先週の@IT NewsInsightのアクセスランキングは第1位は「インド大手IT企業が巨額粉飾 「インド版エンロン事件」の声も」だった。インドの大手アウトソーシング企業、サティヤム・コンピュータ・サービスが数年に及ぶ巨額の粉飾決算を行っていたという大きなスキャンダルで、今後波紋を広げそうだ。
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先週、「クラウド型ストレージ、Amazon S3は安いか?」という記事を書いた。オブジェクトをアクセス頻度で分け、クラウドと手元のサーバとでストレージを階層化するベンチャー企業の実例など、私自身とても興味深く追いかけたトピックだったのだが、本当のところ、クラウドが安いかどうかという考察は、それだけで終わると悲しいと思っている。それは価格表から計算すれば分かることだし、提供される機能にしても、Webページを見れば書いてある。
ノウハウ話や体験談が重要ではない、というつもりはない(だから記事としてまとめた)。しかし、周回遅れで「クラウドが使えるかどうか」と“お客様”視点でだけ値踏みしているのは情けないではないか、とも思うのだ。日本のIT業界というのは、お客様ばかりだったのだろうか?
Amazon EC2やS3のすごいところは、純粋な利用者だけでなく、EC2やS3、SQSを組み合わせ、その上で独自サービスを提供するIT系ベンチャーなどの顧客を巻き込んだイノベーションを、爆発的なスピードで起こしていることだ。エコシステムが回り始め、データセンターとは何か、サーバとは何か、ストレージとは何か、データベースとは何かといった意味すら彼らは根本的に変えてしまおうとしている。開発環境すら変わる可能性がある。Amazon EC2上でRuby on Railsの統合開発環境やディプロイ、売買プラットフォームまでそろえようとしている、HerokuやMorphを見てみてほしい。
クラウドに絡んでもっと議論すべきなのは、なぜ東京にAmazon Web Servicesに相当する革新的なクラウドサービスを誰も作り得ていないか、ということではないかと思う。
「クラウドはバズワードがどうか」などというノンキな議論も一部にあるようだが、日本のIT業界は、これほど破壊的なコンピューティングアーキテクチャの変革を目の当たりにして、それでもまだ他人事のように外から眺めているだけでいいのだろうか。グリッド、分散処理、クラウド――、呼び名は関係ない。ハードウェアやOSに汎用のものを使い、その上に可用性やスケーラビリティ、開発・運用の容易さを作り出す多様なソフトウェア・ネットワーク技術が花開いている。
確かに仮想化を使った単なるVPSのようなサービスをクラウドと呼ぶような例を見ると、クラウドなんてバズワードじゃないかと指摘したくなるのは分かる。用語の定義はあいまいだし、バラバラだ。議論がすれ違う面倒さから、クラウドという言葉を嫌うのも分かる。しかし、森の輪郭が見えづらいとか、その一部が枯れ葉やイミテーションだからといって、青々と繁茂する森を見過ごしていいわけがない。IT技術者なら森が青いことは見れば分かる。クラウドが単なるグリッドの言い換えだというのは、森を見ているだけで1本1本の木の枝振りを観察しようとしない人たちだけだ。それぞれを観察してみれば、この新しい森がいずれ“ミッションクリティカル”の巨木をなぎ倒すだけの生命力すら宿していることが分かるはずだ。
だからむしろ問題なのは、どうして日本のIT業界の一部で「森は本物だろうか。使えるだろうか」などといった遠巻きに眺めるだけの議論しか聞こえてこないか、ということではないか。
汎用PCとインターネットよる大規模分散処理で、解くべき難問は東京にも山ほどある。才能もある(mixiのTokyo Tyrantや楽天のROMA/Fairyは、そうした例だ)。しかし、見るべきほどのクラウドサービスやそれを取り巻くエコシステムは、まだ存在しない。それがなぜなのか、私には良く分からない。大きな問題の答えはいつも複合的だから、いろいろな答え方があるのだろうと想像する。いずれにしても、Amazonの快進撃を見ていると、彼我の差がもどかしくて仕方なくなることがあるのだ。
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