の高いハイブリッド、マルチクラウド環境のシンプル化こそHPEのアプローチがフィットするという。構築してから5年、10年と長い間価値を生み出し続ける部分でHPEの真価は発揮される。
小林氏はあらためて、「顧客企業自身が、何を目的にどうクラウドを使いこなしていくかをしっかり定めることが最も重要です。そのためのビジネスに直結するクラウド戦略を含め、HPEは支援できます」と強調している。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2023年9月19日