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MOOCでコンピュータ科学の修士号提供〜ジョージア工科大学の新たな取り組み三国大洋の箸休め(10)

昨今、Web上での大規模講義「MOOC」が注目を集めている。理工系の名門校、ジョージア工科大学が来年からMOOCによるコンピュータサイエンスの修士課程のコースを開始する。

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 昨年辺りからニュースになることが目立ってきているMOOC(Massive Open Online Course)。これまでは「試行錯誤中」「実験段階」といった印象が強かったこのオンライン学習の仕組みが、1つ先の段階に進もうとしているようだ。

 理工系の名門大学の1つとされるジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)が、来年1月からMOOCによるコンピュータサイエンスの修士課程のコースを開始するという。

 これまでに試されたものとの大きな違いは、コースを終了し、試験に合格すれば(リアルの課程と同様に)きちんと学位を取得できるという点。従来のものでは無料で勉強できる代わりに終了しても受講証明書(certificate)しかもらえなかった(ジョージア工科大の新コースでも、学位が必要ないという人は無料で授業を受けられるという)。しかも、その授業料が6600ドルと格安――普通にキャンパスに通学して取得した場合の授業料は4万5000ドルというから、ほぼ7分の1くらいで学位を取れる計算になる(ただし期間は不明)。

 米国ではもう何年も高等教育に掛かるコストの急騰が社会問題になっている。以前に取り上げたUCバークレー(カリフォルニアの州立大学)の話の中にも、「州からの補助金削減などを受けて、2011年に授業料を倍にした」といった一節があったが、Bloombergに最近出ていた記事には、1978年から今年までの35年間に大学の授業料などのコストが約11倍も値上がりしたというグラフも出ている。

 同期間中の増加率は、消費者物価指数が約2.5倍、医療費でさえ6倍だから、大学(院)教育に掛かるコストの増加ぶりがいやでも目立つ(ただし、なぜそうなったかという具体的な理由については、現時点ではよく分からない)。さらに、多くの学生が利用している学費ローン(学生本人が卒業後に返済するもの)の負担が年々重くなっていて、Rolling Stoneの最近の記事には「払いきれずに債務不履行になったら、3万8000ドルだった元本が、延滞金その他もろもろで10万ドル以上に膨れ上がった」などといった悲惨な話も出ている。

 この記事には「1970年までは世帯収入の4%程度に過ぎなかった公立大学の学費が、2010年には11%を占めるようになった。(中略)学生1人当たりの負債額は2万7000ドル」などといった記述もみられる。そんな厳しい状況だから、ジョージア工科大が計画する「低料金かつ品質の高い」高等教育の提供がうまく軌道に乗るようだと、それによって救われるボーダーラインの若者(きちんと勉強してきたけれど、経済的な問題で大学進学を断念するようなティーンエイジャーなど)もたくさん生まれそうだ。同時に大学院の場合は、「MOOCならフルタイムの仕事を辞めずに勉強できる」といったメリットも大きいかもしれない。

 さて。このジョージア工科大学の新たな取り組みは、同校のズヴィ・ガリル(Zvi Galil)という学部長と、それにかつてGoogle Xラボを設立したロボット工学/人工知能の権威、セバスチアン・スラン(Sebastian Thrun)の2人が主導して立ち上げたものだという。ガリルとスランの2人を「MOOCのライト兄弟になるかもしれない」と持ち上げる第三者(オバマ大統領の科学技術関連の諮問委員を務めるメリーランド大学の物理学者)のコメントも出ている。授業で利用するプラットフォームは、スランがグーグルを離れた後に立ち上げたユーダシティ(Udacity)のもので、大学とユーダシティは6対4の割合で収益を分配することになる、とある。

 また、この新しい試みがすでにスポンサーを確保していることも、格安料金を打ち出せる大きな理由の1つである。米通信最大手のAT&Tが200万ドルを提供、見返りにこのコースを使って従業員の訓練などを実施する予定で、そうした収入を含め、初年度には310万ドルの経費を使って、24万ドル程度の利益を出すもくろみらしい。

 なお、ユーダシティはコーセラ(Coursera)、エドX(edX)とならぶ大手のMOOC運営事業者とされるが、これらの事業者に対しては「大学教育のアウトソーシング(外注への丸投げ)」といった批判もあるものの、契約する大学(講座)の数は急増中。ただし、「本格的にビジネスとして成り立つかどうかはまだはっきりした見通しが立っていない」などとNYTimesは記している。

 新しい試みに対しては必ず懐疑的な見方が付いて回るが、ジョージア工科大学の取り組みに対しても「3年目に収入1430万ドル、利益470万ドルという試算は楽観的に過ぎないか。6600ドルという学費で、どれだけキメの細かい指導ができるのか」といった声もすでに出ているという。

 いずれにしても、貧富の差がますます拡大する米国社会で、恵まれない立場に置かれた若者が悪循環から脱するには、それなりにニーズのある分野の教育を受け、先行き有望な分野の仕事に就くしかない。オバマ大統領なども以前からしきりと「ミドルクラスの雇用創出と、そのための教育の拡充・人材育成を」と言い続けている。

 ただし、最近ではそのための原資として、アップルやグーグルなどの多国籍巨大企業が国外で寝かせている利益を当てにするようなそぶりを見せており、具体的な施策の早期実現は難しそうな雲行きにもなっている。そうしたことも考え合わせると、このジョージア工科大学の取り組みのような新しいアプローチがより切実に求められているようにも思われる。

三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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