ITサービス開発/運用は「ビジネス展開」とほぼ同義となっている今、求められている運用のあり方とは何なのか。どうすればクラウドを使いこなし、“ビジネスに貢献できるクラウド運用”へ変革できるのか。
あらゆるビジネスコミュニケーションがデジタル化されている今、ビジネスを支えるITサービス開発/運用は「ビジネス展開」とほぼ同義になっている。経営環境変化が激しい中、「ニーズの変化にいかに迅速に応えるか」が差別化要素となっていることを受け、開発、リリースのスピードを上げるべく、クラウドネイティブに取り組む企業も増えつつある。
しかし、いかに迅速に開発できても、リリース後に安全、安定的、かつ快適に使えなければ、ITサービスの意義は半減するどころか、ビジネスのブレーキにすらなり得る。実際に、ITサービスのレスポンスが遅れる、停止するといった事故が起こり、ビジネスに影響を与える事象が目立っているのも各種報道の通りだ。
だが一般に、多くの企業はサービス運用に課題を抱えている。ビジネス展開に追従しながら、ITサービスを安定的に提供するためにはクラウドを使いこなすことが不可欠だ。しかし使いこなすどころか、クラウドコストの最適化も難しい状況にある。
では、どうすればクラウドを使いこなし、“ビジネスに貢献できるクラウド運用”へ変革できるのか。現実的な方法を探る。
「ITサービス開発/運用」と「ビジネス展開」がほぼ同義となっている現在、ビジネスニーズに応える上では、開発、リリースのスピードを高めるだけではなく、クラウドを使いこなし、サービスを安定的かつ快適に提供できることが求められている。そのクラウドの運用改善を支援するのが、日立製作所が提供しているサービス「Hitachi Application Reliability Centers(略称HARC)」だ。
HARCは、最新のインフラやデータ管理、デジタルソリューションを提供する米国子会社、Hitachi Digital Services(事業スタート時はHitachiVantara)が開始したサービス。SRE(Site Reliability Engineering:サイト信頼性エンジニアリング)の方法論に基づき、顧客のめざすビジネスゴールを共有した上で、サービス提供の安定性、信頼性、快適性を維持、向上できるクラウド運用を支援する。
※Hitachi Digital Servicesは、2023年11月1日付で、Hitachi Vantara LLCのデジタルソリューション事業を分社化し、クラウド、データ、IoTを駆使したサービスをベースに、OT×ITを実装するインテグレーターとして設立
現在はグローバル市場で金融機関や小売流通業、製造業の顧客を中心に、既に30社弱の導入実績を獲得。2023年6月には日本でもサービス提供を開始し、国内でも評価が高まりつつある。HARCチームの市場進出戦略を統括する日立製作所の酒井宏昌氏(マネージドサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部 クラウド&デジタルマネージドサービス部 担当部長)は、次のように話す。
「運用改善が求められているのは、ITサービス提供に特化した一部の企業だけではありません。日本を含めグローバルで運用課題に直面しているお客さまは数多く存在します。背景には、クラウドならではのアジリティや初期コストの低さが生じさせた“事象”ともいえる問題があります」(酒井氏)
例えば、最低限のコストでスモールスタートした新規サービスが乱立する、PoC(概念実証)環境をそのまま本番サービスとして採用する、といった事態が多くの企業で相次いだ。また、クラウドは開発者がセルフサービスでインフラを調達、追加、変更できる。このため、運用チームが認知していないインフラ追加/変更が横行しやすい状況も招いた。開発チームと運用チームが連携せず、サイロ化された状態のため、システム構成の変化を運用チームがトレースできず、問題解析に時間がかかるといった問題も生じた。
そうした結果として、いかに速く、低コストでサービスを開発、リリースしても、「サービスの信頼性、安定性、セキュリティが不安」「サービスの全体像と問題の影響範囲を把握できない」「ランニングコスト増加の原因や対処法が分からない」といった数々の問題が多くの企業を悩ませることになった。
「クラウドの浸透とともに、サービス開発ばかりが脚光を浴びる傾向が続いてきましたが、ビジネスとしてアジリティと安定性を両立させるためには、それなりの運用ノウハウと仕組みが不可欠です。具体的には、可観測性や自動化をベースに、システムのアジリティを生かしながら、レジリエンス(回復性)とリライアビリティ(信頼性)を効果的に高めるSREのノウハウと、開発チームと運用チームが責任を共有しながら同じKPIを追求する組織体制やプロセスが求められます。そうしたクラウドの運用改善を包括的に支援するサービスとしてHARCを立ち上げたところ、大きな反響を得ることになったのです」(酒井氏)
