ルクセンブルク生まれのエッジサービス事業者Gcoreが日本に本格進出した。同社は全世界でユニークなエッジAIサービスの展開を加速させ、パートナーと組んで今後のAI社会を支えていきたいという。どのような価値創造を目指すのか、CEOとCROに聞いた。
欧州市場で急成長を遂げ、世界中にインフラを展開するエッジクラウドプラットフォームベンダーのGcoreが、日本に本格進出した。
オンラインゲーム業界で鍛え上げられてきたGcoreは、CDN(Contents Delivery Network)やサーバホスティング、DDoS対策などで高い評価を獲得してきた。その実績を基に、他に先駆けて始めたのがエッジAI(人工知能)プラットフォームサービスだ。GPUなどのアクセラレーターを搭載したインフラサービス、Inference at the Edge(エッジでの推論)など、AI学習から推論に及ぶAIライフサイクルをグローバル規模で支援する幅広いサービスの展開を進める。AIサービスは2024年度においても需要が高まり続けており、重点領域として強化していくという。2024年7月にはシリーズAラウンドで6000万ドルの資金調達を実施した。
Gcoreで特に興味深いのは、ホワイトラベルのビジネスモデルにも注力していることだ。日本でも通信事業者や各種サービス事業者、SIer(システムインテグレーター)の黒子となるために、パートナーを募る。先鋭的で独自性のあるGcoreが見据える未来とは何か。パートナーとどのような価値創造を目指すのか。同社のCEO(最高事業責任者)とCRO(最高収益責任者)に真意を聞いた。
2014年にオンラインゲーム開発/運営会社Wargamingからスピンオフして以来、Gcoreはメディア、エンターテインメント、ゲーミング、通信、IT、金融に及ぶさまざまな業界に、企業規模を問わず幅広くエッジソリューションを提供してきた。eスポーツのプロチームが求める厳しい要件にも耐える安定性と低遅延、セキュリティに優れたインフラ構築の経験と実績を強みに、AI、クラウド、ネットワーク、セキュリティにわたるエッジソリューションをグローバルで展開する。現在は世界各国に10拠点を設置し、データセンターとの提携拡大で世界180カ所以上にPoP(接続拠点)を配置。約200Tbpsの拠点間通信帯域で、レスポンスタイムは平均30ミリ秒を実現する。
Gcoreの共同創業者でCEOのアンドレ・レイテンバッハ(Andre Reitenbach)氏は、同社が躍進する背景として「あらゆる産業がインターネットにつながる現在、高性能・低遅延でワークロードを処理するエッジプラットフォームの重要性はますます高まっている」と強調する。
最近は膨大なオンライン同時動画配信を支える他、仏通信事業者のOrangeと提携して、同社がコンテンツ事業者向けに提供しているCDNサービスを裏で支えている。
特に最近は、AI活用の引き合いが後を絶たない。「2023年度の収益は約7500万米ドルで、エッジAIが占めるのは3%程度。しかし2024年度はこれをはるかに上回る勢いで伸びており、収益もそれに比例して増進すると見込んでいる」(レイテンバッハ氏)
エッジAIを始めたきっかけは、10年以上前にさかのぼる。Wargaming在籍時、AIに魅了されて論文や書籍を読みあさっていたレイテンバッハ氏は、AIを活用するのに十分な性能や速度を提供するインフラの構想を練っていた。2012年、GPU実装の畳み込みニューラルネットワーク構造「AlexNet」が画像認識コンテストで優勝。これからはGPUベースのAIインフラが来ると確信した同氏は、GPUクラウド構築を模索する。しかしGPUが高額で、サービスを提供できたとしても高額設定になってしまうことなどから、サービス化を見送った。
そのころに知り合った現Gcore CROのファブリス・モワザン(Fabrice Moizan)氏は、当時NVIDIAに在籍していた。同氏もGPUに明るい未来を見いだし、NVIDIA GPUのショーケースを兼ねたクラウドゲーミングインフラを構築。これは当時の欧州でも画期的な仕組みで、ゲーマーから前向きな反応を得られたことから、同氏は手応えを感じた。「NVIDIAの共同創業者であるジェンスン・フアン氏は、次に来るテクノロジーがAIで、CPUに代わってGPUが中心的役割を担うと予見していた」(モワザン氏)
その後、モワザン氏はGraphcoreに転職して渡米したが、レイテンバッハ氏と2021年に再会。AI時代の幕開けを前に意気投合した両氏は、モワザン氏が欧州に戻ったのを機にAIモデル学習向けスパコン開発を検討。最終的にモワザン氏をGcoreに迎え、欧州においてGraphcoreチップで特筆すべき規模のクラスタを構築する運びとなった。
「AIワークロードが1つのデータセンター内で処理できないほど増加するのは火を見るよりも明らか。われわれが求めたのは、膨大なワークロードを安定的かつ安全に高速処理できる分散環境だった」(レイテンバッハ氏)
「AIをビジネスへ本格的に実装し始めたのは、スタートアップや行政機関などまだ一部だが、遠隔医療や自動運転など幅広い業界へあっという間に浸透するはずだ」とモワザン氏は断言する。そのときに必要となるのが、エッジAIだ。
自動運転車の場合、車載カメラの映像や運転制御データを走行中にリアルタイム送受信することになり、事故の要因にもなりかねない遅延は最小限に抑えなければならない。Teslaが発表した「Optimus」のような二足歩行型ロボットも、低遅延通信が最低条件の一つになるだろう。
モワザン氏は、NVIDIAが2024年6月にデジタルヒューマン向けマイクロサービスをリリースしたことを取り上げ「これまで登録済みのせりふしか返さなかったゲーム内のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が、ユーザーの音声と言語を認識して、その言語で返事するようになる」と説明。このようなAIアバターが、UX(ユーザーエクスペリエンス)を損なわないよう遅延なしにやりとりするには、AIインフラが必須だとした。
