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iPhoneアプリにアプリ内課金を導入してガッチリもうけるのだものになるモノ、ならないモノ(37)(1/2 ページ)

「iPhoneのアプリ内課金(In App Purchase)ってどーよ?」 そんな疑問に答えるべく、アプリ内課金のサポート業務を行っている企業に現状と今後の見通しを聞いた。

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 Appleがこれまでの方針を転換し、無料iPhoneアプリにもアプリ内課金(In App Purchase)を解禁した。有料アプリと違い「無料アプリはダウンロード数がけた違いに多い」(アプリ開発者)そうなので、アプリがユーザーに支持されれば、「無料で配って後からもうける」アフターマーケットのビジネスが“読める”ことにもなり、これまでとは違った形のアプリビジネスの展開が望めそうだ。

 アプリ内課金登場以前のiPhoneアプリビジネスの欠点として、自転車操業的な側面が指摘されてきた。売れ続けるのは一部の人気アプリだけで、一度ランキング圏外に落ちてしまうとさっぱり売れなくなる。いきおい、次から次へとアプリを開発しなければならず、疲弊してしまう開発者もいれば、大手コンテンツ企業などは、最初から「ビジネスにならない」と参入を見合わせていたところも多かった。

 だが、7月から始まったアプリ内課金がこの状況を変えつつあるようだ。これはあくまでも筆者の印象だが、アプリ内課金開始以降、大手のゲーム企業やメディア系企業が積極的にiPhoneアプリをリリースしているように思える。

 そして、今回の無料アプリへの実装解禁だ。今後、続々と大手がこのビジネスに参入の狼煙(のろし)を上げてくるだろう。ただ、そのような大手企業の動向は置いておいて、このコラムでは、以前よりインディ系のiPhoneアプリ開発者を応援している。「じゃあ、インディにとってiPhoneのアプリ内課金はどうなのよ」という視点で考えてみたい。

 今回、アプリ内課金をサポートしてくれる2つのサービス、コニットの「iPhone用コンテンツ課金ソリューション」と、FEYNMANの「dodaii」を取材した。

 実は、最初、なぜアプリ内課金をサポートするサービスが必要なのか分からなかった。「アプリの開発ができるのであれば、アプリ内課金の仕組みも一緒に作ってしまえばいいのでは」と思っていたからだ。しかし、事はそう単純ではなかった。取材を終えて正直な感想を述べさせてもらうと、

 「iPhoneのアプリ内課金ってメンドウだなあ……」

というもの。のっけからネガティブな物言いで申し訳ないが、特に、インディ系開発者からすると、アプリ内課金は面倒なことが多過ぎると感じた。その理由を解説する前に、アプリ内課金の実装方法について整理しておきたい。

インディはお呼びじゃない!? 「コンテンツダウンロード型モデル」

 iPhoneのアプリ内課金には大きく2つのスタイルがある。1つは「内蔵型モデル」というもので、アプリをリリースする際、アプリ内課金したいすべてのコンテンツをあらかじめ実装する方法である。実装済みといっても、最初はロックを掛けておき、一定の機能を使えないようにしてリリースする。そして、ユーザーがアプリ内で購入手続きをすることでロックが外れてすべてのコンテンツが利用可能になる。ゲームのステージやアイテムの追加などに利用されることが多い。

 2つ目は、「コンテンツダウンロード型モデル」。その名のとおり、アプリリリース時にはコンテンツは搭載しておかず、後からアプリ内課金でコンテンツをダウンロード販売する方法だ。例えば、毎月定期的に刊行される電子書籍や、事前実装では容量が大きくなってしまう画像、動画、音楽系のコンテンツなどに利用される。筆者が「メンドウ」といったのは「コンテンツダウンロード型モデル」の方だ。

 「内蔵型モデル」の方は、「Store Kit API」と呼ばれるスキームを実装すれば、サーバ不要で構築することができるので、腕に覚えのある開発者であれば、大きなハードルにはならないと思う。ちなみに、筆者がプロデュースを行い、PocketGuitarの笠谷真也氏がプログラミングを担当した新作アプリ「Pocket Organ C3B3」には、「内蔵型モデル」のアプリ内課金が実装してある。笠谷氏は、「内蔵型であれば、サーバの知識は不要で、通常のアプリ開発のスキルの延長線上で実装可能」と教えてくれた。

 「コンテンツダウンロード型モデル」でアプリ内課金を行うには、アプリとApp Storeだけでは完結しない。図に示したように、開発者自身でサーバを用意する必要がある。「App Storeはアプリ内課金のインターフェイスを提供しているだけ」(コニットの橋本謙太郎氏)であり、ダウンロード用コンテンツの配信や、ユーザー情報の管理などを行うサーバが別途必要なのだ。

図1 コンテンツダウンロード型モデルにおける各所の役割分担
図1 コンテンツダウンロード型モデルにおける各所の役割分担。コンテンツダウンロード型モデルのアプリ開発者は、黄色で示した部分(サーバとアプリ)の両方を構築する必要がある。AppleのApp Storeが提供する部分は限られている(クリックすると拡大します)

 「コンテンツダウンロード型モデル」でアプリをリリースしたら最後、極端な話、ユーザーがいる限り、24時間365日サーバを運営する道義的な責任が生ずることになる。インディにとって、これはかなりしんどい。もちろん、ホスティング事業者などを利用しての運用にはなるかとは思うが、それにしたって、サーバ側のシステムを作り込む必要がある。単にサーバにコンテンツを置いておけばよいというものではないのだ。

 例えていうなら「Appleのサーバには、買い物時のレシートが残っているようなイメージ」(FEYNMANチーフエバンジェリスト川畑雄補氏)なのだそうだ。が、逆にいうとそれだけのことなので、詳細な課金管理やコンテンツの管理、セキュリティ対策といったことはデベロッパー側で作り込む必要がある。

 そのためか、現状、コンテンツダウンロード型モデルでアプリ内課金を行っていると思われるアプリは、大手の開発者によるものが中心になっている。つまり、自社などでこのようなサーバを構築運用できるスキルのある企業だけが提供できるものなのだ。したがって、このモデルは敷居の高い、“お呼びでない世界”と感じるインディも多いと思う。前出の、「Pocket Organ C3B3」などは、企画検討時にダウンロード型を提案した筆者に対し笠谷氏は、「大変なのでやめましょう」と即答したくらいだ。

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