実際、国内でも2023年6月の正式ローンチから1カ月後には初受注。その後、3カ月で複数案件を受注した。
「毎日のように営業SEから問い合わせがあり、1週間で数件のお客さまとのミーティングが実施されているような状況です。『これまでの日立製作所にはないサービスだ』『担当者の熱量が大きく、反応が速い』といった評価の声もいただいています」(酒井氏)
好評を下支えしているのは、運用改善を担う人材力だ。HARCは日立グループの国内各社、Hitachi Digital Servicesなどから、クラウド運用に豊富な経験と実績を持つ人材をピックアップ。その他、米国のコンサルティング会社から転職してきたメンバー、インドのオフショア開発パートナー出身のメンバーなど、国際色豊かなチーム編成になっているという。
HARCを立ち上げ時からリードしてきた日立製作所の檜垣誠一氏(マネージドサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部 クラウド&デジタルマネージドサービス部 担当部長)は、開始当初を次のように振り返る。
「国内でのサービス提供開始に先立ち、まず社内から選抜した少数精鋭のチームを作り、Hitachi Digital Servicesがあるインドや米国に長期滞在して運用改善の考え方や手法、コンセプトを身に付け、それを国内に持ち帰る中で正式にサービスが立ち上がった形です。とはいえ、当初、HARCは日立製作所内でも『異色のチーム』と見られていました。運用代行サービスの一つという一面的な見方にとどまるケースもありました。社内外で理解を得るのに、実は今現在も苦労を重ねているところです。しかし、サービス提供を通じて、少しずつ社内やお客さまに共通理解が広がってきた状況です」(檜垣氏)
HARCの価値は、まさしく檜垣氏が言う「運用代行サービスとは違う」という点にある。一般的な運用代行サービスは、顧客企業側が運用の主導権を握ることは少なく、ほぼ支援企業に“お任せ”となる。また、そうしたサービスは「運用マネージドサービス」と見なされることも多い。
だがHARCの場合、「マネージドサービス」を、「お客さまのクラウド運用のアセスメントをするプロフェッショナルサービス、およびお客さまから委託された運用と同時に継続改善を実行すること」としており、さらに「運用管理の基盤/プラットフォームを提供、あるいは特定製品(ソリューション、ソフトウェア、ツールなど)の適用や利用を前提とするサービスではない」とも明確に定義している。
これだけでも一般的なマネージドサービスと異なることは分かるが、その中身を見ると、より明確に違いを理解できる。まずHARCの場合、前述のように、SREの方法論に基づき、顧客企業とサービスのビジネス目的を共有した上で、SLO(Service Level Objective)、SLI(Service Level Indicator)を共に検討、共有する。
近年、運用支援においても「伴走する」という言葉が盛んに使われているが、HARCの場合、「伴走」とは言葉だけのものではなく、「伴走の中身」を顧客と共に定量化し、解像度高く、検討、共有するものだ。
また、サービスを取り巻く市場環境が変化する以上、運用のあり方もそれに応じて変えていく必要がある。HARCチームの中でエンジニアリングチームをリードする日立製作所の岡部大輔氏(マネージドサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部 クラウド&デジタルマネージドサービス部 担当部長)は次のように話す。
「例えば、従来の運用ではCPUやメモリー利用率を監視し、しきい値を超えた際に対処するということが多いです。しかし、HARCがベースとするSREの考え方やノウハウでは、個々の値ではなく、サービスとしてどういった影響があるのかを観測します。運用チームと開発チームがサービスやビジネスの目的を認識、共有しながらインフラ構成、観測対象など運用のあり方、時にはサービス自体の見直しにも言及します。つまり、ビジネスにつながるサービスとしての最適な運用、開発へと継続的に改善していくのです」(岡部氏)
また、ITサービスはビジネスニーズの変化に追従することが不可欠だが、安定運用を重視し過ぎれば、新規開発や機能変更などの優先度が下がることになる。この点で、「サービスの信頼性がどの程度まで損ねられることを許容できるか」という「エラーバジェット」を顧客と共に定める。すなわち、「新たなビジネス展開」と「信頼性、安定性」のバランスを顧客企業が主体的に考えることになる。運用業務の定型作業のうち自動化可能なものを指す「トイル」の削減についても、上記図表の通り、サービスの目的、顧客企業の状況に基づいて行う。