加えて、悪意あるハッキングや通信妨害を防ぐために、サイバーセキュリティ対策も必要だ。
「大半のCDN事業者は、コンピューティングパワーやコンピューティングサービスを提供しない。Gcoreは、ベアメタル環境および仮想マシン環境でCDNやDDoS対策など、フルスタックのインフラを実現する。ワンストップで高性能・低遅延・高セキュリティをフルスケールで提供できる」(レイテンバッハ氏)
最大の競合は、Google CloudやAmazon Web Services(AWS)、Microsoft Azureなどのハイパースケーラーだろう。しかし、Gcoreには勝算があるとレイテンバッハ氏は自信を見せる。
優位性は、ソブリンクラウドの実現だ。昨今は、自国内のデータセンターで、政府や業界のセキュリティ基準を満たす形でデータを運用管理できることが重視される。特に欧州はGDPR(EU一般データ保護規則)があり、ソブリンクラウドの需要は高い。Gcoreは、学習データなどの解析で使用するエッジAIの配備地域を指定でき、法令やコンプライアンスを順守したAI運用が可能だ。
ソブリン要件を満たすことがGcoreを採用する決め手となった例は、通信事業者Orangeを筆頭に、患者データを扱う医療機関、欧州進出でGDPR対応に追われる大手SNS事業者など多数ある。「欧州でソブリン要件を満たせる事業者は少ない。ハイパースケーラーが選択肢から外れたとき、Gcoreが最適解になる」(レイテンバッハ氏)
こうした動きは欧州に限らず、最近はサウジアラビアのソブリンクラウド構築でパートナーシップを組んだ。セキュリティリスクなどを考えて、独自のLLM(大規模言語モデル)を自国のクラウドインフラで利用したいという要望があったという。
LLMの信頼性を高めるという観点でベンダーの選択肢を検討するケースもある。LLMは、ユーザーの所属する文化や慣習を十分に学習したモデルでないと、的外れな回答が返ってきてしまう。「あるLLMで『Football』について質問したところ、サッカーではなくアメリカンフットボールを前提とした説明文が表示された例がある。学習対象が米国の情報に偏っていると、こうした齟齬(そご)が発生してしまう」(モワザン氏)
つまり、有名なLLMやハイパースケーラーが提供しているLLMだからといって、世界中の全用途に適しているとは限らない。
もちろん、ハイパースケーラーとも連携する。「競合を排除するのではなく、顧客が必要とするサービスやソリューション、バランスの取れた料金体系を提供し続ければ、Gcoreが顧客の選択肢に上る。当社は顧客と顧客満足度を最も重要視している」とレイテンバッハ氏は説明。事業継続性を踏まえ、ワークロードをうまく分散管理できるよう柔軟性をもたせることが大切だと指摘する。
Gcoreは、LLMマーケットプレースの構築を進める。企業が自社の開発したモデルを提供したり、ユーザーがニーズに合ったモデルを選択して活用したりできるプラットフォームを提供していく。
GcoreはエッジAI活用の裾野を広げるべく、他にもさまざまな取り組みを実施している。
1つは、AIの専門性やコーディング能力がなくてもLLMを利用できるサービスだ。
「コードを書いたことのない事業サイドの人が、フロントエンドのUX向上でチャットbotを作りたいといったケースが増えている。そうしたニーズに応えたい」(モワザン氏)
フルスケールでAI活用したいという企業には、現地のパートナー企業やSIerと連携しながら最適解を描く高度な総合ソリューションを提供する。「一部顧客向けのプライベートクラウド構築支援では、学習モデル用クラスタの開発、GPUリソースの選定などもサポートしている」(レイテンバッハ氏)
CDN関連では、有害コンテンツの投稿監視・制御機能である「AI Content Moderation」を2024年6月にローンチした。機械学習に詳しくない人でも、EUのDSA(Digital Services Act)や英国のOSB(Online Safety Bill)など各種法令を順守しながら、オーディオやテキスト、ユーザー生成動画のコンテンツに対してリアルタイムの自動モデレーションを実行。違法・有害コンテンツを自動検出して統制・制御できるサービスだ。コンテンツが公開されてから精査完了までは数秒と高速で、フィルタリングの粒度はカスタマイズ可能だ。
「今のところは無料公開しているので、ぜひいろいろ試してほしい。今後は、パートナーシップを組むメディア企業でのユースケースが生まれるかもしれない」(レイテンバッハ氏)
レイテンバッハ氏は日本について「先進国の中でも優れた技術力を誇り、グローバル展開する製造業やリテール業、自動車産業など、最先端のテクノロジーを取り込む可能性のある企業が多数集中する国」と評する。そうした日本企業とパートナーシップを組むことは、Gcoreにとって新たな学びと成長を得られるだけでなく、より優れた製品を開発するチャンスになると話す。日本の商慣習や文化を理解する現地サポートチームを配置し、世界を舞台に事業拡大を図る日本企業をインフラ面で支援したいと述べる。
「パートナー向けホワイトラベル提供でも実績がある。GcoreのエッジAIインフラを、ぜひグローバル展開の足掛かりにしてもらいたい」(モワザン氏)
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提供:Gcore Japan株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年9月11日