こんな課題にブロックチェーンはフィットする 法整備が進み、前向きな実証実験が相次ぐweb3の“いま”エキスパートが語るweb3の実践事例

ブロックチェーンを活用したサービス(web3)は企業だけでなく、政府も重点施策として推進している。では、社会実装はどこまで進んでいるのか。web3と、信頼性のあるデジタル証明の仕組みがビジネスにもたらす価値と実現性について、ブロックチェーン分野をリードするエンジニアに聞いた。

» 2024年08月30日 10時00分 公開
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 分散型データベースの一種である「ブロックチェーン」は、データの生成と変更の履歴を台帳として参加者間で共有でき、改ざんが困難であることから安全性や信頼性の高いデータ管理技術として注目を集めている。

 ブロックチェーンは、重厚長大な中央集権的システムを必要とせずに参加者が公平にデータやシステムを連携できることから、新しい枠組みでのビジネスやコラボレーションを可能とする技術としても期待が大きい。

 では、実際にどこまで社会実装が進んでいるのか? ブロックチェーンのメリットである安全性、信頼性は企業活動のどのような場面で成果につながるのか。NTTテクノクロスでブロックチェーンの高度専門人材として第一線で活躍し、企業のブロックチェーン活用を支援してきた兼松和広氏(デジタルトランスフォーメーション事業部 第一ビジネスユニット テックリード)に話を聞いた。

小規模でも安全な、非中央集権の“緩いデータ連携”

 ブロックチェーンではデータを利用する端末同士が直接的に接続し、暗号化技術を用いて履歴を分散的に処理、記録している。データをブロック単位で扱い、鎖状につなげて保管することからこの呼び名が付いた。各ブロックには直前のブロックの内容を示すハッシュ値が記録されており、不正な変更が加わるとハッシュ値の変動で検出できる上、履歴はデータを取り扱う参加者で共有されている。そのため金融やサプライチェーンなど、信用を重視するビジネスシーンで先行的なユースケースが生まれている。

 「ブロックチェーンは、中央集権的なシステムがなくても“緩いつながり”を保つことが可能です。企業同士のデータ連携では予算や時間がかかりますが、ブロックチェーンは企画から調整、構築、運用までのトータルコストを抑えつつ短期間で仕組みを作れる有用な技術です。互いにデータを共有して安全性や信頼性を高め、効率化する取り組みの一環として着目する企業もあります」と兼松氏は述べる。

兼松氏 兼松和広氏

 兼松氏は、この技術分野をリードするエンジニアの一人だ。早くからブロックチェーン技術に取り組み、フレームワークの設計、開発や導入の支援を通じてノウハウを蓄積してきた。

 普遍的な技術を応用しながらも、新しい仕組みとして作り上げられたブロックチェーンを、兼松氏は「分散型データベース技術の中でもユニークな存在」と位置付ける。データとアプリケーション、どちらの側面からも捉えることができ、多様な活用が期待できる技術として注目しているという。「特に近年は各国で、ブロックチェーン関連の法律や規制が整備され、ビジネスで活用する土台が整ってきたと感じています。ルールが定まり、グレーゾーンが減ったからこそ、誰もが適切に利用できるようになったのです」(兼松氏)

 国内でも著名企業がブロックチェーンを活用した取り組みを開始している。例えば三井物産デジタルアセットマネジメントで取り扱っているデジタル証券は、保有者情報をブロックチェーンに記録している。楽天もNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を取引できるマーケットプレース「Rakuten NFT」で、デジタルチケットを二次流通できる機能「NFTチケット」を提供している。

DID/VCが実現する「信頼できる情報のやりとり」に期待集まる

 暗号鍵ペアによる署名・検証技術をベースとしたDID(Decentralized Identifiers:分散型アイデンティティー)やVC(Verifiable Credentials:検証可能な資格情報)も、情報の安全性を保ちながら消費者の利便性を向上させて、ビジネスの効率化を図る技術として注目されている。

 一般的にIDは各サービス事業者が独自に管理するものだ。消費者がWebサービスを利用する際は、事業者のWebサイトで個人情報を入力してIDを発行しておく必要がある。GoogleやAppleなど大手事業者のID認証基盤が、別のWebサービスのID認証連携先として使われることも増えつつある。ユーザーにとっては便利だが、中央集権化することはリスクにもなる。

 DIDは、基本的に任意の場所でIDを発行でき、特定のサービス事業者の下に個人情報がため込まれていくことはない。サービス事業者がサイバー攻撃に遭って個人情報が漏えいした事件は後を絶たないが、DIDではこのリスクを分散できる。

 VCは、何らかの資格情報を必要とするサービスでの活用が期待できる規格だ。例えば賃貸契約で必要となる住民票や、売買契約で必要となる証明書類(企業の在籍証明書など)は、現状は紙でやりとりする必要がある。一部の自治体や教育機関から発行される資格情報についてはコンビニエンスストアなどで簡単に印刷できるようにはなったが、紙の不便さからは脱却できていない。検証可能な資格情報のデータとして住民票や在籍証明書などを扱えるようになれば、スマートフォン一つでさまざまな契約や取引が安全かつ迅速にできるようになる可能性がある。

 「銀行では口座を開設するときに煩雑な本人確認手続き(Know Your Customer:KYC)が必要となります。オンラインでKYCを実施できる『eKYC』が普及し始めていますが、顔や身分証明書の写真撮影の煩雑さは否めません。DID/VCは偽証が極めて困難で信頼性が高い仕組みであり、これを使えば手続きを効率化して処理をスピードアップできるはずだと期待を集めているのです」(兼松氏)

