従来型企業こそOpenStackを使うべき理由〜導入・移行パターンと活用の勘所〜:特集:OpenStack超入門(6)(1/2 ページ)
迅速・柔軟なインフラ整備を実現するOpenStack。その利点は国内でも広く浸透しつつあるが、ユーザー事例はまだ少ない。今回はメーカーとして自らもOpenStackを使っている日本HPの導入事例を、日本HP クラウドチーフテクノロジスト 真壁徹氏が紹介する。
HPはOpenStackの提供ベンダーであるだけではなく、ユーザーでもある
近年、多くの企業の関心を集めているOpenStack。グローバルでは製造、流通、サービスをはじめ、幅広い業種での活用が進んでいますが、国内ではヤフー、楽天など、Web系企業における導入が目立っています。しかし、インフラ整備のスピード、柔軟性、オープン性といったOpenStackの特長は、Web系に限らず、今、多くの企業が求めているものです。そのメリットに対する理解が浸透している今、OpenStackをどのように生かせばビジネスの推進につながるのか、Web系以外の企業も含めた導入事例が強く求められているのではないでしょうか――。
こんにちは。日本HP(以下、HP)の真壁と申します。HPには「チーフテクノロジスト」というHPの先端技術をお客さまに説明して回り、設計のお手伝いもする技術者がいます。私はそのポジションで、クラウドの専門家「クラウドチーフテクノロジスト」として活動しています。
HPはOpenStackをクラウド戦略の核と位置付けているため、普段はベンダーとしてOpenStackの良さや特徴をお話しすることが多いのですが、実はHPはものづくりを行う製造業としてOpenStackを活用しているユーザー企業でもあります。そこで今回は、「OpenStackユーザー」の立場から、HPがどのようにしてOpenStackの導入に至り、どのように活用しているのか、その背景も併せてご紹介します。OpenStackは一部企業だけのものではないことを、あらためてご理解いただけるのではないかと思います。
徹底的なコスト削減の先に待っていた世界
ではまずOpenStackを導入するに至った経緯からお話ししましょう。
HPは2006年から3年をかけて、大胆なITコスト削減プロジェクトを実施しました。具体的には、仮想化技術を使ってシステムやデータセンターの統廃合などを行い、実にコスト半減に成功したのです。半減となればビジネスへの貢献度は大きく、その当時、成功事例として多方面の注目を集めたことを記憶しています。しかし、成功の余韻に浸っている時間はあまりに短いものでした。
HPが所属するIT業界は大きな変化の真っただ中にあります。スマートフォンやタブレットなど、モバイルデバイスの普及が急速に進んでいます。また、小売り業や広告業などで、自社ビジネスを推進するための巨大なIT基盤を持つ企業が、そうしたIT基盤をサービスとして外販するケースも増えてきました。つまり、従来の競合企業とは違う業種、異なるビジネスモデルを持つライバルがわれわれの土俵に上ってきたわけです。それだけではありません。経営環境変化の大きなうねりの中で、HPの主力事業であるPC、プリンター、データセンター向け製品も、工夫しないと売れない状況になりつつありました。
そこでHPの事業部門は、さまざまなアイデアを考えました。「Windowsの新バージョンでユーザーインターフェースが大きく変わるのであれば、オンラインサポートを高度化しよう」「プリントをもっと楽しんでもらうため、オンラインで部屋の壁紙をデザインし、大判プリンターで出力できるサービスを」などなど。ITベンダーらしく、ITを生かして製品を売る作戦です。
しかし、ライバル企業もおそらく同じようなことを考える中では、サービスをリリースするスピードが勝負のカギを握ることになります。アイデアを早く実行した会社は、それだけ勝つ可能性が高まるわけです。ところが、そうした事業部門の要望に、当時のIT部門は応えることができませんでした。新しいサービスの立ち上げに必要なITインフラを、数カ月かけないと準備できない状況だったのです。
コスト削減でスリムにはなったが、筋肉も落ちてしまった。その間にライバルは類似のサービスを始めてしまうかもしれない。IT部門はコスト削減というビジネス目標を達成したわけだから、責めることもできない――要するに「IT部門に求められるものが変わった」ということでしょう。
とはいえ、事業部門はすぐに手を打たなければなりません。そこで彼らは社外のクラウドサービスを採用しました。Amazon Web Services(以下、AWS)です。AWSの特徴であるAPIやオーケストレーション機能を使うことで、ITリソース調達のリードタイムを短縮するとともに、インフラ構築・運用の自動化により劇的に生産性を高められると気付いたのです。
その後、これらのシステムはクラウドの良さを生かした、「クラウドネイティブ」なシステムへ育っていきました。従来型のシステム開発、運用方式を引きずるのではなく、クラウドの良さを生かすよう、システム開発、運用の方式を変えたのです。
クラウドの特長を理解し、リードタイムを短くし、かつ生産性を上げる。そのポテンシャルを引き出す。クラウド「ネイティブ」というわけです。
すなわち、クラウド活用を推し進めたモチベーションとは、コスト削減ではありませんでした。コストを下げたかったら、成功事例となった社内の仮想化基盤を使った方がいい。コスト削減ではなく、アイデアを実現するスピードと生産性の向上がクラウドの価値であり、それこそが弊社がユーザーとしてクラウド活用を推進する動機となったのです。
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