マイルドヤンキーよ、イノベーションを起こすためにIBMのプラットフォームを見極めろ:IBMの新たなパートナーシップとPaaS「BlueMix」の全貌とは
日本IBMは2014年5月13日、「クラウド時代を生き残るために。共にイノベーションを創造するパートナーシップ」をテーマに、主催イベント「IBM Software & Cloud Innovation」を開催。本稿では、IBMの新たなパートナー戦略やPaaSサービス「BlueMix」を核としたクラウド戦略についての講演模様、パートナー事例セッション、そして、バラエティ番組でもおなじみの慶應義塾大学大学院 教授 岸博幸氏による特別講演の模様をお届けする。
2014年5月13日、六本木ヒルズ(東京・六本木)で日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)主催のイベント「IBM Software & Cloud Innovation」が開催された。本イベントで掲げられたテーマは、「クラウド時代を生き残るために。共にイノベーションを創造するパートナーシップ」。ここにもある通り、IBMでは近年、クラウドに関する新たな取り組みを矢継ぎ早に打ち出しており、中でも特に独自のPaaSサービス「BlueMix」は各方面から高い注目を集めている。
と同時に同社は、このBlueMixをはじめとしたクラウドテクノロジを“てこ”に、新たなパートナーエコシステムの構築に乗り出している。特に、これまで同社がリーチできていなかった中小規模の企業やスタートアップ企業とのパートナーシップを強化していきたいとしている。
本イベントでは、こうした企業からの参加者が多数詰め掛ける中、IBMの新たなパートナー戦略、そしてクラウド戦略が紹介された。
Systems of Interaction(相互作用のシステム)で日本企業に高い付加価値を
冒頭では、日本IBM 専務執行役員 ソフトウェア事業本部長 ヴィヴェック・マハジャン氏が、あいさつとして「IBMソフトウェア戦略」について講演。まず、ソーシャル、アナリティクス/ビッグデータ、クラウド、モバイルについて、それぞれの特徴、課題・関心事、現在の市場を俯瞰してみせた。
「これらの課題に対しては、基幹系(バックエンド)システム、フロント系システム、IoT(モノのインターネット)を包括的に連携する仕組みが必要になる。IBMは『Systems of Interaction(相互作用のシステム)』として各種製品を取りそろえている。これまで培ってきたメッセージング、トランザクション処理、連携/統合、アプライアンスの技術を最大限に活用し、日本企業に高い付加価値を提供していきたい」(マハジャン氏)
クラウドやビッグデータは当たり前の道具として日本独自の方法で活用するべき
続いて、慶應義塾大学大学院 教授 岸博幸氏による特別講演「これからのビジネスを取り巻く経済動向とIT戦略」が行われた。
冒頭から岸氏は大きな提言を示す。「確かにアベノミクスによる金融緩和でデフレは脱却できたが、それだけでは景気が真に回復したとはいえない。景気回復には成長戦略を示して低成長からの脱却が必要だが、今の政府の成長戦略は不十分で6月に予定されている新たな成長戦略は期待していない。民間企業がイノベーションを起こさなければ景気は回復しない」
では、民間企業がイノベージョンを起こすにはどうすればいいのだろうか。この疑問に対し岸氏は「デジタル化」と「グローバル化」の必要性を説いた。
「日本は欧米に比べてまだまだデジタル活用が弱い。欧米はデジタルによる機械化/自動化が5〜6年は進んでいる。クラウドやビッグデータはすごいものではない。当たり前の道具として活用してほしい。
ただ、欧米のプラットフォーム(クラウドやビッグデータを含む)をそのまま利用するのではダメだ。日本はグローバル化がある程度進みつつあるが、シリコンバレーの文化をそのまま持ち込むだけでは成功しない。例えば、コミュニケーションのプラットフォームを見てほしい。日本ではFacebookやTwitterよりもLINEが成功している。8割がヤンキーで2割がオタク、つまり最近流行している『マイルドヤンキー』という言葉に象徴される日本では、ロジカルでオープンな欧米のプラットフォームも日本独自の活用の仕方をしないと成功しない」(岸氏)
最後に岸氏は次のように特別講演を締めくくった。「日本IBMは外資系とは思えないほど、日本の企業文化に染まっていると思う。日本IBMが米国のプラットフォームをどのように日本に合わせて提供してくれるのか、後のセッションで見極めてほしい。それが活用できるものだと判断したら、どんどんプラットフォームを活用して、地方や中小企業がイノベーションを起こしてほしい」
中小規模パートナー企業とのパートナーシップを根本から見直したIBM