すなわち、ビジネスニーズへの追従からクラウドの運用効率化、コスト最適化まで、その支援の全てが「目的起点」であることがHARCサービスの大きな特徴だ。これはまさしくITサービスというビジネス運用の“経営判断とアクション”を支援することに他ならない。
HARCチームでコンセプトの取りまとめや顧客への提案などエバンジェリストとしての役割を担う日立製作所の三井小吾氏(マネージドサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部 クラウド&デジタルマネージドサービス部 主任技師)はこう付け加える。
「一般に、サービスというとSoE(Systems of Engagement)領域が想起されることが多いと思いますが、運用においてはSoE、SoR(Systems of Record)といった分類を当てはめる必要はないと思っています。あくまでも何を達成したいかという目的、システムに求められる要件に合わせて、運用を最適化することが大切です。例えば、SoRでも『クラウドと連携させるため、より高いアジリティが必要となる』なら、監視のあり方など運用を改善した方がいいでしょう。しかし、今のまま塩漬けしていてもビジネスに問題がないなら、無理に変える必要はありません。ビジネス目的と投資対効果に見合うかどうかが運用改善のポイントなのです」
以上のように、目的起点で運用を設計することで、顧客企業はまさしくクラウドのメリットをコアビジネスの伸展に直結させられるようになる。
その成果を受けて、HARCへの評価の中には、「中期経営計画のチームに入って、組織論を含めたコンサルタントを実施してほしい」という声さえもあるという。だが三井氏は「そこはわれわれが担当する領域ではない」と明言する。
「サービスを提供する中で、ビジネスプランの策定から開発、運用まで、全てを求められることもありますが、HARCチームは、ビジネスコンサルタントや開発者の集まりではなく、クラウドのプロフェッショナル集団です。もちろん、チームメンバーは事業計画やアプリ開発まで担う能力はあります。しかし、SREの方法論による運用改善を提供することに特化し、決してぶれないようにすることで、より専門性の高い、ご満足いただけるサービスを提供できると考えています」(三井氏)
一方で、顧客の要望に応じて、豊富な社内リソースを提供できることは日立製作所の強みだ。例えば、日立グループとしてコンサルティングや開発支援も提供できる。日立コンサルティング、GlobalLogicなどが連携し、必要なら外部のコンサルティング会社や開発パートナーと組むこともできる。
「『何でもできるので、何でもやってしまう』のではなく、グループ各社それぞれが専門特化したサービスを提供することで、包括的にお客さまを支援することが重要だと考えます。HARCもその専門性こそがお客さまにご評価いただいていると思っています。例えるなら、HARCは雪山を案内するシェルパです。クラウドという(ともすれば足を取られがちな)雪山を共に登っていく。雪山のエキスパートとしての自負を持って取り組んでいます」(三井氏)
また、このようにHARCの中身を見ていくと、「運用」という業務自体に従来とは異なるケイパビリティが求められていることにも改めて気付かされる。単なるシステムのお守りや定型作業の担当者ではなく、目的起点で運用を最適化し続ける役割であり、それはすなわち「運用による経営貢献」といえるだろう。
その点、HARCの支援とは、顧客企業に運用改善の考え方やノウハウを継承する、根付かせる、自走を促す取り組みでもある。三井氏は次のように強調する。
「運用者がモチベーションを持って業務に携われるようにすること。それによってサービス、ひいてはビジネスを改善していくことができます。運用者は、他の部門と比べて、昇給や昇進が遅いといった声がよく聞かれますが、運用者を開発者と同様に“スター”として育てていくことが大切です」
支援を通じて、そうした考え方、土壌を広めることもHARCのめざすところの一つだという。これも単なる運用代行サービスとは決定的に異なる点だろう。
「HARCは運用代行ではなく、運用改善という価値を提供するサービスです。今後もクラウドジャーニーの専門家として、クラウドという雪山の伴走者として、各社各様の目的を起点として、より多くのお客さまを支援していきたく考えています」(酒井氏)
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