5Gから6Gへの展開で、通信ネットワークは真の社会インフラになる。通信事業者は、これを自らの使命として推進していかなければならない。では、そのために描くべき道筋はどのようなものなのだろうか。ノキアソリューションズ&ネットワークスの加茂下哲夫氏(代表執行役員社長)に聞いた。
私たちを取り巻くIT環境は急速に進化し、生活やビジネスのあらゆるシーンで多様な先端技術が活用されている。ロボティクスは工場だけでなく街中にも広がり、AI(人工知能)は身近なスマートデバイスに搭載され始めた。
これらの技術に共通するのは、「通信」が欠かせないという点だ。私たちがこれまで利用してきた通信とは全く異なる次元でネットワークを活用する技術ということになる。では、どのようなネットワークが求められるのだろうか。
「ネットワークを組み込んだITシステムが、新しい社会インフラや巨大なライフラインを構築していくでしょう。通信は高速かつ低遅延であることが前提となり、膨大な数の端末を収容できなければなりません。それだけではなく、多様な通信ニーズに的確に対応できるインテリジェントなネットワークであることも求められます」――こう述べるのは、ノキアソリューションズ&ネットワークス(以下、ノキア)で代表執行役員社長を務める加茂下哲夫氏だ。
例えば、現在の自動車には多種多様なセンサーが組み込まれているが、これだけで自動運転が実現できるわけではない。真の自動運転と言われる「レベル5」では、道路条件や地理条件、環境条件などのあらゆる周辺情報を取得して、瞬時の判断をし続ける必要がある。さらに他の自動車と通信して協調することも重要だ。自動運転のためのデータ通信を確実かつ瞬時に行うには、加茂下氏が述べるように高度なネットワークの制御が求められる。AIやロボティクスも、高度に機能するには外部の膨大なデータや演算リソースを使ったリアルタイムの制御が欠かせない。
そこで注目されているのが、第6世代移動通信システム「6G」だ。超低遅延かつ高速で大容量、多数同時接続などの性能が強化され、2030年ごろの実用化が予測されている。6Gの提供を強く求められる通信事業者の使命は、既存の5G環境から自社のネットワークを強化し、社会インフラとして育てていくことだと言っても過言ではない。
来たる新時代――5G/6Gネットワークを真の社会インフラとして確立するために、通信事業者は何を実現しなければならないのだろうか。その指針になるのが、ノキアの事業戦略だ。同社は、次世代通信インフラの構築を支援すべく次の「3つの柱」を掲げている。順に解きほぐしていこう。
1つ目の柱は、「信頼できる高品質なネットワーク」だ。あらゆるビジネスは、ネットワークの上に成り立っている。通信の信頼性や安定性がビジネスの信頼性や安定性に直結していることを、私たちはさまざまな場面で経験している。移動通信システムを前提とした先端技術も多く、品質に対するニーズがこれまで以上に高まっている。
信頼性の高いネットワークが不可欠な自動運転が代表例に挙げられる。遠隔医療のような、通信品質が人々の健康に直結する例もある。将来的にはあらゆる医療機器が通信ネットワークに接続されて連携するため、メーカーと通信事業者が協働していくことになるだろう。その他にも多様な要素が相互につながっていくことを考えれば、通信事業者、ネットワークベンダー、メーカーが強固に連携できる体制を整えることも重要だ。
2つ目の柱は、通信事業者自身が収益性を高めなければならないという点だ。加茂下氏は「自動化と収益化のためのプラットフォーム」が必要だと指摘する。
複雑なネットワーク環境の運用には大きなコストがかかるため、AI駆動型/自律型の次世代ネットワークを構築することで、効率化と最適化を図ることが欠かせない。人材不足が社会問題となっていることも考えれば、通信事業者も自動化/自律化に取り組むことが必須だ。
自動化によるコスト削減で得られた資源は、収益向上につながる新たなビジネスに投資すべきだと加茂下氏は話す。通信事業者の収益中核を成すコンシューマービジネスには限界があり、6Gに移行したとしても収益の大幅な増加につながる要素は少ない。そこで注目したいのが、法人向けビジネスの拡大だ。
「5G SA(スタンドアロン)で実現されるネットワークスライシングは、動画配信やオンライン決済などサービスごとに最適な通信環境を提供できる仕組みです。大規模イベントなど混雑する状況でも快適な通信を用意したいといったニーズに、ネットワークスライシングを利用して応えることで収益向上につなげた海外の通信事業者の事例もあります」(加茂下氏)
APIでネットワーク機能を開放するという選択肢もあると加茂下氏は話す。ソフトウェアに最適なネットワークをアプリケーション開発者自身がAPIで制御できるようになる。ネットワークエンジニアに委任していた煩雑な設定や操作を、アプリケーション側で素早くコントロールしたりオペレーターが簡素な操作で制御したりすることが可能だ。例えば、遠隔医療では医療機器や医療システムとネットワークを統合したサービス企業が登場するだろう。通信事業者は、こうした企業がAPIを通じて活用できるインテリジェントなネットワーク機能を提供できる。