日本IBM ソフトウェア事業本部 ソフトウェアパートナー事業部 パートナーソリューション事業開発部 部長 宮坂真弓氏は、「ビジネスを新たなフィールドへ。共にイノベーションを想像するIBMパートナーシップ・プログラム」という基調講演で、同社の新たなパートナー支援プログラムの紹介を行った。
「今日の市場は、クラウドやモバイル、人々のコミュニケーション形態の変化により、急速に変化している。この変化に対応していくためには、状況に応じて即断即決できる力や、ビジネスのスピード感、事業分野を越えた統合などが重要ポイントになる」(宮坂氏)
こうした変化の時代を生き残っていくためにIBMが提唱しているのが、「Composable Business」というコンセプトだ。これは簡単に言うと、必要な部品を組み合わせる形で素早くビジネスを立ち上げ、環境の変化に即応しようというもの。そのためにIBMは現在、世界各国で「IBM クラウド・マーケットプレイス」というポータルサービスを展開している。
「IBMとパートナー企業のさまざまなソフトウェアおよびサービスが、このマーケットプレイスに登録されており、ユーザーはこの中から必要なビルディングブロックを選んで組み合わせることで、ビジネスを迅速に立ち上げられる。これらの中には、IBMのIaaSサービス『SoftLayer』やPaaSサービス『BlueMix』、さらには各種のSaaSアプリケーションまで、システムのあらゆるスタックの製品・サービスが含まれる。皆さんの企業でも、ぜひ自社の製品・サービスを登録して、このマーケットプレイスに参加してほしい」(宮坂氏)
IBMでは、こうした取り組みを推進していくに当たって、従来のパートナー支援策では不十分だと判断し、新たな支援プログラムを矢継ぎ早に打ち出している。例えば、開発者向けに技術情報を広く提供する「developerWorks」というポータルの運営もその1つ。また、教育関係者や学生向けにIBMのソフトウェア製品や教育コースを無償で提供する「IBMアカデミック・イニシアティブ」や、起業家に対し同じく製品やサービスを一定期間無償で提供する「IBM Global Entrepreneur プログラム」を日本国内でも新たに提供し始めた。
宮坂氏は、実際にこうした支援プログラムを活用してビジネスを伸ばしている企業の例を幾つか紹介した。例えば、NAIS(ナイス)や三和コムテックといった企業は、自社ソリューションに「Cognos」をはじめとするIBMの分析基盤を組み込むことで、自社ソリューションの価値を高め、ビジネスを成長させることに成功している。また、ビデオ会議ソリューションを提供する「V-CUBE」は、海外とのビデオ会議のインフラとして、世界中の拠点と高速・安価にデータ交換を行えるSoftLayerのクラウド基盤を活用することで海外事業を伸ばしているという。
「パートナー企業だけではなく、IBM自身もComposable Businessを推進するために変化している。ぜひ皆さんも市場の変化についていくためにComposable BusinessやIBM クラウド・マーケットプレイスに参画し、弊社と共にイノベーションをリードしていただきたい」(宮坂氏)
IBMとのパートナーシップを武器にビジネスを伸ばした中小企業の事例
パートナー企業の代表の1人として、まずはチームスタジオジャパン テクニカルディレクター 加藤満氏が登壇し、「コミュニティを支えるIBM Champions」と題する講演を行った。IBM Championsとは何かについては、記事「王者たちの座談会:IBM Championsが日本の技術者に語る、啓蒙活動、コミュニティ、パートナーシップとは」を参照してほしい。
このIBM Championsの肩書きを得るメリットとして、同氏はまず個人的なものを挙げた。
「周囲から一目置かれてセルフブランディングに役立つ他、IBMに対するフィードバックが製品仕様に反映されたり、あるいはIBM Champions同士のコミュニティで貴重な情報を得られたりと、コミュニティエコシステムのメリットを存分に享受できる」(加藤氏)
一方で、企業にとっても自社の従業員がIBM Championsプログラムで表彰されることには、多くのメリットがあるという。
「IBM Championsが所属する企業は、やはり高い技術力を持っていると評価される傾向があり、またコミュニティへ積極的に貢献しているイメージを発信することもできる。その結果、新たなビジネス機会を得るチャンスも生まれてくるので、IBM Championsプログラムは企業にとっても参加するメリットは大きい」(加藤氏)
続いて、シンクスマイル 経営企画室 五十嵐政貴氏が登壇し、同社がIBMとのパートナーシップを通じて取り組んでいる施策について、「社内コラボレーション活性の為の最強コラボレーション」と題した講演を行った。同社は「CIMOS」という社内コミュニケーションツールの開発・販売を行う企業。CIMOSは、社員同士でお互いにオンライン上で「バッジ」を送り合い、互いの取り組みを評価したり褒め合うことで仕事に対するモチベーションを高め、ひいては企業全体の競争力アップにつなげようというものだ。
