貴社で「メールが届かない」問題が起こる理由――メール送信/受信の基礎知識:意外と知らないメールサーバ構築・運用の基本(1)
メールの仕組みや基礎を再確認しながら、確実にメールを届けるために必要な設定や運用のポイントを解説する連載「意外と知らないメールサーバ構築・運用の基本」。初回は、メール送信ニーズがシステム開発で高まる中で起きている「メールが届かない」問題について、メール送信/受信の基礎知識を交じえながら解き明かす。
「Gmailに重要なメールが届かない」という問題が話題になり、ニュースで取り上げられていたのは記憶にも新しいと思います。2024年2月に改定された、Gmailの送信者ガイドラインの対応に追われた企業も多かったのではないでしょうか。これらの送信者ガイドラインやスパムフィルターの強化は、フィッシング詐欺などのメールによる脅威を防ぐための重要な施策ですが、その一方で問題ないはずのメールが届かないケースが増えているのも事実です。
受信側の迷惑メール対策が進化するにつれて、メールを確実に宛先に届けるために求められる知識や対応はますます高度化しています。しかし、メール配信サービスの普及により、メール送信に関する専門知識を持つ人材は年々減少しています。本連載「意外と知らないメールサーバ構築・運用の基本」では、メールの仕組みや基礎を再確認しながら、確実にメールを届けるために必要な設定や運用のポイントを解説していきます。
システム開発で高まるメール送信ニーズ
「メールは時代遅れ」と言われるようになって久しいかもしれませんが、今でもメールはB2B(Business to Business)、B2C(Business to Customer)のビジネスシーンにおいて重要な役割を果たしています。
具体的には以下のようなシーンでメールが活用されています。
- 会員登録やアカウント作成時の確認メール
新規ユーザーのアカウント作成時、本人確認のためのURLリンクを送信 - OTP(ワンタイムパスワード)メール
セキュリティ強化のため、多要素認証の一環として認証コードを送信 - 問い合わせに対する自動返信メール
Webフォームやカスタマーサポートの問い合わせに対する自動返信メール - ECサイトの注文確定・発送通知メール
サービスの予約や商品注文の確定、商品の発送通知など取引の状況を通知し、証跡を残す - 条件に該当するユーザーに対する一斉通知
ユーザー全員に対する通知や、条件を満たすユーザーに対する一斉送信メール - ワークフローシステムからの自動通知
承認フローの進行やタスクをトリガーとした通知メール - IoTデバイス、監視ツールからのアラート通知
IoTデバイスや監視ツールなどが異常を検知した際の通知 - 複合機からのメール送信
社内の複合機から、スキャンしたデータをメール送信
このように、Webサービスやシステムからメールを送信するケースは多く見られますが、メールサーバの構築や運用のナレッジは年々失われつつあります。
「Microsoft 365」「Google Workspace」などの利用によるメールサーバのクラウド化に加え、「SendGrid」「Amazon Simple Email Service」(SES)といったメール送信サービスの利用が広がり、自前でメールサーバを構築、運用する必要性が薄れています。そのため、メール送信に必要な設定や、トラブルシューティングの知識を持つエンジニアが減少し、運用ノウハウが世代間で引き継がれない状況が生まれています。また、メールは「枯れた技術」と見なされがちで、新しいテクノロジーに注力したいエンジニアにとって「学ぶ優先度が低い」と考えられてしまうこともナレッジの喪失を加速させているのではないでしょうか。
しかしこうした状況であるために、予期せぬメール不達のトラブルが発生し、誰もその原因を特定できず、迅速な対応が困難になる事例が増えてしまっているのです。
なぜ「メールが届かない」が起きるのか
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