明確な正解があるわけではない。誰かの指示に従うのではなく、試行錯誤しながら課題に取り組む。だから、大変なときもあるが、すごく楽しい。
就職情報サービスや進学情報、ニュースメディアなど幅広い事業を展開するマイナビでは、これまで事業ごとにバラバラに構築してきたサービス基盤の連携を図るとともに、内製化にもかじを切りつつある。
その最初のプロジェクトが、「マイナビバイト」「マイナビ転職」といったマイナビが運営する求人情報をまとめて掲載し、検索、閲覧できるようにした「マイナビジョブサーチ」(ジョブサーチ)だ。2022年5月にスタートしたジョブサーチでは30万件以上の求人情報を閲覧でき、Webと専用アプリ、どちらからも利用できるようになっている。
これだけの規模で、しかも各サービスを束ねるプロダクトとなると、中堅どころからベテランエンジニアがリードしたものと想像しがちだ。だが実は転職して1年あまり、30歳前後の若い2人のエンジニアがプロジェクトを推進している。
不確実性の時代と言われ、3年後どころか1年後、半年後を見通すのも難しい今、かつてのようにしっかり中長期計画を立て、それに沿って進めていくやり方ではピントの外れたビジネスになってしまう可能性が高い。システム開発も同様だ。初めにきっちり仕様を固め、それに沿ってスケジュール通りにものを作っていくウオーターフォール方式で進めていると、システムが出来上がったころには事業を取り巻く状況も、実現するテクノロジーも陳腐化してしまう恐れがある。
こうした背景から、2週間程度の短いサイクルを回し、試しながら少しずつ前進していくアジャイル開発、スクラム開発を取り入れる企業が増えている。マイナビもその一社だ。しかも同時に外部パートナーに開発、実装を委託する方式から、自社のエンジニアが自らの手で開発作業を行う内製化への切り替えも進めている。
マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部の相馬大樹氏によると、マイナビにはそれまで、マイナビバイトやマイナビ転職といった事業ごとにIT部門が存在し、それぞれがそれぞれのパートナーと組む形でサービスを支えるシステムを構築していた。それはそれで事業に沿った機能が実装できるメリットもあるが、徐々に課題も顕在化していたという。
「私が入社する前は、事業部ごとに縦割りになっていたため部門横断的に活用できるプラットフォームや仕組みがなく、データ利活用が進んでいませんでした。部門をまたぐため人の柔軟な割り当ても困難でしたし、似たような機能をあちこちで作るため、全体で見るとコストが肥大化していたと聞いています」(相馬氏)
サイロ化を解消し、こうした課題を解決する手段として、マイナビは2022年に「デジタルテクノロジー戦略本部」を設け、事業部ごとに存在していたIT部門を集約した。横の連携を実現して人材リソースやコスト、システムの分断をなくし、市場の変化に合ったサービスをより迅速に、柔軟に実現していくことが目的だ。
ただそれだけならば、デジタルテクノロジー戦略本部がまとめて仕様を作り、外部に委託する選択肢もあっただろう。しかし、より良いサービスを実現していくには内製化がベストな選択肢だと同社は判断した。
「外注の場合、一度システムを作ったらそこで終わりになってしまいがちです。改修するにはまた別の外注先に依頼するなど、サービス展開が断続的になってしまう恐れがあります。やはり市場の変化に対応していくには、内部で開発し、常に改善し続けるサイクルが必要です」(相馬氏)
より良いものを、より素早く開発できるだけでなく、その経験やナレッジを組織の中に蓄積できることも利点だと判断した。
実際、その試みは功を奏している。デジタルテクノロジー戦略本部の久保和希氏は、「ジョブサーチにどのくらいアクセスがあるのか、どう改善していくのかといった事柄を、マネジャー的な立場にある自分たちだけでなく開発メンバーとも共有し、『自分のものだ』という意識でより高いモチベーションを保ちながらプロダクトを開発しています」と述べている。
ジョブサーチの開発は、デジタルテクノロジー戦略本部として内製化で手掛ける初のプロダクトだ。だが、久保氏は内製での開発は初の体験だという。
ジョブサーチのWebサービスの開発を率いる久保氏は、以前はシステムインテグレーターで働いていた。大学院卒業後、1年間教師として働いたのちに「とにかくプログラミングをやってみたい」という思いでIT業界に飛び込んだ。当初は、自分が作ったものが形になり、動くだけで十分楽しく、満足を覚えていたという。