「『バッジを集める』というゲームの要素を取り入れることで、社員がゲーム感覚で自発的に取り組みことを狙った」(五十嵐氏)
なお同社では現在、このCIMOSをIBMのエンタープライズ・ソーシャルウェア製品「IBM Connections」に組み込んで提供する試みを始めている。
「IBM Connectionsは既にエンタープライズ・ソーシャルウェアとして実績のある製品だが、これにCIMOSのゲーミフィケーションの仕掛けを加えることで。さらに活用が進み社内SNS本来の意義が高まるのではないかと考えた」(五十嵐氏)
具体的には、IBM Connectionsのタブ画面の1つとしてCIMOSが組み込まれ、直接バッジの交換や確認が行えるようになっている。去る4月14日にはCIMOS+IBM Connectionsを紹介するセミナー「社員のやる気を見える化セミナー 〜社内ソーシャルで社員を輝かせるには? 〜」を渋谷イノベーションセンターで開催し、多くの参加者で会場は賑わったという。
「弊社は小規模なベンチャー企業だが、こうしてIBMとコラボレーションすることで互いにソリューションの価値を高め合い、相乗効果を出すことができている。IBMとの提携を検討しているベンチャー企業の参考になれば幸いだ」(五十嵐氏)
IBMが満を持して送り込むPaaS「BlueMix」とは?
米IBMのEcosystem Development Program Director - IIC Strategic Initiatives Kal Patel氏は、「コードネーム:BlueMix オープン・ベータ版 ご紹介──開発者向けクラウド・プラットフォームの再定義」と題した講演で、2014年2月にベータ版が公開されたばかりのPaaS「BlueMix」を紹介した。
Patel氏は、宮坂氏が既に示したComposable Businessのコンセプトを再び取り上げ、その重要性を強調した後に、「では一体、どのようにアプリケーションを開発すれば、Composable Businessにコミットできるのか?」と問い掛ける。
「これからアプリケーションを開発しようと考えている企業の意思決定者は、そのアプリケーションやサービスが『プログラマブル』になるよう、肝に銘じる必要がある。APIを通じて他のサービスと連携し、システム全体の部品として動作できるような『サービス・ドリブン』のアーキテクチャを採用することが、Composable Businessの大前提になる」(Patel氏)
ただし、こうしたパラダイムシフトに、全ての企業が即応できるわけではない。そこで、Composable Businessのコンセプトにのっとり、クラウド時代にふさわしいアプリケーションやサービスを開発しようという企業や開発者に対して、包括的な開発環境をPaaSとして提供するのがBlueMixだ。
開発者や、広範な開発技術に対応する開発ツールや、ビッグデータ処理にも対応した多様なミドルウェア環境の中から好きなものを選んで利用できる他、DevOps関連のツールも提供される。またBlueMixは、オープンソースのPaaSプラットフォーム「Cloud Foundry」上に構築されている。IBM自身、Cloud Foundryのコミュニティに積極的に貢献してきたこともあり、Cloud Foundryの定評ある各種機能や信頼性、セキュリティ対策などが生かされているという。
Patel氏は、実際にBlueMixを使った開発シナリオのデモを披露した後、会場の参加者に対して、ぜひBlueMixに触れて見るよう呼び掛けた。
「IBMは今後、BlueMixに対する投資をさらに増やしていく予定だ。開発者がより気軽に使えるよう、多様な課金プランを用意している他、30日間の無料トライアルも可能なので、ぜひ一度実物に触れてみてほしい。また、BlueMixのハンズオントレーニングや開発コンテスト「BlueMix Challenge」も実施しているので、興味のある方にはぜひとも参加していただきたい」(Patel氏)
今後の日本IBMに期待を
最後の「クロージング」では日本IBM ソフトウェア事業本部 ソフトウェアパートナー事業部 理事 事業部長 三浦美穂氏が登壇。以下のようにイベント全体を締めくくった。
「今回、日本IBMとしてパートナーの皆さま、そして今までお付き合いのなかった企業の皆さまへ、新しいパートナーさまになっていただくべく、メッセージを発信いたしました。日本IBMもイノベーションを起こさなければなりません。岸さまの講演でも触れていただきましたが、今後のIBMのプラットフォームにご期待ください。また、パートナー支援プログラムを拡充していきますので、ぜひご支援ください」
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2014年7月3日