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“子持ちの働く主婦が2年の間に70のアプリを開発して得た収入でMacBook Proを購入した話”ものになるモノ、ならないモノ(63)(2/3 ページ)

「初期投資ゼロ」「開発環境すら充分に動かないPC」から始まる、ある主婦のサクセスストーリーを紹介しよう。

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ご当地キャラのイラストなら無料で利用可能

 このようにしてアプリ開発に乗り出したRiriさんだが、初めてリリースしたアプリは「トイトレくまちゃん」という、乳幼児と親がいっしょになって遊びながらトイレのトレーニングができるシンプルなもの。アイコンや画面内のグラフィックに熊の粘土細工の写真を利用している点に注目したい。「自分ではイラストが描けないし、コストをかけてイラストレーターに依頼するようなことはしたくなかった」ことから、子どもと一緒に熊の粘土細工を作り写真を撮ることを思いついたそうだ。


イラストが描けないので、絵本などを参考に熊の粘土細工を作りデジカメで撮影。それをアイコンやアプリ内のグラフィックに活用した

 この後、「冷凍できる・できない事典」「くまちゃんのおはしトレーニング」といった家庭生活の中で直面する「課題」を解決するためのアプリを次々と産み出していく。そして、Ririさんはアプリの量産体制を築くあるアイデアを思いつくことになる。パズルゲームのアプリを開発するために無料で利用できるイラストを探していたところ、「ご当地キャラ」の特徴に気が付いたのだ

 ご当地キャラの全てではないが、中には観光や物産新興の目的で、キャラクターのイラストを無料開放しているものが多い。例えば、有名なところでは熊本県の「くまモン」などはその典型例だ。申請を行い、審査を通過すればイラストを利用することができる。実際、Google Playには、おびただしい数のくまモンアプリが存在する。


Google Playで「くまモン」を検索するとおそらく100タイトル近いくまモン関係アプリがヒットする。ここまで来るとちょっと食傷気味……

 Ririさんはくまモンアプリこそ開発していないが、ゆるキャラグランプリ2014のランキングで総合1位を取得した群馬県のマスコット「ぐんまちゃん」を皮切りに、60数タイトルのご当地キャラアプリを開発している。ここまでの量産が可能なのには理由がある。パズルとカードめくりゲームの骨格部分をテンプレート化し、キャラクターのイラストを差し替えることで、多くのタイトルを産み出しているのだ。

アプリが地域振興にどれだけ貢献できるのか具体的な数字を提出しろ!?

 「最初は、1タイトルだけのゲームアプリを提供し、アップデートするごとにキャラクターを追加する手法も考えたが、1キャラ1アプリとしてリリースした方が目立つ」ことから、テンプレート方式でタイトル数を稼ぐ戦略に打って出た。実はこのテンプレート化によるイラストの差し替え方式は、Ririさんのような個人が作るシンプルなアプリだけでなく、ゲーム会社がそれなりの体制を整えて開発する「本気」のタイトルにも取り入れられている。


ご当地キャラのイラストだけを差し替えてパズルゲームを量産。ただし、自治体から使用許諾取りつける苦労がある

 さすがに表面のイラストだけが異なる同じ内容のゲームを量産体制でリリースする例は聞いたことがないが、例えば、最初にリリースしたゲームアプリのダウンロード数が芳しくない場合、そのゲームアプリは、さっさとストアから削除し、ゲームの骨格はそのままに、キャラクターやステージのイラストを別のものに差し替えて新タイトルとして再度リリースする、といった手法は普通に行われている。

 話をRiriさんのご当地キャラアプリに戻そう。テンプレート化によるイラストの差し替え手法は、一見「手抜き開発」のようにも見えるが、実行してみるとプログラミング以外の部分での苦労が多いという。「使用許諾を得るための申請作業に手間がかかる」のだ。

 地域振興を担うご当地キャラとはいえ、さすがに無断で利用するわけにはいかない。自治体の担当部署に電話をしたりメールをしたりと手続きを行なうのだが、これが思いの外、手間がかかるとのことだ。相手は“お堅い”役所だけに、場合によってはメールでの申請は受け付けてもらえず、用紙に記名、押印し、郵送しなければならないことも多々ある。また、「アプリを作ったら地域振興にどれだけ貢献できるのか具体的な数字を提出してほしい、それをもとに組織内で稟議を通す必要がある」と聞かれる場合もあるそうだ。さすがにこのような相手に対してはそれ以上話を進めることはしないそうだが、相手は役所なのでしょうがない面はある。

 ただ、「若い人が中心になって運営している組織の中には、書類の送付はPDFでもOKなところや、向こうから積極的に100種類のポーズのイラストが入ったCD-ROMを送付してくれたりするところもあった」という。ちょっと笑ってしまったのは「キャラクターの利用規約が同じ文言の役所も複数あった」という点だ。“前例踏襲主義”の役所だけに、どこかの役所が最初に公開した規約をコピペして利用しているのだろうか。

 このようにして、手続きの手間を惜しまずご当地キャラのアプリを作り続けていったRiriさんだが、キャラクターの選定は「ゆるキャラグランブリの人気ランキングを参考にした」という。ただ、人気があるキャラクターの中には申請から許諾が降りるまでに2カ月以上を要するものもあり、そのような面倒なものは後回しにして、今は手続きが簡単なキャラクターを優先して作成しているそうだ。

 そうやって人気ランキングとは関係なく開発を進めていくと、よりマイナーなキャラクターのアプリも手掛けることになり、思わぬ形でアプリがメディアに取り上げられることもある。マイナーなキャラクターの場合、キャラクター運営の側からすると専用アプリを作ってくれること自体がうれしいようで、その地方のメディアに開発者のコメント付きで紹介されたりもするそうだ。

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