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アートか? サイエンスか? NBA「強いチーム作り」への2つのアプローチ三国大洋の箸休め(29)

「優勝請負人」のフィル・ジャクソンが、ニューヨーク・ニックスの球団社長に就任する。しかし彼のやり方が、「データボール」に代表される最近のトレンドに追い付くのか、疑問視する声も。

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 NBAの「優勝請負人」、フィル・ジャクソンが、ニューヨーク・ニックスの球団社長に就任することが発表された。しかし彼のやり方が、「データボール」に代表される最近のトレンドに追い付くのか、疑問視する声もある。今回はそんなお話だ。

今日の例文

The key concept behind Jackson's coaching methods, he says, was the idea of "one breath, one mind," a Zen principle he approached carefully with the Chicago Bulls. "I approached it with mindfulness," he tells Oprah in the above video. "As much as we pump iron and we run to build our strength up, we need to build our mental strength up... so we can focus... so we can be in concert with one another."

One way Jackson had his team practice mindfulness was through meditation. Oprah asks, "So, you would literally have the guys sit in stillness?"

"That's right," Jackson answers. "Taught them how to hold their hands, where their shoulders had to be, the whole process of being in an upright situation so you're not slouched... and they bought into it."

Phil Jackson On Using Meditation And Mindfulness To Create Great Basketball Teams (VIDEO) - HuffintonPost


ワード&フレーズ

 では、上記の例文に出てきたキーワードとキーフレーズを見ていこう。

原文
key concept キーコンセプト、重要な考え方
"one breath, one mind" 「皆が呼吸を合わせることで、心を1つにすること」といった意味
principle 主義、原則、教え
pump iron 筋トレをする
build our strength up 筋力を付ける
mental strengt メンタルな力、精神力
(be)in concert with 強調して(いる)、一体になって
meditation 瞑想
uptight 緊張した、堅苦しい
slouch うつむく、前屈みになる
buy in〜 〜を受け入れる、信じる

ニュースの背景

 「NBAきっての名将」とされるフィル・ジャクソン(Phil Jackson)が、選手時代を過ごしたニューヨーク・ニックス(以下、ニックス)の球団社長に就任することが米国時間3月18日に発表された。

 この発表に至る約半月ほどの間というもの、スポーツ関連の媒体はこの話題でもちきり。またNYTimesのような地元メディアでは、ジャクソンの就任を「救世主到来」とばかりに歓迎する記事も目立った(今シーズンのニックスが、期待を裏切るひどい低迷ぶりであるため)。

 今年68歳になるフィル・ジャクソンの去就がそれほど大きな注目を集める理由は簡単だ。ヘッドコーチ(HC)として計11個のチャンピオンリングを持つ「最強の優勝請負人」だからだ(選手時代も合わせると13個)。

 この記録に続くのがパット・ライリー(現マイアミ・ヒート球団社長)の5つ(他に球団社長として2つ)、グレッグ・ポポビッチ(サンアントニオ・スパーズHC)の4つ……というあたりからも、ジャクソンの能力の高さがうかがいしれるかと思う。

 バスケットボールの名誉殿堂入りするようなスーパースターの中にも、あるいはNBAで何十年もHCを務めた大ベテランの中にも、結局1度も優勝できずに終わった例はたくさんある。そのことを考えると、ジャクソンの「13個の優勝リング」というのは「異常な多さ」といっていいかもしれない。

 「禅マスター」(Zen Master)というニックネームもあるジャクソンが「実はマインドフルネスの信奉者・実践者」というのが今回の主題で、下掲のビデオはその核心に触れたジャクソンのインタビュー。

[How Legendary NBA Coach Phil Jackson Taught His Teams Mindfulness - Super Soul Sunday - OWN](オプラ・ウィンフリーの番組に出演したフィル・ジャクソン)

 また、以前紹介した「Wisdom 2.0」主催者のソレン・ゴードハマー(Soren Gordhamer)のWebサイトには、ジャクソンに頼まれてシカゴ・ブルズとLAレイカーズで選手に瞑想を教えたジョージ・マンフォード(George Mumford)というスポーツ心理学者のインタビュー記事もある。

 このインタビューの中には、どこか禅問答にも似たような記述が出てくる。

 例えば「今という瞬間に集中し、その時やっていることだけに没頭していると、最高のプレイができる/マインドフルになるコツを体得すると、より頻繁にそういう状態が生じるようになる」("When we are in the moment and absorbed with the activity, we play our best. That happens once and awhile, but it happens more often if we learn how to be more mindful.")。