「以前の会社では受託開発がメインで、基本的に『このシステムのこの部分をこのように作ってください』と言われた通りに作っていました。しかし2年ぐらい経験を積んだころから、そのプロダクトがビジネスやユーザーにどんな影響を持つかまで踏み込み、考えた上でシステムを作っていきたいと思うようになりました」(久保氏)
もともと教員をしていたこともあり、「人を成長させること」に携わりたいという思いを強く抱いていた久保氏。人の成長を支える人材サービスに興味を持ち、約1年前にマイナビに転職してきた。
実は、仕事の合間を見つけては自力でオリジナルのWebサービスやアプリを開発し、公開していた久保氏。その経験もあって「今までの仕事の中で、技術的に力量不足を感じたことはそれほどありません。より良いサービスを作るというモチベーションを糧にして、プログラミングのスキルも向上していったのかなと思います」という。
マイナビ入社後は自分たちのサービスを作ることが本業となり、より充実感を感じているという。「以前はシステムをシステムとしてだけ見ていましたが、今はプロダクトとして、それが持つ役割を考えながら開発に携わっています」(久保氏)
一方で変化もあった。手を動かして開発する業務だけでなく、より幅広い仕事を担うようになっているのだ。
「マイナビに入ってから役回りが変わったなと感じています。今までは自分がプログラミングできればそれでOKでしたが、今はどうすればみんなが開発しやすくなるかを考え、チームをまとめられるかなど、仕事への向き合い方も変わってきたなと感じています」(久保氏)
未経験分野へのチャレンジもあり、時にはどうすべきか思い悩むこともあるというが、相馬氏など周囲に相談しながら解決方法を模索している。そんな毎日を「大変だなと思うときもありますが、すごく楽しいとも思っています」と表現する。
一方、アプリ開発をリードし、今ではジョブサーチというプロダクト全体をプロジェクトマネジャーとして取りまとめる相馬氏は、久保氏とはまた異なるキャリアの持ち主だ。
相馬氏は情報系の学部を卒業した後、人材系企業に入社し、グループ全体を取りまとめるホールディングス側のIT部門で働き始めた。
「いわゆるWebエンジニアとしてゴリゴリコードを書くのではなく、グループ全体を対象とした社内システムのプロジェクトマネジメントやベンダーコントロールに携わっていました」(相馬氏)
実はその企業でも、市場ニーズに合わせて改善を繰り返していくために内製化とアジャイル開発に踏み切り、相馬氏もスクラムマスターを経験するなどして開発を引っ張った。
「その経験を踏まえ、やはり自分で手を動かすというエンジニアとしての原点に立ち返った方がいいなと思い、ちょうど社内に立ち上がったばかりの内製組織に異動し、開発していました」(相馬氏)
そうこうするうちに、グループ従業員向けの社内サービスだけに飽き足らず、コンシューマー向けのサービスに携わりたいと考え、マイナビに転職してきたという。
当初はモバイルアプリを開発するエンジニアとして、手を動かす仕事を中心にしたいと思って入ってきた相馬氏。今はモバイルアプリチームのマネジメント、さらにはジョブサーチというプロダクト全体のマネジメントを引き受ける立場になっており、エンジニアはもちろん、UI(ユーザーインタフェース)/UX(ユーザー体験)担当者やマーケティング担当者とも話し合いながらプロジェクトを推進している。
さらに、「ジョブサーチのモバイルアプリチームは、マイナビとして初めてのモバイルアプリを内製で開発するプロダクトという意味で開拓組織でした。今は、それ以外のプロダクトでも内製開発できる体制や共通アセットを並行して整えようとしています」と、組織作りにも携わり始めた。
当初自分で手を動かしたいと思っていたが、再びプロジェクトマネジメント業務を主にすることになった相馬氏、不思議と違和感はないという。
「私は結構欲張りかもしれません。正直にいえばエンジニアもやりたいし、プロダクトオーナーとしてプロダクトの価値も追求したいし、チームマネジメントの観点で内製化組織をどう広げていくかも考えたいという具合に、全部やりたいのが本音です」(相馬氏)
もちろん、時間は有限である以上全てを100%というわけにはいかない。だがうまく調整しながら、やりたいこと、自分たちでやるべきだと判断したことは全て自由に行える環境だという。
