クラウドセキュリティにコストをかける覚悟はあるか:セキュリティ、そろそろ本音で語らないか(16)(3/3 ページ)
プライベートクラウドが盛り上がる理由は、それで得する人たちがいるからです。言いなりにならないためには、何をすべき?(編集部)
その仮想化、「ゴミ掃除」を忘れていませんか
ところで、自社内で所有するプライベートクラウドを選択する企業に共通して見られる現象が、既存のサーバ群をそのまま仮想環境に移そうとすることです。この理由は、ベンダから「既存のサーバ群を仮想環境に置き換えたらこれだけコスト削減できますよ」という見積もりをとっているためで、その方が社内の稟議書を通しやすいからです。
ところがこの「そのまま引っ越し」が、コスト増の原因になります。確かに一時的にはハードウェアの管理を集約できる効果がありますが、それではコスト削減のもう1つの大きな効果を出す機会を逃してしまいます。その効果とは「ゴミの整理」です。
専用サーバから仮想環境への引っ越しは、古い一戸建てから新築のマンションへの引っ越しに似ています。一戸建てに長く暮らしていると、古いモノがたくさん捨てられずにたまっているはずです。そこから共同住宅であるマンションへの引っ越しとなれば、大量のゴミが出されるでしょう。せっかく新しいマンションへ引っ越すわけですから、古めかしいモノはできるだけ捨てて、家具や家電も新居に合わせて買い換えたりするでしょう。
例えば、一戸建ての住宅からの引っ越しでも、「全部そのまま運びます」というサービスがあったとしても、ちゃんと整理や廃棄をするでしょう。既存のサーバ群をそのまま仮想環境に移行することは、ゴミも新築マンションにゴミもそのまま持ち込んでしまうことと同じです。
サーバの引っ越しは、業務改善も含めた整理統合の絶好の機会です。それを行わずに移行を行えば、後日、コスト削減などのために結局は整理統合を行うことになり、引っ越し自体が無駄なコストになりかねません。
私の知っている事例では、既存のサーバ群の単純移行の計画がありましたが、業務見直しを含めた整理統合を行った上で、引っ越しを行うように大きく方針が転換されました。
クラウド化を“業務整理”のチャンスとせよ
ハードウェアベンダは「簡単にコスト削減」というかもしれませんが、実際にはハードウェアを買い込んで、しばらくは並行稼働しつつ、しかも未知の障害と向き合うことになるのです。
それであれば、業務やシステムの整理統合を行いつつ、仮想技術の成熟や、ベンダの整理統合などを見極めた方が大きなコスト削減ができるのではないでしょうか。
クラウドへの移行を考える際には、今後のクライアント環境についても視野に入れる必要があります。それはiPadに代表される、新しい情報端末機器による利用を視野に入れることです。これらを活用することによって、利便性とセキュリティ、そしてコスト削減が実現できる可能性があるのです。
多くのベンダがプライベートクラウドを推進しています。しかし、重要なのは目先のコスト削減や流行に惑わされないことです。クラウドを検討するときには、自社に必要なセキュリティレベルと将来に渡るコスト効果を見極めつつ、引っ越しに伴う業務整理も視野に入れて「根本的なITコストの削減」と「利便性の向上」を目指していただきたいと思います。
三輪 信雄(みわ のぶお)
S&Jコンサルティング株式会社
代表取締役
チーフコンサルタント
1995年より日本で情報セキュリティビジネスの先駆けとして事業を開始し、技術者コミュニティを組織し業界をリードした。また、日本のMicrosoft製品に初めてセキュリティパッチを発行させた脆弱性発見者としても知られている。
そのほか多くの製品の脆弱性を発見してきた。また、無線LANの脆弱性として霞が関や兜町を調査し報告書を公開した。Webアプリケーションの脆弱性について問題を発見・公開し現在のWebアプリケーションセキュリティ市場を開拓した。
また、セキュリティポリシーという言葉が一般的でなかったころからコンサルティング事業を開始して、さらに脆弱性検査、セキュリティ監視など日本で情報セキュリティ事業の先駆けとなった。
上場企業トップ経験者としての視点で情報セキュリティを論じることができる。教科書通りのマネジメント重視の対策に異論をもち、グローバルスタンダードになるべき実践的なセキュリティシステムの構築に意欲的に取り組んでいる。また、ALSOKで情報セキュリティ事業の立ち上げ支援を行った経験から、物理とITセキュリティの融合を論じることができる。
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