シスコシステムズは9月25日、同社のユニファイド・コミュニケーション製品群を「コラボレーション」製品群に進化させていくと宣言した。
シスコ エンタープライズ&コマーシャル事業担当副社長の平井康文氏は「ユーザーの関心はモノからコトに移っている。これからはデバイスに人が合わせるのではなく、ユーザーを中心にサービスを組み立てるようになっていく」と話した。
平井氏はシスコが注目する市場トレンドとして、企業間コラボレーション、Web 2.0の広がり、グローバル化、SaaS、TDMからIPへの移行、環境への関心を挙げ、業務上必要な技術とオンデマンドのコラボレーションのベストな組み合わせを提供することが、今後重要になってくると話した。
これを実現するのが、今後同社が展開していくコラボレーション製品群の目的だという。平井氏はユニファイド・コミュニケーションの潜在市場が全世界で270億ドルとされているのに対し、コラボレーションは340億ドルであるとし、国内の潜在市場規模は「その10%として3400億円」になると語った。
機能強化はまだ限定的
シスコでは併せて、コラボレーションの世界に向けた既存製品の機能拡張や新ソリューションの一部を明らかにした。しかし少なくとも表面的には、これらに「コラボレーション」という名前を新たに付けるほどの新味は感じられない。
10月1日に提供開始する「シスコ ユニファイド コミュニケーション システム リリース7.0」では携帯端末の対応を強化。iPhoneでVPNクライアントを動作させて社内ネットワークにログインし、Web電話帳から選択して発信ができるようになった。Windows MobileやSymbian、BlackBerry OSの端末にも対応したという。
また、Microsoft Office Communication Server(OCS)、Lotus Notes/Sametimeとのプレゼンス情報の連携と相互チャットも実現した。シスコのユーザーアプリケーション「Cisco Unified Personal Communicator」で操作したプレゼンス情報だけでなく、シスコIPフォンの操作によるプレゼンス情報も、OCSやSametimeに伝えられる。
アプリケーション開発も容易になった。シスコ ユニファイド コミュニケーション システムではアプリケーション開発用にさまざまなAPIを提供してきたが、これまではプラットフォーム関連に開発作業のほとんどを費やす必要があったという。リリース7.0ではプロトコルの部分を抽象化し、グラフィカルにアプリケーションを構築できるツールも提供する。
シスコは、子会社が提供しているSaaS形態のオンデマンドビデオ会議サービス「WebEx」と、企業内設置型のビデオ会議システム「Cisco Unified MeetingPlace」との連携も進めていくという。まず2008年中に両者のインターフェイスを統一し、統合可能とする。これにより、1つの操作画面から、Web会議はWebEx、音声会議はMeetingPlaceといった使い分けができるようにするという。
また、WebExのクライアント・アプリケーションとして「Cisco WebEx Connect」を発表。これはiGoogleなどのように、さまざまなアプリケーションの情報をウィジェットとして表示・利用できるポータルあるいはワークスペースのような役割を果たす。英語版WebEx Connectはデスクトップ版を提供中で、モバイルクライアント版は2009年初めに販売開始するという。
シスコが発表したもう1つのソリューション「Cisco TelePresence Expert on Demand」は、高精細画像を特徴とするビデオ会議システムTelePresenceをカスタマーサービスに使うための1つの提案だ。例えば金融機関の支店に来た顧客がTelePresence端末で金融商品アドバイスサービスを呼び出すと、まずカスタマーサービスのエージェントがこれを受け、顧客の要望に応じて適切な金融商品の担当者にTelePresenceセッションを転送することなどができる。
「コラボレーション」のゴールはどこにあるか
ユニファイド・コミュニケーション分野で携帯端末への対応を積極的に進めているベンダはほかにもいる。アプリケーション統合については、ほとんどの関連ベンダが力を入れているといっても過言ではない。シスコの製品間の統合も部分的な感がぬぐえない。
しかし、シスコのコラボレーション戦略は、シスコ版「ソフトウェア+サービス」戦略でもあり、シスコのコミュニケーション製品をすべて完全に統合する道筋でもあるようだ。
シスコのテクノロジー マーケティング シニア マーケティング マネージャである谷口功一氏は、現在WebEx ConnectがWebExサービスを利用するユーザーのクライアント環境に留まっていることを認めながら、「将来はUnified Personal Communicatorとも統合される方向」と話す。WebEx Connectはシスコのユニファイド・コミュニケーション製品すべてに対してのユーザー・インターフェイスになっていくだろうという。「iPhoneにもWebEx Connectが載るようになれば、iPhoneだけですべての仕事ができるようになるかもしれない」。
ドラマ「24」では、TelePresenceの会議に携帯電話から参加するシーンが登場するが、ユニファイド コミュニケーション システム、TelePresence、WebEx、MeetingPlaceがビデオ通話を含めて完全に相互乗り入れできるようになり、さらにiPhoneのような端末が使えるようになって、コミュニケーションしたい相手を選択するだけで、そのユーザーの場所や状況に応じて適切な手段を自動的に利用できるようになると、現在のユニファイド・コミュニケーションとは違った世界が開けてくる。WebExなどを通じて社外の人々を巻き込みながら、場所や煩雑な手続きの壁を越えたやり取りができるようになるからだ。さらに、こうしたコミュニケーションが、専用のアプリケーションではなく業務デスクトップ環境の中から呼び出せるようになれば、本格的に「人」中心のモデルになってくる。
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