目をだます方法――触覚と認知の広がりを考える:錯覚とインターフェースの可能性(1)(2/2 ページ)
ユーザー参加型の学会として発足し、毎回数万人規模の視聴者を集める。2013年12月21日ニコファーレで行われた「ニコニコ学会β」第5回シンポジウム。本稿では全体のハイライトとなった人間の感覚に注目したセッションを紹介する。
伊福部先生の研究領域は認知から発声に広がっており、触覚をベースに声を発生させるシステムを開発している。触覚が脳に伝わり、発声につながるという、脳の情報の流れがループすることに関する研究を進めているという。
伊福部氏は、緊急地震速報のチャイムの作曲も行っている。緊急地震速報は、ゴジラなどの映画音楽を作曲した伊福部昭氏(達氏の叔父にあたる)の交響曲「シンフォニア・タプカーラ」の1小節を基に、難聴者にも聞き取りやすく、人ごみの中でも目立ち、緊張感を与えつつ不安感を与えない音として作曲された。
Webで伝えられる情報の多くはいまだに視覚が中心だ。最近は音も伝えられるようになったが、触覚で情報を得るコンピューターインターフェースについてはまだ実用に遠い。伊福部氏の発表にあるようなインターフェースは、よりフィジカルなコンピューティング環境が一般的になり、体に常にコンピューターがつながるような将来、実社会に取り込まれ、影響力を増していくことだろう。
視覚が触覚に与える影響を分析 河合隆史氏(早稲田大学理工学術院教授)
2人目の登壇は、稲見氏から「催眠術で味が変わるのを研究していた。なんとパンクな人だ」と紹介された河合隆史氏(早稲田大学理工学術院 基幹理工学部 表現工学科 教授)。伊福部氏と同じく、人間工学の立場から人とコンピューターのインタラクションを研究している。
人工的に現実のように感じさせる仕掛け
バーチャルリアリティの「バーチャル」は、「仮想」と訳されることが多いので「実際はない」という意味が強く取り上げられるが、研究では「影響される」「本物と同じ効果がある」という意味で使われる。正式に訳すなら「人工現実感」であり、人が作った現実感がホンモノの現実の代わりになるという意味である。河合先生は視覚情報が実際に生身の人間に与える影響についての研究を行っている。
「奥行き」の認知もデザインできる
まずは3D立体視やヘッドマウントディスプレーに関する研究が続く。
3D映像と2D映像で、鑑賞者の視線がどこに注目するかについての比較、3D映画からの奥行き情報の抽出を行い、そこから進化させて奥行き情報そのものをデザインする研究に行き着いたという。
河合氏は、奥行き認知の効果を検証するだけでなく、実践的な課題についても研究を進めている。ゲームプレイで発生する“映像酔い”を低減させる仕組みと、具体的な評価方法についての研究成果も披露した。
河合氏はさらに視覚によって身体感覚を制御する研究も行っているという。ここでは、具体的な検証内容を紹介してくれた。
まず、被験者の手に触れた物体を実際に動かす。次いで物体を静止させ、物体が動いている映像だけを被験者に見せる。こうすると、視覚に認知が引きずられ、実際には動いていない物体が動いてるように感じさせる、という内容だ。
同様に視覚情報によって身体感覚に影響を与える手法として、HMDに投影する映像の中で、被験者の実際の手と仮想的なオブジェクトを重ね合わせることで、手には何も触れていないのに触覚を感じるシステムについて説明した。
著者プロフィール
高須正和(@tks)
ウルトラテクノロジスト集団チームラボ/ニコニコ学会β実行委員
趣味ものづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジー/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。
第6回のニコニコ学会βシンポジウムをニコニコ超会議3と共催として、幕張メッセにて行います。乞うご期待!
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