NVIDIAのジェンスン・フアン氏は、AI活用が新フェーズに突入しようとしているという。日本企業がこの波に乗るには、AI投資に対するマインドセットの変革と、AIインフラの課題を克服する必要がある。具体的にどう取り組むべきか、エヌビディアとスーパーマイクロが語った。
AIは次のフェーズに移ろうとしている。GPUの開発で知られるNVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏は、「COMPUTEX TAIPEI 2025」における講演でこのことを強調した。
AIの歴史は過去12年に及ぶが、その中で「本当のブレークスルーはAI推論」だとフアン氏は話した。AI推論は、リーズニング(論理的推論)に特化した生成AIモデルの登場もあって急速に進化し、エージェント型AI時代の扉を開こうとしている。
「人間が行うようにインプットとアウトプットを明確に定義し、最適な解決方法を見つけてステップ・バイ・ステップで実行できる。また、未来をシミュレーションし、複数のシナリオを評価し、ベストな結果を選択してアクションプランを立て、実行することも可能になった」(フアン氏)
フアン氏は「AIのゴールはモデルのトレーニングではなく、知能の活用にある。演算リソースの消費についても、トレーニングはできれば全体の0.5%であってほしい」と語った。
これは、AI推論がビジネス価値創出の決め手になるという意味でもある。実際に、AI推論によるビジネスの駆動を目的とした取り組みが、世界中で堰(せき)を切ったように広がっている。エヌビディアの井崎武士氏(崎は「たつさき」)は、こう説明する。
「日本も含めこの数年、生成AIはLLM(大規模言語モデル)の開発やその学習で大きく盛り上がりました。2024年ごろからは、米国を中心に推論の収益化が始まりました。ユースケースはどんどん増えていき、収益化によって再び投資にお金が回るという良い経済循環が生まれています」
日本でもサービスの事業化に向けて取り組む企業が増えた。
「ただ、日本ではまだ推論による収益化まで進んでいる企業はあまり見られず、そういった意味でもギャップが広がっていくのではないかと懸念しています」
では新しいAI時代に向けて、何にどう取り組めばよいのか。井崎氏がまず提案するのが、AI投資に対する考え方をアジャイルなアプローチに変えることだ。
「多くの場合、生成AIのユースケースが事前にきちんと想定できているケースはほとんどありません。しかし日本の多くの会社では投資に対する稟議(りんぎ)において、ROI(投資対効果)の事前計算を要求されます。従来のAIもそうですが、そもそもユースケースが想定できていない中でROIを計算すること自体不可能です。そのため、まず取り組んで知見を得て、そこからユースケースの発想を得て、それを繰り返してその都度判断するというアジャイル的な動き方が重要になります。実際、AIによる成果が出ている会社を見ると『売り上げの○%を新規技術に必ず投資する』といった決断の下、状況を見ながら都度判断しているケースもあります。そうでない場合、どうしてもROIの議論で取り組みが止まってしまいます」
一方、取り組みが停滞してしまう理由として環境要因を挙げるのが、スーパーマイクロの佐野晶氏だ。AIは初期投資額が大きく、これまでのIT投資の延長線上で考えることは難しいという。
「AIを始めるための投資額は、一般的なIT投資額と比べてまさにケタ違いです。スモールスタートするためにパブリッククラウドを利用するケースが多いですが、それでも高い。費用を抑えるために自社で運営しようとしても、やはり高額になります。日本政府はそうした状況を受けて、AI関連の補助金や助成金を拡充しました。ただ、補助金で初期投資額の半分を賄うことができたとしても、次のフェーズに進もうとしたときにますます投資しにくくなるという状況です」
投資額に加えて、AIに対応したデータセンターの供給が追い付いていないという事情もある。
「日本のデータセンターは昔ながらの物理仕様になっています。電力や冷却の制約でNVIDIAの最新システムを導入することもできません。例えば、しっかりとした水冷設備を整えているデータセンターは現状では日本にほとんど存在しません」
多くの企業にとって、AI活用のためのインフラを見つけることすら難しくなっているということだ。こうしたROI的なマインドと整備されていない環境のままAIの取り組みを進めると、良い経済循環は生まれない。
とはいえ、マインドチェンジや投資のための資金を生み出すことは簡単ではない。その助けとなるようにNVIDIAやSupermicroでは、さまざまなソリューションを展開している。
NVIDIAは、本番環境へのAIモデルのデプロイを効率化するマイクロサービス「NVIDIA Inference Microservices」(以下、NIM)や、さまざまなソフトウェアコンポーネントを組み合わせてAIアプリケーションを迅速に構築できる基盤サービス「NVIDIA AI Blueprints」(以下、Blueprints)を提供する。
