浸透する新世代のシンクライアント:安藤幸央のランダウン(28)
「Java FAQ(What's New)」の安藤幸央氏が、CoolなプログラミングのためのノウハウやTIPS、筆者の経験などを「Rundown」(駆け足の要点説明)でお届けします。(編集局)
ソフトウェアはリッチに、ハードウェアはシンクライアントに
Webアプリケーションの世界では、高速で快適に動作するリッチクライアントの注目度が高まっている。その一方、ハードウェアの世界では、いま一度シンクライアントが見直され、再評価の気運が高まっているようだ。
何度か人気の波が寄せ、引いていったのがシンクライアント技術だ。一昔前を振り返るとOracleがNC(Network Computer)でシンクライアントの優位性をアピールし、MicrosoftがWindows Terminal、Sun MicrosystemsのSun Rayが実用性を全面に打ち出していた。ただ、コンセプトの優位性の割には、すぐには一般に受け入れられなかった。その理由は何だろうか?
おそらく、パソコンの高性能化と、それに半比例した低価格化、ストレージの劇的な低価格化が1つの理由ではないだろうか。高性能なパソコンのリソースを活用することにユーザーはメリットを感じた。
そして現在シンクライアントが再評価されつつある理由は何であろうか? それは、業種によってはWebブラウザだけで、ほとんどの業務が遂行できることが挙げられる。また各種業務アプリケーションのWeb化が図られたことも追い風となっている。
普段の仕事環境を思い浮かべてほしい。最近ではフロッピーディスクを持ち歩いてうろうろすることや、MOなどのリムーバブルメディアもとんと見なくなってきた。データやファイルのやりとりはファイルサーバ経由、メール添付などで送られることがほとんどである。周りの環境を見渡すと、ちょうどシンクライアント導入の時期が熟したといえる。あのMicrosoftもWindows XPベースのシンクライアントを計画している。
シンクライアントの定義
シンクライアントは、クライアント/サーバ型コンピューティングの1つの形式である。プログラム(アプリケーション)や、データ・ファイルはサーバ側に存在する。アプリケーションはサーバ側で仮想的に確保されたメモリ領域で動作する。
シンクライアントはユーザーのキー操作などの入出力と、画面表示・操作の部分のみをつかさどる。ほとんどにおいてサーバ側の資源を用いるためシンクライアント側では少量のメモリと、ハードディスク(もしくはディスクレス)環境で動作が可能だ。結果的にシンクライアントハードウェアは安価に供給できる。
当初は安価であることのメリットが着目されたが、パソコンの価格が急激に下がったいまとなっては、単なる価格メリットの優位性は薄れてきている。
シンクライアントのメリットとデメリット
シンクライアントのメリットは時代のニーズに合致したものとなっている。その一方、デメリットもあり、ニーズに応じた使い分けが重要となるだろう。シンクライアントのメリットを列挙してみよう。
- 一般的に故障が少ない(ディスクレス、CD-ROMドライブがないなど、可動部分が少ないため)
- 管理の手間と時間の削減
- アプリケーションのインストール、更新などの一元管理
- 情報・データ漏洩の防止
- ウイルス対策の集中管理
- 業務外の不要なアプリケーション利用を回避
- 特定のクライアントに依存しない使い方ができる
- データの一元管理、バックアップ体制の統合化
- 設置スペース、消費電力の少なさ
シンクライアントが昨今、急に注目を浴びている理由の1つに、一連のウィルス騒ぎや、個人情報の漏洩防止に関する企業意識の高まりがある。多大な管理コストをかけ、運用で回避するのではなく、シンクライアントの利用でよりリスクの少ない環境を整えるという意識だ。
次に、デメリットを挙げてみよう。
- 操作感の違い、操作に慣れるまでの教育コスト
- 一般的なハウツー本がないこと
- ユーザーインターフェイス、日本語の入力方式や、プリンタの扱いなどの違い
- データの保存場所がサーバであることや、ファイルの扱い、利用方法の概念習得
- 頻繁に更新が必要な事象に対するネットワークアプリケーションの遅さのネック
- ネットワークトラブルがあった際、すべて利用できなくなること
- 専門的な業務、特殊なアプリケーションの利用、プログラム開発業務には向かない
シンクライアントは現在、一般的に良い面ばかりがクローズアップされ、再評価されつつある一方、デメリットといえる面があることも忘れてはならない。シンクライアントの一番の懸案事項は、教育の面や、管理の面をとらえても「人材」にあるといえる。シンクライアントに関する情報や書籍、そして構築に関するノウハウは現在極端に少ない。その中でどれだけシンクライアント環境の構築に慣れたIT企業や、管理業務に長けた管理者が育つかどうかが、これからの課題であろう。