ノキアは、ネットワーク機能のAPI開放についても取り組みを加速している。世界有数のAPIマーケットプレースを運営するRapidを2024年11月に統合し、ノキアが2023年にローンチした「NaC」(Network as Code)プラットフォームに取り込んだ。通信事業者は、RapidのAPIマーケットプレースを介してノキアのソリューションを活用することで、さまざまなベンダーが提供する新しいサービスを効率よくAPIビジネスに取り込めるようになる。同社は以前から開発者向けにAPI開放に関するポータルサイトでの情報発信やSDK(ソフトウェア開発キット)の提供を行っている。
「NaCを使ったハッカソンイベントを世界規模のモバイル関連イベント『MWC』(Mobile World Congress)などで複数回開催しています。新しいネットワークアプリケーションを、Rapidを通じていち早くビジネスに適用し、新しい収益モデルを獲得していただきたいと期待しています」(加茂下氏)
「従来のような単なる“土管”ではなく、高度なエンタープライズサービスを提供することが収益向上につながることは間違いありません」と加茂下氏は強調する。
通信事業者の収益向上や管理の効率化につながる3つ目の柱が「オープンなアーキテクチャ」だ。プロプライエタリな技術ではベンダーロックインが発生し、調達や要件達成にかかるコストが増加する恐れがある。オープンな技術を採用することで、個々の環境に最適なソリューションを自由に選定し、組み合わせて利用できるようになる。収益を上げるためには知恵を出し合うエコシステムが必要であり、その醸成にはシームレスに連携できるオープンアーキテクチャが重要な要素だ。
オープンアーキテクチャを実現する技術としては、「vRAN」も注目されている。vRANは、5G基地局を構成するハードウェアとソフトウェアを分離し、マルチベンダーで構成できるようにする技術だ。各メーカーの汎用(はんよう)サーバを利用できるため、専用ハードウェアと比較して低コストに構築できるなどのメリットを得られる。vRANでは、基地局ソフトウェアをコンテナとして展開する「Cloud RAN」が普及し始めている。
「ノキアは、得意な技術や自社の製品に固執してガラパゴス化することを避け、積極的にオープン化を推進することでエコシステムの醸成に貢献し、顧客の期待に応えたいと考えてきました。例えばドイツテレコムは、ノキアのCU(Central Unit)と富士通のRU(Radio Unit)を組み合わせたマルチベンダー構成でCloud RANを実現しました。フィンランドのElisaもノキアのCloud RANを商用化しています。オープンアーキテクチャを採用することで、通信事業者は自社に最適なソリューションを柔軟に選べるのです」(加茂下氏)
ノキアは、無線アクセスネットワークのオープン化を推進する国際組織「O-RAN ALLIANCE」に参画しており、いち早く先端技術を獲得して積極的にO-RAN準拠製品を市場に投入している。ノキアのオープンなソリューションを選択することで、同社が「anyRAN」と呼ぶ仮想化、クラウド化、オープン化が進んだ効率的なマルチベンダー環境を実現する通信事業者が増えつつある。
1865年に誕生したノキアは、160年にわたってさまざまな技術を吸収して成長してきた企業だ。来たる新時代に向けて、中核である無線通信技術はもちろん、IP技術、光通信技術、コアネットワーク技術などの新しい技術を幅広く積極的に獲得しており、6G基盤をエンド・ツー・エンドで提供するための体制を整えつつある。
例えば、光通信技術に関する国内での取り組みの一例として、NTTの次世代情報通信基盤「IOWN」が挙げられる。ノキアはNTTと協働して実証実験を行い、ノキアの光通信機器がIOWN対応製品に選ばれている。
国際的に対応が求められている「サステナビリティ」についても、ノキアは通信業界をリードする立場を確立している。2040年までに温室効果ガスの排出量をネットゼロにするという目標を掲げ、消費電力の削減につながるチップセットや光通信技術などを採用。通信データ量の増加と脱炭素の実現という2つを両立させることで、通信業界の持続的な発展に貢献したいと加茂下氏は語る。
加茂下氏によれば、6G時代においてネットワークのオープン化やエコシステム化は必要な取り組みであり、ノキアは先駆者として価値を提供していくという。同社は既に多様な技術とノウハウを蓄積しており、検証センターなどの設備も充実させて、通信事業者のさまざまな取り組みを全面的にサポートできるようにしている。
「2030年には、これまでにないネットワークへのニーズをかなえるさまざまな新しいサービスが誕生していることでしょう。ノキアは『信頼できる高品質なネットワーク』『自動化・収益化のためのプラットフォーム』『オープンなアーキテクチャ』という3つの柱をもって、通信事業者を強力に支援していきます」
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提供:ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2025年3月17日