そんな2人が連携し、時には相談を重ね、周囲とコミュニケーションを取りながらジョブサーチはリリースされ、今も継続的に改善が続いている。
「チームの中で、『やっぱりスピードが大事だよね、けれど品質も保っていなければ使われないからそこも当然必要だし、コスト面も考慮しなければならないよね』といった具合に、優先すべき事柄について共通認識を持つようにしています」(相馬氏)
プロジェクト全体の体制整備も並行しながら、試行錯誤し、うまくいけば継続し、そうでなければ別の手を打つという取り組みをこれからも続けていく。
もちろん、マネジメントや組織作りという経験したことのない業務に初めてチャレンジするのだから、迷ったり悩んだりする場面がないはずがない。それでも、自分の頭で考えながら、上司や同僚と話し込むことで一歩ずつ前進していると久保氏はいう。
「身近に実践している人がいて直接話を聞くことができる環境なので、いろいろ助かっています」(久保氏)
そもそもジョブサーチは、誰かに「いつまでにこういうものを作ってほしい」と指示されて生まれたプロダクトではない。内製でこのプロダクトを開発する目的に立ち返り、「価値を上げるために何をどうすべきなのか、そもそもプロダクトの目的は何で、ターゲットは誰か、といったところをしっかり考え、それに沿って何をやるべきかを考え、優先順位の高い順に実施し、その結果を見てまた考えるという改善を繰り返していくものですから、終わりはありません」と相馬氏は述べた。
もちろん、人にはさまざまなタイプがある。純粋に技術を追求するのが楽しいと感じる人もいれば、久保氏のようにプロダクトの価値を作り上げることに喜びを感じる人もいるだろう。「その両方のタイプが活躍できると思っています」(相馬氏)
マイナビ全社にまたがる共通アセットやナレッジを蓄積していくという意味でも、保守性や拡張性、トレンドを見据えながら技術をリードする人材と、プロダクトオーナーと同じような立場でプロダクトの価値について考えるマインドを持つ人材、その両方が必要だと感じているとした。
ジョブサーチも、マイナビが進めるそれ以外のプロジェクトについても、明確な正解があるわけではない。そんな中で「これやって、あれやってという指示に従うのではなく、自分で試行錯誤しながらチャレンジできる環境です」と相馬氏は言う。
久保氏もこの1年の経験を踏まえ、「SIerで開発していたときには分からなかった苦労も知ることができました。今の年齢でこうした経験ができているのは、自分にとってとてもいいことで、成長につながっていくと思います」と述べ、今後も試行錯誤しながら自分の意思で挑戦できる環境でチャレンジしていきたいとした。
「一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる」という全社パーパスの下、デジタルテクノロジー戦略本部では「Drive Digital Innovation(デジタルイノベーションの推進)」をミッションに掲げ日々業務に取り組んでいる。
「今はVUCAといわれるように先の予測できない時代です。サービスを出せばそれでいいというわけでもなく、かといってイチかバチかで当たりを狙いにいくのもうまくいかないでしょう。サービスを出すだけでなく、いろいろな改善を繰り返し試して、よければそこをさらに成長させ、逆に今の世の中に合っていないという結論に至れば潔くクローズし、また別のサービスを考え、試し、改善を繰り返す……というサイクルをアジャイルに実行していくことが不可欠です」と相馬氏は語る。
そして、アジャイルに開発していくためには、内製組織が必須だと捉えている。「サービスのライフサイクルを、スピード感を持ち、かつナレッジをどんどんためながら回し、より良いものを作れる内製組織を作っていきたいと、個人でも組織全体でも考えています」(相馬氏)
同時にそうしたサイクルには、多様な人材の力が欠かせないと久保氏は言う。「デジタルといっても、それぞれが持つ力をうまく組み合わせ、発揮できなければものにすることはできません。チームマネジメントを通して、一つの目的に向かえる状態を作っていきたいと考えています」(久保氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:株式会社マイナビ
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年3月1日