 あるいは「“ゾーンの状態”に入ろうとしても入れるものではない。だが、今の瞬間に注意を払っていると、その副産物として“ゾーンの状態”が生じる」("I tell them that if they try to get in the zone, they can't. But if they pay attention, the zone will happen as a by-product.")などがそれだ。

 ここでいう「ゾーン」とは「何をやってもうまくいってしまう」ような特殊な状態を指すらしい。例えば、レブロン・ジェームス(LeBron James)は3月初めに自己最高となる1試合61得点を記録した試合の後で、「いったんゾーンに入ると、海に向かってゴルフボールを投げ込んでいるような感じ」("I felt like I had a golf ball throwing it into the ocean.")とコメントしていた。

[LeBron Scores a Career-High 61! Watch Every Made Field Goal!]

ジャクソンの「マインドフルネス」は時代遅れ?

 ところで、ジャクソンのニックス球団社長就任をめぐっては、いろいろと懐疑的な見方も出ていた。

 懐疑論の中味はさまざまだが、ざっくりいうと次の2つに整理できる。1つは「ジャクソンは、マイケル・ジョーダンやコービー・ブライアント、シャキール・オニールといったスーパースター選手のいるチームを率いて、うまく勝ち馬に乗っただけ」というもの。そして、もう1つは「データボール」の流れが定着した今のNBAで、ジャクソンの存在自体が「時代遅れ」ではないか、といったものだった。

 この中でより興味深いのは後者の問題提起の方だが、その前提にあるのは過去数年間に進んだデータ活用などに関する新しい動き。

 ESPNのヘンリー・アボット(Henry Abbott)というライターは「フィル・ジャクソンが全てを知っているわけではない」("Phil Jackson doesn't know everything")と題したコラムの中で、この数年現場を離れて休養していたジャクソンが、その間に起こった変化に果たしてついていけるか、あるいはもはや必須となったデータ分析などの新しい要素をどこまで採り入れるつもりがあるのか、などと疑問を投げかけている。

 独自の方法論を持つジャクソンが、3月初めにあったMITの「Sloan Sports Analytics Conference」(SSAC)の中で、データ分析・活用にほとんど触れないどころか、「オニールを48分間フル出場させたこともあった」などと自慢げに話していた。どうやらアボットにはそのことが気に入らなかったらしい。

 疲労が原因で生じるケガの発生率を下げるために、「選手をどのタイミングでベンチに戻せばいいか」を示すデータまで手に入るようになっている現状で、48分間フル出場(起用)など「時代錯誤も甚だしい」といった書きぶりである。

 こうした見方が正しいかどうかを議論するのは、実はあまり意味がない。ジャクソンが5年間の契約期間中に結果を出せれば、まだまだ彼のやり方が有効、ということになる。逆に、ファンやメディアからの期待と圧力が格別に大きいニューヨークだから、遅くとも2年目くらいまでに「本当に優勝を狙えるチーム」ができなければ、早速「ダメだ」という声が高まるかもしれない。

 また、そもそも「ジャクソンがデータボール的な方法論を批判した」といった話も出てはいないので、「データボール」と「マインドフルネス」という2つのアプローチを二項対立的に捉えることには少々無理がある。

 ただし、そうと分かっていながら、ジャクソンの実に不思議なやり方やそれに関する話を読んでいると、どうしてもそうした「対比の誘惑」にあらがえなくなる。

 ジャクソンのやり方が「アート(職人芸、他の人に伝えることが難しいもの)」だとすれば、対する若い世代のGMたち――SSACの共同発起人であるダレル・モーリー(Darrel Morey)などがその代表格――のやり方は、数字を重視した「サイエンス」といえそうだからだ。

 なお、フィル・ジャクソンにしか「機能させられない」ことで知られる「トライアングル・オフェンス」についてはここでは触れない。ただ、トライアングル・オフェンスが「上部構造」だとすれば、それを機能させる「下部構造」に当たるのがマインドフルネスという意識状態やそこに至るための手段としての瞑想などではないかと思う。

瞑想は本当に効果をもたらすのか?

