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BitcoinにGoogle Glass―― 「NBA 3.0」に向けて動き出すキングズ三国大洋の箸休め(22)

BitcoinやGoogle Glassといった最先端のテクノロジを、プロスポーツの現場に早速導入するチームが現れた。米プロスポーツ界初の試みとは。

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 日本でも注目を集めているBitcoinやGoogle Glassといった最先端のテクノロジを、早速、プロスポーツの現場に導入すると宣言したチームが現れた。今回紹介するのはそんな話題だ。

今日の例文

Few in the crowd probably recognized Ranadive as the man who digitized Wall Street in the 1980s, or knew he wants to do the same with a franchise in disarray. His ambitious plan to use technology and data to reboot the Kings also could remake the league. He calls it NBA 3.0, a complete rethinking of how fans interact with and follow the game, especially in the developing world.

This Man Wants to Make the NBA a Social Network ― And Take It Global - Wired

http://www.wired.com/business/2013/12/vivek-ranadive-sacramento-kings/


ワード&フレーズ

 では、上記の例文に出てきたキーワードとキーフレーズを見ていこう。

原文
few ほとんどいない
recognize 認識する、分かる
franchise プロスポーツチーム
in disarray 混乱した、足並みがそろわない(状態の)
ambitious 野心的な
reboot 再起動する
remake 作り替える
can 可能性がある
rethink 考え直す
follow the game 試合の経過を追う
developing world 新興国・地域

ニュースの背景

 ティブコソフトウェア(TIBCO Software)の創業者、ヴィヴェック・ラナディブ(Vivek Ranadive)という人物については、前々回で触れた。インド出身でバスケットボールのことなど何も知らなかったのに、娘が所属する学校の女子チームのヘッドコーチを買って出た。それがきっかけですっかりバスケットボールにはまり、1年もしないうちにプロチームのオーナーになっていた…… といった話だった。

 そんなラナディブが今シーズンから筆頭オーナーになっているNBAのサクラメント・キングズが先週、話題の仮想通貨「ビットコイン」(Bitcoin)の取り扱い開始と、「Google Glass」の試験導入を立て続けに発表した。いずれも米プロスポーツ界で初の試みだそうである。

(Google Glassの実験導入を知らせるラナディブ自身のツイート)

 このうちBitcoinの方は、ファンが同通貨を利用して試合のチケットやチームのグッズを購入できるというもので、既に球団が運営する実店舗では利用可能だ。3月1日からはオンライン販売でも使えるようになるという。

 キングズはこのためにビットペイ(BitPay)という決済業者と提携したが、同社のCEOはTechCrunchに「キングズの球団関係者とは前週のCES 2014で初めて知り合った。(略)それから1週間もしないうちに提携が決まった」などと語っている。

 前記のESPN記事によると、キングズではビットペイを経由することで売上代金を現金で受け取れる。つまり、価値の上下動が激しいBitcoinのリスクを回避できる他、ビットペイには「取引1件当たりいくら」という固定額の手数料を支払えばいいので、売上代金に応じて一定の割合(パーセンテージ)を取られるクレジットカード決済などよりも正味の取り分が多くなるという。

 なお、ビットペイという決済業者には、ファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)―― ペイパル創業者の1人で、フェイスブックへの初期投資で大儲けしたピーター・ティール(Peter Thiel)が立ち上げたベンチャーキャピタル(VC)ファンドで、ショーン・パーカー(Sean Parker)も在籍―― や、香港の大富豪、リカシン(李嘉誠、LIKA−SHING)のVCファンド、ホライゾンズ・ベンチャーズ(Horizons Ventures)などの有力投資家が出資しており、これまでに多くの媒体でも取り上げられていたようだ。

Google Glassでこれまでなかった角度の試合映像を

 Google Glassの方は、キングズの選手に加え、チアリーダーや専属アナウンサー、それにチームマスコット(ぬいぐるみ)などもGoogle Glassを着用し、これまでになかった角度から試合会場の模様を伝える、というものらしい。

 まずは24日に行われる対インディアナ・ぺーサーズ戦で実験導入を開始する。ただし選手が試合中に着用することはまだ認められていないため、ファンが「選手の視点から試合を観る」ことはできないようだ。

 こちらの取り組みでキングズに協力するのは、クラウドオプティック(CrowdOptic)というサンフランシスコの企業。同社では既にスタンフォード大学のスポーツ・チームと協力してテストを進めているという。下掲の(アメリカン)フットボールの映像はその一例だ。

動画が取得できませんでした
[Stanford Football: Point-Of-View Cam]。左上に小さく表示されているのが撮影者=Google Glass着用者。撮影された映像は、テレビやモバイル端末の他、競技場内の大型モニターにも表示可能だという

新コミッショナー、シルバー氏が目指す「NBA 3.0」

 ところで、NBAでは1月末に、30年ぶりのトップ交代がある。

 現コミッショナーのデビッド・スターン(David Stern)がトップに就任した1984年というと、米国はまだレーガン政権下で、NBAでもマジック・ジョンソン(Ervin Magic Johnson)率いるLAレイカーズとラリー・バード(Larry Bird)のボストン・セルティクスとの競り合いは既に始まっていたけれど、全体としてはまだまだマイナーなプロスポーツの1つに過ぎなかった…… そんな説明が、このトップ交代に焦点を当てたBusinessweekの巻頭特集記事に出ている。

 この年のドラフトでNBA入りしたマイケル・ジョーダン(Michael Jordan)、ハキーム・オラジュワン(Hakeem Olajuwon)、チャールズ・バークレー(Charles Barkley)、ジョン・ストックトン(John Stockton)といったスター選手(いずれも後に殿堂入り)の活躍もあり、NBAはその後「米4大プロスポーツ」の仲間入りを果たす。特に1992年(バルセロナ五輪)のドリームチーム以降は、世界的にも注目を集める存在へと変身を遂げることになる。