「NIMを使えば、画像生成や文書生成、チャットbotを簡単に構築できます。Blueprintsは、バーチャルヒューマンの作成や、RAGを使ったシステムの構築、AIエージェントを使ったビデオストリームの検索、要約、Q&Aなどが簡単にできるようになります。まずは、ソフトウェアを触ってみる、使ってみるということが重要です。そしてその活動をトップマネジメントが支援していくことも不可欠でしょう」(井崎氏)
トップマネジメント層の判断のためにも、AIによって実現する「絵空事」やベンダーの「売り文句」ではなく、ユースケースや顧客事例、製品の信頼性、実際の導入効果などを社内で地道に訴えていくことが重要だと佐野氏は指摘する。スーパーマイクロは、2024年度x86サーバの売り上げおよび出荷台数で国内第1位を獲得したが※、これはサーバづくりに対する真摯(しんし)な姿勢を地道に発信してきた結果といえるだろう。
※IDC Quarterly Server Tracker, 2025Q1
「水冷サーバについても、かつては水冷装置メーカーの部品を購入し、インテグレーションして製品として販売していました。ただ、NVIDIAの最新チップセットにいち早く対応し、お客さまに素早く提供するためには、自社で造る必要があります。そこで、今は水冷装置を含め、サーバに必要なさまざまな部品や機器を自社開発しています。スーパーコンピュータで培ってきた技術を応用した形です。自社開発することで品質や納期を担保しやすくなり、お客さまに適したソリューションを提供できるようになります。そうした点を評価いただき、大学や研究機関など多くのお客さまに採用されました」(佐野氏)
ものづくりに対するこだわりは、サーバにとどまらず、データセンター全体にも及んでいる。ネットワークやストレージを含むシステムをビルディングブロック方式で組み上げる方式を開発。冷却塔やコンテナ設備、CDU(クーラント分配ユニット)、チルドドアなどさまざまな水冷設備を自社開発し、それらを使ったデータセンターをソリューションとして提供できるほどだ。
このようにNVIDIAは単なるGPUベンダーではなく、AIのモデル学習や推論に必要なさまざまなライブラリや開発環境、ツールをパッケージとして提供するAIプラットフォームベンダーへと変貌している。Supermicroも単なるサーバベンダーではなく、冷却装置から冷却塔までを自社開発するAIデータセンターベンダーへと進化している。
「AIに対応した水冷式データセンターの建設には最低でも2〜3年かかります。NVIDIAと協力しながら、そうした次世代のデータセンター構築を計画段階からサポートしていきます。土地と電気と水を用意して、使い方を考えていただくだけでいいです。後はわれわれに任せていただければ、NVIDIAの最新GPUと最新AIソリューションパッケージを組み合わせ、水冷にも対応した最新のデータセンターを提供できます」(佐野氏)
Supermicroが提供する製品、ソリューションは多岐にわたるが、最新のものとしては、NVIDIA Blackwell世代のGPU「NVIDIA Blackwell HGX B200/B300」を搭載したサーバ、データセンターの電力コストを最大40%削減できる次世代直接液冷ソリューション「Supermicro DLC-2」、ラックから冷却塔までAIデータセンターに必要なものを全て提供する「Supermicro Data Center Building Block Solution」(DCBBS)などがある。
「NVIDIAの最新GPUを搭載したサーバソリューションをいち早くお届けします。もともとNVIDIAとSupermicroは創業年が1993年と同じで、サンノゼ本社も目と鼻の先の距離です。エンジニア同士が長年交流してきた歴史があり、NVIDIAのエンジニアが『新しいものを作ったよ』と言えば『じゃあ製品に組み込もうよ』と返す関係を続けてきました。GPUサーバもそうです。Supermicroのミッションは最新テクノロジーを世に出すことですが、まさにそれをNVIDIAと一緒に取り組んできました」(佐野氏)
こうしたNVIDIAとSupermicroの協業によってもたらされるソリューションは、新しいAI時代を乗り越える大きな助けになるものだ。井崎氏はこうアドバイスする。
「リーズニングモデルは、プロンプトを理解し、ステップに分解して論理的に思考を繰り返すため、今まで以上に計算能力を必要とします。計算能力をスケールさせることで精度の高い回答が得られるとも言えます。『フィジカルAI』と呼んでいるロボティクスの進展も視野に入れれば、今後10年は計算量の増加が続くでしょう。収益化の実現による経済循環を含め、NVIDIAは企業の取り組みをサポートしていきます」
また、佐野氏はこう展望する。
「計算量が増えると半導体の消費電力が増え発熱量も増えます。水冷、液浸など冷却方式で対応しながら、さらに新しい技術の開発などを通して、お客さまをサポートしていきます」
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