 ESPNで2010年6月に公開されていたある記事には、ここ一番の大勝負を前にしたLAレイカーズの準備についての記述がある(これを書いたのがやはりヘンリー・アボットというところも注意を惹くが、単なる偶然だろう)。

 チャンピオンを決めるNBAファイナル最終戦の前に書かれたこの記事には、当時フィル・ジャクソンが指揮していたレイカーズの選手たちが、試合当日の朝、いつもどおりに瞑想をすることから準備を始める、などと書かれている。選手全員が、明かりを消したミーティングルームの中で「(自分の)呼吸だけに注意を払うよう指示される」「音も立てずに5〜10分ほど呼吸を続ける」などとあるから、座禅を組んでいるのと同じような状態なのかもしれない。

 ジャクソンの下で長くアシスタントコーチを務めたジム・クレメンズは、「(瞑想をしておくと)選手は最もストレスが溜まる状況でも、緊張せずに自由に動くことができる」「(瞑想をしておくのは)それぞれの選手が最高のパフォーマンスを出せるようにするためで、試合に勝つためではない。(略)ベストパフォーマンスを引き出せれば、おのずと試合に勝てる(可能性が高い)が、ベストパフォーマンスを出すためにはまずリラックスしていないといけない」などとコメントしている。

 またチャック・パーソンという別のコーチは、「瞑想を始める前は、心の中を無数の事柄が通り過ぎている(雑念で心がざわついている状態)。それが、電気を消していったん呼吸に意識を集中し始めると、雑念がすべて消え、自分と自分の呼吸しか存在しなくなる。そして、再び電気をつけた時には、リラックスしていて、自分が再び活力を取り戻したような感じになる」などと説明している。

 この準備がどれほど風変わりかを強調するために、アボットは対戦相手のチームの選手の反応も紹介している。「(レイカーズの連中は)真っ暗な中で瞑想するって? 何だそれ? ほんとうに?……自分はそんなことしないな」というのがその選手の反応だが、結局このシーズンのチャンピオンになったのはレイカーズだから、どちらのアプローチが正解だったかはおのずと明らかだ。

【関連記事】

米IT起業家らも注目の「マインドフルネス(Mindfulness)」って何だ?

http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1402/10/news009.html


文章の分解

 上記の背景を踏まえて、冒頭の英文を少しずつ区切りながら読み解いてみよう。

[1] The key concept behind Jackson's coaching methods, he says, was /

[2] the idea of "one breath, one mind," /

[3] a Zen principle he approached carefully with the Chicago Bulls. /

[4] "I approached it with mindfulness," /

[5] he tells Oprah in the above video. /

[6] "As much as we pump iron and we run to build our strength up, we need to build our mental strength up.../

[7] so we can focus... so we can be in concert with one another."

[8] One way Jackson had his team practice mindfulness was through meditation. /

[9] Oprah asks, "So, you would literally have the guys sit in stillness?"

[10] "That's right," Jackson answers. /

[11] "Taught them how to hold their hands, where their shoulders had to be, /

[12]the whole process of being in an upright situation so you're not slouched... /

[13] and they bought into it."


 それぞれ、以下のように読み解ける。

[1] ジャクソンのコーチングに関する方法論の背後にはある重要な考えがあると彼はいう

[2] 「みんなが呼吸を合わせることで、心を1つにすること」という考え

[3] この禅の教えに、彼はシカゴ・ブルズの選手たちとともに注意深く近づいていった

[4] 「私はこの教えに、マインドフルネスを意識しながらアプローチした

[5] 上掲のビデオの中で、彼はオプラにそう語っている

[6] 「(選手には)筋トレも必要なら、走り込みをして筋肉を付けることも必要だが、それと同じくらいメンタルな力を強化する必要もある

[7] そうすることで集中できる……選手同士が一体になることができる

[8] 選手たちにマインドフルネスを練習させるためにジャクソンが採った方法の1つが瞑想だった

[9] 「つまり選手たちをじっと座らせておく、ということ?」とオプラは質問した。

[10] 「その通り」とジャクソンは答えた。

[11] 選手たちに手の組み方や、肩の位置をどうするかなどを教えた

[12] 緊張した状況で萎縮せずにいられるようにするためのプロセス全体を(教えた)

[13] そして、選手たちは私の教えたことを受け入れてくれた


もう一度英文を

 では最後に、もう一度英文を読み直してみよう。

The key concept behind Jackson's coaching methods, he says, was the idea of "one breath, one mind," a Zen principle he approached carefully with the Chicago Bulls. "I approached it with mindfulness," he tells Oprah in the above video. "As much as we pump iron and we run to build our strength up, we need to build our mental strength up... so we can focus... so we can be in concert with one another."

One way Jackson had his team practice mindfulness was through meditation. Oprah asks, "So, you would literally have the guys sit in stillness?"

"That's right," Jackson answers. "Taught them how to hold their hands, where their shoulders had to be, the whole process of being in an upright situation so you're not slouched... and they bought into it."


三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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