 ちなみに、デビッド・スターンがコミッショナーに就任する前の1983年には、NBA全体の収入はわずか1億1800万ドル(それに対し、現在の年間収入は約55億ドル)で、チームも安いところだと1500万〜2000万ドル程度で買えたという。ちなみに、昨年ラナディブらのオーナーグループがキングズを獲得した際には、過去最高額となる5億3400万ドルを支払っていた。

 また、当時は有名なコカイン中毒のスター選手が何人もいたり、ドラフトで選ばれた2日後に薬物の過剰摂取で死亡した新人選手(?)の例もあったりで、リーグ全体の評判もあまり芳しいものではなかった。さらに、選手やファンの大半が黒人だったせいで、スポンサーになる大手企業もなかった。

 現在の繁栄ぶりからは想像がつきにくい話だが、そんな時代が「NBA 1.0」だとすると、スターン時代の30年間はちょうど「NBA 2.0」ということになろう。

 アダム・シルバー(Adam Silver)次期コミッショナーの下で、「3.0」時代のNBAは本格的なグローバル展開を進め、サッカーに比肩する人気スポーツを目指すようだ。

 今回引用した一節が出ているWired記事―― ラナディブとキングズのことを取り上げたもの―― の中には、「われわれはバスケットボールを21世紀のプレミア・スポーツにする機会を手にしている」「バスケットボールのビジネスは、実はソーシャルネットワーク」「テクノロジを使って、このネットワークをグローバルに広げられる」といったラナディブのコメントが出ている。

 ちなみに、NBAでは欧州や南米出身の選手はもはや当たり前の存在になっている。

 リチャード・フロリダ(邦題『クリエイティブ資本論―新たな経済階級の台頭』など複数の著書もある社会学者)によると、オリジナルのドリームチームが結成された1992年には21人しかいなかった外国人選手が、その後は年々増え続け、2012−13シーズン開幕時には過去最高の84人に達していたという。1チーム当たり多めに見積もって15人、30チームとして、リーグ全体で450人だから、84人というのは相当な割合である。

 一方、既に毎週NBAの試合が全国放映されている中国や、自国出身のオーナー(ブルックリン・ネッツのミハイル・プロコーロフ)がいるロシアとは異なり、インドはNBAにとってほとんど手付かずの市場。そうした点でも、ラナディブがこれから果たす役割はかなり重要なものになると思われる。

 さて、肝心のキングズの調子はどうかといえば、シーズン前の予想通り、いまなお下位に低迷し続けている。

 ただし、今度のドラフト(6月下旬に実施予定)は、「2003年以来の当たり年」とされるほどの逸材揃い。「どの選手が上位で選ばれるか」といった話題がシーズン開幕前から盛り上がっているほどだ。そうした次世代のスーパースターを獲得してチームの柱とするためには、もっと負けた方がいいといった状況だ。

 おかしな話だが、ドラフトのくじ引きで有利な立場に立つために、弱いチームではベテランの主力選手を手放するといったことが行われている。これも「前シーズンの成績が悪かった順にくじを引く」という1985年に導入された仕組みのせいだ。

 つまり、キングズとしてはBitcoinやGoogle Glassのような材料で話題作りをしながら、同時に「NBA 3.0」時代への地ならしを進め、その上で「リーグ全体の将来を背負って立つような大型新人」を今年夏にうまく獲得できれば…… といった腹づもりかもしれない。

 なお、米国時間21日にはHBO Sports(Time Warner傘下の有料ケーブルTVチャネル)でラナディブを取り上げたドキュメンタリーが放映されていたようだ(下掲のビデオはその予告)。

Real Sports with Bryant Gumbel: NBA Owner Vivek Ranadive Clip (HBO Sports)

文章の分解

 上記の背景を踏まえて、冒頭の英文を少しずつ区切りながら読み解いてみよう。

[1] Few in the crowd probably recognized Ranadive /

[2] as the man who digitized Wall Street in the 1980s, /

[3] or knew he wants to do the same with a franchise in disarray. /

[4] His ambitious plan to use technology and data to reboot the Kings also could remake the league. /

[5] He calls it NBA 3.0, /

[6] a complete rethinking of how fans interact with and follow the game, /

[7] especially in the developing world.


 それぞれ、以下のように読み解ける。

[1] ラナディブのことを知っていた人は、群衆のなかにはおそらくほとんどいなかっただろう。

[2] 1980年代にウォール・ストリート(米金融業界)のデジタル化を進めた人間として

[3] あるいは混乱した状態にあるプロスポーツチームを相手に、同じことをしたいと彼が思っていることを知っていた

[4] 彼の野心的な計画は、テクノロジとデータを活用してキングズを再起動させるというものだが、この計画がまたリーグ(全体)を作り替える可能性もある

[5] 彼はそれをNBA 3.0と呼ぶ

[6] ファンとチームとの関わり方や試合の楽しみ方を全面的に考え直す(こと)

[7] 特に先進国以外の地域で


もう一度英文を

 では最後に、もう一度英文を読み直してみよう。

Few in the crowd probably recognized Ranadive as the man who digitized Wall Street in the 1980s, or knew he wants to do the same with a franchise in disarray. His ambitious plan to use technology and data to reboot the Kings also could remake the league. He calls it NBA 3.0, a complete rethinking of how fans interact with and follow the game, especially in the developing world.


【復習】

1. ラナディブは1980年代に何をしたか

2. ラナディブの野心的な計画では、チームの再建(再起動)に何を利用するか


三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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