USB-Linuxシンクライアントの登場
普段出歩くことの多いプログラマー・エンジニアであれば、携帯用のUSBメモリにメールソフトや、よく使うツール・ソフトウェアを入れて持ち歩いているのではないだろうか? その利用方法を、もう一歩進めたのがUSB-Linuxブート可能なシンクライアントである。一般的なパソコンにUSBメモリを接続し、Linuxベースのシンクライアントを起動するのだ。
またUSB-Linux方式のシンクライアントは持ち運びだけではなく、既存のWindows PCをすぐにシンクライアントとして使える利点もある。シンクライアント用として特殊な専用ハードを必要としない点が既存の資産を生かしやすく、移行しやすい点である。ちょうどNTTコムウェアとノベル、Berryから相次ぎ製品の発表があった。
ひそかにうわさされるGooglePCの信ぴょう性
2GBbytesを超えるストレージを提供するWebメールサービスのGMailには驚かされた。衛星写真まで見ることのできるGoogle Mapsなど、次々に意欲的なサービスを提供する検索エンジンのGoogleが次に提供するサービスは何であろうか? もしGooglePCが登場するとなると、どのような機能を備えているのか想定してみよう。
まずはGMailが使えること。さらにGBrowserと呼ばれるWebブラウザが登場するとのうわさがある。これはGBrowser.comというドメインをGoogle社が取得していることと、Firefoxの開発者など、次々とWebブラウザ関連の技術者を雇い入れていることにある。スケジューラなどもWebブラウザ上で動作するものも多く、大量のファイルストレージもGoogleなら心配ないだろう。メールとWebブラウザがそろった時点で、Webアプリケーション端末として有意義に活用できることは容易に想像できる。あと残すはワープロ・表計算といったオフィスツールとゲームさえそろえばいうことない。
現時点では予想の域を出ないGooglePCであるが、最近のGoogleの勢いを見るとあながちウソともいっていられない。
これからの可能性と運用メリット
シンクライアントがオフィスの中だけだと思いきや、オンラインゲームの世界でも徐々にシンクライアントが広がりつつある。例えば、G-cluster ではセットトップボックスをテレビとネットワークにつなぐだけで、オンラインゲームや、配信されてくるゲームを楽しむことができる。
高価で一昔前のスーパーコンピュータ並みの計算能力を持ったゲームボックスを必要とせずさらにパッケージソフトも必要としない。月額定額で、配信されてくる常に最新版のゲームソフトを取っ換え引っ換え楽しむことができるのだ。
Javaの黎明期には、Javaアプレットが注目を浴び、その普及に力を貸した。これからはシンクライアントアプリケーションの活用の舞台として、Java Thinletが便利に使える。
さらにシンクライアントの数が増大していくに従って、単なるサーバ・クライアント形式ではなく、グリッド形式の分散サーバと、シンクライアントの連携こそが真価を発揮する舞台となり得るであろう。
用賀の某社でフロアに並ぶ各キュービクルにSunRayが鎮座していた。SunRayが実際に使われている様は未来的な風景であり、圧巻でもあった。重たくてのんびりとしか動かないファット(Fat)なクライアントにおさらばし、ダイエットしてスマートにやせた(Thin)クライアントに乗り換えるのも悪くないと思った。
プロフィール
安藤幸央(あんどう ゆきお)
1970年北海道生まれ。現在、株式会社エクサ マルチメディアソリューションセンター所属。フォトリアリスティック3次元コンピュータグラフィックス、リアルタイムグラフィックスやネットワークを利用した各種開発業務に携わる。コンピュータ自動彩色システムや3次元イメージ検索システム大規模データ可視化システム、リアルタイムCG投影システム、建築業界、エンターテインメント向け3次元 CG ソフトの開発、インターネットベースのコンピュータグラフィックスシステムなどを手掛ける。また、Java、Web3D、OpenGL、3DCG の情報源となるWebページをまとめている。
ホームページ:
http://www.gimlay.org/~andoh/java/
所属団体:
OpenGL_Japan (Member)、SIGGRAPH TOKYO (Vice Chairman)
主な著書
「VRML 60分ガイド」(監訳、ソフトバンク)
「これがJava だ! インターネットの新たな主役」(共著、日本経済新聞社)
「The Java3D API仕様」(監修、アスキー)
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