電力会社の最新技術、スマートグリッドが未来を変える:味わい深いシステムを開発するための業界知識(7)(2/3 ページ)
ITエンジニアの日々の業務は、一見業界によって特異性がないようだ。だが、実際は顧客先の業界のITデマンドや動向などが、システム開発のヒントとなることもある。本連載では、各業界で活躍するITコンサルタントが、毎回リレー形式で「システム開発をするうえで知っておいて損はない業務知識」を解説する。ITエンジニアは、ITをとおして各業界を盛り上げている一員だ。これから新たな顧客先の業界で業務を遂行するITエンジニアの皆さんに、システム開発と業界知識との関連について理解していただきたい。
われわれの生活を変える新しいIT活用“スマートグリッド”
さて、ここからは冒頭で触れた、最先端のITを活用した電力会社の取り組みを紹介していきます。
電力業界では“スマートグリッド”という最新のITを活用した仕組みの実現に向けて動き始めています。スマートグリッドとは、人手で検針しているメーターを自動で検針できるメーター(スマートメーター)に取り替え、電力会社のシステムと電力供給場所とをネットワーク化した送配電網を活用して、環境に配慮した電力消費を実現するための活動の総称です。
スマートメーターは電力量の計測に加え、無線通信機能や家庭内の機器を制御する機能を搭載し、エネルギー利用の監視や制御を可能とします。前述のとおり、現在の電力会社のシステムは、発電、送電、配電、営業で分かれていますが、これらをすべて統合することによって、電源の効率管理、送配電網の状況把握・管理および顧客とのコミュニケーションを可能にすることを目指しています。
スマートグリッドは、いくつかの段階を踏んで実現していくことになります。
●ステップ1:スマートメーターの設置による自動検針の実現
まず、スマートメーターが需要場所に設置され、検針値がメーターから自動的に電力会社のデータベースへと転送されるようになります。検針業務を除外することによるコスト削減や、検針誤りがなくなることによる精度の向上が図れます。これまでよりも詳細な電力消費データを低コストで収集することが可能になるため、需要の詳細を把握すること(現在の月単位から時間単位/日単位での把握)が可能となり、電力の消費動向の分析に活用されるようになります。これに伴い、新しい料金・サービスメニューの開発が進むことが予想されます。
●ステップ2:スマートメーターによる顧客とのコミュニケーションの実現
スマートメーターの機能を活用し、顧客と電力会社間で情報の収集/配信といったコミュニケーションがネットワークを通じて可能となります。電力会社は顧客の消費動向情報に基づいた最適な電力メニューの提案や電力消費をコントロールするためのシグナルを配信し、顧客はそれを基に節電の行動を取ることが可能となります。
また、スマートメーターと電力会社の業務システムとの間で接続が確立され、電力会社の業務システムにおいて、さまざまな顧客データの活用が進むようにもなります。電力会社の社内システムには巨大なSOAのネットワークの整備が必要になってくるでしょう。
加えて、ネットワークが既存の発電設備(原子力、火力など)まで拡大され、電力の需給状態に応じた、電源の最適化が図られます。
●ステップ3:
(1)スマートグリッドの実現
スマートメーターのネットワークが分散電源・再生可能エネルギー(風力、水素発電、太陽光発電など)にまで拡大し、接続されるようになります。これにより、環境まで配慮された高度な電源の最適化が図られます。
(2)スマートホーム
スマートメーターの家庭内の機器を制御する機能により、家電機器のネットワーク化が進みます。まずは、需要を踏まえた家電機器や自家発電の遠隔コントロールが可能となり、家庭のエネルギー効率化がさらに進みます。ホームセキュリティや遠隔介護といったサービスの提供も可能となるでしょう。ほかにも想像すればするほど、さまざまなサービスが思いつきます。スマートホームによって実現される世界の想像は尽きません。
国内の電力会社の動向を見ていると、ステップ3までの全世帯への実現を、今後20年間をターゲットとしているようです。スマートグリッドにより、われわれの生活は大きく変わりますし、現在問題となっている環境問題への対策も大きく進むことになるでしょう。もしかすると、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー(パートII)』に出てきたような未来の家は電力会社が中心になって作り上げていくのかもしれません。
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