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いま、つながりを欠く基幹業務システムの改善が求められる、これだけの理由DBaaSによる脱サイロと全体最適(2/3 ページ)

ビジネスモデルの変化、企業活動の多様化とともに、企業内のデータに求められる要件も変化している。システムの視点「以外」の領域から見た、企業内データのこれからを考える。

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ステークホルダーに適切な将来情報を提供するために

 松原氏は「少し話はそれるが」と、前置きして1つの資料を紹介してくれた。英国が中心となって推進している国際統合報告評議会(IIRC)の動向を示す資料である。

 このIIRCの活動が始まるきっかけは、投資家を含む企業を取り巻くステークホルダーの企業情報開示に対する要求と、既存のIR資料との間で生じているギャップを是正することにあるという。

 既存の投資家向けの情報は、有価証券報告書など財務情報が中心である。時間軸でいえば、全てが「過去」の実績だ。一方、ステークホルダーが求める情報は、戦略、ビジネスモデル、将来の見通しといった、将来情報を含むより広範なものになっている。

 「過去実績である財務情報だけで企業分析を行って投資を検討したものの、企業を取り巻く経営環境が激変したために大損をした、などということは、意外と起こるのです。私は現在、有志によるビジネスモデルの研究会を開催しているのですが、やはり、過去実績の財務情報だけでは、戦略や将来の見通しといった情報が不足し、企業の持つ持続可能な価値創造能力の評価としては不十分でした」(松原氏)

中から見ても分からない

 「ここで面白いことが分かってきました。外部の投資家が投資を適確に判断するために必要な情報が無いということです。つまり、企業内部の経営者と外部のステークホルダーとの間で"情報の非対称性"が存在する、というわけではなく、それ以前の問題というわけです。実は、企業の経営者側も、戦略や将来に対する情報を持っていない、仕組みがない、という状況であることが分かってきたのです」(松原氏)

 さらに、企業は財務情報の他に、環境報告など多様な報告書を公開しているが、松原氏によると「これらの情報がそもそも、重複している領域がある上に、どの報告書もカバーしていない領域があり、ムダと空白が混在したまま、企業の負担も大きくしていっている現状がある」のだという。

 松原氏によると、IIRCによる統合報告の指針(「国際<統合報告>フレームワーク」)が2013年12月9日に公開されており、今後、企業の情報開示の国際標準になることを見越した対策が取られているという。その作成過程においては、これまでの情報管理・報告にまつわる以上のような問題の解決に向けて、 日本でも産業界、日本公認会計士協会や会計監査法人らが意見書などを提出している。

* 国際<統合報告>フレームワーク THE INTERNATIONAL <IR> FRAMEWORK(IIRCの資料、PDF)。



業務アプリケーションのスコープの拡大と、組織の関係性の変化

 「もう1つ、業務アプリケーションシステムの統合化を困難にしているのが、ビジネスモデルの変化です」(松原氏)

 例えば、アップルなどに代表されるエレクトロニクス系の製造業では、自社内に製造機能を持たず、EMS(電子機器受託生産)と呼ばれるメーカーに製造委託を行うケースがほとんどだ。

 コモディティ化した部品類の製造は規模の経済に即して、大量に製造する事業者に委託すると効率が良い。設備投資を行うにせよ、ラインを最大限に利用する形で、大規模に投資し、大量に生産する。こうすることで、製品単価を下げやすくなる。一方で、委託を受ける企業は、最終製品のマーケティング活動などに関わるコストを掛けることなく、自社製品を大量にさばくことができるようになるため、双方にとってメリットが大きいためだ。

 基幹業務システムを支えてきたのは1970年代ごろに想定したビジネスモデル形態を前提としている。このため、複数の企業が密接に関わりながら、かつ、多様な取引先と同時並行的に取引を行いつつ、事業体としては別個に運営する、というケースをあまり想定していないものだといえる。

 一方で、企業として流通の側面からサプライチェーンを把握しようとした場合は、これら関係企業から十分な情報を獲得しなければならない。

 例えば、アパレルメーカーであるGAPやユニクロのように、自社で製造拠点を持たず、商品開発から流通も小売店舗も展開するようなSPA(製造小売業)モデルもこれに該当する。パートナー企業のどこまでの情報を内部で把握すべきか、に関する判断は個々の企業に委ねられているケースの方が圧倒的に多いのだ。

 松原氏は、バランス・スコアカード(BSC)やS&OPなどの統合マネジメントの研究者である。会計士としても、数多くの製造系企業の業務プロセス改革やIT支援を行ってきている。その松原氏の近著の1つに『S&OP入門』がある。ここで松原氏は、従来、生産現場や流通の現場担当者が把握している情報であっても、経営層が適切な粒度で統合的にデータを得ておくことの重要性を説いている。

 「先に挙げたSPAの例にあるように、現在の企業では、財務諸表の連結対象となる企業の枠を超えた組織との間の連携なども多様になっている。いずれにしても何らかの方法で、サプライチェーンに関わる情報を獲得し、現場、マネージャ、経営層が活用できるような仕組みを構築しなければなりません」(松原氏)

 企業の内外を問わず、情報が迅速に獲得できるためには、それ用の情報収集に対応する仕組みが必要だ。例えば集計処理に12時間かかっている、個々のシステムから逐一出力データを収集しているようでは、「迅速な」とは言い切れない。

 松原氏は「アプリケーションそのものも、現場(業務)、管理者(戦術)、経営者(戦略)の縦軸のレベルでの連携が必要」だと指摘する。

 「トランザクションシステムであるERP、戦術レベルでロジスティクスを支えるS&OPプロセスに加えて、パフォーマンス管理を行うEPM(企業業績管理)や、戦略を実行するためのBSCなど、アプリケーションシステムの縦軸での統合も重要です」(松原氏)

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