 海外には既に資格情報をデジタルに連携するユースケースが登場している。中国では暗号資産交換業者Binanceがブロックチェーンを活用した本人証明サービスを展開。BinanceでKYCを済ませたユーザーの資格情報を、トークンとして発行できる。これは「Soul bound Token」という譲渡不可のNFTであり、連携するサービスで特典を受けられるという。欧州では、欧州連合(EU)の加盟国で発行される運転免許証の確認にVCを利用するといった、「欧州デジタルIDウォレット」のユースケースが登場している。兼松氏はこれらの例を挙げて「日本でも今後、自治体や企業から新たな取り組みの発表が相次ぐはずです。トレンドに乗り遅れないために、各社が積極的に技術検証に取り組む必要があるでしょう」と説く。

 DID/VCの理解を助ける身近なものとして、よく比較対象になっているのはマイナンバーの仕組みだ。マイナンバーにはないDID/VCの強みは「さまざまな情報が格納可能なデータ構造による柔軟性/拡張性の高さ」 「電子的に証明可能な構造によるプログラム処理との親和性の高さ」だと兼松氏は説明する。「高機能なデータベースシステムよりも安価に構築、運用できる点も、ブロックチェーンの魅力の一つですね。信頼できる情報をやりとりできることは、信用を重視する企業にとって非常に重要であり、大きなビジネスメリットになるものです」(兼松氏)

図1左図1右 図 通信販売事業における情報連携のイメージ。左は一般的なシステムの連携モデル、右はブロックチェーン技術による課題解決後の連携モデル(提供:NTTテクノクロス)《クリックで拡大》

ブロックチェーンをPoCから支援する、NTTテクノクロスの技術力

 ブロックチェーン技術にはさまざまな有用性があるが「企業における活用はそれほど進んでいない印象です」と兼松氏は語る。その理由は「技術的理解が進んでいないという点に尽きます」と同氏は分析する。

 「単に『データの安全性を高められる新しい技術』と捉えていた方もいらっしゃるようですが、決して“魔法のつえ”ではありません。従来のITと同様に、自社のニーズとマッチしなければ価値は発揮できません。課題やニーズを詳しく聞いてみると、他の既存技術の方が適していたというケースはあります。非中央集権的システムであること、参加者にとって公平なシステムであることに慣れず、なかなか活用イメージが湧かないということもあるようです」(兼松氏)

 ただし前述の通り、ブロックチェーンの社会実装に向けた法整備は進んでいる。できることとできないことが明確化し、企業が本格的に活用する土台が整いつつある点は注目したい。「ブロックチェーンは既存技術を応用して新しいことを成し遂げているものと捉えれば、特別に難しく考える必要はありません」と兼松氏は述べ、次のように続ける。「実際にシステムとしてインテグレーションするには、システム同士の組み合わせにくせがあり、経験やノウハウがないと困難に感じてしまう面もあります。そこでNTTテクノクロスは、製品群 『ContractGate』 を活用しつつ、ブロックチェーンおよびVC技術を用いたサービスやプログラムの開発支援を提供しています」

 VC規格に準拠したデジタル証明を用いたサービスを短期間で構築できる「ContractGate/VC」や、ERC721規格のNFTによる制御を行いQRコードとして表示・照合するスマートフォンアプリケーション「ContractGate/Pass」など、NTTテクノクロスは代表的なユースケースを想定したラインアップを用意している。これらのシステム構築やプロトタイプ開発を支援するPoC(概念実証)サービス「ContractGate PoC Service」も提供している。採用事例は複数あり、「お客さまの実現したいことを具現化するために、案件ごとにさまざまなサポートを提供できる体制を整えています」と兼松氏は説明する。

 例えば沖縄県では、地方公共団体や交通事業者が交通系ICカードを使ってあらゆる公共交通機関と幅広いサービスを提供するMaaS(Mobility as a Service)を実現し、そのデータを安全に共有したいというニーズを持っていた。そこでブロックチェーン技術を応用し、個人の乗降時間や乗降場所などの移動関連データを匿名化して蓄積、共有するデータ基盤を構築し、実証実験を実施した。この取り組みの一機能に、ContractGate/Passが使われている。

 ある流通事業者は、貨物パレットに取り付けたRFID(Radio Frequency Identification)タグをトークンとして取り扱い、リアルタイムに荷物を追跡したり、運送状況を把握したりする流通トレーサビリティーの実証実験を実施。そのプロジェクトを支えたのがContractGate PoC Serviceだった。

 ブロックチェーン技術を取り巻く国際標準化は順調に進展している。いまは業界ごとに定義されているデータ構造についても将来的に標準化が進み、領域をまたいだデータ連携が進むと兼松氏は予測している。

 「例えば医療分野は、HL7(Health Level Seven International)やFHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)など医療情報の国際的な標準が決まりつつあり、技術の活用が進みやすいと考えられます。業界ごとに標準がどのように固まっていくか、それぞれの動向を注視する必要があり、NTTテクノクロスはお客さまの情報収集をサポートしたいと考えています。ブロックチェーンのような非中央集権型のシステムが身近な存在になるのには時間がかかるかもしれません。しかし、これまではできなかったことができるようになる先進的な技術でもあります。ぜひ前向きな検討や思考実験に取り組んでいただきたいと願っています。私たちが広範かつ柔軟に支援します」(兼松氏)

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提供:NTTテクノクロス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年9月29日

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